Turks Novels BBS
〜小説投稿掲示板〜


[新規投稿] [ツリー表示] [親記事一覧] [最新の記事を表示] [ログ検索] [ヘルプ] [ホームページへ戻る]


- 知られざる抗争 - Mr.X線 [12/6(Fri) 0:26]
知られざる抗争 #2 - Mr.X線 [12/7(Sat) 18:55]
知られざる抗争 #3 - Mr.X線 [12/14(Sat) 20:13]
知られざる抗争 #4 - Mr.X線 [12/19(Thr) 23:23]
知られざる抗争 #5 - Mr.X線 [12/30(Mon) 0:13]
知られざる抗争 #6 - Mr.X線 [1/3(Fri) 19:19]
THE EPILOGUE - Mr.X線 [1/3(Fri) 19:47]
あとがき - Mr.X線 [1/3(Fri) 19:54]



△上に戻る
知られざる抗争
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
12/6(Fri) 0:26
どうも、X線です。
そろそろ構想が固まったので、新作に取り掛かろうと思います。
今回は私のオリジナルキャラクターが中心の話です。

相変わらずの素人小説モドキではありますが、
よろしければ、お付き合いください。


#1
 起動、R・イングラム


 「パイオニア計画」。それは、母なる惑星の老衰により、その住人達が実行を余儀なくされた彼らの歴史上、最初にして最大の全人類規模・大移民計画である。
 惑星「コーラル」に住む彼らは、ある時、宇宙の彼方から飛来した、フォトンと名付けられた謎のエネルギー物質の調査・解析に成功する。

 さらに、その飛来元を割り出し、そこに生命体の活動に適する緑の惑星を見つけた。彼らはこの新たなる大地となるべく星を「ラグオル」と名付けた。
 そして彼らは、本星の衰退によるコーラル人類絶滅を防ぐため、先に記した「パイオニア計画」を発動させる。
 この歴史的大移民に使われる宇宙船として、全世界の宇宙航行技術の粋が結集された、超巨大宇宙移民船「パイオニア1」が建造された。
 名前の末端に、数字が刻されているのは、これ一隻のみでの移民では無いからだ。まず、政府要人や軍、一部企業が、しかるべき物資を登載して先行し、惑星「ラグオル」に居住環境を構築・整備する。

 そして、これが終了した後に一般市民や、請負によりあらゆる仕事をこなす人間、組織である「ハンターズ」達を乗せた「パイオニア2」を出航させ、ラグオルで合流する。
 さらに期を見計らい、残りのすべてを「パイオニア3」で運ぶ。

 これが「パイオニア計画」の全貌である。
 しかし、この計画が順調に進んだのは、パイオニア2の出航までだった。予期せぬ事態がおきたのだ。事の詳細は、こうである。

 まず、パイオニア1がその長い旅路の末、惑星ラグオルに到着し、その後七年と言う歳月を掛け、原始の惑星であったこのラグオルに、本星コーラルと同等の居住環境を築く。
 そして環境整備が完了すると、パイオニア1からコールを受ける形で、パイオニア2が本星コーラルを出航し、ラグオルを目指した。

 だが、そのパイオニア2がラグオルの軌道上まで到達し、今まさにパイオニア1との交信回線を開こうとした時にラグオルの地表周辺で、大規模の爆発現象が起こった。
 その直後から、それまで全て正常に機能していたはずのパイオニア1は沈黙し、事実上パイオニア2は惑星を目の前にしながら、孤立した状態になってしまった。

 さらに都合の悪い事に、本来ならば、こう言った異常事態にこそ動くべき軍が、一般市民とハンターズの輸送を最重視したパイオニア2には、わずかな数しか便乗していなかったのである。
 この最悪の事態に、政府はハンターズへ本来の軍の仕事を依頼する形で、問題の解決を計った。

 だが、事は政府の思う様には進まなかった。
 ハンターズの調査によって発見されると思われていた、謎の爆発事故を逃げ延びたパイオニア1の人員が、必死の捜索を経ても、誰一人とて見つからなかったのだ。

 その後、惑星ラグオルにはかつて、いずこかの惑星の古代文明を滅ぼした、破壊神と呼ばれる存在が封印されている事が明らかになる。
 この破壊神は、想像を絶する破壊力をもってパイオニア2に襲いかかったが、この惑星から飛来したフォトンエネルギーの力を借りたハンターズ達によって、なんとか撃退された。

 だが、それを経ても謎は深まるばかりで、未だにパイオニア1の人員の消息すら、掴めていないのが現状だった。
 混沌とした状況の中で、この話は、パイオニア2のある民間研究機関から始まる。







 薄暗闇の中、一人の女が狭いとも、広いとも、つかぬ空間でなにやら作業をしている。その手つきを見る限りでは、女はコンピュータのコンソールをいじっている様だ。かなり手慣れている様子で、その動きはとても正確で素早いものだった。

 そんな中、女はふと作業の手を止める。……いや、作業が完了したらしい、コンソールによって操作されていた機械に、女は近づいてゆき、何事かをぼそぼそとつぶやいている。

「さあ、起きて……私の可愛いイングラム」

 女は人の名前を口にした。あるいは、それは目の前にある機械の名かもしれない。
 ややあって、女に話しかけられた機械が、作動をはじめた。

「システムキドウ……各項目、ちぇっく。オール・グリーン……オハヨウございマス、キャロル博士」
「ふふ、おはよう……R・イングラム」

 女に呼び起こされたのは、レイキャストと呼ばれる類の、大型アンドロイドだった。R・イングラムと言うのが、「彼」の名らしい。女はキャロルと言う名の様だ。

 ここは、パイオニア2内の工業ブロックに位置する場所の、研究所だった。研究所とは言っても、キャロルが一人で運営している小さな施設研究所であり、企業レベルの他研究所に対して、これと言った影響力も持たない。
 研究の内容は、アンドロイド及び、各種コンピュータシステムの新開発だ。恐らく、このR・イングラムも、その研究の一環で作られたアンドロイドであろう。
 だが、どうもキャロルは、それ以外の感情を抱いている様に見えた。

