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- 機械仕掛けの左腕 第一話 - Shin [1/4(Wed) 3:30]
機械仕掛けの左腕 第二話 - Shin [1/4(Wed) 3:41]
機械仕掛けの左腕 番外編 - Shin [1/4(Wed) 3:44]
機械仕掛けの左腕 第三話 - Shin [1/4(Wed) 3:52]
”each”(機械仕掛けの左腕 外伝) - Shin [1/4(Wed) 4:00]
あとがき - Shin [1/4(Wed) 4:06]
オマケ・裏設定 - Shin [1/19(Thr) 6:51]



機械仕掛けの左腕 番外編
Shin [Mail]
1/4(Wed) 3:44
すこし晴れた、心地のよい日だった。

森の中、一人の男が地面を悲しそうな目で見下ろし、たたずんでいた。
男の目の前には、土が盛られたようなあとが確認できる。

男はゆっくりと腰を落とすと、手にしていた花束をその前にそっと置いた。

ふっと風が男の髪を揺らす。


「…クレイ、なにしてんの?こんなところで。」
不意に男の背後に一人の少女が姿を現した。


ここは森エリア。
その静かな片隅。
原生生物さえも見逃してしまいそうなその場所は、花が咲き乱れ、木漏れ日が注ぎ込み、蝶が舞い、まるで別の空間に迷い込んでしまったような、そんな美しい場所だった。

男はゆっくりと立ちあがり、少女の方を振り返る。
「…ついてきてたのか。誰にも気付かれないように動いたつもりだったんだがな。」

少し強めの風が吹く。
足元に咲いていた花の花びらが、いっせいに舞い上がった。

そんな中、少女がクレイの背後の物を覗き込みながら尋ねる。
「ねえ、それってお墓…?」

クレイが少しいたずらに笑いながら口を開いた。
「ああ。かわいいシヴァンちゃんには関係のないものさ。」

少女は、少しムッとした表情を見せた。
「なによそれ〜。一応私だってアンタのパートナーなんだからね。隠し事はなしって約束でしょ?」

あきらめたような表情を浮かべながら、クレイはゆっくりと腰を下ろした。
「わかったよ。いつかお前にも話さなきゃいけないと思ってたからな。」

クレイは自分の横の地面を軽くたたきながら言った。
「ほら。少し長くなるからな。まあ座れよ。」

シヴァンは軽くうなずくと、クレイの横にちょこんと腰をかけた。

やさしい風が二人の髪を揺らす。

クレイは少し遠くを見ながら、ゆっくりと語りだした。
「これはお前の言う通り、墓なんだ。墓とは言っても、その人の片腕しか埋まってないがな。」

シヴァンは少し驚きの表情を浮かべる。

「俺はなんだか、左腕っていうのに呪われてるみたいでね。どうも昔から左腕だけに随分と縁があるんだ。」

クレイが少し苦笑する。

「あれはちょうど、5年くらい前だったかな…?」






クレイの胸は高鳴っていた。
自分の手には、憧れのハンターズライセンスが握られている。

自分もついに、一人前のハンターになったんだ。
そのような実感が、やがてこらえきれない感情となり、自分の意思とは別に顔にでてしまう。

「くぅ〜…、ついにやったぜ〜…。」
思わず声に出すクレイ。

そこに水を差すように、クレイの後頭部に衝撃がはしった。
「な〜に一人でにやけてんのよ、気持ち悪いわよ?」

クレイの後ろで、いたずらっぽく微笑む一人のレイキャシールがいた。

黄色いボディに、人工の皮膚を貼り付けているアンドロイド。
しかし、すらっとした長身の彼女には、「美人」という言葉がふさわしかった。

「…って〜なぁ。別にいいだろ?マジでうれしいんだから。」
叩かれた後頭部をさすりながら、クレイが振り返る。

「アンタはいいよな、クレハ。もうA級ライセンス持ってるんだし。」
「なによ〜、人がせっかく祝福してやってんのに。少しはありがたく思いなさい!」

クレイがへいへい、と諦めたように返事を返すと、クレハはクレイの腕を引っ張った。
「ねえ、新しいエリアが見つかったんだって。行ってみない?」

二人はパートナーだった。
まだ一人前のハンターとして認められていない、いわば仮免許を持っている状態のクレイに、パートナー兼教育係として任せられたのが、クレハだった。
しかし初めからよく気が合ったので、まるで昔からパートナーだったように二人とも振舞っていた。

このころ、未だラグオルは探索が進められている最中だった。
森、洞窟と探索が進められ、また新たなエリアの存在が確認された。
そこは、まるで何者かに意図的に作られたような、いまだ用途がわかっていないエリアであった。

通称、坑道エリア。

今までのような生物ではなく、改造された作業用ロボット達が襲いかかってくるので、その探索は困難を極めていた。


そんな場所に誘われたのだ。
クレイもすぐに返事はできなかった。

しかし。

「ねえ、どうしたの?行こうよ。」
「あ…、お、おう!」
クレハの一言で、その迷いは全てかき消されてしまった。

そう、クレイはクレハのことが好きだったのだ。

そしてクレハもクレイのことが気になっていた。

そんな二人の微妙な関係は、周りから見ればもう立派なカップルにしか見えなかったのだが……。


転送装置の前で、クレイがやはり不安そうに口を開いた。
「なあ…、本当に大丈夫なのか?あそこって相当やばいらしいぜ…?」

クレハは微笑みながら言葉を返した。
「大丈夫だよ。それに、危なくなったらクレイが守ってくれるでしょ?」

そこから先に、言葉はいらなかった。



坑道エリアの敵は、噂にたがわぬ強さだった。
ハンターと認められたばかりのクレイはまだしも、A級のライセンスを持っているクレハでさえ苦戦を強いられるような場所だった。


