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- 3DAYS - KAZUMA [7/26(Thr) 10:40]
その壱 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:41]
その弐 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:42]
その参 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:43]
その四 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:44]
その五 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:45]
その六 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:46]
その七 - KAZUMA [7/26(Thr) 10:46]
あとがき - KAZUMA [7/26(Thr) 10:47]
Re:あとがき - GAS [7/30(Mon) 21:18]
あったかいですね - 守護者 [8/10(Fri) 12:29]



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3DAYS
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:40
3DAYS
ラグオルともPSOともなんの関係もない小説です。
ちと長いかもしれないので分割して載せてみます。
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その壱
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:41
「だめかもしんない…。」
 ひとりつぶやいた。
 後ろを振り返り、背後の人物に声をかける。
「あんたも、この寒いのに朝から晩まで立ち続けて大変だねぇ。」
 そこにはちょっと小太りの、いかにも人のよさそうな白人男性(推定五十〜六十歳)が笑顔を向けて立っていた。
「やっぱり、日本語わからないのかな?あんたの呪いで阪神タイガースが優勝できなくなったってのは本当なのかなぁ。」
 良が何を言おうと、『彼』はただにこやかに立っているだけだった。
 良はやれやれといった感じで肩をすくめた。
「いや、すまんね。別にあんたから返事が帰ってくるとはさすがに思っていないよ。ただね、一浪したあげくにこの成績じゃ…やばいかなーってちょっぴり思ってたりなんかして。」
 何だかよくわからないことを言うと、良は一人遠い目をした。
「話は変わるけど、俺ってこうして遠い目をしてるとなかなか渋く見えない?けど遠い目ってどういう目なのかな?じゃあ近い目ってのもあるのかもしれないね。」
 自分の言ったことがそんなに面白かったのか、良は一人でうけていた。
 『彼』はそんなことにも動じない。ただやさしさのこもったまなざしを、メガネの奥から良に向けているだけだった。
 良の笑いが凍り付いた。『彼』の視線ではない、身体中に突き刺さるように感じる無数の視線に。
 ゆっくりと周りを見る。バックにギギギギギと効果音を入れたくなるような振り向き方だった。
 道を歩く人たちのほとんどが良を見ていた。しかも良が振り向いた途端、みんな視線を外して歩き始めた。
 それもそうだろう。誰だって『カーネル・サンダース』に気さくに話しかけているような奴とは関りは持ちたくないに決まっている。
(何あの男…気持ち悪ーい。)
(変な奴。アブネー。)
 ほとんど全員の表情に浮かんだもの、それは「同情」のニ文字だった。
 良は困った。
(穴があったら入りたいとはまさにこのことか…。)
 ふと、カーネルサンダースの後ろにそびえるケンタッキーフライドチキンに気が付いた。
 何気なくここに入ってしまえば、この場をやり過ごせる!
 俺って天才!
 いざ店に入ろうとした瞬間、店員をはじめとする店内全員の視線に気が付いた!
「げげっ!」
 思わず声に出して驚いてしまった。
「四面楚歌…。」
 小さくつぶやいてみる。
(四面楚歌って言うとかっこいいけど、この俺の状況はどっちかというと、にっちもさっちもいかない、ってやつかな。)
 もうどうにでもなりやがれっ。良は半ばやけくそになっていた。
 ついでに思ったことは、
(にっち、とか、さっち、って何だ?)
 だったから案外ダメージは軽かったのかもしれない。
 どこかから正午のメロディが流れてきた。
「クスクスクス…。」
 良の真後ろから笑い声が聞こえた。
(鈴の音を鳴らすような声ってこんな声なのかな…。)
 良は振り向かずにそんなことを思っていた。
 声はとっても(強調)かわいい!
 だから、本当のことをいうと振り向いて顔を見たかった。
(しかーし、振り向いて本当にとびっきりかわいかったらどうする?俺は笑われているんだぞ!)
