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- 今を生き抜く獣たち マリーの果実を我が店に - サムス・アラン [8/4(Sat) 6:40]
マリーの果実を我が店に 2 - サムス・アラン [8/4(Sat) 7:02]
マリーの果実を我が店に 3 - サムス・アラン [8/4(Sat) 7:35]
マリーの果実を我が店に 4 - サムス・アラン [8/4(Sat) 22:27]
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マリーの果実を我が店に 7 - サムス・アラン [8/7(Tue) 18:38]
マリーの果実を我が店に 8 - サムス・アラン [8/7(Tue) 18:56]
マリーの果実を我が店に 9 - サムス・アラン [8/8(Wed) 1:28]
マリーの果実を我が店に 10 - サムス・アラン [8/11(Sat) 19:13]
マリーの果実を我が店に 11 - サムス・アラン [8/17(Fri) 18:04]
マリーの果実を我が店に12 - サムス・アラン [8/17(Fri) 18:54]
マリーの果実を我が店に 13 - サムス・アラン [10/17(Wed) 0:35]
マリーの果実を我が店に 14 - サムス・アラン [10/20(Sat) 16:07]
マリーの果実を我が店に 15 - サムス・アラン [10/20(Sat) 16:29]
マリーの果実を我が店に 16 - サムス・アラン [11/5(Mon) 2:25]
マリーの果実を我が店に 17 - サムス・アラン [11/24(Sat) 2:27]
マリーの果実を我が店に 18 - サムス・アラン [1/2(Wed) 15:51]
マリーの果実を我が店に 19 - サムス・アラン [1/2(Wed) 16:29]
マリーの果実を我が店に 20 - サムス・アラン [1/2(Wed) 16:42]
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マリーの果実を我が店に 22 - サムス・アラン [1/2(Wed) 17:23]
マリーの果実を我が店に 23 - サムス・アラン [1/6(Sun) 23:43]
マリーの果実を我が店に 24 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:15]
マリーの果実を我が店に 25 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:22]
マリーの果実を我が店に 終 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:25]



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今を生き抜く獣たち マリーの果実を我が店に
サムス・アラン [Mail]
8/4(Sat) 6:40
 
戦神の里と呼ばれているエリスとその東にある、
しゃれた店がたくさん並ぶ、活気のある町セン
ト・アンドリュー。この東西二つに分かれた町
を結ぶ、そこそこ大きな山があった。

その日は、どことなく曇っていた。

ベア・マウンテン山中にて・・・・・。

・・・・・どこか遠くのほうから、ザッ、ザッ、
とゆっくり、しかし確実に小さな足音が近づい
てくる。

深い山道、足音とともに槍を背負った一人の女
が歩いてくる。
そしてそれを獣のようにききつけ、群がってく
るものもまた・・・・。

「よお姉ちゃん、一人たびかい?」

山をあるけば少なくとも二日に一辺は出会うで
あろう山賊達。もはや山の風物である。今回は
三人だ。

「ふん、そんなところだ。」

表情一つ変えることもなく、愛想のない答をか
えす。
山賊達は少し妙に思ったが、その前髪にかくさ
れたやや整った顔、自分ら好みの鋭い目つきの
前にはそれもささいなこと。

「俺たちとこねえか? へへ、あんたならきっ
 といい生活ができるぜぇ。」

別の男が女の体を前身ゆっくりと見比べる。女
のほうは、特にをれを気にするふうでもなく、

「興味ないな・・・。それより貴様ら、ティー
 ノ・ペペロンという女を知らないか?」

山賊達は一瞬首を傾げ、三人顔を見合わせる。
三人ともそんな名前きいたこともないといった
顔をしているが、それでもその中の一人が俺は
しっているんだといった顔で

「おーしってるしってる、俺達についてこいよ、
 そいつの所につれてってやるよ」

そう言い女の手をひこうとするが、女はそれを
瞬時に見破る。・・・というか、はなから信用
していないが、何か少しでも聞き出せたらなと
思っていたようだ・・・・が

「ふんっ、すまん、聞く相手を間違えたようだ」

話をするに値しないと判断したのだろう。女は
一歩下がり、背中の槍をおろす。

その日、とある山中で三人の首なし死体が、母
と息子の一組の親子連れに発見された。
レスをつける


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マリーの果実を我が店に 2
サムス・アラン [Mail]
8/4(Sat) 7:02

お世辞にも、大都市をはいえないが、それなりに
活気のある華やかな町サン・マリーノ。名産品で
あるマリーの実はこの広大なキャトリシア大陸で
もしらない者はいないであろう。マリーのおかげ
でかつてちっぽけであったマリーノが名の知れる
大きな町になったのだから。今では商業が発達し
てそこらの町からいろんな人が買い物や取引のた
め四六時中訪れる。

さて、そんななか一つのPUBがある。そこは酒
を飲む場であると同時に、いろんな情報が行き来
する場、そsてさまざまな仕事を請け負う場でも
ある。PUB・スーペアリア、いろいろな意味で
有名な酒場である。

酒場はいつものように賑わっている。その酒場に
一人の少年が入ってきた。背は高くもなく低くも
ない、バンダナ、ピアスの少年だ。その少年の視
線がここのマスターにとまる。いかにもお嬢様風
の女と何かを話をしているようだ。

「よおマスター、なんか仕事ある?」

少年の言葉に反応し、マスターは振り向く。

「お、リクオ、いーとこにきたな。」

このリクオと呼ばれた少年とここのマスター・ゼ
ロスは結構昔からの顔なじみだったりする。お嬢
様風の女はリクオを見てふーー・・・と、ため息
一つ。

「何ですのこのガキ」

さっそくガキ扱いされるリクオ。マスターはどう
したものかと悩んだ顔で

「・・・ティーノさん、・・んー、まあ見た目は
 ガキかもしれませんが、こいつあなかなか名前
 の売れた冒険者ですぜ?」

冒険者・・・秘境探しがもともとの仕事だがそれ
は昔の話。今でいうところの何でも屋である。

「名売れなの、これがぁ!?」

そんなお嬢様に、マスターはかりこりと頭をかき
ながらリクオを親指でさし

「その筋ではブラックキャッツって呼ばれてんだ。」

それを聞いた女の眉がつり上がり

「・・・ブラックキャッツ!?・・・このガキがぁ!?」

そしてリクオをまじまじと見つめる。
レスをつける


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マリーの果実を我が店に 3
サムス・アラン [Mail]
8/4(Sat) 7:35

ブラックキャッツというのは、リクオの通り名
である。

通り名のついている冒険者は、それだけで腕は
保証されているといってもいい、そう、有名で
あればあるほどに。

・・・ただし、自称はまた別の話だが。
リクオはどうしたものかといった顔で

「・・・マスター・・なんだよこれ・・・」

と、目の前の麗しく気高いお嬢サマをゆびさす。
・・・しかし

「んっまあ、これとは何ですのこれとは!?」

なんといっても麗しく気高いお嬢サマである。
自分のことをこれ扱いされて気分がよいはずも
ない。

先にガキ扱いしてきたあんたに言われたくねぇ
と思ったが、あえてリクオは口に出さない事に
した。

この手のタイプは下手に口出ししてもろくな事
にはならないだろうとリクオは判断した。

どうやらこのお嬢サマは見かけに負けずおとら
ずお育ちがよいらしい。

「まあいいですの、今は猫の手でも借りたいく
 らいだからちょうどいいですの。」

その言葉にマスターは思わず声をだし

「はっはっは、確かに猫だなあ。」
「・・・・おっさん・・・」

リクオににらまれ、方をすくめるマスター。

「んー、まあ悪い話じゃねえと思うぜ?」

リクオは少し頭をかかえ

「・・・もしかして、このお姉ちゃんは俺に仕事
 を頼んでるつもりなのか・・・?」

マスターは女の方をみ

「見たところ結構世間知らずのようだな、まーお
 前もプロならそれくらいがまんしろや。」

リクオをなだめるマスター。

「ちぇっ、・・・まあ最近暇だしきいてやらあ。」

リクオはカウンターの椅子に腰をかけ、足をくむ。

「お行儀が悪いですの。」

足をそろえる。

「では、自己紹介からはじめますの。私は隣の町
 のアンドリューからマケドニア行きの船にのっ
 てすぐの、港町マケドニアでレストランを開い
 ていますの。」
「レストラン?」
「レストラン、ディストラクティブ・ノクターン
 の店長ティーノ・ペペロンですの。」

ない胸をはるティーノ。

「まあ店長といってもまだ二十三ですの、お母様
 からお店をいただいてまだ半年ですの。」

ふーんと、リクオは気のなさそうに

「そっから六ひいたら俺の年だ・・・がはっ!?」

リクオが言い終わるや否や、リクオのみぞにティー
ノの肘がはいっていた。

「ぐ・・ぐふ・・・早い・・!!」

もともと盗賊が本業のリクオに見切れないその動き
はなかなかのものだ。
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マリーの果実を我が店に 4
サムス・アラン [Mail]
8/4(Sat) 22:27

「まあそれはともかく」

ティーノは何事もなかったかのように咳払いを
一つ。

「この町からマケドニアまで、マリーノ名産のマリーの
 実を荷車で運ぶの。」
「へえ・・・で?」
「それを後ろから押して欲しいの。」
「・・・マスター、こいつちょっと吊るしていいか?」

名売れの冒険者はもちろんのことだがプライドが高い。

「ははは・・・・まーま、話は最後まできくもんだぜ
 リクオ。」

まあマスターの立場からいえることといったらこれく
らいだろう、ティーノはつづけて

「最近山賊や海賊が頻繁にでるらしいの、途中で品物
 やお金をとられたらとても困るの。」

そりゃ困るだろう。

「何とかマケドニアまで私と一緒にマリーの実を運ぶの、
 山賊がでたらおっぱらってほしいの。」
「ふーん。」

ティーノの立て続けな説明に肘をついてけだるそう
にそれをきいている。

「おててはおひざの上ですのっ。」

手を直す。

「で、報酬は?」

ティーノはその言葉をきくと同時に懐から東洋の算術士
がよく使う、ソロバンとよばれている5進数形式の数珠
がつまった板をぱちぱちとはじきだし

「三十万キラだしますの。」

リクオの約三ヶ月分の生活費に相当する。

「へー、荷車をはこぶだけでねえ・・・悪かねーな。」

ティーノは指を2本たて

「ほかにも腕利きの戦士も二人やとってるの、あなたは
 多分みてるだけでいいの。」

そーいう奴とは分かっていても、暴れたい衝動にかられ
るが、なんとか怒りをおさえるリクオ。

「とりあえず明日の朝8時にマリーノの町の南の門に来
 てほしいの。」

ティーノの言葉にリクオは一つ納得のいかない点があっ
た。

「なあ。」
「ティーノですのっ。」

名前で呼んでもらわないときがすまないらしい。

「・・・ティーノ・・。」
「なんですの?」

リクオは少し頭をかかえながら

「もっと早い方がいいんじゃないか、そんな物騒な状態
 なら。」

ティーノは目線をそらし

「・・・・・・・・朝・・弱いんですの・・・・。」
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マリーの果実を我が店に 5
サムス・アラン [Mail]
8/5(Sun) 20:36

