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- 機械仕掛けの左腕 第一話 - Shin [1/4(Wed) 3:30]
機械仕掛けの左腕 第二話 - Shin [1/4(Wed) 3:41]
機械仕掛けの左腕 番外編 - Shin [1/4(Wed) 3:44]
機械仕掛けの左腕 第三話 - Shin [1/4(Wed) 3:52]
”each”(機械仕掛けの左腕 外伝) - Shin [1/4(Wed) 4:00]
あとがき - Shin [1/4(Wed) 4:06]
オマケ・裏設定 - Shin [1/19(Thr) 6:51]



機械仕掛けの左腕 第二話
Shin [Mail]
1/4(Wed) 3:41

“パートナー”。

どんなに腕の良い者でも、必ず良きパートナーがいるものである。
あのゾークでさえ、シノというアンドロイドが死の間際までそばにいたと言われている。

無論、その男にもパートナーがいた。
これは、その二人の出会った時の出来事を記した物語である…



「おい、あのクレイが街にきてるらしいぜ」

街を歩いているとどこからかそのような話し声が聞こえてくる。
ハンターズギルドの腕利きハンターとして名をはせていたその男は、何らかの動きを見せるたび、噂話となっていた。


話にあがっている男はグラハム傷害事件を起こし、裁判にかけられたものの「無罪判決」という結果をおさめている者である。
告訴したグラハム=ルーベンス側の非人道的な過剰防衛、というのが理由だった。
逆にグラハムが刑を受けるという異例の結果に終わっていた。

彼の名は「クレイ」。

愛用するその武器が壊れたソードだけだということから、「豪刀」ゾークを超えた存在である、という噂が流れるほどの実力者である。

そんな彼に尊敬、あるいは憧れという感情を抱くハンターは少なくなかった。



「はぁ〜…、またやっちゃった…」
ショップの中からがっくりとうなだれた一人のフォニュエールがトボトボと歩いてきた。
「なんでこう、いつもいつも売る物まちがえちゃうのよお…。こんなんじゃ、クレイさんなんて夢のまた夢ね…」

探索で入手したアイテムを売却し、メセタに替えるという行為は、ハンターズの者ならばほとんどの者が行っていることである。
が、時々必要なアイテムまで間違えて売却してしまう者がいることもある。

彼女はその常習犯であった。
名をシヴァン=ステールンという。
彼女もまた、噂のハンター「クレイ」を慕う者の一人だった。

「だいたいこのアイテムパックの構造が悪いのよ…」
うつむいてぶつぶつと独り言を言いながら歩くシヴァン。
一体何が起こったのか、周りの者も漂う哀愁でうかがい知ることができた。


…ドン!


「きゃっ!!?」
ショップを出たところで、シヴァンは何者かとぶつかり、突き飛ばされた。
先ほどアイテムを売却して得たメセタが床にバラバラに散らばってゆく。

「…ったあ〜い!もう、誰よ!」
しりもちをついた状態でシヴァンはぶつかった相手を見上げ、怒鳴りつけた。

「わりぃ。ちょっとよそ見してたんでな。」
そこには背の高い一人のヒューマーが立っていた。
「今すぐ拾ってやるよ。ちょっと待ってな。」
彼は手に持っていたソードを地面に下ろすと、散らばったメセタを手際良く拾い始めた。

「…早くしてよね…」
自分はあえてなにもしようとせず、しりもちをついたままシヴァンが催促する。


シヴァンはそのヒューマーの様子をじろじろとうかがっていた。
そのヒューマーは、銀色の髪を頭の上で束ね、グレーのスーツを身にまとっていた。
「…全身灰色?趣味悪いわねぇ…」
「ほっとけ!」
ぶつかられたことで気分を悪くしたシヴァンは、少しでもこの男をけなしてやろう、そう思い、彼の容姿を観察し始めた。

東洋風の顔立ち。
ひきしまった体。
異様に力強く見える右腕…。

「…どこかで見たことあるような…?」
「ん?そうか?ほら、立てよ。」
メセタを拾い終わると、ヒューマーは左手をすっと差し伸べた。

「…え?」
…彼女は伸ばしかけた手を止め、彼の手を取るのに戸惑った。
今彼女の目の前にあるのは、白い旧型のヒューキャストの腕。
なぜ?
彼は人間だったはず…


「…あああああああああああああ!!?」
次の瞬間、シヴァンはヒューマーを指差して叫んでいた。
まわりにいた他の人々も、声のほうにいっせいに注目する。
「あなたもしかして…クレイさん!?」