「ねえイングラム、喜んで。私も今日付けで、正式にハンターズ登録されたのよ」
「博士……それは危険デハ、ありませんカ?」
「何を言っているの? 私は、フォースとしての力も持っているのよ。それに……これで、いつでもあなたと行動を共にできるのよ」

 キャロルは、まるで想い人に対するかの様な態度で、このアンドロイドに接している。その思い入れは、もはや異常といっていい。
 甘い声を出して、目の前の鋼鉄の巨体にしなだれかかる。

「政府が、何かごそごそ始めたわ……また、一騒動ありそうよ。お願い、イングラム……私に力を貸して」
「博士がソコマデおっしゃるナラ……」
「ふふ、ありがと……嬉しいわ」


 時刻は午前六時。パイオニア2の人工的な夜が明け、空は淡い紫色に染まりつつある頃だった。



続く
レスをつける


△上に戻る
知られざる抗争 #2
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
12/7(Sat) 18:55
#2
 キャロライン私設研究所


「ありがとうございまーす」

「こじんまり」としつつも整然と明るい店内に、柔らかいが、やや事務的な声が響く。店員から、目的の商品を手渡された客は、無愛想に何も答えず店を出る。
 それは客としてみても、いささか無遠慮な態度であったが、店員の方は慣れっこであるらしく、意にも介さず次の客の応対へと移る。

 それは、いわゆる現時代で言う「コンビニエンス・ストア」そのままの光景だった。惑星「コーラル」文明にも、似たような商売があるらしく、高性能な雑貨店として、それは機能していた。
 顧客側には非常に便利かつ、企業側には収入の多い、商売の理想の様なシステムなので、当然パイオニア2にも、その店舗は多数存在していた。
 おそらく、パイオニア1にも同様の店舗が、存在していたはずである。



 商品を受け取り、その場での目的を果たし、早々と退店した客は、外気が入店前とだいぶ変わっている事に気づき、身震いをした。

「フン……わざわざ、雨期の気候まで再現するなんて、この船の開発者には、よほどの馬鹿がいたのね」

 先ほどまでの客、キャロルはそう毒づく。
 その論理は間違いだらけだったが、彼女にとっては現実がどうであろうと、それこそが真実であった。存在としてのヒトに興味の無い彼女は、ヒトの生態系や、習慣に関する事にも無関心であった。

 雨が降っては、作業効率が低下する――構造的にわざわざ雨を降らせなくても、環境を維持する事の出来るだけのシステムを持つパイオニア2内では、キャロルにとって、これだけでも雨の再現は十分に無駄と思える機能だった。

 しかし、政府とは何の関係もない、一介の機械工学研究者に過ぎないキャロルが、そんな事を思ったり、言ったところで、何の意味もない。
 キャロルもそれは解っているため、わざと嫌味たらしく毒づいてみるものの、連れもいないため、その後は終始無言だった。
 雨の中、次々と繰り出されるテレビ・コマーシャルを見るかのごとく、居住ブロックのビル郡をその視線に合わせながら、歩を進めてゆく。



 ややあって、キャロルは目的地の工業ブロックへと到着した。ここまで来れば、自分の仕事場・住居兼用の研究所は目と鼻の先だ。家に帰ることが嬉しいのか、彼女は足を早めた。

 工業ブロックは、ビル等の施設の数こそ、居住ブロックにも遅れを取らぬものの、不必要ゆえにその華やかさは居住ブロックのそれと比べた場合、これ以上なく貧相なものだった。
 だが、キャロルにとっては、この無機質な感覚の方が好みに合うらしく、先ほど居住ブロックを歩いていた時より、その表情が柔らかい。

 目的地に着いた。周りの建物に比べれば、ずいぶんと貧弱だったが一人で研究をすると言う分に置いては、何ら問題はないし、キャロル自身も周りとの差などには、少しも興味を持たないため、これで良かった。

 キャロルが目をあげると、そこには既に迎えのイングラムの姿が見える。それまで終始無愛想な表情をしていた彼女の表情が、玩具を与えられた子供のごとく、パッと明るく輝いた。

「オカエリなさいマセ、キャロル博士」
「ただいま、イングラム。わざわざ出迎えてくれなくても、良いのに」
「イエ、濡れて帰ってクル、博士ヲ見過ごす訳ニハ行きまセン」
「ふふ……」

 キャロルは、そんなイングラムのやさしさに、しばしの間、酔いしれる。
 だが、本来それは滑稽な事であった。アンドロイドが、いかに高性能化し、人間に近づこうと、所詮は人の造ったプログラムに沿って動くだけの機械に過ぎない。

 当然、このイングラムの行動も、キャロル博士が思考プログラムの中に組み込んでいるに過ぎない。ある程度の自己進化能力は備えているものの、それも行動効率の最適化程度だ。
 しかし、それでもキャロルにとって、機械のイングラムはかけがえの無い存在らしい。先にも述べたが、その扱い方は、もはや自分の恋人や、息子に対するそれとなんら変わりがない。

 それは、他人と解り合えない彼女の、渇望からくる一種の狂気による愛情と言えるかも知れない。



 彼女はの生い立ちは、幼少の頃より決して幸せと言えるものではなかった。両親は居たものの、キャロルが産まれた直後に離婚し、結局、母親に引き取られた。
 その母親は、キャロルが十五、六歳になるかならぬかの内に再婚したのだが、義父側の方に既に子供がいたため、結果としてキャロルは、のけ者扱いされる形になった。

 度重なる嫌がらせや、暴力にも彼女は生まれ持った不屈の精神力で耐えた。だが、それが良くなかったのかも知れない。
 キャロルは耐え、決して人に弱みを見せずに生きたため、誰に救いの手を差し伸べられる事もなく、人間そのものに不信感を抱いたまま成長した。