マリーノの朝は早い。六時にはもう肉や魚などを
取り扱っている市場は開き、多少の賑わいをみせ
ている。

8時。

マリーノの町の南の門。
リクオがそこについた頃にはすでに戦士風の女と、
体格のややおおきい猫族の男が立っていた。
リクオがそこに近づいていくと、体格の大きい猫
族の男の耳がピクっと動き、こちらを振り向く。

「お?お前ぇもティーノの雇われか?」

重く、しかしきさくな声で聞いてきた。
背中に大きな斧を背負っているところからして見
た目はいかにも強そうだ。
身長はリクオの1・5倍はある。
まずこれを魔導士と見間違う奴はいないだろう。
もう一方の女戦士はヘアバンドにマント、背中に
剣と弓を背負っている。

「あんたたちか、二人の戦士って。」

二人を交互に見るリクオ。筋肉猫のほうが右手(足?)
を差し出し

「俺はミケ、ミケ・ランジェロだ、よろしくな。」

とりあえずリクオはその手をとり握手する。し
かしとなりの女は

「・・・・ミント。」

対象的にぶっきらぼうだ。おそらく今のが彼女
なりの自己紹介なのだろう。
まあこんなもんだろうと、リクオはそれについ
て深くは追求しなかった。
身長はリクオより少し低めで、目つきの悪いシ
ョートカット。
リクオも気乗りはしないが一応といったかたち


「俺はリクオだ。」

と、名を名乗ったその瞬間、ミケの耳がまたも
ピクっとうごく。

「リクオぉ?・・・おめえ、まさか・・がふっ!?」

ミケがいい終わるやいなや、ミントが剣の柄で
ミケをつきたおし

「もしかしてあなたブラック・キャッツのリク
オ・ディヅァー・・・!?」

倒れているミケを踏み越えてリクオのそばに駆
け寄るミント、さっきとは違い、目が輝いてい
る。

「あたいはまだ駆け出しの戦士でブラック・キ
 ャッツにあこがれてたのぉ!」

リクオは床につっぷしている。そんなミントは
さておき、リクオはあたりをみまわす。

「・・・さて、俺たちの雇い主サマは?」

ミケは軽く両手を広げ

「まだ来てねえな。」
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マリーの果実を我が店に 6
サムス・アラン [Mail]
8/5(Sun) 20:46

「ふぁー・・・んーっ」

マリーノの町の高級宿屋「マリーの休日」のロイヤル
で、良く寝ましたのと目覚めるティーノ。ひとまずゆ
っくりと髪をくしにとおしながら

「ふんふんふーん。」

いい朝ですのと言わんばかりに鼻歌を歌っている。

「ふんふんふふふーん。」

眠気を覚ますにはこれが一番ですのと今度は紅茶を
沸かしはじめる。

「・・・んーーーーーーっ。」

ぐぐっと気持ちよさそうに伸びをする。

「らんらんらららららんらんらんらん、らんらんら
 ららららーん。」

今日も私はとてもびゅーてふるですのーっと鏡を見
ながらのお顔のお手入れは欠かす事のない日課であ
る。

「ふふんふんふんふーん」

あ、そろそろお紅茶がわきましたのと、先ほど沸か
していた紅茶をお気に入りのクマさんカップに優雅
にそそぐ。

「・・・・んーーー。」

ん?そういえばなにか忘れているような気がします
のとふと思うが、まあいいですのと朝食のメニュー
をぼーーっと眺める。

「ふんふんふんふんふー・・・・・・ふっっ・・!?」

ようやく思い出した。そういえばマリーの実を運ぶ
ために雇った冒険者達との待ち合わせの事を・・・・。
ティーノは時計を見る。

・・・・・八時三十五分

「ふーーーーーーーーーーーーーーーっっっ」
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マリーの果実を我が店に 7
サムス・アラン [Mail]
8/7(Tue) 18:38

・・・ごろごろごろごろ。

「ゴメーン、まちましたのぉ?」

ごろごろと遠くのほうから荷車をひいてやってくるティ
ーノ。

「おーお、やっとおでましのようよ。」

リクオと何やらしゃがみこんで話していたミントが立ち
あがる。・・・ちなみに今は9時。

「目覚めはどうだ?この遅刻やろう。」

次に口を開いたのはミケ。

「・・・ふう・・ふう・・・申し訳ありませんの。」

できるだけ上品に息をきらす。それをミントははんっ
と鼻で笑い

「まーったくお育ちがよろしいお嬢様は朝早起きする
必要もないのかしらねー。

エグい皮肉をあびせる。

「んっまあ、何ですのなんですのおっ?朝弱いってち
ゃーんと初めにいいましたのっっ!!」
「だからわざわざ8時までひきのばしてあげたんじゃない。」

ミントの冷めたツッコミにしかしティーノはひるまず

「なんですのぉっ!?あなた達に悪いと思って朝食をちゃん
 ととる所をお紅茶のいっぱいで済ませてきましたのよっ!
 ?それにいつもならちゃんとお風呂に入る所をお顔の洗顔
 のみで歯磨きの方も・・・」
「・・・・・てゆーか馬鹿?」

必死に訴えるティーノに冷徹なる一言でトドメを刺す
ミント。

「・・・・・な・・・・な・・・・」

ティーノを後目にミントはリクオにくっつきながら鼻
歌をうたっている。

「なんですのなんですのぉっっ!?雇い主は私ですの
 よーーーっっっ」

ついに泣き出すティーノ、ミケはやれやれと首をふっ
ている。リクオはあちゃーと頭をかきながら

「まーその・・なんだ、遅刻のことはもういいから・・・
 そろそろ行こうぜ・・。」

これ以上責めるのは非道だと判断し、とりあえずティ
ーノの頭をなでる。

「・・・・ぐすっ・・ぐすっ・・」
「はー・・・・。」

リクオは門のむこうを眺めながら呟いた。

「先が思いやられるぜ・・・。」
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マリーの果実を我が店に 8
サムス・アラン [Mail]
8/7(Tue) 18:56

・・マリーノの町を出発してはや二時間。

「待ちな。」

山道は相変わらず良好である。

「おいこらぁ!」

リクオにべったりとくっつくミント。離れる気配はない。

「待てっつってんだよ!」

リクオはリクオでミントにくっつかれながら荷車をおす
のもつらそうだ。

「今ならその荷物をおいてくだけでかんべんしてやるぜ
 ぇっ?」

ミケとティーノはそんなリクオ達を見てあきれている。

「だからさっきから無視すんじゃねーよてめぇらぁっっっ」

ああ、いたのか、山賊風の男達。

「んん?何だおまえら。」

先頭に出てきたのはミケ。どことなくおちついているミケ
に何か妙なものを感じ、一歩下がる山賊達。

「へ・・へへ・・・死にたくなかったらその荷車おい・・
 ・・ぺぐぁっ」

言いおわらないうちにミケの大斧がその山賊の頭をくだい
ていた。ほんの一瞬だったので、砕かれた方も何がおこっ
たか悟る事すらできなかっただろう。ミケは相も変わらず
おちついた口調で

「・・・・さて、もう一度聞く。何だお前ら?」
「・・・い、いえ、通りすがりの旅人ス。」

そそくさと逃げようと背を向ける残り4人を即座に弓で射
抜くミント。四人は倒れたまま動かない。

「へー、なかなかいい腕だ。」

と、計5人の持ち物のぶっしょくを怠らないリクオ。ミケ
は死体をみて

「逃がしてやってもよかったんじゃないのか?」

と、ミントに聞くが

「仲間を呼ばれても事でしょ、ね、リクオ。」

と、ミントは山賊の持ち物をあさるのに忙しいリクオにし
がみつく。

「たはは・・・駆け出しにしちゃあすごい腕だな。」

リクオの言葉にミントはしれっと

「狩りは昔から得意なの。」

と、恐ろしい事を平気でいってのける。

「あ・・・あなた達・・・よく人を5人も殺して平気
 ですのね・・・」

足のふるえの止まらないティーノ。ミケは軽くため息
をつき、ティーノを慰めた。

「殺される側でなくてよかったな。」

・・・・・・それから昼の間、三組くらいの山賊が襲
ってきたが、二人の戦士はそれを生きて帰すような事
はしなかった。
・・・ちなみに、リクオの懐はだんだんと暖かくなり
つつあった。
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マリーの果実を我が店に 9
サムス・アラン [Mail]
8/8(Wed) 1:28

・・・夜二十時あたり。

「もーつかれましたのーっ、このへんで休みましょうのー
 っ!!!」

真っ先にねをあげたのはいわずと知れたティーノ。

「はー、これだからいいとこの嬢ちゃんは。」

あきれるミケ、しかしリクオは

「ま、ティーノにはこれぐらいが限界か。」

ティーノの近くで立ち止まる。しかしその横で

「町まであと少しでしょう?・・・とっとといっちゃおーよ」

ミントがせかす。たしかにあと4時間くらいで町にたどり
つくだろう、しかしティーノの姿をみかねてか、リクオは
ミントの方をぽんとたたき

「この闇の中ど素人のティーノには危険だ、あまり動かない
 ほうがいいだろう。」
「そうよ、ティーノに何かあったら報酬でないのよっ!?」

と、ミケにかえすミント。

「解ればいいの。」

と、腰をおろすティーノ。

「・・・て、ちょっとまてお前ら、何で俺が怒られにゃ
 ならんのだっっ!?」

一人喚くミケ。

それぞれ荷物を置き、野宿の準備をしはじめる。

「・・・・以外とむずかしいですのぉ。」

ティーノが焚火にふーふーしはじめた時、残り三人の動
きがとまる。

「・・・・どうかしましたの?」

目をぱちくりさせるティーノ、しかし三人の視線は森の
奥のある一点に集中したままである。

「・・・何ですのいったい・・・」

ティーノもそこをみる。

・・・ざっ・・・・・・・ざっ・・・・・・・・

森の奥からゆっくりと人影が姿を現せはじめる。耳をす
ましても聞き取りづらいくらい静かに・・・。
そして焚火にてらされ、人影がはっきりと姿をみせる。

深緑にかがやく長く黒い、後ろで束ねられた綺麗な髪、
青黒い緑のマントに身を包み、ティーノには両手でもっ
ても持ち上がらないであろう大きな槍を背負っている。
・・・女だ。その女は立ち止まり、こちらをみる。顔は
半ば前髪で隠されているが、顔立ちが良いのはそれでも
見てとれる。
しかし異様なのはなるで人形のような表情のなさ、それ
以上にその鋭い目つき。その瞳に輝く、何者をも貫くそ
の威光、山賊達が力まかせに出せるような目つきではな
い、しかし殺人狂のそれとも違う。
しかし、そんな事は気にもとめず

「旅の方ですの?食べ物なら余っていますの。」

ティーノは気軽に声をかける、しかし他の三人はそれと
は程遠い険悪な目つきだ。女はティーノを見

「・・・・・ふん、見たところ山賊共ではないようだな。」

近寄る。が、その間にリクオが割ってはいる。

「それよりあんた何者なんだよ。」

ティーノと違い、リクオはかなり警戒している。

「ふん、心配しなくとも何もしない。」

そういう女にしかしリクオは

「三流の山賊は皆そういうのさ。」

動じる様子はない。女はゆっくりとリクオを見、

「ほぉ・・?山賊には見えんがただの旅人というわけでも
 なさそうなのだな。」

その女の視線には、恐怖だろうか、背筋にくるものがある
が、リクオは顔にださず

「あんたには関係ない事だろ?」

女はかすかに口のはしでわらい

「・・・・・・ふん、たしかにな。」

そしてそのまま通りすぎようとするが、ふと立ち止まる。

「ときに貴様。」

リクオに再び振り返り

「ティーノ・ペペロンという女をしらないか?」

・・・・・・・・・・・・・・っっっ!!!

