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- PIONEER1 HUNTERS - IXY [12/4(Wed) 16:54]
story1 闇の胎動1 - IXY [12/4(Wed) 16:55]
投稿者削除 - ---- [12/31(Tue) 21:29]
story1 闇の胎動2 - IXY [12/31(Tue) 21:30]
story1 闇の胎動3 - IXY [1/14(Tue) 1:14]
story1 闇の胎動4 - IXY [1/14(Tue) 18:08]
story1 闇の胎動5 - IXY [2/4(Tue) 16:53]
story1 闇の胎動6 - IXY [3/20(Thr) 13:30]
story1 闇の胎動7 - IXY [3/20(Thr) 13:31]
story1 闇の胎動8 - IXY [3/25(Tue) 17:03]



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PIONEER1 HUNTERS
IXY [Mail]
12/4(Wed) 16:54
 「パイオニア計画」
 母星の環境悪化により、生物の生存が困難と判断した政府により発令された大規模な移住計画である。
 人類が居住可能な環境を持つ惑星を求め出航した第1号移民船団「パイオニア1」により発見された惑星は「ラグオル」と名付けられ、移住が開始された。
 移住開始から7年が経過し、移民の生活基盤となる「セントラルドーム」が完成し、第2号移民船団「パイオニア2」の到着により「パイオニア計画」は成功を収めるかに思われていた。

 これは、「パイオニア2」が到着する以前の「ラグオル」における「ハンターズ」の知られざる戦いの物語である。
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story1 闇の胎動1
IXY [Mail]
12/4(Wed) 16:55
 セントラルドームの地下深く。
 生物とも無機物ともとれない異様な雰囲気と薄暗く、重苦しい空気に満ちた部屋の中で、一人の男が異形の怪物と対峙していた。
 男は全身に傷を負っており、周囲には異形の骸が無数に転がっている。
 そして、男の目の前の異形もまた、彼の銃から放たれたフォトンの銃弾を浴び、骸へと変わった。
 「ハア…ハア……」
 荒い息を整えながら周囲を警戒し、他に敵がいないことを確認すると、男は部屋の中央にある巨大な柱に背を預け、その場に座りこんだ。
 男は名をレイカーという。
 パイオニア1のハンターズギルドに所属するレンジャーであり、その中でも、Sランクと呼ばれるトップハンターの一人である。
 だが、今の彼は激しい戦闘により傷つき、立ち上がる気力すら失ていた。
 レスタを唱えるための精神力も尽き、傷を癒す薬も全て使ってしまっている。
 「このまま死んじまった方が楽かもな……。Sランクが聞いて呆れるぜ。」
 自嘲気味に呟き、懐からタバコを取り出す。
 ラグオルでは、移住開始から7年が経過した現在でも、未だ物資は十分では無く、嗜好品−特に依存性の高いタバコやアルコールの類−は規制され、入手困難な物となっていた。
 これは彼が“最期”の時のために「とっておきの一本」として残しておいたものである。
 肺にたまった煙を吐き出し、左腕に取り付けている多用途端末を見る。
 表示される時刻は、自分がこの場所に足を踏み入れてから、まだ半日も経過していないことを示していた。
 だが、彼にとってこの半日は、実際の倍以上に長く感じるものであった。
 「さて…と。」
 吸い終わったタバコを投げ捨てると、レイカーは立ち上がり、足を引きずりながら部屋の奥へと足を進める。
 扉をくぐり、短い通路を過ぎるとその先は小部屋になっており、転送装置が設置されていた。
 「どうやら、ここが終点らしいな。」
 レイカーはセントラルドームやこれまで通過してきた部屋などから、自分の現在位置を推測し、この転送装置の先に「あるもの」があると判断した。
 「鬼が出るか、蛇が出るか…。」
 そう言って、レイカーは転送装置に足を踏み入れた。
 自身の体が粒子となり、対となる転送装置に転送される間に、レイカーはこの半日の出来事を反芻するように思い出していた。
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----
12/31(Tue) 21:29

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story1 闇の胎動2
IXY [Mail]
12/31(Tue) 21:30
 この日もいつもと変わらず、普段どおりの一日になるはずだった。
 いつもどおりの時間に起き、メールをチェックしてギルドからの依頼を確認する。
 今日の依頼は、セントラルドーム周辺調査の調査員の護衛だった。
 パイオニア1が到着するまで未開の惑星だったラグオルには、多くの原生生物が生息しており、移住に際して幾度と無く衝突してきた。
 今回も、調査地区がブーマと名付けられた原生生物のテリトリーであり、縄張りを荒らされたブーマ達が調査隊を襲ってきていた。

 今、レイカーの前にいるブーマは五体。侵入者であるレイカーに向かって来るところを、愛用のファイナルインパクトで足止めをする。
 「ちっ、結構しぶといな。アリア頼む!」
 散弾銃から放たれるフォトン弾に撃ち抜かれ、絶命する者もいたが、弾丸の嵐をかいくぐり、なおも向かってくるブーマに、後で控えていた、フォマールのアリアがテクニックで追い討ちをかけた。
 「破壊の炎よ!我が敵を焼き尽くせ!」
 アリアの言葉とともに現れた巨大な火球が爆発しブーマを包む。
 そして、火球の消えた後には、肉の焼け焦げる独特の匂いと、獣の形をした炭だけがのこっていた。
 「片付いたみたいだな・・・。」
 周囲に他に原生生物の反応が無いことを確認すると、レイカーは銃を下ろした。
 レイカーはブーマの死骸を一瞥し、アリアへ視線を移した。
 だが、彼女はレイカーに視線を返すでもなく、ある一点を見据えていた。
 「どうした?」
 「え?ああ、うん。ちょっと気になることがあって。」
 アリアの視線の先には、四足の獣達の死骸があった。
 サベージウルフと名付けられた原生生物である。
 「ねえ、今日のウルフやブーマ、変じゃない?」
 「ん?ああ、確かにな。」
 レイカーはアリアが感じている違和感に心当たりがあった。
 恐らく自分が感じたものと同じものであるからだ。
 今回、彼らが護衛していた調査隊を最初に襲撃したのは、サベージウルフだった。
 ウルフ達は群れで行動し、バーベラス種と名付けられたリーダーに率いられて集団で狩りをする。
 レイカー達が調査員を守るべく、迎撃にでると、狩りのセオリーどおり、一定の距離を保ちつつレイカーとアリアを包囲していく。
 彼らが感じた違和感はこの直後の出来事に起因する。
 レイカー等がウルフ迎撃に向かい、ウルフ達もまた、彼らを捕らえるべく取り囲む。
 戦闘に入ると事前の打ち合わせどおり、調査員達がその場から離れようとしたその時、彼らの行く手を阻むように地中からブーマが現れたのである。
 アリアのテクニックでウルフを一掃し、レイカーが救援に駆けつけることで、調査員には被害が及ばなかったが、この連携プレイとも取れる行動がレイカー達が違和感と感じたものだった。
 集団での狩猟を主とするウルフがこのような伏兵による奇襲を行うということは、考えられるが、他種のしかも単独行動を主とするブーマとの連携など考えられなかった。
 また、ウルフもブーマもこれまでの調査で共に肉食であることが確認されている。
 肉食獣は、野生動物の中でも己の縄張りに敏感な生物である。
 まして、群れで生活し、より多くの食料を必要とするウルフが、他種の肉食獣が己の縄張りに侵入することをよしとするはずが無く、当然のことながら両者の間で争いが発生するはずである。
 その本来ならば反目するはずの、両者が連携して調査員を襲撃した。
 「まあ、俺らの常識から言えば、ありえないことだな。」
 「でしょ。今までだってこんなことがあるなんて報告は無かったし。」
 そう言ってアリアは考え込む。
 レイカーは彼女が一度思案に耽ると、所かまわず己の納得のいく答えが出るまで考え込む癖があることをこれまでの経験から知っていた。
 「まあ、なんだ。この星にはまだまだ俺らの知らない事があるってことさ。生態系そのものが俺らの星と違うのかも知れないし、他種の動物が連携して狩りをすることもあるのかもしれないだろ。」
 「本当にそうかしら?」
 「そうかどうかを考えるのは俺らの仕事じゃない。だろ?どうやら、調査も途中で切り上げるようだし、俺らもセントラルドームに戻ろうぜ。」