 ショックは今の約五十倍になるだろう。
「良って、面白いね。」
 背後の美少女(想像)が良に話かけた。
「え?」
 思わず振り向いてしまった。
 その瞬間、凍り付いた。
 次の瞬間、良は目の前の彼女に恋をした!
 そんなバカな、小説じゃあるまいし、という人もいるだろう。だが、世の中ってのは案外単純にできていたりするものなのだ(うんうん…)。
 良は彼女の顔をただ見つめてていた。
 実際には、思考が停止していただけだった。
 約三十秒後。
「やあ。」
 おそろしく間抜けな一言だったが、それが精一杯だった。
 それは、クリスマス・イブを明日に控え、道行く誰もが何となく慌ただしい冬の日の出来事だった。
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その弐
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:42
 春になり、良は(何とか)大学生になっていた。
 よくなれたものだと自分でも思った。思わず自分を誉めてしまったぐらいだ。
 はっきりいって勉強なんかしたくなかった。
 彼女を探したかった。
 初めて会った日から三日目の夜、彼女は良の目の前から消えた。
 まさしく目の前から消えたのだ、まるで幽霊のように。
 彼女の身体が徐々に透けていき、消えた。
 言葉が出なかった。
 彼女は消えながら、こう言った。
「また、会えるから…必ず、また会えるから。信じて…。」
 泣いていた。
「また来年…」
 最後の方は聞き取れなかった。
 言葉とともに、彼女は…消えた。
 幽霊だったのだろうかとも思った。
 だが、それでは、彼女の手を握った時の温かさは?消えていく中で彼女が流した涙は?
 また会える、彼女はそう言った。
 あの言葉は嘘なんかじゃない。
 そう、彼女は確かに存在していたのだ、この三日間…。
 受験勉強が手につかなくなったのも当たり前だった。
 しかし、それでもがんばったのは彼女がある時に言った言葉のせいだった。
「受験勉強たいへんだろうけど、頑張ってね。」
 男なんて単純なものだ(しみじみ)。
 また会えると、彼女は言った。
 大学に受かればもう一度彼女に会えるはず…勝手にそう思い込んだ。
 そして受かった。
 だが彼女は現れなかった。
 それからずっと彼女を探した。
 彼女に会いたくて、会いたくて。
 彼女を探して、探して。
 どこにもいなかった。
 彼女と過ごした時間はたった三日、それだけだった。
 しかしそれで十分だった。
 良の人生はあの日に変わったのだ。
 彼女に会うこと、今はそれだけを目標にしている。
 大学に入れたのはいろいろな意味でラッキーだった。
 あまり、時間に縛られるということがないから。好きなだけ彼女を探すことができるからだ。
 愛想はいい方だったので、友人もすぐにできた。
 だが、大学の友人たちにとって良は変わった奴だった。
 授業に出ているというほどでもない、バイトも金が無くなれば短期でするだけ。
 ではサークルとか、女の子とかに夢中なのかというとそうでもない。
 人付き合いはなぜかいいのだ。
 コンパの時とかは、意外とやってくる。
 ただ友人達と違って女の子目当てとかそういうのではないらしい。
 いつもキョロキョロと誰かを探し、そして最後には必ずため息をついて帰っていくのだった。
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その参
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:43
 大学が夏休みに入った頃、彼女を見つけることはほとんどあきらめていた。
 今までもそうだったが、何かアテがあるとかそういうのは全くなかった。
 手掛かりなし…。
 目の前で、文字通り消えてしまった彼女をどうやって見つけるというのか?
