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ーN・I・N・J・A− 3
Mr.X線 [HomePage] [Mail]
4/21(Mon) 23:41
ーN・I・N・J・A−

 その三 ジョン


 しばしの間、沈黙が続いた。
 キットは、迷っていた。この依頼を、受けるべきか否か。
 拒否するのは簡単だ。依頼者とハンター双方の同意が無ければ、依頼は成立しない。

 だが、機密事項を知っている一般人(では無い可能性が高いのだが)を放っておくのは、問題がある。特にそれが、自分に何か目的のある人間だった場合、命が危険にさらされる可能性さえもある。

 ハンターとは、常にそういったリスクを背負わなければならな職業なのである。
 有名になれば有名になるほど、危険性は上昇する。キットがハンターズの中で、本来の実力よりも自分の地位をかなり下に位置させているのは、この様な理由もあった。

 前を向いてみれば、依然としてクリスティーナは微笑を浮かべている。
 こんな状態で微笑されていると、かえって気味が悪い。

(仕方ないなぁ)

 キットは、思い切って訪ねてみる事にした。
 この女の正体を、である。一般人を装っているが、例えマスコミでもこの最高機密を知っている人間は、ある一人の人物を除いて、存在しない。

「ねえ、あんた……どこの組織のモンなの?」

 声に、出来る限りの凄味を効かせる。
 もちろん通用するとは思っていないが、こういう時に優しく訪ねる馬鹿はいない。

 だが、その答えは意外と簡単に返ってきた。

「私のオモテの所属は知っている?」
「アルバート製薬、でしょ……」

 アルバート製薬は、パイオニア2に便乗してきた製薬会社の一つである。
 勢力は他社に比べてやや劣るが、管理システムが抜群らしく、資産は郡を抜いているという企業だ。
 クリスティーナは続ける。

「今どきの企業は、自衛のために私設軍隊を持っている所が少なくないが……」

 そこまでいうと、クリスティーナは口の端を歪める。

「この会社は二つ、私設軍が存在する。一つはテロや要人誘拐に対抗するための、通常部隊。そしてもう一つが……」
「裏の商品が起こしちゃったトラブルを、極秘に処理するための部隊、掃除屋って奴ね」
「そう。そして、私の所属は後者――OLというのは、表の顔だ」

「……で、その掃除屋さんが、ハンターに何の用なワケ?」
「さっき言った通りだ。私の恋人の捜索、忘れたか」

 気づけば、クリスティーナの口調が変わっていた。いや、仕草や雰囲気すらも違う。
 先ほどまでの仕草は、全て演技だったのだろう。

「地表に居た怪物共の、生体データやサンプルを確保してもらっていたが、数日前に消息を絶ってしまった。もしも死んでいた場合、遺体が他者に回収されれば、我が社の機密事項が明るみに出てしまう。
 だが、事の性格上、いかに掃除部隊といえども総督府に気づかれずに行動するのは、至難の業なのだ」

「だから、あたしが指名されたっての? それじゃあ、なんでもっと高級ハンターを雇わないのよ」
「……とぼけるか?」
「…………」

 キットはこの時、内心歯噛みしていた。
 自身の正体は完璧といえる程、巧妙に隠してきた。それが、いとも簡単に見破られるとは。
 だが、次のクリスティーナの言葉は、またしても意外なものだった。

「我が社の得意先に、とある人物がいる。あなたも良く知っているぞ」
「え?」
「キャロル・キャロライン博士。最近は機械工学の他に、生物学にも手を出し始めたらしい。
 あんな私設研究所に篭っているのが、惜しすぎる才能だ。我が社も何度かスカウトしたが、いつもNOと即答される」

 キャロル・キャロラインという人物を、キットは確かによく知っていた。
 以前、ラグオル古代遺跡に眠る、未知の新種フォトン入手のため、キャロルのガイドを(護衛は強力なアンドロイドを従えていたので、必要なかったらしい)、勤めた(それでも一応、戦闘の手助けもした)事があったのだ。

 彼女は独自の情報網を持っているらしく、キットの正体もなぜか知っていた。
 結局、その新種フォトンは何があったのか、捨ててしまったそうたが、かなり特異な人物だったので記憶によく残っている。

「今回の事件をちょっと相談したら、あなたを紹介してくれたのだ」
「あのオバサン、余計な事を……」





「へくしゅん!」
「お風邪デスカ、博士」
「衛生管理は万全のはずだけど、おかしいわね……」





「そういう訳だ。だから私の恋人、ジョンの捜索を手伝って欲しい」

 有無を言わせぬ状況である。
 あのキャロルと言う人物は人間嫌いだといっている癖に、妙に多くのパイプを持っている。
 今回拒否したとして、その顔に泥を塗った場合、どんな災厄が自分に降り懸かってくるか解ったものではない。
 脅迫されている様なものだ。

 キットは諦めた表情で言う。

「ハイハイ、わかりましたよ。やりゃ良いんでしょ、やりゃ。そんじゃあさっさと、その「恋人」とやらを捜しに行きましょ」
「ありがとう、キット」

 二人は店を出て行く。
 向かう先は、ラグオル地表へのトランスポーター。
 キットに取っては見慣れたものだが、今回ばかりは地獄行き列車の駅の様に見えた。


つづく



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