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- 機械仕掛けの左腕 第一話 - Shin [1/4(Wed) 3:30]
機械仕掛けの左腕 第二話 - Shin [1/4(Wed) 3:41]
機械仕掛けの左腕 番外編 - Shin [1/4(Wed) 3:44]
機械仕掛けの左腕 第三話 - Shin [1/4(Wed) 3:52]
”each”(機械仕掛けの左腕 外伝) - Shin [1/4(Wed) 4:00]
あとがき - Shin [1/4(Wed) 4:06]
オマケ・裏設定 - Shin [1/19(Thr) 6:51]



機械仕掛けの左腕 第一話
Shin [Mail]
1/4(Wed) 3:30
その男は、盗賊だった。
誰もが嫌う「泥棒」行為を繰り返していた。
しかしハンターとしての腕は良く、「裏」に生きる人々の内では名の通っていた男だった。

彼の名は「クレイ」。
後に「豪刀」ゾークに並んで噂になるほどの者である。
これは、そんな彼が盗賊を辞める決意をした出来事を記した物語だ…



「…チッ、今日はロクな物が無いな…」
ここは坑道エリア。
彼はいつものようにハンター達の「落し物」、つまり倒れたハンターの遺留品をあさってまわっていた。
無論、この行動には彼自身にも危険が伴う。
しかし彼は「腐ってもハンター」。
愛用の青い両剣で邪魔する物は切り払っていた。
無論、これも奪った物なのだが…

最後までエリア探索を終えたところで、彼はエリアマップを確認した。
マップの中央部分に大きな空白があるのが確認できる。

「お…?全部見てまわったつもりだったんだがな…」

盗賊にしては几帳面な彼がその大きな空白を見逃す理由はなかった。
一通りその部屋の周りを確認してみたが…
すべての扉にはロックがかかっていた。
どうやら何者かにロック装置を破壊された形跡が確認できた。

「…クサいな」

彼は盗賊。
このような扉を開くことなど造作も無いことだった。

バチバチッ!!

スパークの後にゆっくりと扉が開かれていく…

しかしそこには彼の期待したような物はどこにも無かった。

代わりに彼が見たものは。


残骸。
おびただしい数の残骸。
マップ中央の空白部分をいっぺんに埋めてしまうような広さのその部屋の中には、足の踏み場も無いほどの敵の残骸が転がっていた。

「…なんだこりゃあ…?」
さすがの彼も驚きの声をあげる。
これだけの敵を相手にすれば、どれだけ優秀なハンターが相手にしたところで、歯が立たないだろう。
「…こりゃあいい物にありつけそうだぜ…」
彼はその残骸の原因となったハンターが生き残っているはずは無い、そう確信した。
部屋の全ての扉にはロックがかかっていた。
にもかかわらず残骸があるということは、大方誰かが落とし込まれたのだろう。

「裏切り…か。あんまり好きな言葉じゃねえな…」
そういいながら残骸の上を歩いていこうとした、そのとき…

…マップの中に一つの矢印が確認できた。

「…な!?誰か生きてやがるのか…!?」
彼は慌ててあたりを見まわした。
そして反応のあった場所。
部屋の奥に彼が確認した物は…


一体のヒューキャストであった。
しかしその姿は見るも無残な姿に成り果てていた。


右腕がちぎれ飛んでいた。
ただのワイヤーとコードの束が代わりにぶら下がっている。
足も失っているようだった。
どうやらギルチックの足をうまく加工して自分に取り付けているようだ。
ボディの装甲はほとんどが剥げ落ち、剥き出しになった内部がバチバチと火花をあげていた。
左手には故障しているのか、片側だけフォトンの発生したソードが握られていた。


とても動いているとは思えない。
しかし反応はたしかにあった。
その姿は痛々しく、戦慄のような物を覚えるほどだった。


恐る恐る彼は近寄ってみた。
すると。

「…マスターですか…?」
「うおっ!?まだ動いてやがる!」

そのヒューキャストはゆっくりと顔を上げ、クレイを確認するとこう言った。
「…マスターでは無いようですね…」

しばらくあっけにとられたあと、クレイは話し掛けてみることにした。
「おい…大丈夫なのか…?」
「…はい。動力部分の損傷はかろうじて免れております。どちら様かは存じませんが、お心遣い、感謝いたします…」
「い、いや、それは別にいいんだが…」

ガリガリと雑音の混ざった音声で、そのヒューキャストは話していた。
確かに、信じられないが、まだ彼は「生きていた」。

「待ってろ、確かトリメイトを持ってきてたはずだ…」
クレイは自分のアイテムパックをごそごそとあさり出した。
しかし、そのヒューキャストは落ち着いた声でこう言った。
「私は旧型ですので、パーツの交換ができない限り、修復は不可能です。お心遣いに水を差すようで申し訳ありません。」