 そして、二十歳になり、ほとんど親元から逃げ延びる様な形で独立した頃、彼女は機械工学と出会った。自分にどんな嫌がらせもしない、思い通りに従順に動いてくれる機械に、キャロルは奇妙な愛情を抱く様になった。
 さらに、その機械をより、高度化できる電子工学にも手を染めた後は、いよいよもって彼女は浮き世を離れ、機械やプログラムに愛情を注ぐかの様にして、研究に没頭していった。

 そして実践と失敗を繰り返し、キャロルは三十路にもなろうかと言う頃、人生最初にして最大の傑作であるアンドロイドを造り上げた。
 彼女は、そのアンドロイドにR・イングラムと言う名を付け、我が子の様に可愛がった。……いや、むしろ我が子そのものであったのだろう。

 それから四年近く経ち、現在に至る。



「ねえ、イングラム」
「何でしょウカ、博士」
「色々と研究してみたんだけれど、貴方をより高性能化できる算段が出来たの。どうかしら、「手術」を受けてみる気は無いかしら?」

「博士のご判断に従いマス」
「あなたの「意志」はどうか、って聞いているのよ」
「……モチロン、喜んで受けサセテ頂きマス」
「決まりね」


 この時、キャロルはある、禁忌に立ち入ろうとしていた……。



続く
レスをつける


△上に戻る
知られざる抗争 #3
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
12/14(Sat) 20:13
知られざる抗争

#3
 狙う者


「さて……君をここに呼んだのは、他でもない」

 そこは司令室らしき、無駄なまでに明るく、広い部屋だった。
 部屋に備え付けられた大きな円卓の奥に座った、軍服に身を包んだ初老の男が、もったいぶる様にして何事かを言っている。その視線の先には、

「前置きはいい、早く本題に入ってもらえないか」

 と、初老の男からは大分離れた位置に、黒いローブを身にまとった色白長身の男が立っていた。外見からして二十歳前後であろう。その、さらさらとした銀髪が、彼の美しさを一層引き立てている。
 だが、そんな外見とは裏腹に、性格や口はだいぶ悪い様だった。
 まくしたてられた初老の男は、そんな彼の言動に眉を釣り上げながらも、冷静を装う。

「君も、例の遺跡が発見された事は知っておろう」
「ああ……耳が腐る程聞いているが、それが何かあるのか?」
「そうだ。あの遺跡から、この様なものが検出された」

 と、初老の男は言いつつ、小箱の様なものを取り出す。ただ、小箱とは言え、それは精密機械の塊に見える。
「なんだ……?」

 色白の男は、小箱を受け取ると、蓋に該当する部分を開ける。瞬間、それまでつまらなそうにしていた彼の表情が一転する。
 それは間違いなく、驚愕と言うの名の表情だった。

「おい、これは――!」
「そうだ」

 彼の表情を認めた初老の男は、満足そうな笑顔をつくる。

「これは、今までにないタイプのフォトンだ。異常といってもいい」

 色白の男が見つめる小箱の中には、淡く紫色に光るフォトンが、サンプルとして収められていた。
 そこからは、従来のフォトンが持つエネルギーとは、比べ物にならぬほどの波動が感じられた。フォトンは、初めて発見されてから、既に二桁以上の年月が流れている。
 しかし、それまでの燃料エネルギーに比べ、空気を汚さない、小量で膨大なエネルギーを生み出す等、実に画期的なものだった。

 フォトンの登場により、それまでの旧式動力システムは殆どが駆逐され、世にはフォトンエネルギー機関が溢れ返る事となった。
 無論その性能は、軍事にも即転用され、世界のミリタリーバランスを大きく崩した。つまり、フォトンとはそれだけ圧倒的なものであったのである。
 だが、今、目の前の未知のフォトンは、それすらも大きく上回る力を秘めている。

 これを軍事転用すればどうなるか――誰しもが、予想のつく事だった。


「で、俺はなにをすればいい?」

 先ほどよりは幾分か口調の柔らかくなった、色白の男が問いかける。その答はすぐに返ってくる。

「なあに、簡単な事だ。要するに、我々のグループはコイツを独占したいと思っている」
「……だから、俺に邪魔者となる連中を消せってか。相変わらず、あんたらのやる事には反吐が出るぜ」

 色白の男は、ありったけの嫌味を込めて言葉を放ったが、初老の男は今度はまったく意に介さない様だった。
「頼んだよ、シェゾ・ウィグィィ君」
「良いだろう……だが、後でどうなっても知らねえぜ」

 色白の男――シェゾは、フンと鼻を鳴らし、部屋を後にした。








 汚水に浸した木綿の様な色に染まった空から、白い雪がひらひらと舞っている。パイオニア2は、そんな幻想的であり、生きるには無用の現象まで再現できる様に作られていた。
 そんな中、ハンターズと一部関係者のみが入る事ゆるされた、ラグオルへの転送ゲート区画に、人が歩く影が三つほど見える。

「イングラム……貴方をより高性能化するためには、ラグオル遺跡で発見された異常フォトンが必要なの」
「ソレハ解りましたガ……ナゼ、その様ナ情報ヲ?」
「「彼女」から仕入れたのよ。私も、それなりのパイプラインは持っている訳よ……」
「デハ、アナタが――」

 イングラムが上げた顔の先には、カジノやバーで見られる、肌を大きく露出させた黒い皮の服に、赤い網タイツを身に着けた、バニーと呼ばれる仕事の服装そっくりの一人の女が居た。尖った耳をしており、それは彼女がニューマンである事を証明している。
 さすがに、うさぎの耳を模したアクセサリまでは着けていなかったものの、この場所でその姿は異常と言っていい。

 だが、イングラムには目の前のこの女が、ただのバニーで無い事は解っていた。なぜなら、人間には見えないものの、彼のセンサーは彼女の身の回りに張られた、強力な防護フィールドを察知していたからだ。
 それは一般人が入手できる様な代物ではなかった。

「初めまして、R・イングラムさん。私はキットと申します」
「ハジメマシテ――」
「彼女は、いわゆる「情報屋」……さっきのフォトンの事は、政府の一部が掴んだ情報なんだけど、どうも連中は無能だわね。一部には筒抜けだったみたいよ」