そう、彼こそ自分の目標とする噂のハンター、クレイその人だったのだ。
あたりにいた人々が少しざわめき始めた。

「…おう。なんだ、俺もいつのまにか有名になったもんだな。」
クレイが少し驚きの表情を見せる。
「有名も何も…、って、あ!」

慌てて立ちあがるシヴァン。
「し、失礼しましたあ!」
立ちあがるや否や、ふかぶかとお辞儀をするシヴァン。
いつのまにか、二人の立場がまったく逆になっていた。

「あの、わたしぼーっとしてて、それで…」
必死に弁明しようとするシヴァンに戸惑いつつクレイが言う。
「おいおい。ぶつかったのは俺のほうだぜ?なんで俺が謝られなきゃ…」
「と、とにかく、私が悪いんです!」

クレイは少々苦笑いをしつつ、自分のギルドカードを取り出した。
「あ〜もう、わかったわかった。俺はこれからちょいと急ぎの用があるから、もう行ってもいいか?とりあえず、こいつ渡しとくわ。」

クレイは自分のギルドカードをシヴァンに差し出した。
シヴァンは差し出されたカードをしばらくぼんやりと見つめたあと、両手でゆっくりと丁寧に受け取った。


「…あ、ありがとうございます!」
妙に輝いた目をしたシヴァンがクレイを見上げて言う。

「なんかあったら連絡してくれ。じゃあな」
ソードを拾いながらそう言うと、クレイは中古ショップの中へと消えていった。


しばらくその場に立ち尽くすシヴァン。
「すごい…。私、本人に会えたよぉ…」
独り言のようにポツリとつぶやく。
その手には、しっかりとギルドカードが握られていた。



「…あ、あれ…?」
ふと、シヴァンは一つ忘れていることに気がついた。
「あ、まってぇ!クレイさぁん!私のお金ぇ!!」
クレイの入っていったショップの中に、シヴァンは慌てて入っていった。




中古ショップの中。
薄暗い雰囲気のその店の中には、珍しい物や小汚い物まで、さまざまな物が置かれていた。


妙に辛気臭い店主が、入ってきたシヴァンをにらみつけるようにうかがう。
シヴァンはあたりを見まわしたが、クレイの姿は見当たらなかった。

「…何かお探しかね…?」
ボソッと店の店主が尋ねた。

シヴァンは慌てて店主の方に向き直り、質問を返した。
「あ、あの、ここにクレイさん、来ませんでしたか…?」

店主は眉間にしわを寄せながら答えた。
「なんだ、客じゃないのか…。あの人には、奥にある物置貸してやってるんでね。アンタ知り合いかい?そこの扉から物置にいけるよ…」

店主はそう言うと、隅のほうにある扉を指差した。
「あ…、はい、わかりました…」
申し訳なさそうにシヴァンは部屋の奥へと足を進めていった。



薄暗い廊下が続く。
所々にある小さなランプだけが唯一の道しるべになっていた。
廊下にはシヴァンの足音だけが静かに響いていた。

「なんだよここぉ…」
恐る恐る奥へと足を進めるシヴァン。
しばらく進むと、ぼんやりと明かりのついた場所が確認できた。

どうやらあそこが物置らしい…

いきなり出て行くのも悪いと思った彼女は、そっと中の様子を覗いてみることにした。

ぼんやりと闇に浮かんだクレイの顔が見える。
その奥には、何か人影のような物が見えた。

パチッとスイッチを入れる音。
物置の中がふっと急に明るくなる。

クレイの前には、ボロボロの白いヒューキャストが座り込んでいた。
しばらく向かい合うように座って、ぼんやりとそのヒューキャストを眺めるクレイ。
ふと思い出したように、クレイはアイテムパックからごそごそと何かを取り出した。

「ほら、今日はこのパーツを見つけてきたぜ…」
クレイが取り出したのは、旧型ヒューキャストの胸の部分の装甲であった。
クレイがその部品をヒューキャストに押し当てると、ぱちりと小気味良い音が響く。

「よし、ぴったりだ。」
クレイはどこからか持ってきた工具で、装甲の装着を始めた。

その作業をぼんやりと見つめるシヴァン。
そんなとき、クレイが作業をしながら唐突に口を開いた。
「…で、アンタは何しにきてんだい?」

「え…、え!?あ、はい!」
慌ててシヴァンが部屋の中に入ってくる。
「えっと…、あの、まず、のぞいてて、すみませんでした!」
シヴァンはペコペコと頭を下げた。

「ああ…、まあいいから、何の用だい?」
クレイは作業の手を止め、シヴァンに向き直った。
「カードは渡したはずだけどな…?」
「あ、カードはもらいましたけど…その…」
言い辛そうにシヴァンが口篭もる。

