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- 今を生き抜く獣達 〜麗しき闇の真紅の玉〜 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:32]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 2 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:36]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 3 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:45]
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 17 - サムス・アラン [2/3(Sun) 22:29]
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 19 - サムス・アラン [2/3(Sun) 22:37]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 20 - サムス・アラン [2/3(Sun) 22:47]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 21 - サムス・アラン [2/3(Sun) 22:52]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 22 - サムス・アラン [2/3(Sun) 22:56]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 23 - サムス・アラン [2/3(Sun) 23:01]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 24 - サムス・アラン [2/3(Sun) 23:10]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 25 - サムス・アラン [2/3(Sun) 23:17]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 26 - サムス・アラン [2/3(Sun) 23:20]
〜麗しき闇の真紅の玉〜 終 - サムス・アラン [2/3(Sun) 23:25]
Re:〜麗しき闇の真紅の玉〜 終 - puni [11/25(Mon) 23:10]
Re:〜麗しき闇の真紅の玉〜 終 - GUM [11/30(Sat) 7:17]



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今を生き抜く獣達 〜麗しき闇の真紅の玉〜
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:32

〜麗しき闇の真紅の玉〜

 それはとある夜のこと、食堂ハラペコビガロ亭の裏、がさごそと
 袋をあさる音がするので一人の銀髪で長髪長身男がそこに歩み寄
 っていく。そこには袋をあさっている女がいた。

 「……おい、そこの女。」
 「……ふん?」

 袋から食べ物やらなにやらを食い荒らしている女が振り向く。男は

 「……もしかして君か、死神って言うのは。」
 「……ふん。」

 口をもごもごと動かし男を睨み据えたまま口の中のものをゆっくり
 と飲み込む。

 「それがどうしたのだ?」

 緑色に輝く長く黒い後ろで束ねられた髪、深緑のマントに身を包ん
 だ目つきの悪さ、傍らに置かれた青銀の槍、冒険者から死神と呼ば
 れ恐れられている女カリカ。
 男はどう切り出せばいいのか分からず少し戸惑うが

 「……何を…しているの…かな?」
 「ふんっ、残飯あさりだ。」

 女のあっさりとした答えに男は少しめまいを感じる。

 「……き…君はかわった女性だ…」
 「貴様はいったい何なのだ、そんなことを言われてやる筋合い
  なぞどこにも無いぞ。」
 「…噂通りだ…」

 男はカリカにさらにちかづき

 「仕事の話がしたい、私ときていただけないだろうか?」
 「……ふんっ、私は今食事中なのだ、あとにしてくれ。」

 さらに頭を抱える男。

 「…言葉はつつしみたまえ…食事とはもうちょっと優雅な物を
  さす…」
 「…貴様…私に喧嘩をうっているのかっ!?」

 女は立ちあがり槍を構える。…肉食動物はえさに食いついてい
 る時に邪魔をされるととても機嫌が悪くなると聞くが…

 「…いや、すまない…そういうつもりはないんだ、私の言動が
  悪かった。」

 男はその女の異常なまでの希薄にさすがに一歩ひく。

 「私はぜひとも君の力をかりたい、許されるならばもう少し質
  のいいものをご馳走させていただくが…いかがかな…?」

 女は少し考え槍を引き

 「ふん、貴様のようなきざったらしい男のはむしずが走るが、
  話ぐらいは聞いてやるか。…だが、」
 「…くっ…?」

 カリカは男の首筋に槍をつきつける。…その首筋から少し血が
 流れ出している。

 「私の食事のじゃまをしたのだ…つまらん用であったら殺す。」

 カリカの瞳はとても鋭く男の目の向こうまで貫き通す。
 
 …………死神の眼光…噂には聞いたことはあったがまさかこれ
 ほどとは…

 男はまるで金縛りにでも逢ったかのように動けない。…口を開
 くのがやっとだ。

 「…殺されずにすむ程度の金は支払わせていただくつもりだ…。」
 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 2
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:36

港町マケドニア、ハラペコビガロ亭より少し北、マケドニア有数の
レストラン、ディストラクティヴ・ノクターン。
帝国図書館並みの巨大レストランとして有名である。

 「…さて、仕事の話に入りましょうか。」
 「…ふんっ、わたしはまだ貴様の名前すら聞いていないのだがな。」

 男の言葉にスモークサーモン(クマの谷風味)にかぶりつきながら
 ぶっきらぼうに問うカリカ。

 「…し、失礼、私はグロリアス帝国国王ルドルフ直属のフリーエー
 ジェント『ケルティック・ムーン』のサガ・レオンツィーネと申し
 ます。今回の仕事は秘密裏に行いたい。」
 「…ふん、国王の汚れ役か。」
 「…まあそんな所です。」