 レイカーの言うとおり、調査員達は調査を切り上げるつもりらしく、調査機材を片付けている。
 レイカー自身も今回の仕事にあまり乗り気ではなかったため、早く帰れるのならば、帰りたかった。
 「そう・・・ね。私達が考えた所でどうにかなる訳じゃないものね。」
 そう言ってアリアは、調査員の方へ歩いていった。
 「ふう、あのまま考え込まれたら日が暮れるまでやってたろな。
アリアのあの癖も何とかならないもんか・・・・ん?」
 言いかけて、レイカーは空へと視線を移した。
 その先には黒々とした雲が湧き上がり、広がっていた。
(雲行きが怪しくなってきたな。こりゃあ一雨くるぞ。)
 レイカーが調査員達と合流するとすでに荷支度は終わっていた。
 ドームへの帰還はテレパイプを使用するということで、調査員達は、依頼完了の通知をギルドに送信し先に帰っていった。
 「さて、俺らも戻るか。」
 「そうね、今リューカーでパイプを出すわ。」
 アリアの詠唱と共に、彼女の足元に簡易転送ための光の輪が現れる。
 アリアの体はフォトンの粒子となり、セントラルドームへ転送され、レイカーもそれに続き光の輪に足を踏み入れる。
 ドームへと転送される瞬間、レイカーの視界にウルフ達の死骸が入った。
 (・・・何かが、起ころうとしているのか?いや、考えすぎだな。)
 レイカーは己の中の僅かな違和感と不安を無理矢理振り払った。
 だが、惑星ラグオルの空はそれをあざ笑うかのように、そして、これから起こる事件を象徴するかのように、暗く染まっていった。
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story1 闇の胎動3
IXY [Mail]
1/14(Tue) 1:14
 「んでね、ほの、ほうどうにひゅうれいがでうんらって。」
 「・・・おい。メイ、食うか喋るかどっちかにしろ。」
 レイカーは目の前で、口いっぱいに肉やら野菜やらを頬ぼっているハニュエールを嗜めた。
 レイカー達は仕事の報酬を受け取ると、ギルドに併設している食堂で昼食を摂ることにした。
 その時、顔見知りであったハニュエールのメイに呼び止められ、一緒に食事をすることとなったのである。
 「らって、はめららおひひふらいれ・・・んぐっ!」
 どうやら喉に詰まったらしく、メイは喉を押さえながら悶える。
 レイカーが呆れながら、水を入れたコップを差し出すと一気に飲み干した。
 (ったく、これで俺より年上だってんだからな。ニューマンってのはよくわからんな。)
 メイは見た目は13、4歳くらいの少女のようであるが、ハンターズとしての経歴はレイカーよりも長く、実年齢も上−ちなみに、レイカーは25歳−である。
 人工生命体であるニューマンの年齢を、見た目から判断するのは非常に難しい。
 様々な特徴、能力を引き出すために遺伝子操作を行われるため、その副作用なのか、ニューマンの成長の仕方や寿命は個体により異なる。
 誕生から1年も満たないうちに死亡する例もあれば、ヒューマンよりも長寿の者もいる。
 肉体の成長においても、ヒューマンと同様のスピードで成長する者、成長が遅い者、成長が止まる者、その過程はそれこそ千差万別である。
 「ぷはぁぁ・・・あ〜死ぬかと思った。」
 「そんなに慌てて食べるから。誰も取りはしないわよ。」
 アリアがそう言いながら、メイの頬についたソースをナプキンで拭き取る。
 端から見ていると二人がまるで姉妹のように見える。
(そういや、本星に妹がいるとかいってたな。まあ、重なる部分があるんだろうが。メイの実年齢が自分より一回りも上だって知ったら腰抜かすだろうな。)
 「なに?にやにやして。」
 「あ、いや、なんでもない。」
 どうやら、口元が緩んでいたらしく、アリアが怪訝な表情をしている。
 メイはどうやらレイカーの考えていたことに察しがついているらしく、彼を睨み付けている。
 「ま、いいけど。でね、さっきの続きだけど・・・」
 メイが先ほどまでの話の続きを話し始めた。
 メイの話を要約すると次の通りである。
 最近まで、採掘作業が行われていた坑道で、行方不明者が続出しており、その後、奇妙な声や影が目撃されるようになった。
 そういう噂がハンターズの間で流れているというのだ。
 その噂自体はレイカーも聞いたことがあった。
 だが、彼にとってそれは、所謂怪談話で、変化の乏しいラグオルでの退屈を紛らわすために誰かが流した根拠のない噂でしかない。
 そして、噂というものには大抵尾鰭がつくもので、
 「でね、その行方不明者捜索の依頼を受けたハンターズも何人か行方をくらましたらしいの。」
 メイが聞いたという噂の”尾鰭”もレイカーの予想の範疇であった。
 そして、メイの次の一言も予想済みである。
 「確かめに行こう!」
 「あのなぁ、確かめに行くったって、あそこは今はラボの管轄だろ。どうやって入るんだよ。」
 「ああ、だいじょ〜ぶ。Aランク以上のハンターズなら、簡単な手続きで入れるらしいから。こんな時間にここにいるくらいだから、どうせ暇なんでしょ。」
 確かに、今日受けた依頼がかなり早く終わったために、レイカーはこの後の予定が無かった。
 アリアも同様のようだ。
 「んじゃあ、決まり!各自準備を整えて1時間後に現地集合ね。」
 そう言ってメイは席を立つと、そそくさと店を出て行った。
 「はあ、仕方ない。付き合うか。」
 「そうね、たまにはいいんじゃない?いい暇潰しになりそうだし。」
 「まあ、な・・・」
 レイカーは言いかけた台詞を飲みこんだ。
 彼の視線の先にあるのは、この店の伝票である。
 「あいつ!勘定払ってねえじゃねえか!」
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story1 闇の胎動4
IXY [Mail]
1/14(Tue) 18:08
 食堂でのやり取りから1時間後、レイカー達は坑道内を進んでいた。
 「まあ、確かにそれっぽい雰囲気ではあるな。」
 「でしょお〜。いかにも何か出そうじゃない?」
 坑道内は一応照明が設置されてはいるものの、薄暗く、また、こういった地下施設独特の冷えた空気が不気味さを醸し出していた。
 「でもさぁ、ホント静かだよねぇ。中にいるの警備ロボットばっかしで、ラボの職員とかも全然いないしさ。」
 「ラボは主要な研究施設の殆どを移転したからな。それに、今は式典の準備で政府関係者の殆どが出払っているはずだ。」
 「式典って・・・あっ!パイオニア2の到着って今日だっけ!?」
 「つうか、もう着く頃なんじゃないか?確か夕方から歓迎式典が始まる予定だから・・・。」
 レイカーが言いかけた時、不意に地面が揺れだした。
 「地震か!?」
 揺れはさほど大きいものではなかったが、1分ほど揺れ続けてからようやく治まった。
 「最近多いよねぇ地震。別に火山帯ってわけでもないんでしょ?この辺。」
 メイが言うとおり、ここ最近断続的に地震が発生していた。
 セントラルドームが建設された場所の地理的に、地震の発生率は高くは無いはずであったが、このような小規模の地震がほぼ毎日発生しいることから、近いうちに大規模な地震が発生するとも噂されていた。
 「まあ、いっか。とりあえず、もうちょっと先に行ってみよ。」
 自分で疑問を投げかけて置いて、答えを待つでもなくメイは通路を進んでいった。
 「はあ、なんであいつはあんなにマイペースでいられるんだ?」
 「いいじゃない。悲観的でいるよりは、彼女らしいでしょ。」
 そう言ってアリアはメイに続いて通路を進んでいった。
 「楽天的すぎるのもどうかと思うがな。なあ?」
 レイカーは自分の隣に立つヒューキャストに同意を求めた。
 だが、そのヒューキャストはレイカーの言葉に応えず、思案にふけっている。
 「D?どうした?」
 「いや、なんでもない。ただ、この地震が少し気になってな。」
 「確かに妙な地震ではあるけどな。それよりも俺としては、あんたがここにいる事の方が気になるがね。」
 レイカーはこのDと名乗るヒューキャストに幾つかの疑問点を抱いていた。
 何度か仕事を共にしたことはあったが、過去の経歴は不明であり、知っていることといえば、ハンターズとして登録されたのがごく最近でありながら、すでにSランクハンターズにその名を連ねているほどの実力者であるということ。
 そして、こういった余興的な付き合いを殆どしないということくらいであった。
 「只の暇つぶしさ。それに・・・」
 「それに?」
 「例の噂、只の怪談話ということでも無いらしい。」
 「どういうことだ?」
 「この坑道で行方不明者が出ているという事は事実らしい。実際ハンターズギルドにも捜索の依頼が出ている。極秘でな。」
 メイが掴んできた噂がまさか事実であるとは、思ってもいなかったレイカーは、少なからず衝撃を受けていた。
 (噂が事実だとしたら、何故政府は公表しない。できない理由でもあるというのか?だが、その情報を断ち切る様でも無い・・・いや、意図的に噂を流しているのか?)