「それって私・・・ぐふっ!?」

答えようとするティーノにボディを入れるミント。ミケ
はのんきな口調で

「ああ、名前ぐらいなら聞いたことあったかなあ。」

他人ごとのように言う。女はきいても無駄であろうと言
う顔で、しかし念のためなのか

「・・・どこにいるかは知らないか?」

ミケは期待に裏切る事なく

「知らねえな。」

焚火をながめている。そしてミントも

「どこぞの趣味の悪い豪邸で、馬鹿笑いしながら博打
 でもうってんじゃないのぉ?」

と、すっとぼける。ミントの言う馬鹿わらいとは、あ
のお嬢サマ特有のあの高笑いのことをさすのであろう、
そして

「ふん、それもそうか。」

同意する女。

「あ・・・あなたたちーー・・・がふっ」

勿論のごとく叫ぼうとするティーノに今度はリクオが首筋
に手刀をいれる。女は背をむけたまま軽く右手をあげ

「じゃましたな、良い旅を。」
「ああ、あんたの旅に好運を祈るよ。」

立ち去る女を見送るリクオ。

「・・・・ひどいですのぉーーーーーーーーっっっ!!!!」
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マリーの果実を我が店に 10
サムス・アラン [Mail]
8/11(Sat) 19:13

「まったくぎゃーぎゃーうるさいわねえ」

ミントはあきれたように

「あんたがあそこでティーノ・ペペロンだってばれたら
 どうなってたと思う?」

ティーノはきょとんと

「・・・うわーい、あいたかったですのーっ・・・・・
 じゃあありませんの?」

ミントはため息をつきリクオの方をみる。リクオは

「そうだな、俺のカンがただしけりゃ」

女のきえた林のほうにめをやり

「きゃあん、あなたを殺しにきたのーっ・・だと思うぜ」

凍り付くティーノ。ぼーっと焚火を眺めていたミケが
独り言のようにつぶやきはじめる。

「・・・死に神って・・呼ばれている冒険者だったか殺し
 屋だったか・・そんな奴がいるんだ。たしかそいつぁ
 女だったと思う。えらく大きな槍をせおっててよ・・・」
「へえ。」

大きなあくびをしながら寝転がるリクオ。

「何よりそいつの目の鋭さはクマをもかなしばるだろうっ
 て話だ。」
「ふーん。」

ねっころがるリクオの体を枕にねそべるミント。

「そいつは殺しの仕事は高額でしかうけないらしい。でも
 そいつに殺しを頼みたがる奴はあとをたたないらしい。」
「それだけ腕がいいって事かしらね」

ミントはリクオの顔にごろごろと顔をすりよせている。

「そうだろうな。・・しかし妙な話もきいた。」
「妙?」

顔をすりよせてくるミントから逃れようと、少し体をひねる
リクオ。

「ああ、その死神に狙われた奴のそのことごとくは殺され
 ちまったが、・・・ねえんだよ、何十・・いや、何百も
 の殺されてきた奴の首が・・どこにも。」
「・・・ちょっと脅かさないでよ・・・。」

ちょっと血の気がひけるミント。ミケはかまわず

「・・今までそいつに狙われてきた奴のなかで助かった
 奴はいねえ。その全てがいままで死体となって転がっ
 てきた。しかもそのどれにも首がねえんだ・・・・。
 そしてそいつはいつからか呼ばれるようになたんだ。」


 ・・・・・・闇より降臨せし死神と・・・・・・・・

「ふん、雑魚はおとなしくしていれば良いものを。」

深い木々にかこまれた山道を歩き続ける女。その足元には
いくつもの山賊の死体が転がっている。その中には女山賊
もいたようだ。

「全く、女が一人で歩いているというだけでハイエナ共が
 群れてくる。強くもないくせに身のほど知らず共が。」

女は槍をぶんっと一振り、血をはらう。

「しかしどこからわいてくるのか、数の多さだけは見上げ
 たものだ。だがそれがよけいにただただめんどうなだけ
 だ。これなら熊でも相手にしていたほうがまだ楽しめる。」

そして女は再び、木々の闇へと消えてゆく。
レスをつける


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マリーの果実を我が店に 11
サムス・アラン [Mail]
8/17(Fri) 18:04

「一つ気になってたんだけど」

話を聞いていたミントがミケの方をみる。

「どうしてそんな話をするの?」
「・・・・・・・・別に。」

ミケはドライチーズを噛りながら夜空を見上げる。

「・・・ふと思い出したんで言ってみただけだ。」
「あんたも意地悪な人よねえ。」

人かどうかはともかく、ミントは焚火を眺めている
ティーノの方を向き

「あんたの首、もうすぐ消えるんだってさ。」

ミントの簡潔すぎる解釈と翻訳に、それまで私は関
係ないですのと聞き流していたティーノの顔色がじ
ょじょにかわる。

「え・・・・わ・・私ぃ!? ちょ・・ちょっとど
 うしてですのぉ!?」
「だって探してたじゃない、貴方の事。」

ミントの言葉に涙ぐむティーノ。

「・・・・さっきの方が・・・ですの?」
「そーなんじゃないの?」

まるで人事のミント。まあ人事だが。ティーノの涙
ぐんだ顔がじょじょに崩れてくる。

「そ・・そんなあ、そんな有名人とでくわすなんて
 そう簡単に・・・」
「リクオだって結構有名人なのよ。」

リクオの方に振り向き、再び肩にもたれかかるミン
ト。リクオはむーっと頭をかかえ

「そんな奴相手じゃ、いくらなんでもかないそうに
 ねーな。」
「え・・・」

ティーノはリクオの方をむく。

「もしそんなもんにティーノがとりつかれちまって、
 さらにティーノ・ペペロンである事が知れ、また
 俺達の前に現れたら・・・・ティーノを守りきる
 自信は俺にはねえぜ・・・。」

そんなリクオにミントは

「そーなったら二人で逃げちゃおーよ。」

やはりミントなミントである。ティーノは何を人事
みたいに言ってくれてるんですのーといわんばかり


「ひどいですのっ、雇い主は私ですのよっ!?助け
 てよ、守ってよぉっっ!!」

なきじゃくるティーノ。そんなティーノの頭をリク
オはなで

「ブラックキャッツはそう簡単に雇い主を裏切った
 りはしない。」
「・・・・本当ですの・・・?」

ミントは面白くもなさそうにティーノをリクオから
おしのけ

「それよりもしあれが本当に死神だったとして、あ
 んた何か恨まれるような事でもしたの?」

ティーノは少しむっとして

「さーて、知りませんの。たーだ私のお店の人気を
 どうもこころよく思ってないお店ならお星様の数
 ほどいますの、おーっほっほっほっほっ」

泣く事も忘れ高笑うティーノ、ミントの言う馬鹿笑
いである。リクオは少し頭をかかえなあら

「・・・で、よ。そのこころよく想ってなさそうな
 お店の店長連中の中で心当たりのありそうなのは
 ・・・?」

そう聞くがティーノはさらに

「んのっほっほっほ、犬小屋同然のぼろ店の店長共
 のお顔なんてわざっわざ覚えていませんの、ほー
 っほっほっほっほっほ!!!」

ミントの片眉がぴくぴくと痙攣している。

「・・・・いっぺん殺された方がいいんじゃない?」
「・・・同感だ。」

同意するリクオ。そして

「なあ、ミケ。」
「んー?」

相変わらずドライチーズを噛っている。

「あんたあの女に勝てそうか?」
「さーなぁ、実の所俺にも自信はねえな、けど」

ドライチーズをかみちぎる。

「誰もあの女が死神なんて一言もいってねえぜ。」
「そういやそうだな。」

リクオも懐からほし肉を出し、かじりはじめる。

「でもさ、妙にかみあってるわよねえ、その死神と
 さっきの女。」

ミントもそのほし肉を横からひょいっと噛る。

「ああ。」

ミケはミルクをぐいっと飲み、一息つき再び空を見
上げる。

「・・・・だから・・・思いだしたんだよ。」

数しれず輝いている星たちは、暗黒の大地をただた
だ静かに照らし続けている。
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マリーの果実を我が店に12
サムス・アラン [Mail]
8/17(Fri) 18:54