 キャロルはそう言い、明らかに相手を馬鹿にした表情を浮かべる。少なくとも彼女は、政府など取るに足らぬ相手だと思っている。

「ええ――私も、さすがに始めて聞いた時は、我が耳を疑いましたよ。よっぽど情報の管理がなってないんでしょうね」

 ほどなくして、彼らの足は止まる。転送ゲート前まで到着したのだ。

「さあ、行きましょうか」
「……貴女も来るのかしら」
「当たり前じゃないですか、私がいなきゃ、迷子になっちゃいますよ」

 キャロルはその時初めて、キットに非難の目を向けた。彼女自身は、これ以上の事は自分だけの極秘で行いたいと思っていたからだ。なぜなら、新たな発見があった場合、第三者が側にいては情報の独占が難しくなるからである。
 それだけに、遺跡の中まで付いてこられるとあっては、非常に迷惑だった。

 結局キャロルは、押しに負けて、彼女の随伴を許す事にした。
 ゲートに転送パスコードを入力し、転送フィールドに足を踏み入れる。

「さあて。何が待つのやら、楽しみね。くく……」



続く
レスをつける


△上に戻る
知られざる抗争 #4
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
12/19(Thr) 23:23
知られざる抗争

#4
 遺跡にて


 考えてみれば、ラグオルと言う惑星は実におかしな星だった。太陽型惑星との距離、重力、大気の濃度、惑星の大きさ。
 どれをとっても、本星コーラルと変わらない、正に人類が住まうための理想的な環境を持っていた。だが、それだけ環境が整っているのならば、何らかの知的生命体が住み着いていても、おかしくはないはずだった。

 まだ、知的生命体が発生するには時間の掛かる原始の惑星と言う事も考えられたが、調査によって明らかになった惑星の推定年齢は、決してそれほどに若いものではなかった。

 そうであるのに、ラグオルには極めて原始的な生物が住まうのみであり、人間レベルの、あるいは、いずれそれに達するであろう生命体の存在が、七年の歳月をもってしても確認されなかったのだ。
 当然、知的生命体が存在する証である、オブジェクトや遺跡も発見されなかった。

 これは確実に、この惑星に知的生命体が存在しないといっていい。
 しかしである。最近の調査によって、この惑星の地下深くに巨大な、それもコーラルよりも高度な文明の残した遺跡が発見されたのだ。
 これは果たして何を意味するのか。仮にこの星にかつて先住民が存在しており、そしてどこかで滅亡したとして、これほどの文明を持っていながら、地表にその痕跡がまったく見受けられないと言うのはおかしい。

 では、コーラルと同じように、別の星からの移住民がいたのか。これも、否である。
 なぜなら、これだけ環境の整った地上で、わざわざ地下にのみ文明を築くと言う事は考え難いからだ。よく、映画等では地底人などが描かれたりするが、実際はエネルギー源の極めて少ない地下で、高度な生命体が生息する事など有り得ない。

 つまり、この現状はまったくもって判別不可能なのであった。
 だが、謎を解くための鍵が無いわけでもない。事実、この遺跡には、地表に棲息する原始動物は全く異なる、明らかな敵意をもってこちらに襲いかかる、亜生命体の存在が確認されたからだ。

 なお、遺跡内からパイオニア1軍の装備の残骸が発見された為、一説では、行方不明になった彼らは、これに壊滅させられたのではないかと言われているのだが、真相は定かではない。








「総督府じゃ、なにやら調査に必死のようだけど、私が必要なのは例のフォトンだけ。見つけるものを見つけたら、さっさとずらかるわよ」

 機械的な造りの割に、実に静かな遺跡の通路を、キャロル達は歩いていた。
 パイオニア1がこの遺跡の情報を陰徳し、これにまつわる事の一切をパイオニア2に伝えなかったため、現在同軍はこの遺跡の解明に奔走している。

 だが、彼女に必要なのは、真相ではなく新種フォトンだ。パイオニア2中の研究機関が政府に協力を申し出ていたが、キャロルはそんな事になど、つき合うつもりは毛頭なかった。

「例のフォトンは、この遺跡の最深部と言われている、B3フロアで発見されています。キャロルさん、私が言うのも何ですが、政府も完全にここを掌握している訳ではありません。
 十分に気を付けて、少しでも危険だと判断したら、リューカーで脱出して下さい」

 と、キットがキャロルに釘を差す。

「あら、怖けづいたの? 恐いんなら今すぐに帰っても良いのよ。私としては、その方がありがたいし」

 キャロルが毒づく。彼女は、なんとかして邪魔者――この場合はキット――を追い返したいようだった。

 ややあって、どこからか侵入者を嗅ぎつけた、遺跡の亜生命体が多数現れる。彼らは真っ直ぐな敵意を持って、キャロル達に襲いかかってくる。

「博士、キットサン。お話をシテイル場合ではアリマセン。敵が迫ってイマス」
「解っているわ、イングラム。さあ、一緒に戦いましょう……」
「あの、私も居るんですけど」
「あなたは勝手になさい」

 敵は、D型亜生命体と呼称される、通称ディメニアンと言うやつだ。動きは至極単純だが、そのフォトンのブレード状になった腕から繰り出される攻撃は、高い破壊力を持っていた。
 このメンバーの中で、最も戦闘能力の高いイングラムは、まずその厄介な攻撃力を封じるため、殿として撹乱に出た。敵の周りを走り、注意を引きつつ片手の小銃を放つ。

「サア、掛かってコイ!」

 見事にイングラムの挑発に乗ったディメニアンは、後方のキャロルとキットの事は忘れたかの様に、イングラムに向かって一直線に迫っていく。
 そこに、キャロルのテクニックが襲いかかった。

「黒焦げにしてあげるわ。ギゾンデ!」

 イングラムに注意を引かれていたディメニアン等に、強力な雷のテクニックが次々とヒットしていく。ディメニアンは雷撃に弱いらしく、今の攻撃で一気に速力を失った。

「もらった!」

 そこへすかさず、キットが持ち前の素早さを活かし、踊る様にダガーを敵に斬り付けて行く。弱ったディメニアンは、この一撃に耐え切れずに倒れて行く。斬り付けられた場所から、紫色の体液がしたたる。