 ニセの情報によって人を混乱させる際には、信憑性を持たせる為に、多少の事実を含める事が効果的である。
 更に、幽霊話を加えることで、誰もが他愛の無い怪談と受け取っていた。
 「坑道の胡散臭い話はまだある。警備ロボットの暴走事故は知っているか?」
 「ああ、確か、坑道の警備をしていたシノワタイプのロボットが暴走して作業員が何人か死亡したってやつだな。制御回路の不良による暴走だと聞いたが。」
 「公式発表ではな。」
 Dの台詞は、真実が政府によって伝えられているものとは異なるということを示していた。
 「実際は、シノワなどの警備ロボットの制御や、坑道内の管理システムを統括する『ボル=オプト』が、何者かのハッキングを受けたことによる事故だ。」
 「ちょっと待て!『ボル=オプト』のセキュリティレベルはSSS〈トリプルS〉だぞ!そいつにハッキングなんて出来る訳が無い。」
 言葉では否定していたが、短い付き合いながらもレイカーはDが持つ情報には信頼している。
 多少非合法な手段により収集した情報もあるが、彼がいい加減な情報を他人に話すとも思えなかった。
 そして、彼の集める情報はある一つの事項に集約される。
 「ブラックペーパー・・・。奴らが絡んでいるのか?」
 「確証はないが、何らかの形で関わっているようだな。」
 そう言ってDはメイらを追って通路の奥へ歩みを進める。
 「お、おい!D!ちょっと待てよ!」
 レイカーは通路を進んでいくDを呼び止めた。
 「前から聞こうと思ってたんだ。何であんたは奴らを追っている?奴らは何をしようとしているんだ!?」
 Dは歩みを止め、暫しの沈黙の後に口を開いた。
 「ある人物の遺志。今はそれしか言えん。」
 「お〜い!男二人で何ゴチャゴチャ喋ってるの〜?置いてくよ〜!」
 いつまで経っても着いてこない二人に痺れを切らしたようで、メイが戻ってきていた。
 「ああ、すぐ行く。」
 Dがそう言って再びメイらの方に歩き始めたので、仕方なくレイカーもそれに続いた。
 (坑道で続く怪事件に、ブラックペーパーか・・・。)

 小一時間ほど坑道を歩き回った頃、セキュリティがかかり開かない扉に出くわした。
 そして、一機の警備ロボットがレイカー達に近寄ってきた。
 「コノ区画ハ関係者及ビ、許可ヲ得タ者以外ノ入場ハ出来マセン。職員証、モシクハはんたーずらいせんすヲ呈示シテクダサイ。」
 「おい?ハンターズは自由に行動できるんじゃないのか?」
 レイカーがメイに問いかける。
 「えっと。そのはずだけど・・・ギルカを転送すればいいんじゃない?」
 メイが言うままにレイカーは警備ロボットにギルドカードを転送した。
 「はんたーずらんく、ID確認。入場許可登録ヲ確認シマシタ。」
 「何か、いちいちめんどくさいんだな。チェックなんざ、入り口で一括してやりゃいいのに。」
 「まあ、『一応規則だから。』ってやつなんじゃない?」
 「そんなもんかね。・・・ん?」
 レイカーに続いて、メイらがギルドカードのチェックを行っていると、再び坑道が大きく揺れだした。
 「うわっ!また地震?」
 「今度はでかいぞ!」
 これまでの地震とは比べ物にならないくらいの大きな揺れに、レイカー達は立っている事さえ出来ずにいた。
 そして。
 「うあっ!?」
 まるで爆発が起きたかのように、下から突き上げるような大きな衝撃が起きたかと思うと、次第に揺れが治まっていった。
 「治まったようだな。」
 「すごい揺れだったねぇ。この分だとドームの方でも結構被害が出てるんじゃ・・・」
 突然、フォトンエネルギーの弾丸がメイの鼻先をかすめ、彼女は台詞を言い切ることが出来なかった。
 「な、何?」
 フォトン弾が飛んできた方向を見ると、先ほどの警備ロボットが腕部に内蔵されたビーム砲をレイカー達に向けている。
 そして、そのアイカメラは現在の行動モードが、侵入者に対する迎撃モードである赤を示している。
 「ちょっとぉ?どうなってんの?」
 「まさか・・・暴走か?」
 警備ロボットはレイカー達を排除すべく、フォトン弾を放ち続けている。
 その間にも、次々と警備ロボットが転送されてくる。
 数十秒の間にレイカー達は何十機という警備ロボットに取り囲まれていた。
 メイが愛用のクロススケアを取り出しながら言った。
 「ねえ、コレってヤバくない?」
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story1 闇の胎動5
IXY [Mail]
2/4(Tue) 16:53
 「ああ〜!もう!しつこいっ!!」
 メイは何体目とも知れない警備ロボット〈ギルチック〉をクロススケアで両断すると、叫びだした。
 「叫んでる暇があるなら応戦しろ!」
 目の前に迫ってきたギルチックに、L&Kコンバットの銃弾を浴びせながらレイカーは叫び返す。
 (まずいな、ただの暴走じゃないのか?アレが出てくる前になんとかしたいが・・・。)
 地上への通路はすでに塞がれていたため、レイカー達は別の脱出ルートへの移動を余儀なくされていた。
 フロアを移動しながら、次々と襲い掛かるギルチックを撃退していくが、その度に出現するギルチックの数は増し、攻撃も激しい物となっていく。
 レイカー達は、自身の身を守るために、ギルチックを破壊していくが、そのことにより、より多くのギルチックを呼び込むという悪循環に陥っていた。
 本来ならば、警備ロボットの暴走事故が発生した場合、人員や施設への被害を防ぐために、暴走したロボットへのエネルギ
ー供給が止められる事となっており、また、その際には、自衛手段として暴走ロボットの破壊も認められている。
 だが、ギルチックの出現は止むことなく続いている。
 これは、坑道の警備システムがレイカー達を外敵として認識していることを示していた。
(やはり、システム自体の暴走なのか?だが、何故だ?)
 レイカーはDとの会話を思い出していた。
 大型コンピュータ「ボル=オプト」への、何者かのハッキングによる暴走事故。
 最高ランクのセキュリティシステムを搭載した「ボル=オプト」にハッキングすることですら不可能に近い。
 更に、「ボル=オプト」は、「カル=ス」「オル=ガ」の同規模の大型コンピュータと、互いに監視、補完し合う事で、システムの誤動作を防いでいるはずであった。
 レイカーには、ここまで厳重なセキュリティが働いている「ボル=オプト」に、これほどの暴走を引き起こすことの出来る者がいるとは思えなかった。
 だが、現実として、ギルチックの攻撃が止まない以上、なんらかのトラブルが発生していることは明確だった。
 「レイカー!後っ!」
 アリアの言葉に我に帰ると、レイカーの後方に新たに三体のギルチックが出現してきた。
 「ちぃっ!」
 レイカーは、すぐ傍まで迫っていていたギルチックを後回し蹴りで蹴り飛ばすと、インパクトの瞬間に足先に意識を集中し、ギゾンデを放つ。
 蹴りとギゾンデの衝撃を受けたギルチックは、頭部を吹き飛ばされ、そのまま他の二体を巻き込みながら倒れ、爆発した。
 「やるぅ〜。大昔の怪しげなカンフー映画みたいじゃん。」
 「茶化すな。新手が来る前に行くぞ!」
 「解ってるって。え〜と、次はこっちの通路。」
 メイは多用途端末に表示されている地図を確認すると、通路に駆け込むと、レイカー等もそれに続く。
 「このまま真っ直ぐ行って、次の角を左!その先に搬入用のエレベーターがあるから、そこから地上に出れるよ!・・・ああ!?」
 先行してT字路に向かったメイが、T字路に入ったところで、声を上げる。
 「どうした?」
 「あ、あれ・・・。」
 メイに続いて、レイカーが通路に飛び込むと、突き当たりに次のフロアへ続く扉があったのだが、その前にレーザーフェンスが設置されており、通行できないようになっていた。
 「何よこれ〜?地図にはこんなの書いてないじゃん!」
 現在位置を地図と照合しながらメイが愚痴る。
 「仕方ない、別のルートを探すぞ。」
 レイカーが来た道を引き返そうとした時、突然電光が走り、床を打った。
 レイカーは、反射的に後方に飛び退き、電撃の発生源を探すと、天井近くを飛行する小型のロボットを発見する。
 「カナディンかっ!」
 レイカーはすかさずブレイバスを抜き放つと、立て続けに三発の銃弾をカナディンに浴びせる。
 再び電撃を放とうと、エネルギーのチャージを始めたところに攻撃を受け、カナディンは四散する。
 「くそっ!追いついて来やがった。」
 「レイカー!こっちも!」