クレイはその手を止めて、再びヒューキャストを眺めた。

…なるほど。確かに治る訳ないな…。

「…お前、名前は?」
「名前ですか?マスターに名づけられた名はディヴァインと申します。」
「ディヴァインか。よし、待ってろディヴァイン。メディカルセンターに行けば予備のパーツくらい交換してもらえるはずだ。」

盗賊という家業に身を置いていた彼も、さすがにその姿に同情を隠しきれなかった。
「俺が連れていってやる。ほら、肩」
「恐縮です…」
クレイはテレパイプを使い、パイオニア2へ足早に戻った。



パイオニア2の居住エリアの中、ディヴァインを背負ったクレイが重たそうにズルズルと歩いていた。

盗賊仲間がニヤニヤしながら声をかける。
「よおクレイ!今日の収穫はスクラップかい?」
「…うるせえな、俺が何拾って来たって俺の勝手だろうが!」
「おお、怖い怖い…。へへへ…」

こんな街のど真ん中でこんな物を背負って歩いていれば、嫌がおうにも目立つというものだ。
人々の視線がクレイに集中する。
そんな中、クレイはただ無言でディヴァインを運んでいた。

「…申し訳ありません…。どうやら私のせいで…」
「気にすんな。見たい奴には見せておきゃあいいのさ。」

少しの間を空けたあと、ディヴァインがクレイに静かに話し掛けた。
「…そういえばお名前を聞いておりませんでしたね。」
「俺か?俺はクレイ。けちな盗人だ。はははは!」
「…クレイ様ですか。ありがとうございます。」

さすがに人間にアンドロイドのボディは重たく、メディカルセンターにつくまで随分と時間がかかってしまった。


「よう!急患だ!こいつを急いで治してやってくれ!」
メディカルセンターに入るやいなや、大声でクレイはそう言った。
看護婦たちが背中のディヴァインを見て、忙しく動き回り始める。

「こちらへどうぞ!」
クレイ達はアンドロイド用のメンテナンスルームへと案内された。
「こちらの作業台に寝かせてください。」
クレイは重たいディヴァインのボディを持ち上げ、作業台の上に乗せた。

「ありがとうございます。あとはこちらで処置しますので、お外でお待ち下さい。」
「あいよ。ディヴァイン!スッキリしてこいよ!」
「…ありがとうございます」
こうしてディヴァインの修理が始まった。

しかし、時間がたつこと約一時間。
わりと早めに看護婦が部屋の中から出てきた。

「お?やけに早いな。もう終わったのかい?」
「いえ…あの、大変申し上げにくいのですが…」
クレイの耳に入った知らせは、信じられない内容だった。


「なにぃ!?修理できない!?」

クレイの突然の怒鳴り声にメディカルセンターの中が一瞬静まり返る。

「…はい。型式が随分と古い物のようでして…。すでに生産中止になったパーツばかりが必要になってしまうんです…。」
看護婦が申し訳なさそうに言った。

「新型で間に合わせられないのか!?」
「それが…、あまりに古い型なもので、ジョイント部分もまるで違うのです…。」
「…どうにもならないってことなのか?」
「…はい。何があったかは知りませんが、後はシステムがダウンするのを待つばかりです…。」

少し考えると、看護婦にもう一度質問する。
「記憶をバックアップするとかできないのか?」
「それは政府に禁じられてれていますので…」
「…なんだよそりゃあ…」
唖然としたまま、ため息と同時にクレイが言う。


しばらくの沈黙のあと、看護婦がゆっくりと話し掛けてきた。

「…あの、それで、システムがダウンするまであと30分足らずなんです。せめて最後を看取ってあげてくれませんか?マスターさん…」
「あ、いや、俺は違うんだが…」

看護婦の導かれるがままに、クレイはメンテナンスルームへと案内された。


そこには先ほどとまるで変わっていない、ディヴァインの姿があった。

「…クレイ様、申し訳ありません…。」
ディヴァインが先ほどと変わりない雑音まじりの声で言う。
「…お前が謝ることは何もないさ…。」


しばしの沈黙。
クレイは気になったことを切り出した。

「…看護婦は随分旧型だと言っていたが、お前一体どのくらいの間あの部屋にいたんだ…?」

しばらく考えるような時間をあけたあと、ディヴァインがゆっくりと語り出す。
「…全部で2年と1ヶ月24日、13時間52分になります。」

クレイは声をしばらく出すことができなかった。
2年。
そんな長い間彼はあの部屋で戦いつづけていたというのか。

「…いったい誰があんたを落とし込んだんだ?」
「落とし込んだ、ですか…。まあ、信じたくありませんが、そうなのかも知れませんね…。」
ディヴァインの声が急に悲しげになった。