「片付いたわね」

 キャロルが言う。実際に、この戦闘に掛かった時間はごく数分に過ぎない。この調子ならば、B3フロアも目と鼻の先であろう。
 だが、そんなキャロルの思考に気が付いたのか、キットが警告をだす。

「ええ。でも、こいつらは遺跡の中では雑魚に過ぎませんし」

 だが、そんな彼女の言葉は、キャロルの耳には届いていないらしい。キャロルはくるりと前に向き直り、

「……行くわよ」

 と言った。あるいは、キット対するあてつけかもしれない。イングラムがそれに従う。

「ハイ、博士」
「ま、待ってくださいよ!」

 遺跡での一ラウンドめを終えた彼らは、さらに奥深くへと潜って行く。このまま行けば、確かに目的はすぐにでも達成できそうだ。
 だが、それを監視する目があった。

「フン、チョロチョロとうろつきやがる……ま、折りを見て消すか」

 奇妙な文字が刻まれた刀芯の周りに、青白く輝くフォトンをまとった剣を持った青年がつぶやく。その下には、無惨にも破壊されつくしたD型亜生命体の骸が、おびただしい数、転がっている。
 その目は、明らかに狩りをする時の猛禽類のそれに酷似していた。



 この時、未だキャロル達は、危険な存在が自分達を監視している事に、気がついていなかった。




続く
レスをつける


△上に戻る
知られざる抗争 #5
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
12/30(Mon) 0:13
知られざる抗争

#5
 流転


 キャロルは、歩きながら考えていた。
 隣に歩く、大型のレイキャスト、R・イングラムは紛れもなく自分の可愛い息子であり、恋人だった。澄み渡る大空の様におおからな心と、古木の様に大きな体の、彼女の理想とする男性像を映した、鏡とも言える。

 だが、それは彼女が創り出した、虚構の存在であるに過ぎない。所詮は、プログラムと言う名の命令に忠実に沿って動くだけの、精密なただの機械に過ぎないのである。
 キャロル・キャロラインは、理知的な女性だった。それが解っているからこそ、未知のフォトンを手に入れ、それを使用して、イングラムに人間と同等の感情や考え方を与えたかった。

 しかし、考えてもみれば、人間とてニューロンの反応が、中核を成す脳の中で起こっているに過ぎない。
 言ってみれば、多少の語弊はあるものの、超高度に発達した機械ならば、それは人間と同じであるとも言えるのだ。その証拠に、近年に至るアンドロイド族は、人間とほぼ同等の扱いを受けている。機械であるに過ぎないのに、だ。

 キャロルは気がついた。
 結局、自分はイングラムを溺愛していても、本質的に信用していないのだ。自分の造ったものも信用できず、何が科学者だろうか。
 未知のフォトンによってアンドロイドに人間と同等の能力を備えたいなど、己の至らなさを差し置いた、自己満足に過ぎないのだ。

 キャロルは自嘲したい気分に駆られた。


「博士、いかが致しマシタカ?」
「え……」

 そんな事を考えている内に、自然と暗い顔になっていたらしい。別に元々明るい顔な訳でもないのだが。
 しかし、そんな些細な事でも心配してくれるイングラムが、彼女は好きだった。この感情を、プログラムではない生のものにしたいと、今までは思っていた。だが、彼女は考えを改めつついた。

 言ってみれば、イングラムがここまで成長したのは、自分が手塩に掛けて愛情を注いだ結果だ。それは、人間が親に愛情を受けて育つのと、なんら変わりがない。
 ならば、機械が、プログラムが、となど思わず、大事な存在として生涯接して行けばいい。イングラムもまた、それに応えてくれる。

 そう考えると、もはや未知のフォトンなど、どうでも良くなってきた。彼女は、発見を求める人間ではなかった。


「いえ……なんでも無いわ。でもね、なんだか私、新種フォトンなんてどうでも良くなっちゃったわ」

 キャロルは言う。紛れもない事実だが、イングラムは要領を得ない様子である。

「ハ……シカシ、それはまたナゼ?」
「あなたはあなただって事よ。イングラム」
「ハァ……では、いかが致しマスカ?」
「研究所に帰りましょう」

 キャロルは、未だ要領を得ていないイングラムを連れ、リューカーを唱えようとする。だが、それまでキャロルとイングラムのやりとりを黙って見ていたキットが、急に態度を豹変させた。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」
「なによ……」
「もう目と鼻の先に、アレがあるんですよ! 今更なにをいって――」

 キットがそこまで言い終わらない内に、キャロルの右手が彼女の首を掴んだ。イングラムを造る時の試験として、自らの体を強化改造した彼女は、女性といえど常人よりも遥かに強い力を持っていた。
 その力で首を締め付けられたキットは、思わずかすれた悲鳴を上げた。

「さっきと言い今と言い、あなた何を企んでいるの? 只のガイド役が、私に指図するんじゃないわよ」
「ウグッ……は、はなじでぐだざい……」

 あまりの苦しさに、顔の真っ赤になったキットが懇願する。それを認めると、キャロルは鼻をならして、キットを解放した。
 ようやく空気を吸えられたキットが、激しくむせ込む。

 しばしの時を置いて、キャロルはキットに詰問する。

「で……何であなたは、そんなに例のフォトンにこだわるのかしら」
「そ、それは……」

 何か事情があるらしく、言い淀むキットに、キャロルは半機械の右手の間接をキシキシと鳴らし、凄味をきかせた。
 基本的に、彼女は敵対する人間、あるいはするかも知れない、と言う相手に対しては容赦がなかった。
 ややあってキットが観念したのか、真相を話しはじめる。


「実は、私はラボの人間なんです。知っていますよね、あらゆる情報が集まる場所――ここで新種フォトンの存在が確認されました」

 キットは淡々と話す。キャロルは、獲物を狩る様な目つきながら、その話に黙って耳を傾けている。

「でも、ある時問題が起きました。このパイオニア2は、政府と我々ラボで管理運営されている訳ですが、両者が仲が非常に悪いんです。そこで、ラボは新種フォトンを政府には内密に調査しようとしたのですが、どこからか情報が洩れてしまいました。