 通路の先からは、新たに三機のカナディンと、数体のギルチックがレイカー達の方へと向かってきていた。
 そして、反対側の通路もまた、多数のギルチックによって塞がれていた。
 (挟まれたかっ!まずいな・・・。)
 レイカー達は完全に退路を塞がれていた。
 強行突破を考えたが、この狭い通路で挟み撃ちに遭っている状況では、それは自殺行為と言える。
 「う〜ん・・・あっ!そうだ!」
 レイカーが現在の状況を打破する策を模索していると、それまでレーザーフェンスの前で、思案に耽っていたメイがクロススケアを構え、徐にレーザー発生装置に斬りつけた。
 「なっ!?」
 メイの突飛な行動には慣れていたつもりだったが、今回ばかりはレイカーの予想を遥かに上回り、理解の範疇を超えていた。
 「ほぉ〜ら、これで通れる・・・よ?」
 レーザーフェンスが消滅し、メイが扉をくぐった瞬間、通路の非常灯が灯り、けたたましく警報が鳴り響いた。
 「あ・・れ?なんで?」
 「馬鹿っ!ンなことすりゃ、セキュリティが働くに決まってるだろうが!」
 「まあ、開いたからいいじゃん。」
 悪びれる様子も無く、メイは先行して奥へと進んでいく。
 その場に留まっても仕方がないので、レイカーもそれに続いた。
 (本格的にセキュリティが働き始めたな。この分だと、エレベーターが動くかどうか、微妙なところだな。それに・・・警戒レベルSってとこか・・・。戦闘レベルだな。そろそろヤツが出てくるか・・・。)
 「待て!止まれ、メイ!」
 大部屋の中央あたりまで進んだところで、Dがメイを制止した。
 「ほえ?・・!」
 突然声を掛けられ、足を止めたメイだったが、すぐに何かを察しその場から飛び退いた。
 次の瞬間、天井からフォトンの刃を振るいながら大きな影が下り立った。
 「ちいっ!やっぱり出やがったか。」
 レイカーが下り立った影−シノワビート−に銃弾を浴びせようとするが、シノワビートは軽快なフットワークで銃弾をかわしつつ間合いを離していく。
 「逃がすかっての!」
 間合いを取ろうとするシノワビートに対し、メイは一気に間合いを詰めていく。
 「待てっ!深追いするな!そいつは・・・。」
 レイカーが更に追いすがるメイを制止しようとするが、シノワビートが胸の前で手を組み、肩が光った瞬間、メイは五体のシノワビートに囲まれていた。
 「うわわっ!分身したっ!?」
 シノワビートの持つ特殊能力の一つである。
 フォトン粒子を散布し、そこに幻影を投影することであたかも五体に分身したかのように見せる。
 だが、幻影といっても、フォトン粒子で形成されており、刃部にフォトンを凝縮することで、実体と変わらない攻撃力を持っている。
 その五体のシノワビートが一斉にメイに飛び掛る。
 「こんのぉ!ラゾンデぇぇぇぇ!!」
 シノワビートが動き出したタイミングを計って、メイは自らを中心に電撃の渦を生み出した。
 普段の行動こそ子供じみており、ふざけた印象を与えるメイであったが、戦闘に関してはプロのハンターであり、瞬時の判断力は一流のものである。
 電撃を受けたシノワビートはフォトンの結合を解かれ霧散し、本体もまた、高圧の電撃のショックにより動きを止めた。
 「いっただきぃ!」
 一瞬の隙を逃さず、メイのクロススケアが一閃し、胸に十字の傷を受けたシノワビートはその場に崩れる。
 「ふう、あっぶなぁ・・・でもまあ、シノワビートくらいあたしにかかればこんなもんね。」
 いつも通りの軽口を叩きながら、メイがレイカー達の方を振り返る。
 「ま、あと二、三体は余裕、余裕。」
 だが、メイの背後に新たに影が降り立つと、余裕の表情が引きつったものに変わる。
 メイは慌ててその場を離れながら振り返ると、三体のシノワビートが斬りかかってきた。
 「ち、ちょっとぉ、マジで出ることないじゃん!」
 「あの、馬鹿!」
 レイカーは援護の為に、ファイナルインパクトを構えるが、それよりも早く飛び出したDによって制される。
 「メイ!伏せろ!」
 Dの声に反応したメイが飛び込むようにその場に伏せると、その頭上を大剣がかすめていく。
 高純度のフォトンが結晶化し、クリスタルのような輝きを放つ大剣は、その一撃でシノワビートの装甲を切り裂き、文字通り真っ二つにする。
 「さんきゅっ。やっぱヒューキャストはパワーが違うねぇ。」
 メイは立ち上がってDの肩を叩く。
 (・・・やはり、軍製のフロウウェンか・・・。)
 レイカーはDの持つ大剣の威力を目の当たりにし、抱いていた疑問を確信とした。
 Dの持つ大剣は「フロウウェンの大剣」と呼ばれるものである。
 前陸軍司令、故ヒースクリフ・フロウウェンが使用していた大剣と同じモデルの物であり、多くのハンターや軍人が愛用している。
 そして、Dの左腕には、同様に結晶化したフォトンが輝く楯が装着されていた。
 「フロウウェンの大剣」は、その人気の高さから兵器メーカーにより、様々なレプリカモデルが開発されている。
 それらのレプリカは技術の進歩と共に、より高純度のフォトンを結晶化することで高威力となり、一時は軍でも使用されていた。
 だが、フォトン結晶化の際のコスト上昇により、官給品としては高価なものとなってしまい、軍の予算では補えなくなっていった。
 そこで軍が目をつけたのが、当時注目されていた「高純度フォトンの同調による破壊力の増大効果」俗に言う「セット効果」であった。
 同じ波長を持つ高純度のフォトンを同調させることで、その威力を倍化する。
 その技術の確立により、軍は低コストで高威力のフォトン兵器の開発に成功したのである。
 また、この技術は、軍で使用される様々な兵器に応用されたが、民間の兵器メーカーには技術情報が公開されることが無かった為、「セット効果」を持つ武器は軍所有の兵器だけとなっている。
 稀に不心得者による横流し品が市場に出回ることがあるが、やはり一般のハンターには入手困難なものである。
 (Dの性格からして、横流し品に金を出すとは思えんしな。となると、軍に?だが・・・。)
 一つの疑問が解決することで、また新たな疑問が発生していた。
 だが、レイカーはその疑問を払拭するための思考を止めざるを得なかった。
 レイカー達が通ってきた通路から、ギルチックが姿を現したのである。
 「急げ、大群が来る前に逃げるぞ!」
 レイカーの号令で、皆一斉にエレベーターに向かった。
 だが、エレベーターへ続く扉に近づくと、また新たに何者かが転送されてきた。
 「何だ?あれは・・・。」
 それは、レイカーには見覚えの無い物であった。
 巨大な機械ではあったが、これまでの警備ロボットのような歩行機能を有している様でもなく、外観からは武器らしきものも見当たらない。
 レイカーは、その様子を見て一応の警戒はしたものの、シノワビートほどの脅威では無いと判断し、進むことにした。
 だが、Dはレイカー達とは違う反応を見せていた。
 「ギャランゾだと!?馬鹿なっ!戻れ!あいつは・・・。」
 Dの言葉と同時に、ギャランゾと呼ばれた機械の表面の装甲が開き、筒状の物体が発射された。
 「な?ミサイル!?」
 予期もしなかった攻撃に、完全に不意を突かれたレイカー達は慌てて転進し、ミサイルの追撃から逃れようとする。
 「伏せろ!」
 Dが機雷を投げつけると、機雷の爆発に巻き込まれたミサイルが誘爆した。
 「きゃあ。」
 直撃は免れたものの、爆風に煽られメイとアリアはその場に倒れこんだ。
 「大丈夫か?くそっ、何だありゃ?」
 「ギャランゾ・・・軍が開発した拠点防衛用の自律型自走砲台だ。」
 「何で、そんなものがこんなとこにあるのよ〜。ここって只の坑道でしょぉ?」
 「・・・・・・『ここ』だからこそかもしれんな・・・。」
 「見て!あっちも!」
 Dの呟きはアリアに声により掻き消され、レイカー達の耳には入らなかった。
 通路に続く扉から続々とギルチックが進入してきていたが、その後にもう一体のギャランゾが転送されてきた。
 「まずいぞ、ここじゃミサイルを防ぎ切れん。メイ、他に通路は無いのか!?」
 レイカーがメイに確認するが、再びシノワビートがメイの目の前に降り立った。
 「うわっ!またっ!?レイカーお願い!」
 メイはレイカーの端末に坑道の地図データを転送し、シノワビートの対処にあたった。
 レイカーは端末を操作し、坑道の地図をディスプレイに投影させ、現在位置を確認する。
 現在レイカー達のいるフロアは、搬入用エレベーターに続く資材の一時保管庫として使用されていたものらしかった。