 今までは何かに急かされるように、夢中で走っていた。
 ただ…どこにゴールがあるか分からなかった。
 短距離走なのか、実はマラソンなのかも分からずに走っている。
「はっきり言って疲れたよ。」
 グチってもどうしようもないのは分かっていたが、そうするしかなかった。
「また来年…、この後何を言うつもりだったんだ?」
 最後にその言葉を言った時の彼女を思い出す。
 瞬間。
 彼女の姿に、幼い少女が重なった。
「え?」
 また少女の顔が浮かんだ。何となく彼女に似ている。
「誰だ…?」
 少女の口が動いた。
『また来年来るからね!』
 手を振っている。
 覚えている、この風景。
「ああ…。いつ、どこ…?」
 小さな手が目の前で振られている。
 これは、まだ小学校に入り立てだった頃の自分の手だ。
『きっとだよ!バイバーイ!』
 …時がさらに戻っていく。
『こんにちわ。』
 さらに幼くなった少女が立っていた。
 やはり自分も幼くなっている。
 三輪車で一人で遊んでいる鼻たれ小僧。
 もうすぐクリスマスという喜びと、引っ越してきたばかりで友達がいない寂しさが同居していつも一人で外をぶらついていたあの頃。
 初めてできた友達だった。
 声をかけられたときは、びっくりして周りを見回してしまった。自分に話しかけられたとはすぐには信じられなかった。
 口から出た言葉も間抜けだった。
 ただ一言。
『やあ。』
 それが精一杯だった。
 いっちょまえに少女のかわいらしさに見とれてしまったのだった。
 思い出す。
 次々に記憶が蘇ってくる。
「ああ…。」
 幼き日の自分が叫んでいる。
『バイバーイ!あやちゃーん!』
 手を振りかえす少女の顔、そして彼女の顔。
「あの少女の名前はあやか…彼女の名前は綾華…。」
 彼女は決して言わなかった、自分の正体を。
 名前だけしか知らない、綾華という名前だけしか。
 初めて会ったと思い込んでいた。だが、彼女はあの日こう言ったのだ。
「やっと会えた…。」
 そして彼女は涙ぐんだ。
 今その意味が分かった。
 なぜ自分の名前を知っているのか尋ねたときだって、彼女はそう言ったじゃないか。
「ずーっと、ずーっと昔から知っていたのよ。そしてずっと捜していたの。」
 冗談だろうと、笑ってしまった。
 良はまったく覚えがなかった。
 あの時の彼女の悲しそうな顔がよみがえる。
 自分のバカさ加減に呆れ返ってしまう。
 高さだけで十メートルはあろうかという『ドーン!』という文字が良を押しつぶしていた。
 もちろん、例えばの話…つまりそれぐらい『ドーン!』と落ち込んでしまった。
「おれって、か、かっこわるすぎる〜。」
 そーいう問題じゃないだろうに…。
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その四
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:44
 初めて少女に会った時、初めて恋をした。
 生意気かもしれないが、初恋はあの時だった。
 一年に一回、自分の前にだけ現れる少女。
 少女に会える日が近づくと、そわそわしだす。
 何も知らない大人たちは、クリスマスが近づいて喜んでいるのだと勘違いして笑っていた。
 二人だけが知っている秘密の場所、秘密の約束。
 どこにでもある小さな公園、二つしかないブランコ。
 一年に一回だけ二人だけの秘密の場所になる。
 少女と待ち合わせた日からちょうど三日目、いつものブランコの横。
「またらいねん、またこのばしょで、またおなじひ、またおなじじかんに。」
 二人で一緒に唱える秘密の呪文。
 お互いの手のひらを合わせ、見つめあう。
 少女は目の前で手を振りながら消えていく。
 幼い良も手を振りかえす。
 すごく悲しいのに、にっこり笑える。
 だって、来年になればまた会えるから。
 これからもずっと会えるから。
 初めて会ってから何回目かの年。
 二人はもう十歳になっていた。
 いつものように呪文を唱える。
 いつものように手のひらを合わせ、見つめあって。
「また来年、またこの場所で、また同じ日、また同じ時間に。」
 そーっと、そーっと、ゆっくりと、どちらからともなく、お互いに近づいていた。