 当然政府も、それを手に入れようと躍起になる訳ですが、ラボ側も強硬にそれを阻止しようとしました。いってみれば、極秘に、一部に紛失したサンプル以外の新種フォトンを、ラボで独占しようとしたんです。

 しかし、ラボは戦闘力の有能な人間が居ないし、また、政府と結び付きの強いハンターズにこの依頼をする訳にもいかない。
 そんな折に、個人的に付き合いのあったキャロルさんが、工学利用できるフォトンを欲しがっていたのを、思い出しまして――」


 そこまで話すと、キットは諦めたかの様にぐったりと肩を下ろす。
 それを聞いたキャロルは、これ以上ないと言って良いほどの呆れ顔で、

「まったく……政府が無能なのは知っていたけれど、ラボも同じくらいに愚かだとはね。馬っ鹿みたい」

 と、毒づく。
 だが、この言葉にキットは何も返せない。彼女自身も、政府とラボの確執に、半ば呆れていたからだ。

「バレてしまった以上は、仕方ありませんね……でも、この事は、ご内密にお願いします」
「フン、考えが浅はかだから、こういう目に逢うのよ」


 事件は、ここで幕を閉じるはずだった。だが――

「……! 博士、伏せてクダサイ!!」

 イングラムがセンサーに何かを関知したらしい。彼は、虚空に向かってマシンガンを乱射した。否、それは虚空鵜などではなかった。
 空間が歪み、中から人影が現れる。

「ほう、俺を関知できるとは――なかなかに高性能じゃないか」
「あ、あんたは……!!」


続く
レスをつける


△上に戻る
知られざる抗争 #6
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
1/3(Fri) 19:19
知られざる抗争

#6 そして


 その攻撃は熾烈を極めた。恐らく、パイオニア2でも、これほどの単体戦力を持った人物は、他にはいないであろう。
 他の追々を許さぬ、超高位のテクニック、そして迅速かつ強力な剣技。このコンビネーションの前には、もはや死角は存在しないといっても良かった。

 事は数分前にさかのぼる。







「俺を関知するとは、なかなかの性能じゃないか」

 歪曲した空間から、人間の影が現れる。
 それは、声色からして男の様だったが、その姿はキャロルと同じく、銀髪と漆黒の衣装に身を包んだものだった。男は地面に降り立つと、奇妙な文字の刻まれた刀身に淡い色のフォトンをまとった、光の剣を手にこちらへ迫ってくる。
 いや、実際にはゆっくりとした歩みであったのだが、キャロル達の目には、それが轟音をもって迫る大砲のように見えたのであろう。

 近づいてくるにつれ、男の顔がはっきりと見えるようになったが、これを見て初めに叫びをあげたのはキットだった。

「あ、あんたは!!」

 キットは、「彼」の顔を既存しているらしい。彼女の表情は、なぜお前がここにいるのだ、と物語っている。
 それを認めた男は、口の端を釣り上げ、さも愉快そうに、

「お前ごときが、ラボの使いとはな。よほど、あそこは人材が足りないとみた」

 と、言った。
 この言葉に、キットは自らのプライドを傷つけられたのと、かつての苦い思い出が鮮明に蘇り、激昂する。

「シェゾ! あんたがあんな真似をしなければ、今、私がこんな事をしなくても済んだのよ! よくも、ぬけぬけとそんなことが言えるものね!!」
「ふ、あの時にも言っただろう。俺は、ラボのやり方には愛想が尽きた、と。お前はお前自身の意志で、そこに残った。今更、何を言う権利もないな」

 キットは、歯ぎしりした。よもや、こんな形で、この男と再会することになろうとは――。

 シェゾと言う名のこの男は、かつてキットの同僚であり、良きパートナーでもあった。キットとシェゾは、ラボの諜報機関に所属していた。
 諜報員として、数々の任務をこなす内、二人はよくタッグを組むことが多くなった。

 キットは非常に有能な女性だったが、シェゾはそれ以上だった。キット自身から見ても、シェゾはほとんどの面で自分を上回っている。
 そんなシェゾと仕事を共にすることが、次第に彼女のささやかな楽しみのひとつとなっていった。やがて二人の関係は蜜月となって行くのだが、ひとつ事件が破局を招くことになる。

 キットは組織に追従するタイプの性格だったが、シェゾは違った。彼は、自分の行動理念に沿う組織だけに所属し、なおかつ、その行動も己の理念によって決定され、また、それが許されるだけの才覚を持つ人物でもあった。
 そんな折に、シェゾはラボを統括する存在である「チーフ」、ナターシャと任務の方針についてぶつかった。彼は非常に合理的な考え方をする人物であり、総督府とラボの相互補完をすべきだと主張したのだが、チーフ・ナターシャは個人的な感情から、これを否定した。

 だが、先にも述べた通り、シェゾは己の理念に沿わぬ行動は起こさない人物である。チーフ・ナターシャの意見が割れた直後、彼はこつ然とラボから姿を消してしまった。

 当のシェゾにそんなつもりは全く無かったのだが、それまで彼と親密な関係を持っていた、キットにしてみれば、これは完全に見捨てられた形になった。
 そして、一言も残さずに自分の前から姿を消したシェゾが、今度は敵として自分の前に立っていた。深い絶望感もあるが、彼女は激昂せずにはいられなかった。







 そして、言葉を交わすも間もなく、シェゾはキャロル達に圧倒的な力をもって、襲いかかってきた。何故、自分達を狙うのかは、解らない。だが、それが彼の理念に行動なのであろう。