 そして、このフロアの出入り口は、レイカー達が入ってきた扉とエレベーターへと続く扉、そしてもう一つ扉があることが表示されている。
 だが、その扉はロックされていることを示す赤色で表示され、また、扉の向こう側は地図には記されていない。
 (行き先不明の扉か・・・。だが、他に選択肢は無い・・か。)
 「皆!こっちだ!」
 レイカーは地図を閉じると、地図に示された扉に向かって走り出した。
 扉は地図で示されたとおり、ロックされており、解除用のカードスロットとテンキーが備え付けられている。
 レイカーは端末からコードを引き出すと、カードスロットに差し込んだ。
 「どうするの?」
 追いついてきたアリアが声を掛ける。
 「ロックを解除する。どこに繋がっているか解らんが、このまま死ぬよりはましだ。」
 そう言って、端末を操作しデコーダーを起動する。
 ディスプレイには数字の羅列が表示され、ロック解除用のコードを解析していく。
 「早く〜こっちも、限界近い〜。」
 メイが珍しく泣き言を言う。
 シノワビートだけならば、メイの実力があれば問題ないのだが、ギャランゾからの砲撃と、四方八方から飛び交うギルチックのレーザーをかわしながらの戦闘に苦戦していた。
 「待て、もう少し・・・・・・よし!来た!」
 ディスプレイに表示される数字が一列に並び停止するのと同時に、扉のランプが赤から緑へ変わり、ロックが解除された。
 「メイ!D!」
 レイカーはファイナルインパクトで援護しつつメイ達を誘導する。
 メイとDが扉をくぐると自らも飛び込み、内側のパネルを操作し、扉をロックした。
 扉の先は、やや広めの会議室ほどの大きさの部屋で、奥には二十段ほどの下り階段と、最奥にほぼ壁一面を占める扉だけがある。
 レイカーは敵の襲撃に備えて警戒するが、新たにギルチックやシノワビートらが転送されてくる気配は無い。
 「ふう・・・ここまでは追ってこないようだな。」
 「ふあぁぁぁ、やっと休める〜。もう、一年分戦ったような気がする・・・。」
 メイはその場にへたり込む。
 「ゆっくり休みたい所だが、奴らが扉を破ってこないとも限らん。今のうちに地上へ戻るぞ。」
 レイカーが床にテレパイプを設置し、座標をハンターズギルドの転送ルームに合わせると、空間に歪曲が発生し光の輪が現れる。
 「んじゃ、お先に〜。」
 光が発生すると同時にメイが輪の中に飛び込んだ。
 「あれ?転送されないよ。」
 本来ならば、光の輪に飛び込んだ時点でメイの肉体はフォトンに変換され、セントラルドーム内のハンターズギルドの転送ルームに転送されるはずであるが、メイはフォトン変換が行われることもなく、その場に留まっている。
 「不良品なんじゃないの〜?」
 「そんなことは無いはずだが・・・。」
 念のために、レイカーはもう一つテレパイプを設置する。
 だが、先ほどと同様に光の輪は形成されるが、転送が行われない。
 「どういうことだ?アリアたのむ。」
 「ええ。」
 アリアが精神を集中し、リューカーによる転送を試みる。
 「駄目・・・転送されないわ。」
 何度かテレパイプを設置し直し、座標を変えるなどをしてみるが、転送が行われることは無かった。
 「これは・・・転送システム自体が死んでいるのか?」
 「そんなっ!それじゃあ帰れないじゃん!。」
 地上に通じる道は、全て坑道の警備ロボットに塞がれているため、徒歩による帰還は不可能に近い。
 その上、転送システムが使用できないことで、レイカー達は地上へ戻る手段を失ったことになる。
 (部屋の外は、相変わらずやつらが陣取っているか・・・となると、残る道は・・・。)
 レイカーは部屋の外の状況をレーダーで確認すると、部屋の奥の扉に向かって歩き出した。
 「開けられるの?」
 肩越しにメイが問いかける。
 「解らん。だが、他に方法は無い。まあ、これが地上に繋がっているという保証もないがな。」
 そう言って、レイカーは扉の横に備え付けられたパネルを操作する。
 「セキュリティレベル・・・SSだと?なんでそんな物が・・・。」
 「SSって、国家機密レベルのセキュリティじゃなかったっ?」
 「ああ・・・。駄目だ、こいつじゃこのセキュリティは突破できない。」
 レイカーはパネルに接続していたコードを引き抜き、左腕の端末に収納した。
 「出口が無い以上、システムが回復するのを待つしかないか・・・。」
 「いや、待ってはいられんようだ。」
 Dは階段を下りながら後方の扉を指差す。
 レイカーが耳を澄ますと、扉の向こうから何かを削るような音と、爆音が僅かに響いてきていた。
 「奴らは扉を破る気だ。」
 「マジ〜?どうすんの?」
 全ての退路を断たれたレイカー達に残された選択肢は少ない。
 「そうだな・・・奴らと俺達、どっちが先に全滅するか・・・だな。」
 「やっぱり・・・。」
 メイは深く溜息をつくが、すぐに気を取り直したようにクロススケアを構える。
 「だったら、あいつらさっさと全滅させて地上に帰ろっ!」
 メイは、いつも通りに振舞っているように見えたが、微かに肩を震わせており、表情も硬い。
 彼我の戦力差は明らかであり、その結末は容易に想像できた。
 そして、より大きな爆音と共に、扉が歪みだした。
 レイカーはファイナルインパクトを構え、アリアもまた、雷杖「インドラ」を取り出す。
 が、只一人、Dは扉の前に立ち、パネルを見据えていた。
 「D?どうした?」
 「・・・・・・止むを得ないか・・・。宿命いや・・・宿業というやつか・・・。」
 そう言って、パネルに手を掛けた。
 「D!?」
 『ID照合完了。ぱすこーどヲ入力シテ下サイ。』
 『ぱすこーど承認。せきゅりてぃれべる1解除。』
 パネルから、現在の作業状況を知らせる音声が流れる。
 Dは手早くパネルを操作し、次々とセキュリティを解除していく。
 セキュリティ解除を示すように、扉に灯っていた赤いランプが緑へと変化していく。
 (D・・・お前・・・何者なんだ?)
 そして、全てのセキュリティを解除し終え、Dは手を止めた。
 『全セキュリティの解除を確認。最終確認用ぱすわーどヲ音声入力シテ下サイ。』
 「・・・我、深淵より出でし者。」
 『ぱすわーど承認。げーとヲ開放シマス。』
 扉のランプが全て緑へと変わり、重い音と共に扉が開き出した。
 「開いた・・・。」
 呆けたようにDの作業を見ていたメイが呟く。
 そして、再び爆音と共に階上の扉が大きく歪む。
 「奴らが扉を突破する前にゲートを閉じる。急げ。」
 Dが促すと、レイカー達は開きかけの扉から奥へと飛び込んでいった。
 Dもそれに続き、扉の裏側のパネルを操作し、再び扉を閉じた。
 「このゲートの厚さは1m近くある。通常のフォトン兵器やギャランゾのミサイル程度で破られることはないだろう。」
 レイカー達は皆、Dを見つめていたが、誰一人言葉を発することが出来なかった。
 得体の知れない人物だとは思ってはいたが、国家機密レベルのセキュリティを解除したという事実が、より一層その正体を不透明なものにしていた。
 「ま、まあ、これで助かったってことだよね?」
 なんとかメイが口を開くが、やや声が上ずっている。
 「そうだな。ここを奥に進むと、採掘作業員の詰所がある。使われなくなって久しいが、暫く休む分には事足りるだろう。」
 そう言ってDは奥の通路を指差した。
 通路は扉と同様かなり広くなっているようだったが、薄暗く奥の様子は伺えない。
 そして、少しずつ傾斜しており、より地下へと続いていた。
 「んじゃ、ちゃっちゃとそこまで行って休もっ!」
 メイを筆頭に、アリア、Dもそれに続いた。
 (国家機密で守られた坑道跡・・・何があるっていうんだ?)
 レイカーはいつになく不安感に襲われていた。
 ここまでの出来事、そしてD。
 今までとは違う何かがラグオルで起きようとしている。
 だが、状況を分析し、情報を整理しようとすると、靄がかかったかの様に、思考がまとまらない。
 (疲れている・・・のか?・・・そうだな、あれこれ考えても仕方ないか。)
 そして、レイカーはメイ達の後を追って、通路を進んでいった。
レスをつける


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story1 闇の胎動6
IXY [Mail]
3/20(Thr) 13:30
 ゲートから十分ほど下ってきていたが、相変わらず通路は暗く、レイカーは携帯用のライトで通路を照らしながら進んでいた。
 (まだ下るのか・・・。こんな地下まで何を掘っていたんだ?)