翌朝

起き出してから特に何もんく無事、セント・アンド
リューにつく。・・・・・しかし

「ひっひっひ、うくっ、ぷあー。お兄ひゃ〜ん、あ
 らひと飲まな〜い?んふ、んふふふ。」

町に入り数分と立たないうちに変な女がリクオに絡
んできた。多分酔いつぶれているのだろう。徹夜あ
けだろうか。

「いっしょに楽しみましょ〜、おごるわよ〜?」

その女の格好がまたすごい。長い黒髪でビギニのよ
うな黒いカッチュウで半分でかかっている豊満な胸、
左胸と左のふとももにそれぞれ黒い三日月が刻まれ
ている。

「気安くリクオにさわんなこのアル中っ!!」
「あんっ」

勿論しゃくに触るミント、女の尻をおもいっきり蹴
飛ばす。

「ひくっ、らーりよう、あんらみたいなガキはおよ
びじゃらいろよぉっ!!」

ミントを殴ろうとして、よろけてこける女。

「いこ、リクオ。」
「・・・そーだな。」

さわらぬ死神にたたりなしである。なにも見なかっ
た事にして先に進む一行。その女はまだ地面でばた
ばたともがいている。

マケドニア行きの船は十時に出発するらしい、あと
一時間ある。一行は町の中央広場に荷車をとめ、四
人でポーカーを楽しんで暇を潰していた。

「フルハウスだ。」

リクオのその手にがっくりと肩をおとすミケとミン
ト。しかし・・・・

「ロイヤルストレートフラッシュですのー。」

上がいた。リクオはしぶしぶと掛け金をティーノに
渡す。・・・その時

「あら〜〜、ポーカぁ〜〜?あらひもまぜてほしい
 な〜。」

どういうわけかさっきのアル中女。

「げっ、ど・・・どっからわいて出てきたのよっ!?」

一歩あとずさるミント、アル中女はうふっうふっ・・と

「こー見えても昔はイカサマのロスちゃん♪で有名らっ
 らのよ〜。」
「いかさまかぁぁぁぁぁいっっっ!!!」

みごとアル中女に延髄蹴りをあびせるミント。武器中心
の戦士とは思えない身のこなしだ。ティーノは眉間にし
わを寄せ

「・・・こ・・・この人とってもお酒くさいですの・・・
 ・・・ん?」

しかしふと気づき

「あら・・・でもなんか不思議な香りがしますの。・・・
 とてもいい香りなんですけど、どこどなく刺のある・・
 ・・・・」
「んっふっふ、わかる〜?」

ティーノに98パーセントウォッカの口臭をぷはーっと
はきかける女。ティーノはぐわーっといわんばかりにも
がく。

「あらひのコロンは特注らの、その辺の金持ちのボンボ
 ンでもそう簡単には手にはいらないわよ〜。」

そしてティーノを掻き抱き

「な・・・なにするんですの・・?」

戸惑うティーノにかまわず

「あらひのコロンのよさに気づいてくれてありがと、ご
 ほーびよん。」

と、ティーノの唇をうばうアル中女。

「・・・・・っっっっ!!!!!」
「・・・・うわ・・・エグぅ・・・・」

気の毒そうに口をおさえるミント。なんといっても98
パーセントウォッカと100パーセントハーブである。

・・・・しばらく沈黙のあと二人の唇がはなれる。

「む・・・・むごい・・・・ですの・・・・」

ぱたっと倒れるティーノ、どうやら失神したらしい。

「ひゃっひゃっひゃっ、そんなに喜んでもらえるとあら
 ひもかんじちゃうわん。」

おかしな高笑いとともにおどりだす女。ミントはため息
をつき

「・・・・ご愁傷サマ・・・。」

三人はとりあえず気絶したティーノをよいしょと荷車に
積み

「・・・そろそろ船にのれる時間でしょ、いっとこうよ。」

ミントの言葉にとりあえずいまの一連は無かった事にし
て荷車をおしはじめる。

「え〜、ひょっろ〜、ポーカーは〜?」

そんな女にミントは中指をたてて

「アル中はパブでも行っておっさん共に遊ばれてなさいよ
 っ!」
「あ〜ん、そんな事いわないで〜。」
「だーっ、あたしらはあんたほど暇人じゃないのよっ、こ
 っちくんなーっっ!!」
「ぶっっ!!」

荷車からマリーの実を一つ取り出してアル中女に投げつけ
る。ごんっといい音がした。ティーノが意識w失ってなか
ったら何するんですのーとやかましい所だろう。
アル中女は倒れ、立てずにうめいているが、

「いった〜い・・・・・でも・・ちょっとイイかも・・・」
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マリーの果実を我が店に 13
サムス・アラン [Mail]
10/17(Wed) 0:35

旅船ディートバ、旅行気分ではしゃぐ女達や、別に珍しくもないと
いった顔の貴族達、あるいはどう考えても、乗る船を間違ってるだ
ろうと言いたくなるような酒くさい女等、今日も様々な客を乗せ、
旅船ディートバは広大なる海を渡る。

「そーら、客が押しよせてくるよーっじゃんじゃん作りなーっ!!」

旅船ディートバの食堂、「聖なるまこっちゃん」。食堂を仕切るお
姉ちゃん(といっても、もうそろそろおばさんに手が届く)は、今
日も元気に料理に、指示に、そしてげんこつに専念していた。

そんな食堂の中、リクオ達もそこにはいた。

「どんな物があるかなー。」

と、メニューを見るリクオ。

「俺が食えそうな物はあるか?」

と、ミケ。やはり人間と猫族では、味覚に違いがあるのだろうか。

「なんかこの船の名物ぅぅぅ!!・・・・・・てゆーような物無
いの?」

とティーノに問うミント。

「えーと・・・たしかディートバの名物と言いますとぉ・・・」
「ふん、この店の名物など知らんが、このチーズガルフォードは
 中々の物なのだぞ。」
「そーそ、海の幸を生かしたチーズガル・・・ええっっ!?」

ティーノの言葉にわって入ってきたのは、隣のテーブルで食事を
していた女だ。席を総立ちする一同。

「・・・・ふん?・・・なんなのだ、私がここでメシを食って
 いては変か?」
「・・・い・・いやあ、あっはっは」

とりあえず笑ってごまかすリクオ。
緑色に輝く、長く後ろで束ねられた黒い髪、隣の椅子に立てかけて
ある大きな槍。そう、つい昨夜山中で遭遇したあの女だ。

「き・・奇遇だなぁ・・こんな所で会えるたーよぉ。」

ガチガチに総毛立つミケ、何とか口調だけは冷静を整えようとする。
女は少し妙な感じで四人を見るが・・・

「旅は楽しんでいるのか?」
「ええ・・・それなりにね・・。」

楽しんでいた・・。その女と顔をあわせるまでは・・・。
ミントはリクオから離れようとしない。

「そ・・そーいや、まだ名前聞いてなかったな。」

とりあえず何か話そうと、名前を聞いてみる。

「私か?・・・カリカだ。」
「そ・・そうか。」

名前を知っているのといないのとでは、やはり印象が違ってくる。
当然のようにカリカも

「そういう貴様はなんという?」
「え?」
「名だ。」
「あ・・ああ、リクオってんだ。」
「ほぉ・・?」

カリカは少し首をかしげ

「もしかして貴様か?ブラックキャッツ、リクオ・ディツァーと
 言うのは。」

リクオの背筋に冷たいものがはしる。ミントも少し心配そうに

「リ・・リクオを知ってるの・・?」
「ふん・・、名前ぐらいはな。」

それを聞いてほっとする一同。命を狙ってるわけではなさそうだ。

「・・・・・なあ、貴様ら・・・。」

カリカの言葉に、びくんっと反応する四人。

「なんかさっきから、私の事をいやに警戒してないか・・?」
「え?・・き・・気のせいさ、なあミケ。」
「あ・・ああ、こ、この俺がなんでお前みたいな小娘をいちいち
 気にせにゃならんのだ。」

ミケの言葉に、カリカはもっともだといった感じに

「ふん、それもそうなのだな。気のせいか・・・。」

特に気にする風でもなく、食後のティーを楽しむ。

「時にそこの女。」

と、ティーノをさすカリカ。

「な・・何ですの・・?」

背筋がびくんっと反り返る。

「お前の名前を聞きたい。」
「え・・?」

ティーノの額から一気に血の気がひく。

「え・・えーと・・」

あからさまに動揺するティーノに隣のミケがすかさず

「こいつぁビル・ゴールドバーグってんだ。」
「ぶっっ!?」

これにはびっくりするティーノ。

「そんなにカチカチすんなよ、ゴールドバーグはあがりしょうで
 ねぇ。」

やれやれとため息をつくリクオ。

「ちょ、ちょっと・・あぐぅ!」

文句をいおうとするゴールドバーグ、もとい、ティーノの足を思
いっきり踏みつけるミント。

「ちょっとゴールドバーグぅ、そんなに興奮することないじゃな
 い、ちょっと強そうな名前だからっていきがんじゃないわよ。
 ごめんねえ、箱入りのお嬢様で、中々他人と話をする機会がな
 くて。」
「ふん、変わった名なのだな。」

ティーノに興味をなくし、ティーを飲み干す。

「船にいる間よろしくな。」

席を立ち、槍を背負いその場を去るカリカ。一同はカリカが食堂
から姿を消すのを確認する。

「・・・ひどいですのぉーーーーっっっっ!!!」

ビル・ゴールドバーグ・・・・もとい、ティーノを落ち着かせる
のに、かなり時間がかかりそうだ。

「・・・お客様。」

ティーノを抑えるのに必死で、店員に声をかけられるまで、時間
が流れていくのに気づかなかった一同。

「・・・何?」

何か様?と、言わんばかりに目をぱちくりさせるミント。店員は
少し困り果てた顔で

「・・・ご注文・・・何になさいます・・?」
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マリーの果実を我が店に 14
サムス・アラン [Mail]
10/20(Sat) 16:07

食堂の料理はなかなかのものだった。
普段は少々高めだた、全てティーノが払ってくれるおかげで、何の
問題もない。・・・ただ、機嫌をとるのに約一時間かかったが・・。

ザン・・・ザザーン・・・

15時。リクオは船の甲板で海を眺めていた。

「何一人でカッコつけてんのよ。」

ミントが二人分のティーカップを持ってよってくる。

「・・・ん、」

一度視線をミントに注ぐリクオだが、再び海の方へとうつし
かえる。

「俺には、一人でくつろぎたくなる時ってーのがあるんだよ。」
「私もあるわ。」

ミントはリクオにティーカップを渡す。中身は上質のティーだ。
さっきの食堂で頼んだものであろうか。

「ただ、今は一人でいたい気分じゃないんだけどね。」

そして、リクオによりそうミント。

「リクオって、人・・・殺した事ある?」

ミントのいつになく暗い表情を見て、気難しくなる。

「・・・まあ、そういう仕事もあるからな・・。」
「シビアな世界よね。」

それが当たり前というのは解りきっているはずだが、どこと
なく認めたくない事実を知ってしまったと言った表情である。
ミントは海を遠く眺め

「あたしのお父さんってさ、ひどく手癖の悪い奴でさ・・・」

ミントは憂鬱そうな顔でうつむく。

「何かあるたびに殴られてたんだ、・・・スープをこぼしたとか、
 掃除をしなかったとか。」
「子供は親を選べないもんな。」

リクオはミントの頭をなでる。ミントは

「ついには・・・耐えられなくなって・・・殺しちゃったんだ・・
 この剣で・・。」

まるで悪戯した事を投げやりに白状する子供のようだ。

「・・・それで家出しちゃって・・・さ、今回のこの仕事が初めて
 になるの。」
「ふーん。」

ミントは背中の剣を一瞥し、

「・・・怖いんだ・・・親を殺しちゃったら・・一度人を殺しちゃ   ったら・・・もう何人殺しても、同じだって・・・。人を殺す事
 に、何のためらいも感じなくなっちゃったんだ・・。そんな自分
 が怖くて・・。」

人の心の中では、一度人を殺せば、二人殺そうが三人殺そうが、大
して違いは無くなるのであろうか。人を一人殺せば、そこで「人殺
し」のレッテルが貼られる。一度それを張られれば、どんなに罪を
償おうとしても、一生消えることはないであろう。人殺しの十字架
を一生背負い、生きてゆく事になる。そのかわり、逆に何人人を殺
しても、「人殺しのレッテル」が変わる事はない。