 呪文を唱えながら、二人の顔はゆっくりと近づいていく。
 呪文が終わった。
 二人の顔はまだ近づいていく。
 そーっと、そーっと、二人の唇が触れ合った。
 触れたのは一瞬だった。
 また、そーっと、そーっと、離れる。
 二人とも真っ赤になって、お互いの顔を見ることができなかった。
 やがて、少女が言った。
「もう帰らなきゃ。」
 良がうなずく。
「またね。」
 少女は恥ずかしそうに良の顔を見ながらゆっくりと手を振って、消えていった。
 あの日、二人は遊び友達から少し違ったものになった。
 これからもずっと二人の仲は続いていくと思っていた。
 その日が最後になるなんて夢にも思わなかった。
 次の年の約束の日、良は約束の場所に行くことができなかった。
 泣いた。
 泣いたってどうにもならないことは分かっていたけれど、涙が止まらなかった。
 約束を破った、約束を守れなかった。
 悲しさと、口惜しさと、どうすることもできない自分への怒りで良は泣いた。
 良には見えた。
 ブランコのそばでずっと自分を待っている少女の姿が。
 明日も、あさっても、少女は待っている。
 現れることのない自分を。
 半年前、父の転勤で引っ越しが決まった時、一瞬目の前が真っ暗になった。
 東京から長崎へ、いったいどのくらい離れてしまうのか見当もつかなかった。
 絶対に行きたくないと言って、ごねても所詮子供のわがまま。
 少女からこんなに離れた場所に来てしまった。
 泣いて、泣いて、泣いた。
 時間よ止まれと何度祈ったろう。
 しかし、とうとうその日が来てしまったのだ、約束の日が。
 何とか少女に会おうとして駅まで行ったのだ。だが、お金もないし、どう行けばいいのかも分からなかった。
 三日間、良は一人で泣いていた。
 親の前では涙は見せなかった。
 理由を聞かれたくなかったから。
 誰のせいでもないことは分かっていたから。
 だが、約束を守れなかったことだけは事実だった。
 次の年もやはり泣いた。しかし、去年ほど悲しくはなかった。
 中学に入って、卒業して。
 高校に入って、卒業して。
 次第に、良は少女のことを忘れていった。
 大学の受験に失敗した時、予備校に通うため東京に行くと言った良に家族は反対した。
 良は自分でも思っていないこと、東京の予備校の方が勉強が進んでいるだとかどうだとか、を力説して何とか家族を説得した。良自身、何でそんなに東京に行きたいのかよく分からなかったのだが。
 今住んでいる土地が好きだったし、別に遊びにもそんなに興味はなかった。東京は昔住んでいた土地だということ以外何も覚えていなかった。
 なのに、どうしてもここに戻ってこなくてはならない気がした。
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その五
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:45
 今、やっとその理由が分かった。
 自分をここに戻したのは、彼女と、幼き日の自分だったのだと。
「彼女は俺を覚えていたのに…。」
 彼女に会った時、自分は思い出せなかった。
 また裏切ってしまったという思いは、良を締めつけた。
 彼女がどこから来たのか?なぜ三日間だけしか自分の前に現れないのか?
 そんなことはもうどうでもよかった。
 なぜなら、その日がくれば彼女は現れるから。
 今度こそ、約束を守らなくてはいけない。
 幼き日に二人で交わした約束を。
 良は叫んだ。
 声にならない叫びだった。
 ついにすべてを思い出した。
 ついにすべてを見つけた。
 ついにすべてを取り戻した。
 涙が頬をつたう。
 自分が泣いていることには気が付かなかった。

 約束の日が近づくにつれ、良は落ち着かなくなっていた。
 不安が日増しに募る。
 二度も裏切った自分に彼女が会いに来るのだろうか?
 もう二人はあの頃の子供ではなくなっている。
 たまたま、そうたまたまあの日、彼女は自分を見つけたのではないだろうか?
 懐かしくて、昔を思い出して彼女は声をかけてきたのでは?
 子供の頃の他愛のない約束をずっと覚えていたのだろうか?