 ラグオルの地下には、ラコニウムなどのレアメタルや未知の鉱石を含んだ岩盤があり、ラグオル到着直後から採掘が行われていた。
 だが、その後の調査により、レアメタルの含まれる層は地表に近い浅い層に分布していることが判明しており、それ以上深い地層にはレアメタルどころか、資材として使用できるような鉱石なども発見されていないはずであった。
 (採掘が目的でないとすると、いったい・・・。)
 「あ〜!詰所ってあれじゃない?」
 メイがライトが照らす先に建造物らしきものを発見した。
 「ああ、そうだ。少しここで待ってくれ。電源を入れる。」
 そう言ってDは手動でドアを開き、中へ入っていった。
 程なくして、詰所に明かりが灯り、通路内を照らし出す。
 明かりが灯ると、詰所がある場所はかなり広く掘り抜かれており、フットボールのグラウンドほどの広さがある。
 また、詰所自体も、二、三十人は生活できそうな大きさを持っていた。
 「ふう、とりあえず、システムが回復するまでここで休むとするか。」
 「ねえ、あっちは何だろ?」
 レイカーが詰所に入ろうとするところをメイが呼び止めた。
 メイの指差す方向には、更に奥へと続く通路があった。
 「さあな、そんなに気になるなら一人で行って来いよ。」
 「んじゃ、そうする。」
 そう言ってメイは、奥の通路に向かって駆け出した。
 「って、おい!ホントに行くやつがあるか!」
 レイカーが制止しようとするが、メイはすでに通路の奥に消えていた。
 「どうした?」
 詰所から出てきたDが、レイカーの様子を見て尋ねた。
 「あ、いや、メイがこの奥に・・・。」
 レイカーは奥の通路を指差す。
 「何・・・だと?」
 レイカーには、アンドロイドの表情の変化を読み取ることはできないが、Dが明らかに動揺しているのが感じられた。
 「連れ戻すぞ!」
 そう言ってDが駆け出そうとした時、メイの驚嘆の声が響いてきた。
 「うわ〜〜〜!ちょっと!みんなこっち来て!」
 その言葉にレイカー達も奥へと駆け出した。
 通路は再び緩い傾斜となっており、暫く進んでいくと突き当たりの壁を背にメイが手を振っている。
 「こっち、こっち、これ見てよ!」
 メイの後方の壁は、明らかに周囲の岩盤と別の物質であり、人工物であることを示すように意匠が施されていた。
 「これは・・・遺跡とでもいうのか?」
 レイカーが壁に手を触れるが、その感触は今まで自分が触れてきたあらゆる物質とも異なっている。
 (見た感じはどう見ても無機物なんだが・・・何だ?僅かな弾力と、それに・・・脈打っている?まさかな・・・。)
 「ねね?こっちから中に入れるんじゃない?」
 メイが言うとおり、壁には入り口らしき穴が開いている。
 レイカーが丹念にその周囲を調べていくと、穴の内側に黒く焼け焦げたような跡を発見する。
 (炸薬を使ったのか?どうやら、正規の入り口ではなく、無理やりこじ開けたようだな。・・・最近の跡じゃないな。数ヶ月、いや、一年以上は経過しているか。・・・それに・・・。)
 レイカーは足元に目を落とすと、そこには多くの瓦礫が転がっている。
 (こいつは、周りの岩盤とも、この壁のものとも材質が違う。宇宙船の応急補修に使われる充填材のようだが・・・。一度開けた穴をこいつで塞いだのか。)
 状況を分析するにつれ、レイカーの頭の中で警鐘がけたたましく鳴り響く。
 レイカーは手にしていた瓦礫を置き立ち上がった。
 「とにかく、詰所に戻るぞ。後のことはそれからだ。」
 漠然とだが、強い不安感がレイカーを支配していた。
 具体的には説明はすることはできないが、ハンターズとしての長い経験と、鋭い直感が、この場所に長く留まることを良しとしなかった。
 だが、レイカー達が立ち去ろうとする中で、メイは未練がましく穴の奥を覗き込んでいる。
 「何やってんだ!さっさと戻るぞ!」
 「え?ああ、うん。」
 暫く、名残惜しそうに遺跡を見つめていたメイだったが、レイカー達の後を追って駆け出した。
レスをつける


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story1 闇の胎動7
IXY [Mail]
3/20(Thr) 13:31
 「くそっ!駄目だ!D、そっちはどうだ?」
 「いや、有線、無線共に通信は断絶している。地上と連絡を取るのは無理のようだな。」
 「そう・・・か。」
 レイカーとDは、詰所の制御室で地上との連絡を取ろうとしていたが、制御室の設備は全て正常に稼動しているものの、全ての通信回線が断絶状態にあり、一切の連絡手段を取れない状況にあった。
 レイカーは、椅子に腰を落とし、背凭れに身を預け天井を仰いだ。
 (これで、地上との連絡手段は完全に無くなった訳だ。暫くは、ここに閉じ込められるってことか・・・。)
 警備システムの暴走に始まり、テレパイプシステムの停止、通信の断絶。
 レイカーは、これらの事故について、原因を推測していくが、明確な答えは出て来ない。
 そして、レイカーにはより大きな一つの疑問があった。
 「なあ、D。あんた一体何者だ?ここは何だ?あんたは何を知っていて、何を隠している?」
 坑道で一度発した疑問を、再度投げかける。
 先刻は、メイの介入もありかわされてしまったが、今度ばかりは納得のいく回答が得られるまで引き下がるつもりは無かった。
 Dは暫く押し黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
 「そうだな・・・。お前には話しておいた方がいいか・・・。」
 それは、暗にメイやアリアには聞かせない、あるいは聞かせることが出来ないという意味を含んでいた。
 「俺の考えている通りのことが起きているならば、おそらく地上−セントラルドームは、壊滅的な打撃を受けている。最悪の場合、地上の人間の全滅も有り得る。」
 「な・・・。」
 レイカーは絶句するしかなかった。
 地上で何らかの事故が発生しているとは思っていたが、そこまで深刻な状態だとは思ってもいなかった。
 「これを見ろ。」
 Dが携帯端末を操作し、制御室の端末へデータを転送すると、正面のモニターに映像が映し出される。
 「これは、俺が記録した坑道内の映像だ。」
 モニターには二つの映像が映し出されており、一方には通常のカメラで移された映像が、もう一方には何やらサーモグラフィにも似た、映像が映し出されている。
 「これは?」
 「フォトンセンサーだ。空間中のフォトンを視覚的に観測する為のものだ。」
 画面をよく見ると、確かに坑道の照明や作業ロボットの動力部など、フォトンエネルギーを帯びている箇所が明るく表示されている。
 「ここだ。センサーの方を見ていろ。」
 それは、先刻の地震の直前の映像だった。
 画面には、ギルチックにIDデータを転送している、レイカーが映し出されており、直後画面が乱れ始める。
 暫く振動に耐えるレイカー達を移していたカメラが、ふいに何も無い壁を映す。
 何の変哲も無い映像であったが、フォトンセンサーには大きな変化が表れていた。
 「これは!?」
 画面下部が明るくなったかと思うと、吹き上げるようにフォトンエネルギーが上昇し画面の半分近くを埋め尽くした。
 「地下から、高出力のフォトンエネルギーが噴き出した。エネルギー波形、量共に計測不能だが、おそらく、戦艦の主砲並、あるいはそれ以上の出力があったと思われる。そして場所は、俺達がいた所から南東へ400m・・・。セントラルドームの直下だ。」
 「こいつが・・・ドームを直撃した・・・のか?」
 Dの言っていることが確かならば、セントラルドームは戦艦の砲撃を受けたも同然であった。
 Dがパネルを操作すると、再び場面が移り、警備ロボットとの戦闘中の場面が映し出される。
 レイカー達に襲い掛かってきていたギルチックは、いづれも異常なまでに高濃度のフォトンが全身に満ちていた。
 ギルチックのみではなく、坑道全体も異常フォトンが充満している。
 そして、それらは皆、地下から噴き出したフォトンと同様にエネルギー波形が計測不能となっている。
 「センサーで計測出来ないフォトン・・・か。一体、なんなんだこいつは・・・。」
 「見ての通り、正体不明の謎のフォトンさ。だが・・・。」
 Dは再びパネルを操作すると、データベースからフォトンエネルギーに関するデータを呼び出した。
 様々な兵器から家庭品に至るまで、フォトンが使用されているあらゆる物のデータが次々と表示され、そのうちの一つのデータが、坑道で観測されたフォトンと波形が一致した。
 「やはり・・・な。」
 「どういうことだ?何故ここにあのフォトンのデータがある?」
 「ここは、一時期軍の管理の下で遺跡の調査をしていた。データはその時に観測した物だ。もっとも、実際に見るまで、データが残っているとは思ってなかったがな。」
 「軍・・・だと?」
 レイカーの台詞に、思い出したかのようにDはレイカーに向き直る。
 「そういえば、まだ最初の質問に答えてなかったな。俺の本当の名は、ローグ・クルウェル。元陸軍中尉だ。ヒースクリフ・フロウウェン司令麾下特殊戦闘部隊所属のな。」
 「陸軍司令直下部隊・・・軍の中でもエリート中のエリート部隊じゃないか。軍関係者とは思っていたが・・・。そんな奴がなんで、名前まで変えてハンターズなんかやっているんだ?」