ミントはけだるそうにリクオにもたれ、

「まさか初仕事でいきなりリクオと一緒に冒険できるなんて思わな
 くてさ・・・」

たしかに、リクオの名を明かす前の彼女は、どことなく他人を警戒
してる風にみえら。

「リクオの事は、昔から聞いていた。・・・世界を自由に回って悪
 い奴らから財宝を盗み、貧しい人に分け与えるってさ。」

リクオは苦笑し

「財宝はたしかに盗みはしたが、人に分け与えてやるほど、お人よ
 しじゃないぜ。」
「わかってるわよ。」

そんなミントの顔は、どこか幼い。

「でも、憧れてた。自由に世界を回って、自分の腕で好きな仕事で
 名声をあげて食べていく事が出来るブラック・キャッツに。」
「師匠から聞いた事がある。」

リクオは、ミントが持ってきてくれたティーをすすり。

「この世界に入ってくる女は、たいてい昔に死ぬほどつらい思いを
 経験した奴らばかりだと。あんたみたいに、とある事がきっかけ
 でこの世界に入りざるをえなくなった女、家から一歩も外に出し
 てもらえず、外の世界に憧れ、ろくな知識ももたずに家を出て、
 道しるべを失い、途方にくれるお嬢様。この世界の奥底まで理解
 しつくし、それでもこの世界に入りたがる奴は、きっと幼少期、
 残酷な体験をしてきたに違いない・・てね。」

リクオは気持ちよくあくびをして

「安心できる場所・・、そんな場所があるなら、俺だってこんな
 事はやっちゃいないさ・・。」

リクオは海をながめ、無表情に一言つぶやく。

「・・・俺も、早く楽になりたいよ・・。」

リクオに安心できる場所場所などない。リクオが行き続ければ
行き続けるほど、誰かが必ず不幸になる。誰かの幸せを奪い続
けなければ、生きていく事が出来ない。彼のように死にたくても
死ねず、誰かを不幸にし、人々にいみ嫌われ、そのたびに心に
深い傷をうけながら、それでも「幸せ」の二文字・・・・ただ、
それだけを夢みて、自分の安心できる場所を求め、死ぬまでさ
まよい続ける・・・。

・・・楽になれない迷子達。

誰も助けてくれないこの世界、そのまま死にゆく者も珍しく等
、決してない。

リクオはミントの頭を胸元に抱き寄せ、

「俺は貧しいあんあみたいな不幸な人間に、手を貸したくなるんだ、
 ミント。」
「そうやって、他の女にも手を貸してきたのね。」
「・・・え・・そ・・それは・・」

あせるリクオ。そんなリクオに悪戯っぽい笑みを浮かべ、

「・・・心臓の動きが急にはげしくなったなー。」

気がつけば、ミントはリクオの胸に耳をぴたっとくっつけている。

「・・・・でも・・・サ。」

ミントも海を気持ちよさそうに眺め

「はじめて呼んでくれたね・・・ミントって。」

雲ひとつない青空を、海猫が気持ちよさそうに飛んでいる。
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マリーの果実を我が店に 15
サムス・アラン [Mail]
10/20(Sat) 16:29

19時。

「そーら、あと一息だ、気ぃ抜くんじゃないよーー!!」

一同は再び、船内食堂〜聖なるまこっちゃん〜へ、早くもなく、
遅くも無い夕食をとりにやってきた。

「・・・う・・あうう・・・いった〜い・・・」

そんな食堂の一角で、テーブルにつっぷしてる女がいた。・・・
とりあえず、一同はそれを見なかった事にして、少し離れた所に
腰をかけるが

「・・あん・・あなた達ぃ・・こんな所で会えるなんてぐ・う・
 ぜ・ん♪」

うめいていた女がこちらを見る。昼間のあのアル中だ・・・。

「ち・・・見つかったぞ。」

ミケが面倒そうに舌うちをする。ティーノも

「・・しかもなんかこっちに来ますの・・・。」

はー・・と、額に手をやる。
よろよろとこちらに歩いてくる女。ミントは親指を下につきおろし

「だーっ、お呼びじゃないわよこのアル中!! なんであんたが
 この船に乗ってんのよ!!・・だからこっちくんなーー!!!」
「あん・・・、もう、冷たいわねえ。・・・でも、なんであらひ
 この船に乗ってんのかしらん・・・う〜ん・・」
「おいおい、マジかよ・・・」

ミケはあきれかえる。女はしばし考え、再び歩きはじめる。

「ごめぇん、あらひ今頭痛いから、ちょっと寝てくるわん。また
 あとでね。」
「もう一生こなくていいわよ!!!」

よろよろと去っていくアル中にミントは中指を立てる。リクオは
アル中女を見、

「ただ単によっぱらったいきおいで、気がつきゃ船にいたってい
 きおいだな・・・ありゃ・・。」
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マリーの果実を我が店に 16
サムス・アラン [Mail]
11/5(Mon) 2:25

・・・食事中

「そーいやさあ、何で店長であるティーノが荷車運びなんてやって
 んだ?」

リクオの素朴な疑問に

「こだわりですのっ。」
「・・・こだわりぃ?」

ティーノの言葉に聞いているかいないのかよくわからない顔で、オ
ウム返しに聞き返すミント。

「一つ最低でも一万キラするマリーの実ですの、私はより良いマリ
 ーの実をよりよい価格で仕入れる為に、毎回マリーノの町までこ
 の足で来ますの。そして、この目で一つ一つ確かめますの。こだ
 わりのせいかもしれませんが、マリーの実の品定めから荷車に積
 むまで・・・やく4時間かかりますの。」
「うへえ・・・」

ミントは聞くだけでうんざりだった。多分ミントなら、適当に実を
ぽんぽん荷車に入れていき、ほんと10分もあれば終わるだろう。

「・・・だけどよぉ、」

ミケはふと何かに気づいたように

「おめえはマリーノの街に行くたびにこうやって、俺達みたいな冒
 険者を雇ってるのか?」

しかしティーノは首を横にふり

「今回は例外ですの。」

食事を終え、先にコーヒーをゆっくり飲む。

「私には専属のボディーガードがいましたの、でもマリーノに行く
 途中、山賊に殺されたの・・。」
「・・・お気の毒。」

次にコーヒーに口をつけるミント。

「よく無事だったなあんた。

リクオも食事を終える。

「私はドサクサにまぎれて逃げてきましたの。」
「実は鬼だろお前・・・」

最後に食事を終え、ミルクをのみはじめるミケ

「・・・でも、最低でも一万キラかー・・。」

あたしが投げた実はいくらくらいだろうかと考えてしまうミント。

「その最低でも一万キラはする実を、いろんな商品にかえて売るだけ
 で、元の8倍くらいはとれますの。」
「は・・8倍!?」

ティーノの言葉を聞き、ちょっとイイかもと、思ってしまうミント。
リクオも頭をかき

「なるほど・・一人30万キラだしても痛くないわけだ。」

あの山積みのマリーの実を思い出す。
そうこう言っているうちに、気が付けば他の客はすでに引き上げ、
残るはこの一画だけであった。
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マリーの果実を我が店に 17
サムス・アラン [Mail]
11/24(Sat) 2:27

「おい、ゴールドバーグ。」
「ぺぐぅっっ!!!」

船内の大浴場でくつろいでいたティーノに声をかけてきたのは、
あの槍を背負っていたカリカという女だ。
・・・もちろん、今は裸で束ねられていた綺麗な髪も今はほどいて
いる。

ティーノはすぐさま、カリカをどつき倒して本名をその由来から
じっくりと時をかけて説明してやりたい所をぐっと抑える。

「な・・なな・・何ですの?」
「良い湯だな。」

がくぅっとよろけるティーノ。

「・・そ・・それだけですの・・?」
「ん?な・・何なのだ・・それだけじゃいけないのか?」

様子がおかしいティーノをいぶかしげに見るカリカ。そう、
彼女の頭には、さっきミケがとっさにつけた偽名がそのまま
入っている。

「外の世界はまだ慣れないか?」
「・・・え?ま、まあ結構骨が折れる事ばかりですの。」

カリカは、ティーノを箱入りのお嬢様だと思っている。カリカは
顔を洗い

「そういえばゴールドバーグ。」
「・・・な・・何ですの・・?」

カリカはティーノの額にうかんだ青筋には気づかず

「・・・家族に大切にされるって・・幸せか・・?」
「・・・・は?」

カリカは冷静を装いつつも、孤独な瞳をしている。

「私は物心がついた頃には一人だった・・。親が一体どこの誰だか、
 私には全くわからない。・・・ずっと・・一人で生きてきた・・。」

「・・・結構つらい思いをしてきたんですのね・・・。」

ティーノは少しうつむき、もし自分がそうだったら・・なんて事を
想像している。カリカはふーっと一息つき

「孤独な私は、昔はひどく荒れていた・・。お前みたいな幸せそうに
 している奴がとても羨ましかった・・そして、とても憎かった。
 どうしてあいつらはあんなに幸せなんだろう・・どうして私は、
 あいつらみたいに幸せになれないんだろう・・私とあいつらは、
 一体何が違うのだろう・・と。」

カリカの双眸は鋭くなり

「そう思えば思うほど、そいつらを憎まずにはいられなかった・・。
 そんな私は、よくそんな奴らを殺してまわったものだ・・。」

ティーノの体がびくっとふるえる。そんなティーノにカリカは目元を
少し緩め

「心配するな、今の私はそんなに若くはない。」

ティーノはふーっと息をつき

「・・安心しましたの・・。」

と、上でまいてた髪をほどく。

「そういえば・・カリカさんっておいくつぐらいですの・・?」
「ふん?私か・・・そうだな・・・。」

カリカは指折り数え

「ふむ・・・・たしか16になるのだ。」
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マリーの果実を我が店に 18
サムス・アラン [Mail]
1/2(Wed) 15:51

23時

リクオが風呂に入りに行く途中。

「ふざけんじゃないですのーーーーっ!!」

ティーノが一人、無造作にがんがんと壁を蹴っていた。

「・・・・どうした?」

何か尋常ではないティーノの様子に近寄りがたいリクオ。

「なーんでこの私が十六の小娘に「おい、ゴールドバーグ」
 なんて呼ばれなくちゃいけないんですのーーっ、それに、
 なんでこの私がそんな小娘に頭さげなきゃならないんです
 のーーーーっ!!」
「なんか荒れてるな・・・。」

