小太りX線です。
文書というモノは一見地味なためか、いまいち絵に比べ、投稿数や人気度が低いですな。 んが、小説などを手にとって、面白いと思った方には理解いただけると思いますが、時に文書とは、荘厳な絵よりも、より具体的に、そして美麗にその風景を、頭の中に映し出す事があります。もちろん、その反対もありますが。
現代は特に、我が国は漫画大国と呼ばれるほどに、人の活字離れが進んでいる様です。だから漫画等が悪いというわけでは決してありません。エリートだとか知識階級などと呼ばれる人種は、楽しむという行為を敵視するのか、小説ですらも、かつて明治の時代に初登場したとき、「実に下賎な物である」と、偉い方々にはそう認識されていたそうです。
さて少々話がそれましたが、しかし、文書を読むという事の楽しさについて、今一度、再認識してほしいなあ、と思っています。
そこでイマイチ寂しいNovelsに活気が出れば、ちう事で新作の投稿です。 今回も、呆れられること承知で、自キャラにまつわるお話を描く予定です。
ーN・I・N・J・A−
その一 時代の陰を生きる者
「綺麗だねぇ」
ハニュエールのキットは、巨大宇宙移民船・パイオニア2の、VR(仮想現実)空間で日の光に照らされ、ダイヤモンドよりも美しく輝き、時に純白の化粧を施す、蒼色の空間をじっと見つめていた。
これは、かつて母星が健在であったときの、自然の映像を逐一記録したものを、最新のコンピュータで加工し、VR空間に三次元的に再現したものである。
昔はどんなにリアルに現実を再現しようとも、本物の美しさや質量には追い付かなかったものだが、コンピュータの発達は、VR空間で自然界において、人間のあらゆる感覚できるものを再現した。 触れる事も匂う事も、全てがほぼ完全に現実と同じであった。
だが、それでも彼らは自分たちの作り出したものでは満足行かないらしく、衰弱した母星に代わる新たな大地を必要としていた。
「よっ」
キットは、VR上に再現された砂浜の上を、たん、と跳躍した。その衝撃できらめく砂粒が、ひらひらと空中に舞い上がる。目の前に広がる大海に比べても、遜色ないほどに美しい。
だが、その砂を舞い上げた本人は、同じ人間がみれば砂や海を掻き消してしまう程に、美しかった。身の丈一七〇センチほどの彼女は、セミロングに整えた純黒髪を乗せた、やや小ぶりな頭に、きりとした目鼻を持ち、実に端正な顔立ちをしている。
そして小さな頭とは反対に、その体はたわわに実った乳房に、ほど良くくびれた胴回り、そして綺麗な丸みを帯びている腰まわりが、その全体像を妖艶なものとしていた。
さらに言えば、彼女の着衣しているものは、生地で覆われている部分よりも肌が露出している部分が多く、露出している箇所が、これまた人目を引いた。 感覚的にいえば、今日におけるビキニ型の水着と言っても、差し支えないだろう。
しかも、これは水着ではなく、常時着流すものだ。さすがにこうなると、下品な男共なら喜ぶかもしれないが、通常の感覚をもった女性や、公共良俗を重んじる者であれば、眉をひそめるものであった。
だが、この服は見た目に反し、超という文字をつけてもおかしく無いほどに、最新科学の粋を結集した高性能着衣式防具であった。
その性能は、服全体から発生する薄い純正フォトンの幕が、古式実弾式銃などの弾丸は無論、フォトンの刃や弾からすらも強固に体を防護し、さらに着衣した者の身体能力を、ある程度向上させるというものだった。
しかしこれは、最新科学の粋を結集したという所からも解る様に、一般の人間が手に入れられる様な代物ではない。 つまり、彼女は一般市民などでは無かった。浜辺にいるのも、ただVRを使って海水浴を楽しみに来ているのではない。
その証拠に、彼女の端正な顔には、気迫のこもった表情があった。凄まじいまでの「気」である。並の人間ならば、この時点で恐れをなしてしまうだろう。
キットは、砂浜をなめる様にして駆けてゆく。その速度は、強化服の影響もあってか、常人の走る速度よりもかなり速いものだった。
だがキットの行く先に、それまで何もなかった虚空から、突如とフェードインする様な感じで、異形のモノが現れた。その姿は、非常にグロテスクではあったが、我々の世界に棲む「蜂」と似ている。ただ、その大きさは蜂よりも遥かに大きく、ドッジボール並の大きさがあった。
それは、VR上に設定された「エネミー」だった。彼女の目的は、おそらく海水浴ではなく、足の取られる地面の上での、戦闘訓練なのであろう。
なぜ、それが「砂浜」であるのかは、解らないが。もしかすると、本人の希望だったのかもしれない。
そしてこれが戦闘訓練である事を証明するかの如く、巨大蜂は明らかな敵意も持って、キットに襲い掛かってきた。普通の人間は、こんなモノに襲われようものなら泡を食って逃げ出すか、下手をすれば腰が抜けてしまうであろう。
だが、先述の通り彼女は一般人ではない。ふっと空間に手を浮かべると、淡いグリーンの光と共に、一振りの小太刀が拳の中に現れた。
それの形状は日本刀だ。キットはおもむろに鞘から抜くと、それは日の光を全身に浴び、ぎらりと輝いた。 しかし刀としては、刃渡りが約六〇センチほどと短く、さらに沿っておらず、垂直に伸びていた。それは、むしろ日本刀というより、「忍者刀」と呼ばれるそれに、酷似していた。
戦闘で相手を斬り伏せる目的の他にも、高飛びの棒の様にして使う等、用途は様々に渡る。 が、今は刀本来の目的である、相手の殺傷に使用すべきだろう。
キットは、自在に宙を飛び回る敵にも焦らず、じりじりと間合いを詰めてゆく。そして、敵と一定の距離まで近づくと突如、
「ィやァッ!」
キットは高く、短いかけ声を発し、巨大蜂に飛びかかった。 一閃。
ズブ、と鈍い音が鳴った。放物線を描きつつ、キットが着地する。 既に巨大蜂は真二つに割れ、砂浜の上に屍を晒していた。
「ふぅ……ま、こんなモンかねェ」
倒された巨大蜂が、データの藻屑となって消滅するのを確認したキットは、一戦終わった後の安堵のため息をついた。ふい、と頭を振った際に、流れるセミロングの純黒髪が美しい。
そして、しばらくすると、
「見事だな、ニンジャ・キット」
やや低い、女性のものと思われる声がどこからか響いた。 キットは声に反応し、光輝く太陽のある空に顔を向けると、不敵な笑みを浮かべた。
「まぁ、これ位でなきゃ、このお仕事、命がありませんしねぇ」
そう言いながら、彼女はチン、と抜いた刃を鞘に納めるのだった。
つづく
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