 「訳ありでな、軍に居るわけにはいかなくなった。そうだな、そいつに犯罪者リスト〈ブラックリスト〉は入れてあるか?」
 そう言って、Dはレイカーの携帯端末を指差す。
 「ああ・・・俺は賞金稼ぎ〈バウンティハンター〉じゃないから、あまり使うことはないんだがな。」
 「賞金稼ぎ用のシークレットコード『0s8ie9wns2』でアクセス。そいつで、俺の名を検索してみろ。」
 レイカーは言われるとおりに、ブラックリストで「ローグ・クルウェエル」の名を検索する。
 「あった・・・これは!?」
 端末には、「ローグ・クルウェル」の名と顔写真が表示されるが、そこに映し出された顔は、20代半ばほどのヒューマンの男性のものだった。
 「それが、俺の本来の姿だ。こいつはただ記憶を移しただけの器でしかない。」
 Dは自分の頭を人差し指で軽く突く。
 アンドロイドの電脳への記憶移植、もしくは脳移植技術そのものは、確立されてから長い年月を経ている。
 だが、元々重病患者の延命措置として研究されたこの技術は、犯罪者による利用が急増したこと、独裁を生む危険性を指摘されたことから、現在は違法行為となっている。
 また、記憶の移植の際には、専用の施設と高度な技術を要するため、法を犯してまで移植を行うことは稀であった。
 (そこまでして、身を隠さなければならなかったのか?一体何を・・・。)
 画面をスクロールさせ、端末に表示される情報にレイカーは驚愕する。
 「ダ、SS〈ダブルエス〉級犯罪者・・・それに、賞金7500万メセタだと・・・?」
 「また、賞金が上がったか・・・。よっぽど俺を捕まえたいらしいな。」
 目の前の人間に自分が賞金首として多額の賞金が掛けられている事実を知られたにも関わらず、Dは平然と言いのける。
 そして、レイカーを驚愕させたのは、その賞金の額だけではなかった。
 国家反逆、重要施設への不法侵入及び破壊活動、機密情報漏洩、暴行致傷及び致死、殺人。
 列挙される重大犯罪の数々に思わず閉口する。
 「これ・・・本当なのか?」
 「そうだな・・・そこに書かれていることは概ね事実だ。」
 自身にかけられている容疑を否定するでもなく、また、異常犯罪者の様に犯行を誇らしげに語る訳でもなく、淡々と話すDに、レイカーは呆れるしかなかった。
 「どうした?俺を捕まえでもするか?」
 唖然とした表情で自分を見るレイカーにDが問いかける。
 「・・・いや、手配書の内容だけをみるなら、よくあるテロリストの手配書の様だが・・・どうも腑に落ちない点が多くてな。」
 「ふむ・・・。」
 「まず、これだけのことをしでかしている割には、具体的な犯行内容の説明が無い。それに、通常これだけの重大犯罪に関する情報は、一般報道も行われているはずだが、俺の記憶にある限りでは、それがされていない。つまり、この事件に関しては、バウンティハンターによって秘密裏に処理されなければならない理由があるということだ。」
 レイカーは端末を操作し、手配書の履歴を検索する。
 「賞金の額も異常だ。初回の手配書では500万メセタだった賞金が、この数ヶ月で15倍になっている。たった一人のテロリストを捕らえるにしては大仰過ぎる。巨額の賞金をかけてでも早急にあんたを捕らえる必要がある。更には一般に、いや、シークレットリストで手配していることから、まっとうな賞金稼ぎにも知られる事も無くな。金の為に何でもやるような、犯罪者紛いのハンター向けのリストだろう?要するに裏があるってことさ。」
 「成る程。だが、それはお前の推測にすぎないだろう?もしかしたら、俺は本当に凶悪犯かもしれん。」
 「まあ、その時はその時さ。俺はハンターとしてのあんたを信用している。あとは俺のハンターズとしての勘ってところか。あんたが追われている理由、それは、今ここで起きている、そしてかつてここで起きた事にも関係があるんじゃないか?」
 レイカーは自分の推論を確認するようにDに視線を送る。
 Dもまた、その視線を受け止め、暫くの沈黙の後に組んでいた腕を崩した。
 「大した洞察力だな・・・。そうだ、今このラグオルで起きている事態は、全てこの地下に埋もれた遺跡に起因している。レイカー、お前はパイオニア計画、そして、このラグオルについてどれ位知っている。」
 「どれ位って、人口増加と度重なる戦乱で荒廃し、人類の生存が困難になった本星から環境の良い星へと移住する計画がパイオニア計画だろ。そして、第1次移民船団パイオニア1が発見したのがこのラグオル。だろ。」
 レイカーは、自分の言っていることがDが求めている答では無いことは十分に承知していたが、正直に言って、パイオニア計画について、一般人以上の情報は持っていなかった。
 「確かにそうだ。表向きはな。パイオニア計画は全てある存在によって仕組まれたものだ。」
 「ある・・存在?」
 「このラグオルは、パイオニア1が発見したものではない。政府の連中は、計画が発足する以前からこの星を知っていた。そして、ある物がこの星にあることを突き止め、偽りの移住計画をでっち上げ、このラグオルにパイオニア1を向かわせたのさ。」
 「そんな・・・何故、ラグオルの存在を隠す必要があるんだ!?こんな大規模な移住計画まで立ち上げてまで何を・・・。まさか・・・今、起きている事も政府の連中が絡んでいるのか?」
 レイカーの言葉にDはゆっくりと首を横に振る。
 「いや・・・確かに、政府がパイオニア計画を隠れ蓑に、ラグオルで別の計画を進めていたが、奴らはただ餌に釣られただけに過ぎない。全ての事件を仕組んだ奴は別にいる。そいつの存在はあまりにも危険であり、そして、それ故に政府はそいつを求めた。」
 「何なんだ、そいつは一体・・・。」
 「政府を、いや、全ての人類を手玉に取り、そして、このラグオルで我々を待ち構えていた者、それは・・・。」
 Dが言いかけた時、ドアが開きアリアが部屋に入ってきた。
 「あの、お茶入れたんだけど・・・。」
 レイカーとDの只ならぬ雰囲気に、ばつが悪そうにアリアが言った。
 「あ、ああ、貰おうかな。」
 レイカーは、アリアの持っているトレイからティーカップを取った。
 「Dもどう?」
 アリアがDのもとへ行くが、Dは手で制した。
 「いや、悪いが俺は、飲食物でエネルギーを摂取する機能を備えていないんでな。」
 そう言って、Dは部屋を出て行く。
 仕方が無いのでアリアは椅子に腰掛け、もう一方の茶をすすった。
 「ねえ・・二人で何を話していたの?なんだか深刻そうだったけど・・・。」
 アリアの質問にどう答えていいか迷ったが、暫く考えてレイカーは口を開いた。
 「まあ、これからどうするかってな。地上とも交信できなかったし、それでちょっとな・・・。」
 アリアは納得していないといった顔をしていたが、レイカーにはこれ以上のことは言えなかった。
 Dの話した内容は、アリアに話すにはあまりにも重すぎるし、何よりレイカー自身が詳しい情報を聞いているわけではないからだ。
 気が付けば、ティーカップは空になっていた。
 レイカーはトレイにカップを置き、立ち上がった。
 「俺も部屋に戻る。アリアも少し休んでおけよ。」
 採掘作業員の宿舎として使われていた部屋で、レイカー達は休むこととしていた。
 レイカーが部屋に戻ると、Dはすでにアンドロイド用の調整ベッドに入っていた。
 特にすることも無いので、レイカーはベッドに横になった。
 (一体、ここで何が起きている。政府は何をやろうとしていたんだ・・・。)
 ベッドに横になると、すぐに眠気が襲ってきた。
 (疲れて・・・いる・・・・・のか?)
 思考する間も無く、レイカーの意識は深い闇の中へと沈んでいった。
レスをつける


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story1 闇の胎動8
IXY [Mail]
3/25(Tue) 17:03
 気が付くとレイカーは、暗い闇の中にいた。
 「ここは・・・どこだ?」
 一筋の光すらない真の闇に包まれ、レイカーは言い知れない不安に駆られる。
 「D!?アリアッ!メイ!誰かいないのか!?」
 レイカーは、仲間の名を呼びながら闇の中を進んでいた。
 いや、進んでいるのかすらもレイカーには解らなかった。
 完全な闇の中で、平衡感覚は失われ、自分が本当に前へ進んでいるのか、さらには上下の感覚すらも無くなってきていた。
 「一体何なんだここは・・・。」
 どれ位時が経ったのかも解らない。
 もう、何時間も彷徨ったようであり、一瞬の出来事のようでもあった。
 その時、只ならぬ気配を感じ、レイカーは総毛だった。
 「何だ・・・あれは・・・?」
 闇の中から、それよりも更に深い闇がレイカーに迫ってきていた。
 そして、「それ」はレイカーを包み込むように纏わり付いてきた。
 「くっ!何だこれは!?」
 レイカーは「それ」を振り払おうとするが、レイカーが動く度に、「それ」は蠢き、彼を呑み込もうとする。
 「く・・・そ・・・やめ・・・ろ・・・。」
 全身を「それ」に包まれ、呼吸すらもままならなくなったその時、レイカーの頭の中に直接響く様に、声が聞こえてきた。
 『・・・ウ・・・』
 (!?なんだっ!?この声は・・・。)
 『チガ・・・ウ・・・・・・・ナ・・・イ・・・』
 抑揚が無く、それでいて深く響くような声が闇の中から伝わって来る。
 (何だ・・・?何を・・・言っている・・・?)