リクオはそういうことは本人にいってくれと心に思いながら

「俺、風呂入りたいから・・。」

さわらぬ死神にたたりなしである。

・・・・同時刻

「う〜〜ん、・・良くねた・・・さて・・そろそろ楽しもう
 かしら・・・・ね。」

寝室、一人の女が目覚めてしまった。

「かーーーっ、いい湯だなあ、もう三日ぶりかあ。」

リクオはぼけーーっと風呂につかっていた。

「今日は満月が綺麗だな・・・。」

ぼーーっと、窓を眺めているが

「・・・・・ん?」

ぼーっと泳がせていた目が一瞬とまる。

「・・・・今、悲鳴が聞こえたような・・。」

少し考え、

「・・まあいいか。」

気のせいかと、ふたたびぼーっとする。

「よおリクオ」

そんな中、もう一人風呂に入ってくる。・・・ミケだ。

「おーミケ公か、こっちこいよ、いー湯だぜ」

リクオが言うまでもなく、ズカズカとはいってくるミケ。

「風呂に入るなんて何日ぶりだろうな。」

自慢の毛並みを揃えはじめる。リクオはぼーっとしながら、
唐突に

「そういやミケって、今まで何人くらい人殺してきた・・?」
「・・・ああん?何わけのわかんねえ事聞いてくれんだお前ぇ」

と、言ってみるが、ふと考えてみて

「・・う〜む、言われてみりゃあ、何人殺してきたかな・・」

考えるのも面倒という顔だが、それでも考えるあたり、律儀だろう。

「でもよ、なんでそんな事聞くんだ?」

聞き返すミケに、リクオは自分の頭を指して

「俺も聞かれたからだ、昼間に煮たような事をサ・・・。」
「ふーん。」

ミケは毛を繕いながら

「中にはいるな、殺した人間の数をいちいち覚えてる奴が。」
「悪いが俺の趣味じゃない。」
「ああ、そんな奴を相棒にもつと、疲れそうだな・・。」
「今まで殺してきた人間一人一人の話をゆっくり語って
 くれそうだ。」

二人は意味もなく声を出して笑う。そんな意味の無い笑いが
好きな二人であった。

23時30分

「ワインがもう少し上質だったらなー。」
「ここのドライチーズはなかなかのもんだったがなあ。」

ぶつくさ言いながら廊下に出る二人。・・・しかし

「なあミケ。」
「あん?」

リクオは床を見て

「この床についてるもん・・・何だと思う?」

その言葉にミケも床を見おろす。

「誰かがワインでもこぼしたんじゃあねえのか?」

しかしリクオは軽く手を広げ

「こんな生臭いワイン、俺の故郷でも見た事ねえぜ。」
「同感だ。」

ミケは床にしゃがみこんで、真紅にそまったそれを見、しばし

「・・・俺にゃあ血にしか見えねえなあ。他に思いつく物が
 あったら聞かせてくれ、リクオ。」

しかしリクオは首をふり

「すまねえ、それ以外に該当する物は俺にも思いつかねえ。」
「残念だ。」

ミケはふーっとため息をつき

「楽しい船旅が、ここで終わらねえ事を願おうぜ。」

二人は武器を手に、廊下を歩きはじめる。
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マリーの果実を我が店に 19
サムス・アラン [Mail]
1/2(Wed) 16:29

船内食堂〜聖なるまこっちゃん〜

・・・その中は今、「聖なる」と言う言葉を思い出す事すら
難しい状況であった。夜中のブランデーを楽しんでいた客達
は皆切り裂かれ、人間の原型すらとどめていない者もいる。
・・・そして、聖なるまこっちゃんの店長のお姉さんは柱に
かかっている大きな看板に十字に木のくいで貼り付けられて
いた。・・・白目をむき、首がけして曲がるはずのない方向
に曲がっている。首の皮でなんとかくっついてはいる物の、
そのぶら下がった首は今にもひきちぎれそうだ。

「・・・ひ・・ひでえ・・」

ミケの目から涙があふれ出てくる。

「・・・ここのメシ、結構うまかったのにな・・。」

リクオの表情は変わらないが、体がかすかに震えている。
・・・そして、ふとかすれた声で

「・・ティーノと・・ミントは・・?」

その言葉に、ミケははっとあたりを見回す。

「・・・幸いなのか何なのか、この死体の山ん中にゃあ居ねえな。」
「探そうぜ」

船内食堂〜聖なるまこっちゃん〜を後にする二人。

食堂のすぐ隣に食堂庫があった。

「・・・て・・てて・・天に召します我らが神よ・・・」

食堂庫の中から女の声がする。

「・・・もしかしてティーノ・・か?」
「・・・そ・・・その声はリクオさん・・ですの?」

食堂庫のすみですくっと立ちあがりよってくる下着姿のティーノ。
・・・しかしその顔にはいつもの余裕は無く、髪も乱れ少しやつれ
たように見える。・・・一瞬別人かと思ってしまうくらいに。

「・・一体何があったんだ?」
「・・もう、何がなんだかわかりませんのぉ・・。」

リクオの胸に飛び込み、泣き崩れるティーノ。

「よく生きてたな。」

ミケはうれしそうに、ティーノの頭を軽くなでる。そして

「・・さて、あんな残酷なまねができる狂人を、これ以上
 生かしておくわけにはいかねえな。」

と、斧を背負う。リクオはうつろな瞳で

「食堂の客と店長か・・。どう考えても、殺されなきゃならない
 ような奴らじゃなかったぜ・・・。」

ミケと共にリクオは食料庫を出、そのあとティーノが駆け足で
ついてくる。

廊下を少しでた所・・。

「おい、リクオ」
「ああ」

向こうの方から人影が近づいてくる。今この船の中では、やはり
生きている連中を警戒せざるを得ない。もしかしたら、別の部屋
に何も起こっていなくて、何も知らない客かも知れないじゃない
か。・・だが、リクオの頭には、船内食堂の印象が強くて、そん
なのんきなことを考えていられる状態ではなかった。

「・・・誰だ?」

その人影に向かってリクオは静かに問う。手に愛用のおおきな
ダガーをぶらさげて・・・。

「・・・ふん、貴様らか。」

その声の主は昨日、そして今日の昼間に出会った、槍を持つ女
カリカだ。

「・・お前か・・・お前がやったのか!!!」

リクオはダガーを片手にカリカに切りかかる。

「・・・うくっ!?」

カリカはそれを槍ではじき、リクオの腹に槍の柄で突き、
ひるんだ所を蹴り倒す。

「ぐああ!」
「・・ふん。」

カリカは体制を整え

「驚かせてくれるじゃないか、反射的に殺す所だったぞ。」

しかし、そう言うカリカの様子もおかしい。体中傷だらけで、
マントも所どころやぶけている。

「か・・カリカさん、その姿、どうしましたの?」

ティーノはおそるおそる尋ねる。

「・・・ふん、船の甲板でくつろいでいたら、背後から
 やられたのだ。」
「・・・じゃあ、あんたがやったんじゃないのか・・?」

ようやく立ちあがるリクオ、カリカはふん、と槍にもたれ

「私は何の得にもならない殺しはしない。」

あたりまえすぎるその答えに、リクオは安心する。そう、もし
彼女があれをやっていたなら、リクオが襲いかかった時点です
でに切り殺されていただろう。

カリカはくやしそうにがんっと壁を殴る。

「くそっ、私とした事が・・・!!」

心の底からくやしそうだ。

「・・・よく殺されずに済んだな。」

ぽつりとリクオが当たり前すぎる疑問を口にした。

「・・・逃げられたのだ・・あの女・・見つけたら必ず殺す
 ・・・・!!!!」

カリカのその瞳は怒りに満ちていた。・・どうでもいいが、
とても怖い・・。ミケのみみがピクンっとはねる。

「・・・ちょっと待て、あの・・女? ・・女なのか・・・
 あの食堂の連中を皆殺しにした奴は・・・。」

ミケの言葉にカリカはふんっと鼻で笑い

「のんきな奴らだな、下手をすればこの船で残っているのは
 奴と私達以外、もう誰も残っていないかもしれないのだぞ」

気が遠くなった。あんな悲惨な真似をしてのけた狂人が女だ
ったとは。

とりあえず、見渡しのいい甲板へと向かう、・・・しかし、
その途中で・・・

「・・・何の音だ・・?」

リクオは耳をすませる。・・どこか遠くの方で、ぴちゃっくちゃっ
と音が聞こえる。

「・・・なんだか怖いですのぉ・・・。」

ティーノは泣いている。

「・・・いってみようぜ・・」
立ち止まっていてもらちがあかないと思い、再び歩きはじめる
ミケ。

「ふん、気をつけろ、油断したら死ぬぞ。」

カリカはすでに槍を構えている。
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マリーの果実を我が店に 20
サムス・アラン [Mail]
1/2(Wed) 16:42

零時、零分。

旅船ディートバ、甲板の最後尾。・・そこにミントはいた。
・・・その瞳にいつものような無邪気で強い光はなく。

「・・み・・ミントーーーっ!!」

リクオは叫んだ。ミントは体中ズタズタに引き裂かれ、その顔は
もはや人形のようだ。

「ひっひっひっ、なかなかおいしかったわよ、この子」

そして、それを人形のようにもてあそぶのは、夕方にも見かけた
アル中女。ミントの両足は切り離され、頭にはアル中女が右腕に
つけている鉄の長いツメがふかぶかと突きささっている。

アル中女は酒にでもようかのように、うっとりとした目でミント
の頭から流れ出している紅い血をゆっくりとすすっている。

「・・こ・・この野郎っ!!」

ミケは斧を構える。

「・・・俺とした事が・・・なんで・・今まで気づかなかったん
 だろう・・。」

リクオのダガーを持っている手が震える。

「たしか・・・いたよな・・胸と右足の太ももに三日月を持つ
 殺人鬼が・・。」

カリカもどこかしか口おしそうに

「ふん・・、しかしこのアル中女がそれだとは、私も思わな
 かったのだぞ・・。」

アル中女を見据え

「人の生き血をすする事に快楽を覚えた殺人鬼・・・ロスト。」
「・・・そして」

リクオはバンダナを外し、ただただ立ちすくむティーノにそれを
渡し

「キリストを否定する女・・・。」
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マリーの果実を我が店に 21
サムス・アラン [Mail]
1/2(Wed) 17:05

ぽつり・・・ぽつりと雨が降り出し、波が次第に激しく
なってくる。

「んふっんふっ、なぁに?こんなか弱い女の子を三人がかり
 で襲っちゃおうってつもりぃ?・・あん、三人はちょっと
 きついわん。」

口調とは裏腹に、目が血に飢えている。ざしゅっとミントの
頭から引きぬかれた鉄の長ヅメが真紅に光る。

「・・・ふん、そのか弱い女の子とやらに皆殺しにされた奴ら
 を、同情してやるべきであろうか・・。」

カリカはアル中女、もとい、ロストに一歩つめより

「さっきは不意をつかれたが、今度は間違いなく殺してやる
 ・・・!!!!!」
「んふふふ、不意をつかれたぁ?ぐーすか寝てた貴方が悪い
 のよん。」
「ほざけっ!!」

ロストにすさまじいスピードで詰め寄り、槍が瞬時に三度
襲いかかる。

「・・・っ!!」

その槍を長ヅメではじき返すロストには、さっきまでの余裕は
ない。

「・・・あまいぞ!!」

そして、槍をさらに真上から一直線に下ろし、かろうじてそれを
かわしたロストに。またもや振り下ろされた槍を、体を一回転さ
せ、返し刃で振りあげる。これはかわしきれず、ロストの左腕に
深い傷が刻まれる。