混戦は続いた。


そんな中、事件は起こった。



「きゃあ!」
クレハの悲鳴を耳にし、クレイは声のしたほうを振り返った。

クレイの目には、ギルチックの手に弾かれたクレハの体が宙を舞っている姿がうつった。

落ちて行くその場所には…

底の知れない穴があった。

「クレハ!!」

クレイは慌ててその場所に向かおうとした。
しかし目の前には敵が立ちはだかる。
「くそっ!!邪魔だぁ!!」

クレイは持っていたセイバーで斬りつける。
しかし敵の装甲は厚く、なかなか倒れてくれない。


必死に斬りつけても、何度も立ちあがってくる。
次から次へと、敵の増援が増えてくる。


ほんの4〜5mだろうか。
クレハの居る場所への距離はそんなものだった。

この短い距離を、助けに行くことができない。

「ちくしょう!!」

渾身の力を込め、目の前の敵をなぎ払って行く。

しかし、ようやく到達したその場所には、クレハの姿は…なかった。

「クレハ!クレハ!!」

クレイは襲いかかる敵を振り払い、穴を覗き込んだ。


そこには、今にもちぎれそうな左腕で、必死に穴の淵にしがみついているクレハがいた。

「クレハ!待ってろ、今引き上げてやるからな!」
クレイはクレハの左腕を両手でつかむと、引き上げようとした。


しかし…、仮にもクレハはアンドロイド。
生身の人間のクレイにどうにかできる重さではなかった。

クレイは膝からガクッとその場に崩れ落ちる。
しかし、クレイはその手を離さなかった。

自分の最愛の人が、今、目の前で危機に陥っているのだ。
離せるわけがなかった。


そんなクレイの背後に、多数の敵が歩み寄る。

文字通り手も足も出せないクレイに、次々と容赦の無い攻撃が加えられる。

横腹に強い衝撃。
身を焦がすような強烈な電流。

クレハを支えている腕の両肩の皮膚が裂け、血が滴る。

「ぐああぁぁぁぁ…!!」

思わずもらす苦痛の叫び。
しかし、敵の攻撃は止まらない。

そんな光景を目にしていたクレハもまた、苦痛に耐えていた。

「もう…、いいよ。お願いだから、手を離して…。」

「誰が…、誰が離すもんか…!ぜったい、守ってやるからな…!!」
必死で引き上げようとするクレイ。
しかし、やはり少しも引き上げられる気配はない。


じわじわと体力を削られていくクレイ。
その背後に、まるでとどめをさしに来たかのように、一体のギャランゾが姿を現した。

それに気がついたクレハは、必死にクレイに訴えかける。
「だめ…!クレイ、お願いだから逃げて…!!」

しかしクレイは、相変わらずその手を離そうとしない。
「い…やだ…。」

ギャランゾがすでにクレイを射程範囲にとらえ、攻撃の態勢に入ろうとしていた。


そのときだった。

不意にクレハは残った右腕で、自分のハンドガンを取り出した。
そして、自らの左肩に銃口を重ねる…。

「な…、や、やめろ!クレハ!!」
クレイはなんとか止めようとするが、両手が塞がっていては、どうすることもできない。



「ごめんね、クレイ…。」



クレハはゆっくりとその人差し指を動かした。



「大好きだったよ…。」



クレハのハンドガンから、一筋の閃光が放たれた。



ゆっくりと暗闇に吸い込まれて行くクレハの体。
クレイの手には、クレハの左腕だけが残されていた。

「う…、うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

狂乱状態となったクレイを、止められる者はいなかった。




数分後、おびただしい量の残骸の上に座る、クレイの姿があった。

「…もっと…」
独り言のようにクレイがつぶやく。

「…もっと、俺に力があれば…、強い武器があれば…!!」

手にしていたセイバーを強く握り締めるクレイ。
彼の手の甲は、とめどなく落ちてくる雫でぬれていた。


このときクレイは、生まれて初めて、泣いた。







ゆるやかな風が、じっとうつむいたまま動かないシヴァンの頬をそっと撫でる。

「…と、まあ、そんなこんなで俺は盗賊に成り下がっちまったワケだ。」
クレイは一通り語り終えると、シヴァンの方に向き直った。

シヴァンの目には、今にもこぼれそうな量の涙があふれている。

そんなシヴァンを見て少し気まずそうにしながらも、クレイは語りつづけた。
「俺が盗賊になった理由も左腕、辞めた理由も左腕なんだ。こりゃあもう、呪われてるとしか思えないだろ?」

なんとか場の空気を和ませようと、クレイが軽く笑みを浮かべながら言う。

しかしシヴァンは、こぼれ落ちる涙を止めることができないでいた。

困った表情を浮かべながら、クレイがゆっくりと立ちあがる。
そして墓の前まで足を進めると、またゆっくりと腰を下ろした。

「まあ…、この話で泣いてくれる人がいるんだから、クレハも少しは浮かばれるはずさ…。」




不意にまた強い風が吹く。


墓前に供えられた花束のリボンがほどけ、束ねられていた花が宙に舞い踊った。


足元に咲き乱れる花達と一緒に、どこまでも青い空に吸い込まれて行く…。



クレイはゆっくりと立ちあがると、その光景をいつまでも眺めていた。



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