 『チ・・・ガウ・・・・・・オ・・・マエ・・・デハ・・・・・・・・・ナイ!!』
 これまでより、一層大きな声が響いたかと思うと、レイカーの周囲の闇が晴れ、眩く、それでいて底知れぬ恐ろしさを感じさせる光がレイカーを包んだ。
 そして、レイカーは光の中に、異形の物を視界に捕らえた。
 「な・・・んだ・・・・・・あれは・・・・・・・。」
 レイカーがそれに気付くとほぼ同時に、異形はより強い光を発しながらレイカーに突進し、彼の肉体を貫いた。


 「うああああああああああ!!!」
 レイカーは絶叫と共に飛び起きた。
 「はあっはあっ・・・ゆ、夢・・・なのか・・・?」
 レイカーは額の汗を拭い、周囲を確認し時計に目をやる。
 (2時間ほど寝てたようだな・・・。)
 汗をかいた為か、ひどく喉が渇いている。
 レイカーはベッドから降り、タンクからカップに水を注ぐと一気に飲み干した。
 この詰所のライフラインが保持されていたのは、レイカー達にとって僥倖であった。
 携帯食も持ってはいたが、そう何日ももつ物ではなく、長期間地下に閉じ込められるようであるなら、助かる見込みは少なかったからだ。
 (あれは・・・一体・・・。)
 レイカーは先ほどの夢を思い出していた。
 夢にしてはやけに鮮明で、生々しい感触が今も残っているような気がして、レイカーは腕を擦った。
 「レイカーっ!Dっ!!起きて!」
 その時、アリアの慌しい声と共に、けたたましくドアが叩かれた。
 Dもその尋常ではない様子に、調整ベッドから降りてきた。
 レイカーがドアを開けると、アリアが部屋の中に飛び込んできた。
 「アリア、どうした?」
 「メイが、メイがいないのよ!」
 「何?」
 「二人と別れた後、私も部屋で休んでいたんだけど、目が覚めたらメイが居なくて、それで、他の部屋も見て回ったんだけど、どこにも居ないの。」
 今、レイカー達がいる施設は、採掘用の詰所としては大きいものだが、部屋数がそれほど多いという訳でもなく、どこかの部屋に居るならば、探し出すのは容易であるはずだった。
 (詰所の中には居ないということか?坑道への扉は閉ざされているし・・・となると・・・。)
 「まさか。」
 Dが思いついたように呟いた。
 恐らくレイカーと同様にメイの行方を推理し、そして、同じ答に行き着いたようだ。
 「あの馬鹿!!」


 その頃、メイは薄暗い通路を歩いていた。
 「ほえ〜、すっごいなぁ。こんな遺跡が埋まってたなんて。」
 遺跡の中は、壁や天井が淡く発光しているため、明かりには不自由しなかった。
 さらに、明らかに自分達の文明による照明が設置されている部屋もあった。
 「やっぱり、一度調査されてるみたいだなぁ。何で、こんなすごい発見を隠しておくんだろ?それに・・・。」
 メイは、自分が歩いてきた通路を振り返る。
 通路の先には扉が有り、今は固く閉じている。
 「この遺跡・・・まだ生きている。」
 メイが今まで通ってきた扉は、全て自動で開閉していた。
 始めは、この遺跡を調査していたと思われるラボによって手が加えられたとも考えたが、見たところそのような形跡は見られなく、また、調査途中の遺跡にそのような改造を行うとも思えず、ドアの自動開閉は遺跡に元から備えられた機能だと結論付けた。
 「ま、別にいいか。」
 そう言って、メイが新たな扉の前に立つと、例のごとく扉が開く。
 「うわっ!真っ暗。」
 扉の先の部屋は、漆黒の闇だった。
 通路から僅かに光が差し込んでいたが、部屋の奥は完全に闇に包まれていた。
 「ん〜しょうがないなぁ。」
 メイは携帯ライトを取り出し、部屋の中を照らしながら奥へと歩みを進めた。
 「結構広い部屋だなぁ。照明は無さそうだし、他に扉は・・・・・・・あ、あったあった。」
 メイは部屋の奥に新たな扉を見つけ、駆け寄るが、これまでの扉の様に自動で開くことは無く、固く閉ざされたままである。
 「あれぇ?何で開かないんだろ?ロックされてるのかなぁ?ん〜しょうがない、引き返して他の道を進むか・・・!?」
 言いかけた所で、突然メイは振り返り、部屋の中を照らす。
 だが、ライトに照らされた先には、ただ閑散とした部屋の床があるだけだった。
 「あれ?ん〜おかしいなぁ?何か後にいたような気がしたんだけど・・・。」
 ライトで照らしながら慎重に気配を感じた辺りに近付いてみるが、やはり何かがいたような形跡は見られなかった。
 「やっぱ、気のせいかなぁ・・・!!」
 だが、再び只ならぬ気配を背後から感じ振り返った。
 そこには、闇の中から染み出すかのように何者かが姿を現そうとしていた。
 「え・・・?な、何・・・!?」


 「全く、あいつは何を考えているんだ!こんな時に単独行動をとるか!?」
 レイカー達は、メイを追って遺跡内部の通路を進んでいた。
 暫く通路沿いに進むと、広いホールの様な場所に出た。
 「す、すごい・・・。」
 アリアが部屋の中を見回し、感嘆の声を上げた。
 「確かに・・・これといって照明らしきものは見当たらないが・・・天井が光っているのか?」
 「感心するのは後だ。メイを探すぞ。」
 「あ、ああ・・・そうだったな。」
 Dに促され、レイカーは端末を操作し、レーダーを起動した。
 「近くには・・居ないな。もう少し範囲を広げるか。」
 レーダーの探索範囲をより広域のものに切り替えていくと、画面の端に光点を捉えた。
 「いた!ここから北西方向に直線距離で約300メートル。・・・こっちだな。」
 レイカーはレーダーを確認しながら、部屋の隅の扉の方へ歩いていく。
 「あった。メイの足跡だ。」
 レイカーの指摘したように、長い期間放置された床には埃が堆積しており、そこには真新しい足跡が残されていた。
 「ったく、世話焼かせやがって。文句の一つでも言ってやらんと気がすまん。」
 そう言いながら、レイカーは通信の為にインカムを装着した。
 「通信・・・できるの?」
 「ああ・・・ドームのシステムを介したネットワーク通信は今のところ無理だが、端末同士の直接通信なら通じるはずだ。」
 レイカーが端末を操作すると、インカムから耳障りな音が響いてきた。
 「何だ?ノイズがひどいな・・・。おい!メイ、聞こえているか!?返事をしろ!」
 何度か呼びかけてみるが、メイからの応答は一向に返ってくる気配は無い。
 「やっぱり、通じないの?」
 「ああ、そうみたいだな。あるいは、聞こえていてわざと無視しているか・・・・・・いや、何か聞こえる!」
 レイカーはインカムから響くノイズの中から、僅かにメイの声を聞き取った。
 「メイ!聞こえてるんだろ!返事くらいしろ!」
 これまでのメイの行動に、かなり鬱憤が溜まっていたのか、思わず怒鳴るような声になってしまう。
 『・・・・・・て・・・・・・た・・・す・・・けて・・・』
 「メイ!?」
 自身の苛立った声とは対照的に、インカムから聞こえてくるメイの悲痛な声にレイカーは戸惑った。
 「どうした!?メイ!何かあったのか!?」
 『レイ・・・カー・・・助け・・・て・・・・・・・・・ああ、い、やあああああああああああああ!!!』
 「メイ!?メイ!!どうした!返事をしろ!!」
 何度も呼びかけるが、絶叫を最期にメイからの応答は無かった。
 「レイカー・・・。」
 レイカーの只ならぬ様子に、アリアの不安を隠せないでいる。
 「くっ!」
 「あっレイカー!?」
 レイカーは考えるよりも先に駆け出していた。
 Dもまた、それに続く。
 「ちょっDも、ま、待ってよ!」
 アリアもハンターズである以上、一般人よりは鍛えてはいたが、さすがにSランクに位置するハンターとレンジャーの健脚には遠く及ばず、あっという間もなくどんどん引き離されていく。
 レイカーとDは、レーダーに映されたメイの位置だけを頼りに扉を抜け、通路を駆けていた。
 (さっきのメイの様子・・・尋常じゃない。何があったっていうんだ。それに・・・。)
 レイカーが顔を上げると、通路の先には閉ざされた扉があり、それは、レイカー達が近付くと、さも当然であるかのようにその口を開けた。
 (照明もそうだが、この扉・・・。この遺跡の機能は今も生きているのか?くそっ!妙な胸騒ぎがする。メイ!無事でいろよ!)
 レイカー達が通路を右折すると、その先にまた扉があった。
 「反応が近い!あの扉の向こうだ!」
 これまでと同様に扉が開くと同時に、レイカーとDは部屋の中に飛び込むように駆け込んだ。
 「な、何だ?この部屋には照明がないのか?」
 突然の闇に、未だ慣れない目は部屋の中の様子を捉えることが出来ないでいた。
 レーダーに目をやると、確かにこの部屋の中からメイの反応が出ている。
 「おい!メイ、ここにいるのか?返事をしろ!」
 レイカーが呼びかけるが、メイの返答は無い。
 (どういうことだ?確かに反応はここからだが・・・こう暗くては何もできんか。とりあえず、明かりを・・・!?)
 レイカーがライトを取り出そうとした時、何か異様な臭いが鼻腔を刺激した。
 (何だ?これは・・・。)
 それは、鉄錆の様な臭いと、排泄物の臭いが交じり合ったような臭気であった。
 「!!?」
 ことの異常さに気付いたレイカーは、すぐさまライトを点け、部屋の中を照らした。
 「な・・・こ、これは!!」
 「はあっ、はあっ・・・も、もう、二人とも足速すぎ・・・。」
 レイカーが部屋の中の状況を確認すると同時に、息を切らしながらアリアがやってきた。
 「アリアッ!駄目だ、中に入るな!!」
 レイカーが叫ぶと共に振り返ると、その忠告も空しくアリアは既に部屋の中にいた。
 アリアは、両手で顔を覆う様にし、その顔色は見る間に蒼白となっていく。
 「そ、そんな・・・・・・い、いやああああああああ!!」
 アリアの絶叫が遺跡の中に木霊する。
 レイカーは再び向き直り、ライトが照らし出した部屋の中のある一点を見据えた。
 (一体、ここで何があったってんだ!)
 レイカーの持つライトが照らす先にあったのは、自ら流した血の海に横たわる、メイの変わり果てた姿だった。
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