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知られざる抗争 #2
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12/7(Sat) 18:55
#2
 キャロライン私設研究所


「ありがとうございまーす」

「こじんまり」としつつも整然と明るい店内に、柔らかいが、やや事務的な声が響く。店員から、目的の商品を手渡された客は、無愛想に何も答えず店を出る。
 それは客としてみても、いささか無遠慮な態度であったが、店員の方は慣れっこであるらしく、意にも介さず次の客の応対へと移る。

 それは、いわゆる現時代で言う「コンビニエンス・ストア」そのままの光景だった。惑星「コーラル」文明にも、似たような商売があるらしく、高性能な雑貨店として、それは機能していた。
 顧客側には非常に便利かつ、企業側には収入の多い、商売の理想の様なシステムなので、当然パイオニア2にも、その店舗は多数存在していた。
 おそらく、パイオニア1にも同様の店舗が、存在していたはずである。



 商品を受け取り、その場での目的を果たし、早々と退店した客は、外気が入店前とだいぶ変わっている事に気づき、身震いをした。

「フン……わざわざ、雨期の気候まで再現するなんて、この船の開発者には、よほどの馬鹿がいたのね」

 先ほどまでの客、キャロルはそう毒づく。
 その論理は間違いだらけだったが、彼女にとっては現実がどうであろうと、それこそが真実であった。存在としてのヒトに興味の無い彼女は、ヒトの生態系や、習慣に関する事にも無関心であった。

 雨が降っては、作業効率が低下する――構造的にわざわざ雨を降らせなくても、環境を維持する事の出来るだけのシステムを持つパイオニア2内では、キャロルにとって、これだけでも雨の再現は十分に無駄と思える機能だった。

 しかし、政府とは何の関係もない、一介の機械工学研究者に過ぎないキャロルが、そんな事を思ったり、言ったところで、何の意味もない。
 キャロルもそれは解っているため、わざと嫌味たらしく毒づいてみるものの、連れもいないため、その後は終始無言だった。
 雨の中、次々と繰り出されるテレビ・コマーシャルを見るかのごとく、居住ブロックのビル郡をその視線に合わせながら、歩を進めてゆく。



 ややあって、キャロルは目的地の工業ブロックへと到着した。ここまで来れば、自分の仕事場・住居兼用の研究所は目と鼻の先だ。家に帰ることが嬉しいのか、彼女は足を早めた。

 工業ブロックは、ビル等の施設の数こそ、居住ブロックにも遅れを取らぬものの、不必要ゆえにその華やかさは居住ブロックのそれと比べた場合、これ以上なく貧相なものだった。
 だが、キャロルにとっては、この無機質な感覚の方が好みに合うらしく、先ほど居住ブロックを歩いていた時より、その表情が柔らかい。

 目的地に着いた。周りの建物に比べれば、ずいぶんと貧弱だったが一人で研究をすると言う分に置いては、何ら問題はないし、キャロル自身も周りとの差などには、少しも興味を持たないため、これで良かった。

 キャロルが目をあげると、そこには既に迎えのイングラムの姿が見える。それまで終始無愛想な表情をしていた彼女の表情が、玩具を与えられた子供のごとく、パッと明るく輝いた。

「オカエリなさいマセ、キャロル博士」
「ただいま、イングラム。わざわざ出迎えてくれなくても、良いのに」
「イエ、濡れて帰ってクル、博士ヲ見過ごす訳ニハ行きまセン」
「ふふ……」

 キャロルは、そんなイングラムのやさしさに、しばしの間、酔いしれる。
 だが、本来それは滑稽な事であった。アンドロイドが、いかに高性能化し、人間に近づこうと、所詮は人の造ったプログラムに沿って動くだけの機械に過ぎない。

 当然、このイングラムの行動も、キャロル博士が思考プログラムの中に組み込んでいるに過ぎない。ある程度の自己進化能力は備えているものの、それも行動効率の最適化程度だ。
 しかし、それでもキャロルにとって、機械のイングラムはかけがえの無い存在らしい。先にも述べたが、その扱い方は、もはや自分の恋人や、息子に対するそれとなんら変わりがない。

 それは、他人と解り合えない彼女の、渇望からくる一種の狂気による愛情と言えるかも知れない。



 彼女はの生い立ちは、幼少の頃より決して幸せと言えるものではなかった。両親は居たものの、キャロルが産まれた直後に離婚し、結局、母親に引き取られた。
 その母親は、キャロルが十五、六歳になるかならぬかの内に再婚したのだが、義父側の方に既に子供がいたため、結果としてキャロルは、のけ者扱いされる形になった。

 度重なる嫌がらせや、暴力にも彼女は生まれ持った不屈の精神力で耐えた。だが、それが良くなかったのかも知れない。
 キャロルは耐え、決して人に弱みを見せずに生きたため、誰に救いの手を差し伸べられる事もなく、人間そのものに不信感を抱いたまま成長した。

 そして、二十歳になり、ほとんど親元から逃げ延びる様な形で独立した頃、彼女は機械工学と出会った。自分にどんな嫌がらせもしない、思い通りに従順に動いてくれる機械に、キャロルは奇妙な愛情を抱く様になった。
 さらに、その機械をより、高度化できる電子工学にも手を染めた後は、いよいよもって彼女は浮き世を離れ、機械やプログラムに愛情を注ぐかの様にして、研究に没頭していった。

 そして実践と失敗を繰り返し、キャロルは三十路にもなろうかと言う頃、人生最初にして最大の傑作であるアンドロイドを造り上げた。
 彼女は、そのアンドロイドにR・イングラムと言う名を付け、我が子の様に可愛がった。……いや、むしろ我が子そのものであったのだろう。

 それから四年近く経ち、現在に至る。



「ねえ、イングラム」
「何でしょウカ、博士」
「色々と研究してみたんだけれど、貴方をより高性能化できる算段が出来たの。どうかしら、「手術」を受けてみる気は無いかしら?」

「博士のご判断に従いマス」
「あなたの「意志」はどうか、って聞いているのよ」
「……モチロン、喜んで受けサセテ頂きマス」
「決まりね」


 この時、キャロルはある、禁忌に立ち入ろうとしていた……。



続く



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