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　レオンは夢を見ていた。いや、レオン自身はそれが夢か現実かは区別を付けることができなかった。
レオンが自分の状態を知ることができたのは、それから数秒後であった。レオンは今まさに落下中であった。

『俺は地割れに足を取られてその地割れに落ちていったんだ。』

その時だった。レオンの体の回りに、銀色に光る球体が現れ彼の体の周囲を覆っていった。
その球体が彼を覆うのより一瞬遅れて、レオンは真っ暗な闇のような物に覆われる。
レオンの周囲は一転して暗闇の世界となった。

　『これは、シヴァンの転移の魔法の転移球体！そうか、これで俺は転移したのか。
　だが、この魔法は、あくまでも空間転移だけのはず。パイオニア２は、この時代より何千年も後のものだ。
　時間を超越する能力は無いはずだ。なぜだ・・・・・。』

その時レオンの頭にある意識が入り込んできた。その意識は、一つのものではなく多数の意識が集合したものであった。
意識体のはずであるのに、不思議とイメージがあった。しかし、その姿はまるで形になっていなかった。
ただ、夜の闇の様に、空間に黒いものがうねうねと動き、形を変えながら浮いているようなものである。
その黒い塊から、声のようなものが聞こえた。いや、声というよりは頭に直接響くものだ。

　『あと、もう少しであったというのに・・・・。とんだ邪魔が入ったものよ。・・・・・・まあ良い。
　汝を、我が完全に復活するための、ニエと選んだ。・・・・・・・我が力を溜め完全に復活せし時まで
暫しの自由を楽しむが良い。ククククク・・・・・。』

黒い塊がそこまでの言葉を発すると何故かレオンの意識はそこで途切れた。
だがレオンは、失っていた記憶を今こそ取り戻したのである。

シンシアが起き上がると、そこは先ほどまでいた戦場であった。皆がまだ戦っている。
自分だけが寝ているわけには行かない。
シンシアは起き上がり、魔法を放とうと詠唱するが・・・・・・魔法は発現しなかった。

『これは、いったい・・・・。』

今まで、自分は夢を見ていたのだろうか。それとも、今見ているものが夢であろうか。

また、戦場の真っ只中であるはずなのに、音が聞こえてこない。
鬨の声（ときのこえ：戦いのときに、大声を張り上げ自らを鼓舞するもの）も、剣撃の音も、何一つ聞こえてこないのだ。
ただ、戦っている兵士の姿が目の前で展開するだけである。その兵士達の身に付けている鎧は、見覚えがあるものだ。

『戦いの最中に気を抜くな。気を抜けば、こっちが殺られる。それを忘れるな。』

『あれ？何でここに、フィオナさんのアドバイスが出てくるんだろう。』

シンシアはその時にパイオニア２で会ったフィオナのことを、そしてパイオニア２での出来事も思い出した。
そこで初めて、自分が夢の中に居るのではないかとシンシアは思うのであった。

不意に足もとが揺れる。あのときの、突如起こった大地震であった。

シンシアの体が、空中高く投げ出され地面に落ちる。
しかし今回は不思議と、浮遊感も地上に落下した衝撃も全く感じることができなかった。

地面に落下した後、少し離れたとこで何物かの影が現れる。影は背中の羽を広げ光の爆発を起こした。
あのときはちらっとしか見えなかったものが、今回は、はっきりと見える。光の爆発に飲み込まれた兵士達が次々と消えていく。
まるで再現フィルムを、スロ－モ－ションで見せつけられているかのようであった。
その光の爆発がシンシアのところに届くのより一瞬早く、シンシアの体は銀色に輝く球体に囲まれていた。

『これ・・・・。いつかシヴァンが見せてくれた転移魔法の時現れた転移球体？』

そう思う間もなく、多数の意識がシンシアの頭の中に流れ込んでくる。
意識体である筈なのに、シンシアの頭の中にはイメージが流れ込んでくる。
その姿はレオンが見たのと同じであったが、シンシアにはそれは分からなかった。
ただ、酷く嫌悪を催すものであるのには違いなかった。シンシアは、その姿を見るなり、嫌悪感でいっぱいになった。