「フッ、そんなものか?」
「チッ……」

 キャロルは舌打ちする。そもそも、自分はフォースとして有能な人間ではなかった。高度なテクニックは行使できないし、さほどの精神力があるわけでもない。

 その事もあり、キャロルは自分の体を科学によって強化改造し、ハンターズとして通用させていたのだが、この目の前の男は、力もテクニックも自分以上だった。

 キャロルは、ちらと横のイングラムに目をやる。彼女は人の命に、ゴミ粕ほどの価値も見いだしておらず、自分の命にすら、価値のかけらも感じていなかった。

 だが、そんな彼女でもイングラムだけは別格だった。彼の存在すべてが、自分の存在意義でもある。それは甚だ異常であり、最早、狂っていると言っても良かったが、そんなことはキャロルにとってはどうでも良い事だ。
 だから、万が一にでも、彼が破壊されることなどあってはならない。もし、彼が破壊されれば、その時が自分死ぬ時でもある。

「……ナンテ、強さダ」

 そんなキャロルの気持ちを知ってか知らずか、イングラムは絶望とも諦めとも取れる発言をする。ただ、機械ながらその音には、まだ希望が残っている。

 キャロルが心配そうに見つめていると、イングラムは牽制のためシェゾの方を凝視したまま、彼女に声を掛けた。

「ハカセ……私が合図シタラ、すぐにリューカーで脱出してクダサイ」
「な、何を言っているの? こいつからは、逃げきれないわ!」

 キャロルは、府に落ちない事を言い出すイングラムに、戸惑いを隠せなかった。そして、次のイングラムの言葉が、彼女をさらに狼狽させる事になる。

「私ガ、敵ヲ排除シマス。シカシ、危険ですので退避してクダサイ」

 このイングラムの言葉を聞いたシェゾが、突然大笑いをはじめる。

「ふ、フハハハハハ……! どうしたポンコツ、恐怖かなにかで、プログラムが狂ったのか?」

 命よりも大事なイングラムをポンコツ呼ばわりされたキャロルが、恐ろしげな表情で飛びかかろうとすると、イングラムが腕でそれ制し、小さな声で、

「リミッターを解除シテ、フォトンジェネレータを暴走サセ、辺り一帯を吹き飛ばしマス。生物ガ耐えられるレベルデハありまセン。逃げてクダサイ」

 と言った。だが、これを聞いた彼女は、青くなってイングラムにしがみつく。
 どんな機械にでも、リミッターがある。人間が常に、筋肉を暴走させ、自分の体を壊してしまわない様に発生させる力を抑える命令を出しているのと同じく、機械もリミッターによって自分を護っている。

 普段は外すことはできないのだが、人間は窮地に陥ると、生き延びるために、無意識の内に脳がリミッターを外し、驚異的な力を出す事が可能になる。いわゆる、火事場の馬鹿力と言う諺は、ここから来ている。

 だが、機械のイングラムは、自分の意志でこれを外そうとしている。

「む、無理よ! 私がプログラムした時は、それは出来ない様にしたもの……!」

 キャロルは言う。しかし、イングラムはゆっくりと首を振り、その言葉を否定した。その姿は、最早人間のそれとなんら変わりがなかった。

「イイエ。私のコンピュータハ、博士ヲ護る事が第一と、学習シマシタ。私ハこの身ヲ砕いてデモ、博士ヲお護りシマス」

 キャロルは、迫る絶望を前に涙声になっていた。

「そ、そんな、お願い止めてイングラム! 貴方がいなくなったら、」

 だが、イングラムがそんなキャロルに返答をする前に、しびれを切らしたシェゾが襲い掛かってくる。その速度は、人間のレベルを超越していた。

「なにをごちゃごちゃと……そろそろ、終わりにさせてもらうぞ!」
「人間! オマエなどに、博士ヲやらせはシナイ!!」

 その言葉と共に、突如とイングラムがシェゾの視界から消えた。それまで、一度たりともターゲットを見失った事のなかったシェゾは、これに狼狽した。
 イングラムは、後ろに回り込んでいた。

「な、ど、どこへ行きやがった!?」
「ココダ!!」

 言葉にシェゾが振り返ろうとした時は、既に遅かった。既に機体のオーバーロードによって、あちこちから冷却液の漏れ出しているイングラムが、彼を羽交い締めにしていたのだ。

 本来ならば振りほどけるのだが、リミッターの外されたイングラムの力は、シェゾを超越していた。イングラムのボディからは悲鳴が上がっているが、同時に彼のメインエンジンであるフォトンジェネレータの駆動音も、騒々しいものになっている。

 イングラムは、自爆によって敵を排除しようとしていた。力によって博士の外敵を、排除できないのだとすれば、これ以外に道は無かった。
 キャロルがイングラムに抱く感情と同じ様に、彼にとっても、キャロル博士は命を張ってでも護るべき存在だった。

 キャロルが、何事かを叫んでいる。だが、この敵を止めるには、自爆しか道はないのだ――そうイングラムが思った時、羽交い締めにしているシェゾに異変が現れた。

「ぐ、ぐあああああぁぁッ!?」

 シェゾの体に、紫色の毒々しい色をしたフォトンがまとわりついていた。様子を見るに、それは彼の体を急速に蝕んでいる様にも見える。
 狼狽するイングラムに、キャロルの叫び声が届いた。

「イングラム! もういいわ、もう離れて!! もう、そいつは動けないわ!」

 キャロルの言う通り、シェゾは紫色のフォトンに身を焦がされていた。これなら、わざわざ自爆しなくとも、倒すとまでは行かなくとも、逃げる隙は出来るであろう。
 イングラムはそう判断すると、再度リミッターを挿入し、ガタガタの体ながら博士の元へと駆け寄った。キャロルもまた、イングラムへと駆け寄る。

「うう、よかった、イングラム、あなた」

 感情が高ぶり過ぎてしまい、キャロルの言葉は意味不明だった。だが、イングラムにはその気持ちはよく解るらしい、スミマセン、とだけ言い、後は潰してしまわない程度の力で、彼女を抱きしめた。

「ちょっと! 感動の場面の最中悪いんですけど、はやく逃げてくださいよ!!」

 そんな折に、成り行きを見守っていたキットが、キャロルに声を掛ける。シェゾは確かに、行動を封じられているが、無力化したとは限らない。

 キャロルもそんな事は解っていたため、キットの言葉には答えず、掠れた声でリューカーを唱えた。
 そして混乱の中、キャロルとイングラムは、リューカーホールの中へ消えて行った。