「その…お金をまだ…」

「あ…ああ!いけねぇ!」
クレイは慌ててアイテムパックからシヴァンのメセタを取り出した。
「わりい、急いでたからな。肝心な物を忘れてたな、はははは!」
シヴァンはクレイからメセタを受け取ると、ぺこりと軽くお辞儀をした。


クレイは再び作業を始めていた。
良く見てみると、ヒューキャストには左腕がなく、所々に修復されたようなあとが確認できる。

白いボディのヒューキャスト。
どうやらクレイの左腕も、同じ型式の物のようだった。
シヴァンはふと、昔耳にしたクレイの噂話を思い出した。



“クレイは助けられなかったヒューキャストの左腕を、自分の腕に移植しているらしい。そのヒューキャストというのが…”



「…もしかして、それってディヴァインさんですか…?」
シヴァンは思い切って質問してみた。

クレイはその言葉を聞くと、突然作業の手を止め、シヴァンのほうを向く。
「…なんでしってるんだ…?」

クレイの表情がそれまでの穏やかな表情から一変した。
にらみつけているわけではない、しかしどこか威圧感のある目でシヴァンを見ていた。

そんなクレイに少しおどおどしながらも、小さな声でシヴァンは答えた。
「いえ…、その、噂で聞いたもので…」

クレイの表情がふっともとの穏やかなそれに戻る。
「噂…?こいつのことまで噂になってんのか?」
クレイはヒューキャストの方に向き直った。


クレイはぼんやりとヒューキャストを眺めながら、シヴァンにゆっくりと語りだした。

「…ああ。確かにこいつはディヴァインだ。見ての通り、随分と旧型でな。ちょっとしたパーツを探すだけでも一苦労だ。」

クレイはゆっくりとディヴァインの横に歩いていくと、その横に腰掛けた。
「自分でもなにしてんだか、訳わかんないんだ、実は。たった数時間しか関わりのないこいつの為に、なんでこんなに必死になってんだか…。」

軽く苦笑するクレイ。
シヴァンはそんなクレイをただぼんやりとしながら見ていた。


アンドロイドは、メインのシステムがダウンしてしまうと、あとはいくら修理しようが動くことはない。
人間でいう、「死」がそれである。
ただ一つの方法として、購入する際にマスターにのみ渡される「マスターシステム」を用いて、システムの再構築を行うという手段もある。
しかしその場合には、以前の記憶が残っている保証はなくなってしまう。


「…おっと!ちょっと長いことしゃべり過ぎちまったな。」
何かを思い出したようにクレイが立ちあがった。

「またこれからちょっとした用事があるんでな、悪いが今日はもう帰ってくれねえか?」
その言葉を聞いて、シヴァンはふっと我に返った。
「…あ、わかりました。おじゃましましたぁ…」
ぼんやりしたまま、シヴァンはもと来た薄暗い廊下をゆっくりと歩いていった。



居住エリアの片隅で、ぼんやり空を見つめているシヴァン。
彼女の心の中には、一つ引っかかっていることがあった。

「…あのパーツ、どこで手に入れてるんだろ…」

旧型のパーツなど、メディカルセンターでさえ扱っていない代物なのだ。
無論、どんな店にも置いていることすら珍しい。
手に入れる方法があるとすれば、それは…

「…盗賊は辞めたって聞いたけどなあ…?」
クレイは元盗賊。
グラハムの事件をきっかけに足を洗ったと聞いている。
しかしシヴァンの頭の中には、“盗む”という行為しか思い浮かばない。

気になったシヴァンは、なんとなくクレイのカードをチェックしてみた。
…と、すぐ近くに反応がある。

顔を上げてみると、準備を整えたクレイが転送装置にむかっていた。
どうやら、どこかに探索に出かけるらしい。

シヴァンはこっそりとあとをつけてみることにした。




坑道エリアの中。
クレイの実力は噂にたがわぬものであった。

敵が現れるや否や、その手にしているソードで一閃する。
無駄な動きなどどこにも見つけることができない。

武器は確かに壊れたソードだ。
しかし、まるでそれ以上の高級な武器をあつかっているような強さだった。

そんなクレイに唖然としながらも、シヴァンはこそこそとあとをつけていった。


しばらく進んだところで、クレイが急に足を止める。
クレイの前には、破壊されたヒューキャストが横たわっていた。

まさか…?
シヴァンの脳裏に、最悪の結果が思い浮かぶ。
噂の英雄は、まだただの盗賊だったのだ、と。

工具を取り出し、ヒューキャストのパーツの一部を取り外し始めるクレイ。

「大変だぁ…!」
このことを誰かに伝えようと、シヴァンがそっと足を動かしたそのとき…

…カツン!