「・・・なんて速さだ・・・。

ミケはその一瞬の出来事に目を疑った。

「・・・・いったぁ〜い・・。」

傷口の血をすすり微笑むロスト。左腕はだらんっとぶら下がっている。
そして、さらに踏み込むカリカに、しかしロストは追撃を許さない。
カリカの槍を右腕の長ヅメではじく

「・・・ぐう!?」
「んふふ・・・私の左腕が燃えてきちゃった・・。」

ぶら下がり、使い物にならなくなったと思っていた左腕の平に火球が
うまれる。

「バーハムート・ブレス!!」
「・・・何!?」

ロストが左手で振り上げたと同時に、カリカが炎の波と熱風に襲われ
る。

「ぐああああっ!!!」

カリカはマントで防ぐが、耐え切れずに吹き飛ばされる。

「・・・・魔法・・・?」

ミケは一歩も動けず、ぽつりと呟く。

「・・・噂には聞いた事があるが・・。」

カリカとロストのほんの一瞬のやりとりが終え、やっと我に
かえるリクオ。

「魔法にゃあ詠唱がいるって聞いたけど、ありゃあ嘘か?」
「呪文の詠唱・・・・もしかして、さっきのアレか?」

ミケが方眉(あたりだろう)をつり上げて、そしてリクオが
悩ましい口調で

「・・・私の左手が燃えてきちゃったん・・てか?それなら
 俺でも出来そうだ。」

そしてティーノも

「私の体が燃えさかっちゃいそうですのん。・・これで私も
 魔法使いですの?」

手をたかだかとかざすティーノに、リクオはチチチと指を鳴らし

「まだまだだな、ティーノ。色っぽさが足りない。」
「・・悪かったですのね・・・ふんっ」

ティーノがそっぽをむく、

「ははは、そー怒んなって」
「知らないですのっ。」

・・・・・しかし。

「・・き・・貴様らから殺してやった方が良いであろか・・・?」

気がつけば、黒こげぎみのカリカがすごい形相で睨んでいる。

「ぐあ!・・お・・俺が悪かった・・」
「ご・・ごめんなさいですのぉぉぉっ」

カリカの威光におされ、小さくなる二人。・・ミケはミントだった
物を見て

「これじゃあお前もうかばれねえな・・。」

雨は次第に激しくなる。
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マリーの果実を我が店に 22
サムス・アラン [Mail]
1/2(Wed) 17:23

波はとても激しく、雷が鳴り響く。

「んふっんふっ、珍しーい?魔法っていう物が。」
「・・・ああ、珍しいな。」

リクオはロストに一歩つめよる。

「しかしそれよりも、だ。もっと珍しいのは呪文の詠唱無しの
 それって所かな。」
「え〜?・・・あ、そ〜か〜、普通はいちいちそんな物唱えて
 るんだっけ?」

ロストは無邪気な笑顔を見せる。リクオは首を傾げ

「・・・となえなくても出る物なのか?」
「ふん・・・私は思う、人間である以上それは無理だ。」

リクオに答えたのは、ロストではなくカリカ。

「人間である以上は・・か。・・・じゃあよ、」

ミケは斧を構え

「こいつは一体何だってんだぁーーっ!!」

ロストに突っ込むが

「教えてあげないよっジャン♪」

ロストは身をひねり、軽くそれをかわし

「でもね、別に唱えなきゃいけないってもんでもないのよん。」

ロストは両足を広げ、腰を落とす。

「それに、そんな私でも呪文がいる物だってあるのよん。見せて
 あげよっかあ。」
「・・・何・・だと・・?」

空を切り、地面につきささった斧をひっこぬくミケ。ロストは静か
に唱えだす。

・・・闇より生まれし麗しき神、天を統治す竜神よ・・・
天を貫き、地を溶かす・・風は渦巻き水朽ちて・・・・・
光は果てて、闇振りし・・染めるであろう・・その全て
願わくば、甘美なる瞬時を・・麗しき闇の竜神よ・・・

「・・・正気か貴様・・!!」

はっと我に返り、叫んだのはカリカ。

「んふ・・・んふふふふふ・・・ああ・・手がだんだんと熱く
 なってくるの・・・。」

ロストの両手の平がだんだんと闇色に染まっていく。

「・・な・・何だいったい・・・。」

えたいの知れない状態に困惑するリクオに、カリカは振り向かずに

「これは魔法ではない。・・いや、そんな生易しいものではない
 ・・。」
「じゃ・・じゃあ・・一体何なんですのぉ・・?」

ティーノの足が振るえだす。

「・・・竜神の力を得て、全てを闇へと葬り去る邪法「竜の刻印」
 ・・・古代、神々を滅ぼすために間族の民が生み出した禁断の
 法・・・。」

船が次第に激しくゆれ、ロストの周りで風が渦巻く。

「・・・神々を滅ぼす為・・・だと・・?そんなふざけた物が
 あったのか・・・」

ミケはびどうだにできないでいる。

「・・・ふん、ちなみに私達はその神々ですらない。」
「んな事ぁ言われなくてもわかってらあ。」

リクオは何かないかと懐を探る。そして出てきたのは・・・。

針金、マリーの実、ゴルゴダのワイン、ちいさなメダル、ほしにく。

・・・・・うああああああああっっ俺のバカーーーっっっ!!!!

一人で頭を抱えるリクオ。とりあえず役に立ちそうにない。
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マリーの果実を我が店に 23
サムス・アラン [Mail]
1/6(Sun) 23:43

「貴様・・・・一体何故こんな事をするのだ・・・・・?」

カリカは、今更ながらとは思ったが、聞かずにはいられない。

「んふふ・・・なぜぇ・・?・・・・優雅じゃないのぉ、
 この船旅日和なお天気。」

・・・雨。・・いや、雷のひどく、荒れ狂った荒らしといった所か。

「この広大なる海!!とてもシンプルな景色よねえ。」

波がひどく荒れ狂っていて、それどころでもないような気もするが。

「こんな中死体だらけの船で、一人ゆっくりとワインを楽しむ。
 ・・・・あん・・・美しいわん。」

渦巻いた風が所どころかまいたちを作り、リクオの頬が少しすり
きれる。

「・・・・狂ってやがる・・・・。」

ミケはその一言を吐き捨てる。ロストは妖しい笑みで

「私みたいな美人な死神さんが来てくれるといいわねえ。」

ロストの手が闇色に煌く。

「・・・ちっくしょう・・・何とかしなきゃ・・・。」

リクオは必死に懐をあさり、そして何かをつかむ。

「・・・伏せろ貴様ら!!」

カリカの叫びに伏せるミケとティーノ。・・しかし

「死んで♪」
「・・・とりゃああああああ」

リクオは何がなんだか解らず、つかんだ物を握り潰し、ロストに
投げつける。

「・・・ダルクネス・フレ・・・ぷぐぁっ!!!」

「竜の刻印」を唱えかけたロストの顔に、べちゃっと何かが
ぶっかけられる。

「・・ふぁああああ・・な・・何これえ・・目が・・においがああ
 ・・・ひいいいい!」

目を抑えてもがくロスト。

「・・・・・・はっ。」

地にふせていた三人の中で、いちはやく我にかえったのはカリカ。

「何か知らぬが、でかしたぞブラックキャット!」

カリカは即座に立ち上がり、槍を構え直す。

「死ね!!!」

ロストめがけて、槍を真上に一直線に切り上げる。

「・・・んあああああああ・・・!!!!」

大量の血しぶきが上がる。

「ぬおおおおおおお!!!!」

ミケは斧を振り上げ、ロストのわき腹に真横に叩きつける。

「・・・・ごふっ」

ずぶっと鈍い音と共に、ロストの脇腹に大斧が食い込む。

「・・・短い・・・本当に短い間だったけど・・・気にいってた
 んだぜ・・・ミントの事・・。」

リクオはロストのこめかみにダガーを突き刺す。

「・・・は・・・」

ロストはそのままよろめきながら、後ろへと下がる。

「・・ひ・・ひひ・・また・・・ね・・。」

ロストは狂気じみた笑顔を最後に、海へと落ちてゆく。

「・・・やった・・・のか・・・?」

ミケはかすれた声でつぶやく。

「ああ・・・とどめは刺した。」

リクオはそう答える。・・・そう、とどめは刺したのだ。
・・・しかし、本当に死んだのだろうかと思わせるほどに、
ロストの最後の笑みが何かとてつもなく不可思議な恐怖を
呼び起こすのだ。
・・・今だにリクオの体の震えが止まらない。・・カリカは
槍についた血を振り払い

「ふん・・・奴は・・・一体何者だったのだろうか・・・。」

いつのまにか雨はやみ、綺麗な満月があたりを照らしていた。
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マリーの果実を我が店に 24
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:15
……二時

 「…なんてこった…海賊もいねえ安全な船旅だと気を緩ませちまっ
たばかりに…」

 ミントを布の大袋に入れた後のこと、ミケは袋を見、力なくつぶ
やく。

 「…つきあいは長いのか…?」

 床に座り込みダガーの手入れをするリクオ。ミケは首を振り

 「…いや、今回が初めてだ。」
 「…じゃあ早くなれることだ、良くある事だからな。」
 「…んだとテメェっ!!!」 

 リクオの胸ぐらを掴みあげるミケ。
 「さすがはブラック・キャッツさまだなぁ、仲間が死んだって
  えのに何も感じないのかよぉ!!」
 リクオはとくにあせる風でもなく

 「何も感じていないとおもうか?……結構気に入ってたんだぜ、
  あいつの事…」

 両手を軽く広げる。…そして

 「あんたは戦士としては一流だが冒険者を語るにはまだまだ未
  熟だな。」
 「…何が言いてえ…」

 ミケの耳がぴくっと動くが暴れ出す気配はない。

 「あんたは仕事で人を殺したことはあるか?」
 「…ああ、それがどうした。」
 「もしミントが殺されることも無くこの仕事が終わり、それぞれ
  また別々に分かれ、そして次の仕事で今度はミントが敵として
  あんたの前に現れたら…あんたはどうする?」
 「……っ!!!!」
 「その腕ならまあ軽くミントをつぶせるだろう。…しかしもしほ
  んの一瞬でもあんたにためらいがでたなら…間違い無くミント
  の弓のえじきになっているだろうよ。」

 ミケは何の反論も無くじっとリクオの言葉をきいている。
 
 「この世界じゃあ敵と見方なんざ表裏一体だ、情に流されたほう
  が死ぬ、それがこの世界の流れだ。」
 「……そんなもんなのかよ…」

 ゆっくりとミケはリクオからてをはなす。リクオはさらに

 「なぜこの道を選んだかは知らないが、」

 持っていたほし肉をかじりとり

 「情を捨てきれないならこの世界から足を洗え。」

 リクオの言葉はきつく、しかしけして冷たくはなかった。
 水筒のワインを一口、そのまま月を見上げる。

 「いっしょに組む以上は仲間だ、仲間を思いやり大切にするの
  も必要だ、仲間が殺されるようなことがあってはいけな。」

 さらにワインを一口

 「だが仲間を殺され見境を無くし犠牲をかえりみずあだ討ちに
  望むのは情にあつい戦士さまの悪い癖だ。儲けにもならない
  しへたをすれば自分自信の命を消すことにもなる。」
 「…悔しいが…たしかにその通りだ。」