 考えれば考えるほど、その日が来るのが怖くなっていった。
 そんなはずはないと、心では分かっている。
 彼女は来ると、心は叫んでいる。
 だがもう一つの声、あの日、約束を破った日の声が良を苦しめた。
 約束を破ったのは自分、裏切ったのは自分だと。
 約束の日が確実に近づき…
 その日がきた。
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その六
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:46
「だめかもしんない…。」
 良はひとりつぶやいた。
 後ろを振り返り、背後の人物に声をかける。
「あんたも、この寒いのに、そんな格好をさせられて大変だねぇ。」
 そこにはサンタクロースの格好をしたカーネル・サンダースがたたずんでいた。
「その格好ってさ、誰が着せてくれるの?やっぱ人に着せてもらうと恥ずかしいよね。」
 良が何を言おうと、カーネル・サンダースはただにこやかに立っているだけだった。
 良はやれやれといった感じで肩をすくめた。
「いや、すまんね。別にあんたから返事が帰ってくるとはさすがの俺だって思っていないぜ。ただね、約束を守れなかったのは俺なんだよ。今さらもうだめかなーってちょっぴり思ってたりなんかして。」
 全然関係ない自分のことだけ言うと、良はフッと笑った。
「話は変わるけど、俺のこのフッていう笑い方ってなかなかカッコよく見えない?けどフッて笑う時は必ずカタカナなんだよね。何でかな?以外と漢字で『不っ』とか『歩っ』って書くのかもしれないね。」
 自分の言ったことがそんなに面白かったのか、良は一人でうけていた。
 カーネル・サンダースはそんなことにも動じない。ただやさしさのこもったまなざしを、メガネの奥から良に向けているだけだった。
 良の笑いが凍り付いた。カーネル・サンダースの視線ではない、身体中に突き刺さるように感じる無数の視線に。
 ゆっくりと周りを見る。バックにギギギギギと効果音を入れたくなるような振り向き方だった。
 道を歩く人たちのほとんどが良を見ていた。しかも良が振り向いた途端、みんな視線を外して歩き始めた。
 それもそうだ。
 視線をカーネルサンダースに戻す。
 良は困った。
(どうこの場をごまかすか?)
 そういえば、一年前もこんな場面だった…彼女が現れたのは。
 どこかから正午のメロディが流れてきた。
 彼女は現れない。
 がっくりと肩を落とす。
 悲しくなって、つらくなって、カーネルサンダースに向かって泣き言を言い出した。
「やっぱり、無理だったんだ。もう、彼女は、現れ…な…い…。」
「誰が?」
 その声は良の真後ろから聞こえた。
(え?)
 良は振り向くことができなかった。
 振り向くのが怖かった。
 もし振り向いてそこに誰もいなかったら?
 今の声がただの気のせいだったら。
「来てくれたのね、良…。」
「あ…。」
 ゆっくりと、本当にゆっくりと良の身体が振り向いていく。
 いた。
 彼女が、いた。
 目の前に立っている。
「お久しぶり。」
 彼女が笑う。
 良は、バカみたいに突っ立っていた。
 何か言おうとするのだが言葉が出ない。
 ゆっくりと、彼女の手を取る。
 彼女はそれを見つめている。
 ゆっくりと、良の口が開く。
「あやちゃん…。」
 にっこりと微笑む。
 驚いた彼女の顔。
「覚えて…覚えていてくれたの…?」
 良はそっと彼女を抱きしめた。
「あやちゃんが思い出させてくれたんだ。」
 彼女の瞳を覗き込む。
「ありがとう。」
 ゆっくりと、お互いの顔が近づいていって…。
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その七
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:46
 三日目、二人はあの公園に立っていた。
 今日、彼女は帰る。
 自分の世界に。
 良の住む世界と、綾華のすむ世界。
 交わることはないはずの世界。
 だが、彼女は、綾華はそれを踏み越えてしまったのだった。
 そんなことも良にとってはどうでもいいことだった。
 綾華も同じ。
 そのおかげで二人は出会えたのだから。
 一年の内のある特定の三日間、彼女は二つの世界を行き来する。
 初めて経験した時、最初は何が起こったのか分からなかった。
 一瞬目の前が暗くなって、次の瞬間まったく知らない場所にいた。
 自分の家を捜して歩き回った。
 怖くて、お母さんに会いたくて。
 泣き出しそうになった時に良に会った。
 やさしい男の子だった。
 二人で綾華の家を捜した。
 綾華が疲れたのを見ると、彼女を三輪車にまたがらせ、自分は後ろから押してくれた。
 だが、どうやっても家は見つからなかった。
 二人ともくたくたになって、公園のブランコの横にへたり込んでしまった。
 涙がボロボロとこぼれだす。
(家に帰りたい!お母さんに会いたい!)