　『小奴も、聖なる光に包まれおったか。・・・・・・まあ良い。
　汝も、あの者と、そして、汝等に小賢しい光の守りをかけた小娘同様暫しの自由を楽しむが良い。
　我の復活のニエとしての素質は汝等は十分にあるのだから。三人共に、我の元までやってくる運命にあるのだ。
　再び会う時を楽しみにしているぞ。クククク・・・・・・。』

シンシアは、何の事か分からなかったが、自分たちが何物かに狙われているのは感じ取ることはできた。
そのうちに意識が薄れていった。

シヴァンはある村のはずれで目を覚ました。どことなく懐かしい雰囲気を持つ村。
見たこともない村ではあったが、なぜか安心できるのである。
色々な家を見て回るうち、ふとある家の中の光景が気になり、つい覗いてしまった。

その家は、ほかの家よりは作りは立派であった。
家の中には年老いた男性が一人と、若い男女、そして部屋の隅の揺りかごには、赤子が２人眠っていた。
何か老人と若い男女が口論しているようであった。しかし不思議と耳を澄ましてみても声は聞こえてこなかった。

しかし、３人の口もとを見ているうちに、読唇術が出来るわけでもないのに、大体言いたいことをつかめてしまった。
頭の中に直接響いてくると言ったものだ。そして、屋内の３人は以下のようなことを言っていた。
全て聞こえているわけではない。途切れ途切れでしか聞こえないが、シヴァンには言ってる意味は掴めていなかった。

「この子達は二人とも私の娘です。何故、二人一緒に育ててはいけないんですか？」

「それがこの村の掟だからじゃ。この村の同じ家に同時に産まれしは一子で十分じゃ。
　二子いれば、必ず争いが起きる。だから、二子産まれし家の子は、どちらかをこの村より出すしかないんじゃよ。
　こうしてこの村は、平和に今までやってきたのじゃ。それがお前にはわからんと言うのか。」

「分からない・・・・分からないわよ。」

　女性は必死に自分の考えを訴えている様であった。

　「まあ、わしの話を聞かんか。」

「人間の国に、シンフォニュ－トと言う国があるそうじゃ。この国は、魔導士を取り入れている、人間としては珍しい国じゃ。
　その国に、ステ－ルンという名の家があるのじゃが、その家は代々魔導士を排出しているという。
　おそらく、遠い過去には、我らの血が混ざっておるやも知れんな。
　わしは、その家の先々代当主と古くからの知り合いでな。既に話はついておるのじゃよ。
　間もなく先代が引き取りに来るであろう。どちらを養子に出すか考えといてはくれまいか。
　悲しいのはお主だけではないのじゃよ。皆、この村で二子産みし女子は同じような悲しみを越えてきておるのじゃ。」

　３人を見るのに夢中になって、身を乗り出したシヴァン。つい、足下に積まれていた棒の内１本を倒してしまう。
暖炉に使う薪の様だった。

カランカランカラララ・・・・・

「だれ？」

思わず逃げようとしたが、その瞬間に隠れることができる場所がなかった。

先ほど話をしていた若い女性が表に出てきた。
しかし、シヴァンの姿が見えているはずなのに、何も見えていないかのように周りを確かめ
また中に入っていってしまった。

この時シヴァンは、女性の耳が自分と同じ様に細長く先が尖ってるのを見た。
急いで中を見ると、老人も若い男性も同じ様に耳が細長く先が尖っていたのである。

家の中で、再び話をしているように思えた。

「だれかいたのか？」

「いいえ。誰もいませんでした。ただ、薪だけが倒れていて。・・・風かしら。」

シヴァンは、不思議だった。何故、自分の姿が見えなかったのだろうか。
それに、自分はフィオナの部屋で惑星ラグオルを見ていたはずである。

『ここはいったい何なんだろう。あの人達は、何なんだろう。』

シヴァンはいろいろ考えていたが、そのうちに眠くなってきた。
家の外でも十分暖かく、ついいつの間にか壁を背に眠りの世界に入っていったのであった。

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