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マリーの果実を我が店に 19
サムス・アラン [Mail]
1/2(Wed) 16:29

船内食堂〜聖なるまこっちゃん〜

・・・その中は今、「聖なる」と言う言葉を思い出す事すら
難しい状況であった。夜中のブランデーを楽しんでいた客達
は皆切り裂かれ、人間の原型すらとどめていない者もいる。
・・・そして、聖なるまこっちゃんの店長のお姉さんは柱に
かかっている大きな看板に十字に木のくいで貼り付けられて
いた。・・・白目をむき、首がけして曲がるはずのない方向
に曲がっている。首の皮でなんとかくっついてはいる物の、
そのぶら下がった首は今にもひきちぎれそうだ。

「・・・ひ・・ひでえ・・」

ミケの目から涙があふれ出てくる。

「・・・ここのメシ、結構うまかったのにな・・。」

リクオの表情は変わらないが、体がかすかに震えている。
・・・そして、ふとかすれた声で

「・・ティーノと・・ミントは・・?」

その言葉に、ミケははっとあたりを見回す。

「・・・幸いなのか何なのか、この死体の山ん中にゃあ居ねえな。」
「探そうぜ」

船内食堂〜聖なるまこっちゃん〜を後にする二人。

食堂のすぐ隣に食堂庫があった。

「・・・て・・てて・・天に召します我らが神よ・・・」

食堂庫の中から女の声がする。

「・・・もしかしてティーノ・・か?」
「・・・そ・・・その声はリクオさん・・ですの?」

食堂庫のすみですくっと立ちあがりよってくる下着姿のティーノ。
・・・しかしその顔にはいつもの余裕は無く、髪も乱れ少しやつれ
たように見える。・・・一瞬別人かと思ってしまうくらいに。

「・・一体何があったんだ?」
「・・もう、何がなんだかわかりませんのぉ・・。」

リクオの胸に飛び込み、泣き崩れるティーノ。

「よく生きてたな。」

ミケはうれしそうに、ティーノの頭を軽くなでる。そして

「・・さて、あんな残酷なまねができる狂人を、これ以上
 生かしておくわけにはいかねえな。」

と、斧を背負う。リクオはうつろな瞳で

「食堂の客と店長か・・。どう考えても、殺されなきゃならない
 ような奴らじゃなかったぜ・・・。」

ミケと共にリクオは食料庫を出、そのあとティーノが駆け足で
ついてくる。

廊下を少しでた所・・。

「おい、リクオ」
「ああ」

向こうの方から人影が近づいてくる。今この船の中では、やはり
生きている連中を警戒せざるを得ない。もしかしたら、別の部屋
に何も起こっていなくて、何も知らない客かも知れないじゃない
か。・・だが、リクオの頭には、船内食堂の印象が強くて、そん
なのんきなことを考えていられる状態ではなかった。

「・・・誰だ?」

その人影に向かってリクオは静かに問う。手に愛用のおおきな
ダガーをぶらさげて・・・。

「・・・ふん、貴様らか。」

その声の主は昨日、そして今日の昼間に出会った、槍を持つ女
カリカだ。

「・・お前か・・・お前がやったのか!!!」

リクオはダガーを片手にカリカに切りかかる。

「・・・うくっ!?」

カリカはそれを槍ではじき、リクオの腹に槍の柄で突き、
ひるんだ所を蹴り倒す。

「ぐああ!」
「・・ふん。」

カリカは体制を整え

「驚かせてくれるじゃないか、反射的に殺す所だったぞ。」

しかし、そう言うカリカの様子もおかしい。体中傷だらけで、
マントも所どころやぶけている。

「か・・カリカさん、その姿、どうしましたの?」

ティーノはおそるおそる尋ねる。

「・・・ふん、船の甲板でくつろいでいたら、背後から
 やられたのだ。」
「・・・じゃあ、あんたがやったんじゃないのか・・?」

ようやく立ちあがるリクオ、カリカはふん、と槍にもたれ

「私は何の得にもならない殺しはしない。」

あたりまえすぎるその答えに、リクオは安心する。そう、もし
彼女があれをやっていたなら、リクオが襲いかかった時点です
でに切り殺されていただろう。

カリカはくやしそうにがんっと壁を殴る。

「くそっ、私とした事が・・・!!」

心の底からくやしそうだ。

「・・・よく殺されずに済んだな。」

ぽつりとリクオが当たり前すぎる疑問を口にした。

「・・・逃げられたのだ・・あの女・・見つけたら必ず殺す
 ・・・・!!!!」

カリカのその瞳は怒りに満ちていた。・・どうでもいいが、
とても怖い・・。ミケのみみがピクンっとはねる。

「・・・ちょっと待て、あの・・女? ・・女なのか・・・
 あの食堂の連中を皆殺しにした奴は・・・。」

ミケの言葉にカリカはふんっと鼻で笑い

「のんきな奴らだな、下手をすればこの船で残っているのは
 奴と私達以外、もう誰も残っていないかもしれないのだぞ」

気が遠くなった。あんな悲惨な真似をしてのけた狂人が女だ
ったとは。

とりあえず、見渡しのいい甲板へと向かう、・・・しかし、
その途中で・・・

「・・・何の音だ・・?」

リクオは耳をすませる。・・どこか遠くの方で、ぴちゃっくちゃっ
と音が聞こえる。

「・・・なんだか怖いですのぉ・・・。」

ティーノは泣いている。

「・・・いってみようぜ・・」
立ち止まっていてもらちがあかないと思い、再び歩きはじめる
ミケ。

「ふん、気をつけろ、油断したら死ぬぞ。」

カリカはすでに槍を構えている。



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