 目をつぶってそう思った瞬間、自分の家の前にいた。
 次の日、今度は良に会いたいと願った。必死に思った。
 すると、良と最後に行った公園、ブランコの横に立っていた。
 綾華の前には、目をまんまるにして、口を開けている良がいた。
 次の日も良と遊んだ。
 だがその次の日から、どうしても良の住む場所に行く事が出来なくなってしまった。
 毎日、毎日、神様にお願いをした。一日たりともお願いを忘れることはなかった。
 一年後、綾華は見覚えのある公園、見覚えのあるブランコのそばに立っていた。
 良もそこにいた。やっぱり目をまんまるにして、口を開いていた。思わず綾華は笑ってしまった。
 綾華と初めて会った日と同じ日の今日、ここにくれば綾華に会えるのではと思い、良はやってきたのだった。そう言われて、綾華も初めてそれに気が付いた。
 大きくなるにつれ、自分がどこか遠くの知らない場所に、それも三日間だけ行けることが分かってきた。
 理由はわからない。
 一年の内、決まった三日間だけの魔法だった。
 小さい頃は、神様が良に会わせてくれるために魔法を使わせてくれているのだと思っていた。
 今、それが正しかったことがわかる。
 良が来なかった年。
 悲しくて悲しくてずっと泣いていた。
 しかし、あきらめなかった。
 次の年も、また次の年も良を待っていた。
 いつしか待つことをやめ、良を捜しはじめた。
 それでも良を見つけることはできなかった。
 今年でもう最後にしようと思っていた時、その時に奇跡が起きた。
(良を見つけた!)
 やっぱり魔法だったのだ。
 神様が良と会わせてくれるためにくれた魔法だった。
 良もそれを信じていた。
 自分をここに戻らせたもの、それが魔法だった。
 今、二人は公園を歩いていく。しっかりと手を取り合って。
 ブランコの横で立ち止まり 良が綾華をやさしく抱きしめた。
 お互いの唇がそっと触れ合う。
 二人はしばらく抱き合い、やがて離れ、手のひらを合わせた。
 ずっと昔、まだ二人が幼かった頃そうやったように。
 見つめあった二人の口から同じ言葉が同時に出てきた。
 神様が良と綾華にくれた魔法の呪文。
 二人だけの秘密の呪文。
「また来年、またこの場所で、また同じ日、また同じ時間に。」

・・・Fin
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あとがき
KAZUMA [HomePage] [Mail]
7/26(Thr) 10:47
以上で終了の意w
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Re:あとがき
GAS [HomePage] [Mail]
7/30(Mon) 21:18
うぅ・・・・せつない、せつないでござるよ〜(TwT)
会社で読んだときは、最初のカーネルのとこだけだったので
ギャグか?wと、思っておったが、この様な話だったとは(爆)

せつないが、最後はちょっと暖かな気持ちになれたでござる〜
怖いのじゃなく、こういうのもっと書いてくだされw
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あったかいですね
守護者 [HomePage] [Mail]
8/10(Fri) 12:29
こういうお話好きです。いいですね、カーネルとの会話とか(をい自分)

なんだか、こういうの三日間だけ会えるってのは七夕のお話に似てるものがありますね(ただそうおもっただけですが)

いいお話でした、恐怖シリーズも好きなんでそっちも宜しくw
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