 ミケはがっくしとゆかにへたり込む。リクオはそんなミケに

 「…あんたこの世界にくる前いったい何してたんだ?」

 ミケは腕を組み

 「…グロリアス帝国の兵士だった。」
 「…へぇぇ…」

 ここ、キャトリシア大陸を統べる首都グロリアス。マリーノよ
 りはるか北の地である。

 「…帝国の兵士…か、又違う世界だな…敵と見方がはっきりと
  分かれさぞ情の熱さも輝かしいものだった事だろう。ほかの
  国の兵士と戦い中間達と助け合い生きて帰れば家族やほかの
  仲間が祝福してくれる。もしも仲間が死ねば悲しみ、そして
  それが明日への活力になる。…そんな世界を夢見る子供も多
  いことだ。」
 
 リクオは再びミケのほうを振り向き

 「しかし、この世界に入ってきた以上そんな甘い考えでは一ヶ
  月ともたんさ。ここでは自分が自分自信の為に仕事をしなけ
  れば金は入ってこないし明日の生活もできない。過去のこと
  は一切不問だが、同時に、明日の生活も誰も保障してくれな
  いし誰も助けちゃくれない、場合によっちゃ自分の仲間を皆
  殺しにした奴と組んで仕事をしなきゃならない事もあるかも
  しれない。
  その時それができないと言うならこの世界では失格だ。」
 
 再び干し肉をかじる。ミケはリクオに向かい合い

 「…猫族の寿命は人の三倍はあるといわれている…だがそれ
  でも三十六年は生きている。…そして妻もいた。」

 ミケはポつりぽつりと語り出す。

 「俺が帝国の兵士としてつかえていたのはほんの一年ほど前
  だ…帝国獣騎士団の隊長なんてものをやっていた。」
 「へえ、帝国騎士団の隊長様だったのか…」
 「よしてくれと、今の俺はただのおたずねものだ。」
 「…わけありのようだな…」

 ワインの入っている水筒をミケにさしだす。

 「…ありがとよ…ふだんはミルクしか飲まねえんだが…」

 水筒を受け取り一口

 「……ゴルゴダか…ガキのくせにいいもん飲んでやがるな。」

 苦笑する。

 「…とあることで大臣ともめてな…つい頭にきて殴り飛ばし
  ちまったんだ。…ふっとんだそいつはぴくりとも動きやが
  らねえ…」
 「その腕で殴られちゃあクマでもたまらんだろうな…」

 リクオは瞳でわらう。ミケは続けて

 「そのあと俺はほかの奴らに見つかる前に逃げ出してきたん
  だ、…多分つかまれば斬首刑だろうよ。」

 月を見上げため息をつく。

 「帝国自信は悪いところじゃねえ、俺の妻にゃあ手を出さん
  だろうがきっと風当たりはつええだろうなあ…」

 ミケは手のひらをながめ

 「せめて…最後に…もう一度だけでいいから逢いてえな…
  シャーロット…今ごろどこで何をやってんだろうな…」

 懐からドライチーズをとりだしかじり始める。

 「皮肉な話だな…かつて鬼の騎士団長と呼ばれた男が天敵
  でもある盗賊の若僧に説教くらうたーなぁ。」

 床においてある大斧に視線を移し

 「ま、ここではお前は先輩さまだからな、お前の言ったこ
  と、頭によおく叩き込んでおくぜ。」

 そんなミケにリクオは再び苦笑、

 「若僧…か、…十七っていやあ普通はそろそろ働き始めるころか…」

 ほしにくをかじる。

 「俺は物心がついた頃にゃあすでに盗賊だった。仲間の死って
  言うものも嫌ってーほど見てきたし、裏切り、裏切られの連
  続でもあった。」

 リクオはどこか遠くを見つめている。

 「…もうちょっと…楽なもんかと思ってたぜ…」

 ミケはドライチーズの最後のひとくちを口に放り込む。

 「…はやく…お家に帰りたいですの…」

 今まで眠っていたとばかり思っていたティーノがつぶやく。

 「…なんだ…起きてたのか…」

 リクオがティーノに目をやる。

 「…もう少し…眠れそうにありませんの…」
 「……無理もない…か。」
 「…ねえ…リクオさん…」
 「…ん?」

 ティーノはくしゃくしゃに乱れた髪にてぐしを通しながら

 「あの時…ロストさん…でしたっけ、あの女に投げた物…
  あれ…なんでしたの…?」
 「…え?…」

 リクオはまいったなーと頭をかき

 「…はは…マリーの実さ。」
 「…荷車につんであったやつ…ですのね。」
 「…まあ…ね。」

 リクオの言葉にしかしティーノは怒る気配も無く

 「やっぱり…マリーの実はね、水でうすめてジュースにしたり
  ひあがらしてすりつぶして粉薬にしたり…でもね…生のまま
  だととてもにおいがきつくてしょっぱくて…べたついて…子
  供達がよく自分の家のお台所から少しマリーの実をえぐりだ
  してはいろんな悪戯に使いますわ。」

 リクオに向けたティーノの笑顔はやさしくてどこか大人びている。

 「悪戯に使うために勝手に私のところからマリーの実を盗んで
  いく子供達もいますの、そのたびによくとっつかまえては叱
  り付けましたの。
  …でも、今回はその子供の悪戯に助けられちゃいましたのね
  …ありがとう…でも…もう勝手にマリーの実を持ち出しちゃ
  いけませんのよ、リクオ。」

 やさしくリクオの頭をこずく。リクオは恥ずかしそうに頭をかき

 「…へへ…わるかったよ……でも…なんか…うれしいや…」

 その時初めてリクオは見せた……少年の笑顔を。
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マリーの果実を我が店に 25
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:22

 ……翌朝九時

 旅船ディートバ操縦席、船はまだ海をさまよっていた。

 「…おはよーですのぉ…もうそろそろマケドニアにつきますの?」

 ティーノの問いにしかし

 「…ふんっ、それは難しい相談だ。」

 カリカは期待にこたえることができない。リクオも

 「あのロストとかゆー女に船長さんもしっかりと殺されているよ。」

 ニ百六十度首が曲がった船長を指す。

 「…そ…そうでしたのね…じゃあ…これから…どうするんで
  すの…?」
 「…だから…よ、」

 おくでミケが舵を握っている。

 「俺様がこうして操縦してんじゃねえか…よ。」
 「…ミケさん…船の操縦なんかできますの…?」
 「帝国船なんか…よ、自分で操縦しなきゃならなかったから…な。」
 「…帝国の兵士さん…でしたのね…」

 ミケの肩にそっと手を乗せ

 「元気だといいですね…シャーロットさん…」
 「……け、覚えてやがったか…やめてくれよ、又逢いたくなる
  じゃねえか…」
 「…ふんっ、それは良いがな、ミケ公。」

 カリカは前の景色を見

 「マケドニアがどの方角にあるのか…知っているんだろうな…?」

 …それから一時船を停止させ船獣を周り地図とコンパスを見つけ
 マケドニアまでの距離と方角を割り出しマケドニアにつくまで約
 九時間かかった。…日が暮れるまでかかった。
 
 ……マケドニアの港 

 船内の事情を説明し納得がいくまで一刻分はかかったが無事に到
 着である。

 「ふんっ、短かったがそれなりに楽しめたぞ。」

 リクオははカリカに向かい合い

 「ああ、じゃあな、敵として出会わないことを祈るよ。」
 「ああ、…良い旅を。」

 カリカと別れるリクオ達、そしてティーノ自慢のレストラン、
 ディストラクティヴ・ノクターンにつく。

 「……でけえレストランだな…」
 「…ああ。」

 リクオとミケはレストランをぼーぜんと眺める。その大きさは
 城とまではいかないまでも帝国図書館ぐらいはある。

 「ちょっと待っててほしいの。」

 ティーノはごろごろとレストランの中に荷車を運んでいき…そ
 して少ししてレストランから出てくる。

 「これ…報酬の四十五万綺羅ですの。」

 リクオとミケにそれぞれ四十五万綺羅ずつ手渡す。

 「…ん?…三十万綺羅じゃあなかったの…か?」

 不思議そうに首をかしげるリクオにティーノは下を向き

 「…私の依頼でお仲間さんを死なせてしまいましたの…
  残りはその慰謝料とおもっていただきたいですの…」

 そしてさらに懐から七・八枚の髪を取り出しリクオに押
 し付ける。

 「…これは…?」
 「…ディストラクティヴ・ノクターンのお食事券ですの、
  …たまには…その…二人で顔を見せに来るですのっ。」

 そしてきびすをかえしレストランへと去っていく。

 「…ただのわがままなお嬢と思っていたが、礼儀ってもんは
  知ってるようだな。」
 「…育ちがいいお嬢様特有の教わっただけの礼儀とはまた違うな。」

 リクオは金を懐にしまう。

 「…ま、仕事は終わったし、メシでも食いに行くか。」
 「ああ、この道で生きていくためのアドバイスってもんをゆっくり
  と聞かせてもらおうじゃねえか。」

 そして二人は入って行く…レストラン、ディストラクティヴ・ノク
 ターンへと… 
 
  
 
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マリーの果実を我が店に 終
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:25

…二十四時

「いやー、今回はほんとにつかれましたのー。」

 全ての仕事が終え食事も風呂もすまし白サンタ姿でベッドへ
 向かうティーノ、そして横たわり眠りにつこうとして…

「…!?……誰ですの…!?」

 そこには大きな槍を背負った女が立っていた…

「…ほぉ…?…貴様だったのか…ティーノ・ペペロンと言う女は。」

 その女の深緑のマントは返り血に染まっていた。

「え…あ、あなたは…」
「ふん、この部屋を守っていたボディーガードとやらには死んでも
 らった、じゃまだからな。さて、」
「…あうっ、」

 女はティーノを抱え

「これも仕事でな、ブロード・マッシュという男がお前に会いたが
 っているそうだ。」
「……お…お父…様…?…い、いやですのっ、はなしてくださいの
 ぉっ!!」
「…ふん、すまないな、力ずくでもという事なので…なっ!!」

と、ティーノの腹部に膝蹴りをいれる。

「…ぐ…ぐうう…い…や…です…の…」

 そしてそのまま意識を失うティーノ。

 …そしてその日を境にティーノ・ペペロンは突然行方不明となる。
 どこに消えたのか、店の者総動員で探すが結局見つからなかった。
 …そして、次にリクオがティーノに再会するのはずっと後のことで
 ある。
        
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