シヴァンの足元に落ちていた金属片が足にあたり、静かな坑道内にその音が響きわたった。
無論、それに反応してクレイも振りかえる。

シヴァンの姿を確認したクレイの表情は、驚きと、何か別の感情もあるように感じた。


「やっぱり…そうだったのね…。まだ盗賊やめてなかったんじゃない!」
シヴァンが振り絞るような勇気でクレイに叫ぶ。
「この、ハイエナハンターッ!!」

シヴァンの足はカタカタと震えていた。
クレイはソードのスイッチをいれながら、シヴァンの方を向く。
「いいか…そこから動くんじゃねえぞ…」
クレイは妙に落ち着いた声で言った。


次の瞬間、クレイはすさまじい速さで飛び出していた。
「きゃっ!!」
思わず目を閉じて身を縮ませるシヴァン。


クレイのソードはシヴァンの頭上を一閃した。

恐る恐る目を開くシヴァン。
目の前にはまだソードを持ったクレイがいる。

「こ、こないでっ!」
シヴァンは反射的にフォイエを放った。

とっさに身構えるクレイ。
しかしクレイは、シールドを装備している機械仕掛けの左腕ではなく、自らの右腕でその炎を防いだ。
炎が勢いよくクレイの右腕を包み込む。
「くっ…!」


今のうちに早く逃げなくては…!

シヴァンは後ろを振り返り、走り出そうとした。
しかしそれは、巨大な障害物によって阻まれた。


シヴァンの目の前には、真っ二つに切り裂かれたギャランゾがバチバチと火花を上げていた。

「はやく!こっちにこい!」
クレイはシヴァンの腕を引っ張り、ゴロゴロと横に転がる。


次の瞬間。

ドオオオオオオオオオォォォォォォォォン!!!

すさまじい爆音とともに、ギャランゾの体から巨大な火柱があがった。





「…お前、俺がまだ盗賊だって言ったよな…?」

ここはメディカルセンターの中。
治癒装置に右腕をいれたまま、横に座っているシヴァンにクレイが話し掛けた。
「俺、まだ盗賊に見えたか…?」

シヴァンは少しにらみつけるような視線でクレイを見据え、質問に答えた。
「あれのどこが盗みじゃないっていうのよ?」

たとえ破壊されたアンドロイドであっても、本人の同意、またはマスターの同意がないと、そのパーツを勝手に持ち出すことは許されていない。
アンドロイドにもまた、自らの意思があるのだ。
政府はアンドロイドの人権も尊重し、そのような法律を取り決めている。

「いくら助けてくれたからって、あのことを黙っておくわけにはいかないわよ!」
シヴァンは自らの目標としていたハンターの行動に、ショックを隠しきれない様子だった。

しかし、そんなシヴァンの様子を見て、クレイが軽く苦笑する。
思わずシヴァンは怒鳴りつけた。
「何がおかしいのよ!?」

クレイはアイテムパックから一つのカプセルを取り出した。
「こいつ、見てみろ。」
クレイはシヴァンにそのカプセルを投げてよこした。

「…何よ?これ」
疑わしい目をしながらも、シヴァンはカプセルのスイッチを入れてみた。
ブンッ…と軽い音を立てると、カプセルから一つの文書が映し出された。

「…あ…」
それはまぎれもない、「許可証」であった。
しかもマスター、本人両方のIDが登録してある。

「ちゃんと全部、許可はとってあるさ。盗んだ物で直しても、あいつも浮かばれないだろうしな。」
クレイはアイテムパックの中身をシヴァンに見せた。

クレイのアイテムパックの中には、回復薬も、テレパイプもなかった。
先ほどの物と同じカプセルが、アイテムパックいっぱいに詰まっていた。

思わず声を失ってしまうシヴァン。
そんなシヴァンを見て、クレイは笑いながら声をかけた。
「あんた、根性あるねえ。結構レベル離れてるのに、俺が怖くなかったのかい?」

少しうつむいて、シヴァンが申し訳なさそうな声で答える。
「そりゃあ…、少しは怖かったけど…」

メディカルセンター内に、クレイの笑い声が響いた。

「いやあ、あんた気に入った!そこらへんのヘッポコハンターより、はるかに強いよ!!はははははは!!」
クレイの笑顔は、本当に嬉しそうだった。
そんなクレイを、唖然と眺めるシヴァン。

笑い終わると、クレイは決心したようにシヴァンに聞いてみた。

「あんた、俺と一緒に組まないか?」





壊れたヒューキャスト、「ディヴァイン」の修理は、二人の腕利きハンターによって順調に進んでいるそうだ。

しかしそんな二人にも、別の「パートナー」と呼べる存在が現れはじめた。

その作業に手を貸す一般の人々が、日に日に増えているのだ。



全ての人が、同じ考えを持っていた。

大切な人には、いつかまたきっと会えるはず、そんな願いを胸に。



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