「…あえて言うとするなら…、マスターです…。」
「な…?」


「…2年前…」
ディヴァインはゆっくりと、落ち着いた声で、しかしどこか悲しげな声で語り始めた。

「…約2年前、私はマスターとご一緒にあのエリアを探索していました…。」


ディヴァインの話は、次のような内容だった。
ある程度探索が終わったところで、いったん街に戻ることになった2人。

しかし探索を再開しようとするとき、その「マスター」の男はしばらく待っておけ、と言い残し、一人で坑道に向かった。
しばらくするとリューカーによってパイプが開かれ、降りて来い、との連絡があった。

そのとき何故か、テレパイプはすべておいて来い、と言われたそうだ。
言われるがままにテレパイプをすべておき、マスターの元に降りてみたところ…

そこには敵の大群があった。
そしてディヴァインが到着した瞬間、「マスター」は自らのパイプで消えうせた…。


それから2年間、マスターが再び戻ってくることを信じ、彼は戦いつづけた。
部屋の扉には全てロックがかかっており、部屋から脱出するのは不可能だった。
生き残るすべは、普通の者ならあきらめて死を覚悟するような敵の大群に、打ち勝つ。
それしか残されていなかった。
しかし、2年もの死闘の間、マスターからは何の連絡もなかった。


彼は気付いていた。
そう、自分は捨てられたのだ、と。


でも旧型の彼にはマスターを待ちつづけることしかできなかった…。



…なんとも残酷な話だ。
クレイの目にはうっすらと涙がうかんでいた。

「ディヴァイン…お前、俺が来なかったら…まだ待つつもりだったのか?」
「…はい。そうすることしか、私にはできませんでしたから…。」

「辛かったろう…?そんなボロボロになるまで戦って、必死で生き抜いても、信じている人は現れなかったわけだ…。」
「…いえ、最後には、辛くはありませんでした。」

タイムリミットが迫っていた。
「私は、あなた様にこうして会うために、作られてきたのかも知れません…。」


徐々にディヴァインの目から光が失われてゆく。
「まて!ディヴァイン!最後に、最後にそのマスターの名前、教えてくれないか!?」
「…わかりました。私の“元”マスターのお名前ですね…?」
「…え?」
「彼の名前はグラハム。グラハム=ルーベンスです、マスター。」

彼の言動には、一つありえないことがあった。

マスターの変更。
これは最近になって従属型アンドロイドについた機能で、2年前に生産されていたアンドロイドにそのようなことはありえなかった。
いや、あってはならなかった。
プログラムの命ずるままに動く彼らに、その命令に背くことなんてできはしないのだから。


信じられないような、嬉しいような、悲しいような。
そんなわけの分からない感情のまま、クレイはディヴァインをただじっと見ていた。

「マスターって…お前…」
「ありがとうございました、マスター。何もお役に立てないままでしたが、私の体はもう動かなくな…って…し…」


振り絞るような言葉を言いきることなく、ディヴァインの目から完全に光が失われた。
そこにはただのスクラップとなってしまったディヴァインの体だけが残されていた。




…数時間後、街の中にもう一度ディヴァインを担いだクレイがいた。
しかし、今度は誰も声をかけようとはしなかった。
彼の表情には、深い悲しみと、今にも爆発しそうな激しい怒りの感情が誰にでも見て取ることができたから。

クレイは預り所の前まで来ると、担いでいた物をカウンターの上に置き、こう言った。

「俺の大事な物だ。しばらく、こいつを預っててくれ。」






あれから2ヶ月後。
クレイは人を探していた。
この広い宇宙船の中で、たった一人のその人物を探すことは不可能に近かった。
しかし、彼は探し当てていた。
探し人の名は…


「グラハム=ルーベンス」。


ようやく探し当てた情報によると、グラハムは今現在森エリアに探索に行っている、とのことだった。

クレイは一人、森へ向かった。
その手には、何故か壊れたソードのみが握られていた。



「グラハム=ルーベンスだな…?」
森で出会ったハンターにクレイはそう問い掛けた。

「ん…?なんだお前は…?」

グラハムの横には、新品のパーツで固められたレイキャシールが立っていた。
クレイの敵意を察知し、手に持ったライフルを構えている。

「…ディヴァインというヒューキャスト…覚えてるか…?」
クレイは壊れたソードのスイッチを入れながら尋ねた。
「ディヴァイン…?ああ、俺が昔使っていたポンコツのことか。」