 その後もホールは消えずにその場に残っていた。お前もさっさと来い、と言う意味であろう。
 だが、キットはホールに入らず、危険も省みず、シェゾの方まで歩み寄っていった。

「……シェゾ、いつまで演技してるのよ」

 キャロルとイングラムの消えたホールに、キットの高い声が木霊した。それに反応するかの如く、彼の体にまとわり付いていたフォトンは消え、辺りに静寂が戻った。

「いつから、気づいていた?」

 先ほどまでの苦悶の表情が嘘の様に、けろりとした顔で、シェゾはキットに言う。彼は、フォトンの炎に焼かれるフリをして、キャロル達を見逃したのだ。
 キットは言う。

「私は、あんたとの付き合いが長かったのよ。最初から解るわ。なんであんな真似をしたの?」
「言ったはずだ。俺は自分の理念で行動するとな」

 その言葉を聞いたキットは、目を鋭くする。

「まさか、あんた――」
「フン、相変わらずお前は鈍いんだな。そんな訳が無いだろうが……あの女と、アンドロイドの関係が、面白かっただけだ」

 シェゾは言う。

「ところで、どうするんだ。ナターシャの馬鹿に協力することになっちまうのは胸クソ悪ィが、例のフォトンを手に入れたいのなら、手伝ってやっても良いぜ」

「え?」

 その言葉を聞いたキットは、我が耳を疑った。シェゾは、自分達が新種フォトンを手に入れるのを阻止するために、襲いかかってきたはずだった。

 だが、途中で敵を見逃すと言う特異な行動に出たため、キットはキャロルと共に逃げずにこの場に残った訳だったが、それにつけても今のシェゾの言葉は理解できなかった。

「だから言ったろうが、俺は自分の理念で行動する。任務を受けたときはどんな手を使ってでも、相手を消滅させてやろうと思ったが、お前が相手じゃな」

 だが、彼の言葉を理解しきっていないキットは、なおもシェゾに食って掛かる。

「わ、私を裏切っておいて、今更なにを言っているのよ!!」

 キットの言う事は、普通の感覚では真っ当だったが、シェゾという破天荒な人物からしてみれば、子供の理屈だった。
 彼は、口の端を釣り上げて言う。

「相変わらず馬鹿な奴だ。俺はラボの事は見限ったが、お前を見限った訳じゃないんだ。ラボに代わる組織はいくらでもあるが、お前みたいな上玉はそうそう居ないからな。手放す訳ねえだろ」

「じゃ、なんで今まで連絡のひとつもくれなかったのよ!?」

 この質問にも、シェゾは愉しそうに答えた。

「焦らしたら、お前がどんな行動に出るか楽しみでな。それに、俺の力ならいつでだって、お前をモノに出来るんでな」

 シェゾは余裕だった。彼にしてみれば、ラボも総督府も取るに足らぬ存在だった。

 余談ではあるが、彼は闇の組織ブラック・ペーパー最強の始末屋アンドロイド、キリーク・ザ・ブラックハウンドとも戦った事があったが、その時も彼を赤子の様にあしらって、追い返してしまったのだ。

 それほどまでの力を持つシェゾは、勝手気ままに生きる、完全なる自由人であった。

 だが、手のひらで踊らされたキットにとっては、たまった物ではない。静かな遺跡に、彼女の怒声が響き渡った。

「あ、あんたって人はあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 それでも、シェゾは愉しそうに笑っていたのだった。
レスをつける


△上に戻る
THE EPILOGUE
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
1/3(Fri) 19:47
 それは、しとしとと、雨の降りそぼる夜だった。
 眠らない街の工場区画の小さな一角に、周りの巨大工場の光など見えないかの様に、今日も灯し火が宿っている。

 あれから一週間、総督府にも、ラボにも何の進展も無かった。ただ、筋から手にいれた情報によれば、どちらの組織も、喉から手がでるほど欲しがっていた新種フォトンが、サンプルも含めて一夜の内に消えさってしまったとの事だった。

 その情報を手に入れる数日前、キャロル博士の工場に、謎の機械の小箱が届けられた。
 開けてみれば、中には淡く輝くフォトンが入っていた。それは、総督府にラボ、そしてキャロル博士が欲しがっていた新種フォトンだった。

 だが、キャロル博士はそれを見ると、小箱にゾンデを発射し、粉々に砕いてしまった。拠り所を失ったフォトンは、空気中に霧散し、消えた。

 しかし心なしか、彼女の表情は澄み渡っていた。







 パイオニア2は、今日も何事もなく動いている。未だにラグオルへの疎開は目処が立っていなかったが、人々の不安をよそに、小さな幸せを獲得した者もいた。
 小さな噂が流れる程度であったが、まれに工場区画に立ち寄った者が、夫婦の様に仲むつまじくしている女性とアンドロイドを目撃しているという。

「ただいま、イングラム」
「おかえりナサイ、キャロル博士」

 キャロライン私設研究所。
 名も知られていない小さな研究所であったが、その所長は、生まれて初めての幸せを掴んでいたのだった。





レスをつける


△上に戻る
あとがき
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
1/3(Fri) 19:54
はい、ようやっと終わりましたね。

今回はキャラクタ完全オリジナルの話だった訳ですが、なんか最初想定していたものと、だいぶ形が変わってしまったワケですが、いかがでしたか?

なにぶん好き勝手にやらさして頂いたため、手前味噌な所が多数あるとは思いますが、なんだこの設定は! アフォかゴルァ! 等の点がございましたら、是非ご指摘ください。

そいつが筆者の糧になります(w


また、現在この小説をの設定を元に、独自の創作をなさられている、藤殿には完成が遅れてしまって、とても迷惑をお掛けしてしまったと思われます。

この場を借り、謝罪したいと思います。




それではまた、次回作でお会いしましょう。(あればね(ぉ))
レスをつける



Tree BBS by The Room