その言葉を聞いた瞬間、クレイの手に力が入る。
が、それにあわせてレイキャシールのライフルの銃口もクレイに向けて定められる。

「…おいおい、なんだってんだ?あんた。あれはもう随分昔に廃棄処分した奴だぜ?今はほら、この可愛い奴が俺の相棒さ。なあ?マリア。」
「…Yes、マスター…」

マリアと呼ばれたレイキャシールは単調に答えた。
どうやらただマスターに従うだけのプログラムがされているようだ。

「ディヴァインはあんたを信じて、あの修羅場を2年も生き抜いていたんだ!廃棄処分だと!?いいかげんにしろ!!」
クレイが一歩踏み出した瞬間、マリアのライフルがフォトンを発射する。
クレイの足元には、頭の大きさくらいの穴がぽっかりと空いていた。

「ははは!やめておいたほうがいいぜ。そのライフルはちょいと手が加えてあるんでね。」
マリアの後ろで自慢げに笑うグラハム。
その前に立ちふさがるレイキャシールは、もはやただの操り人形でしかなかった。

グラハムが続ける。
「大体、俺があいつを置き去りにしたって、別に法律でひっかかるわけじゃないんだぜ?俺はマスターだったし、あいつの所有者でもあったんだ。捨ててこようが、バラバラにしてうっぱらおうが、それは俺の自由ってもんだ。まああいつがあの装備で2年も粘るなんて思ってもみなかったがな。」

ニヤニヤしながらグラハムは語りつづけた。
「まさかあんた、あのポンコツに情がうつっちまったのか?物好きな人だねぇ。あははははは!!」


高らかに笑うグラハム。

今すぐぶった切ってやりたいが、それでは重罪になってしまう。
それに、あのレイキャシールのライフルをモロに食らってしまってはひとたまりもない…


クレイはゆっくりと腕をおろすと、ソードのスイッチを切った。

「そうそう、世の中うまく渡っていかねえとなあ。長生きできねえぜ?」

「…長生き、か…」
クレイはフォトンの消えたソードを地面に突き立てた。
しかし、彼の右腕にはまだ力が込められていた。



次の瞬間。
クレイは飛び出していた。

「うおおおおおおおおお!!」
右手に渾身の力を込め、グラハムをめがけて突っ込んでいくクレイ。
しかしその行動をマリアが見逃すはずはなかった。

バシュ!

マリアのライフルが再びフォトンを打ち出す。
今度は間違いなくクレイにむけて放たれていた。

しかし、クレイは迷うことなく左腕を差し出した。



血しぶき。
ちぎれ飛ぶ左腕。
しかし彼はひるむどころか、勢いを増してグラハムに飛び掛っていった。

渾身の右を振り下ろす。


グラハムは素手で殴られたとは思えないほど吹き飛んだ。


気を失っているグラハムに駆け寄るマリア。
どうやら何箇所か骨折しているらしく、すぐに応急処置が始まった。


左腕からボタボタとおびただしい血を流しながら、クレイはアイテムパックからテレパイプの束を取り出した。
そしてグラハムに思いっきり投げつけた。

バラバラになって散乱するテレパイプ。
クレイはグラハムを尻目に、ゆっくりと街に向かって歩き出した…。





街は騒然となっていた。
左腕を失った男が、ふらふらと歩いている。
並大抵の人間ならすでに失神、あるいはショック死しているだろう。
クレイはメディカルセンターには向かわず、まず預り所に向かっていった。


「…悪いな。預けてた俺の宝、返してくれねえか…」


クレイはディヴァインの「亡き骸」を背負い、ようやくメディカルセンターへ向かっていった。
クレイが歩くたび、左腕があった場所から血が噴出す。
まるで目印でもつけているかのように、クレイの歩いた場所にはおびただしい量の血痕が残されていた。



メディカルセンターに着く。
騒然となるセンター内。
慌てて看護婦が駆け寄ってくる。

「治療ですね!?すぐに再生させますんで、早くこちらへ!!」
治療室へ運ぼうとする看護婦の手を、クレイは右手で払いのけた。

「治療じゃねえ…。メンテナンスルームに連れて行ってくれ…。移植、頼めるか…?」








…それからしばらくすると、ゾークに続く腕利きのハンターが名をはせるようになった。


彼の名は「クレイ」。


何故か左腕がヒューキャストのもので修復されており、片刃の壊れたソードを愛用している。

しかしそんな彼を強く慕う者は、何故か大勢いるという…



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