 カリカは野牛のステーキ(ダスクレウズ産)を頬張りながら

 「…で、私にどうしろと?」
 「それなのですが…」

 サガは懐から一枚の羊皮紙を取り出しカリカに見せる。
 …そこには一人に女の似顔絵と名前がかかれている。

 「…デュオール・セルフィアル…ふむ、で、これがどうしたのだ?」
 「実はその女の持っているクリムゾン・デモンズオーブを盗むなり
  奪うなり、とにかく私の元に持ってきてほしい。」
 「…ふん。」

 カリカはマリーのスープを飲みほし

 「その女は殺すのか?」
 「…いや、」

 サガはワイン(ディストラクト)を優雅に一口

 「必要でなければ殺す必要は無い。」
 「必要であれば殺してもかまわんのだな?」

 サガの背筋に冷たい物が走る。

 「…まあその辺はお任せする。…ちなみに報酬は四百万綺羅
  あたりでいかがかな…?」
 「ほぉ…、気前がいいな…それとも、それほどの価値のある
  仕事と言うことか?」
 「…いえ、私はただ…」

 サガはワインを飲み干し

 「死神の腕を買うに等しい値をつけさせていただいたまでです。」

 客は皆上品かつ物静かに食事を続けている。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 3
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:45

 …その日はそこそこ曇っていた。

 マリーの実で有名な町サン・マリーノ。その町の一角、
 黒い三角帽子に漆黒のローブの女がPUBスーペアリア
 に入って行く。

 からんころん。

 「お、きたぜリクオ。」
 「え?………て、あれ…か?」

 PUBのマスター・ゼロスに呼ばれ振り向くバンダナにピアス
 の少年リクオだが…

 「……魔法……それは孤独の美学……魔術……それは永遠なる
  芸術…そして魔道……それこそがこの世の論理……」

 何かを静かに唱えながらそれは確実に近づいてくる。

 「…お待たせしました、今回の仕事の依頼人、デュオール・セ
  ルフィアルと申します。」

 リクオはその依頼人を唖然と見る。真っ黒の三角帽に漆黒のロ
 ーブ、そして手に持っている怪しげなオーブ、顔は全くの無表
 情、髪はセミロングの銀髪、額にはクリスタルの飾り…。
 
 …………い…いったいおまえのその怪しさはなんだーーーっ!!!

 『黒猫の盗賊』の通り名を持つそこそこ名売れの冒険者リクオ
  だがこういった客は珍しいのだろう。

 「…俺に仕事を頼みたいってえのはあんたか?」
 「はい。」

 リクオは首を傾げ

 「…あんた…何者なんだ?」
 「はい、とある魔導士です。」

 ………と…とあるって…だから怪しいってお前…

 「…そ…そのとある魔導士さまがこの俺にいったい何を頼みた
  いってんだ?」
 「はい、実は私はこのオーブを南のフェリスの町にある魔導士
  村まで運ばなければならないんです。で、リクオさんには私
  が無事に魔導士村につくまでの間私の護衛をしてほしいんで
  す。」

 魔導士村…雰囲気やら何やら全てにおいて近寄りがたい空気を
 はなっている地でありリクオはそことは一生無縁であろうと思
 っていた。

 「…護衛…?…なんだ、そのオーブが狙われてるとか?」
 「はい。」
 「…なぜ?…そんなに値打ちがあるのかそれ…」

 リクオの問いにデュオールはオーブを前に差し出し

 「実はこれ、カースオーブ(呪いの玉)なんです。」
 「…カース…オーブ…?」

 リクオは肩眉を吊り上げる。

 「はい、このオーブの所有者はことごとく変死をとげていると
  聞きます。」
 「…またえらくいわくつきだナ…。」

 リクオはオーブをのぞいてみる。……オーブは妖しく真紅に輝
 いている。

 「魔導士村にこれをほしがっている人がいましてね。」
 「……また物好きな…」

 リクオはそのオーブを何度かつつくがふとあることに気付く。

 「…所有者のそのことごとくを変死させていってるそのオーブを
  今持っているあんたは大丈夫なのか?」
 「管理人ですから。」
 「ふーん。」

 まあ管理人だから仕方の無いことか。……いや、そうじゃないよ
 うな気もするが…

 「別に俺なんか雇わなくても一人で十分なんじゃないのか?…少
  し変装する溶かしてさ…」
 「ふっ、何を言うのです、こんなかよわい女のこが一人旅なんて
  とても物騒じゃあありませんかっ。」
 
 …いや、大丈夫なような気がするのはなぜだろう…

 この姉ちゃんの妙なところは話をするにしてもなんにしても表情
 が全く変わらないというところだ。
 …こわいぞ、両手を胸元によせて首をふりふり“山道を一人でな
 んて歩けな〜いっ”なんてぶりっこを全くの無表情でやられちゃ
 あ…もしかしたら魔導士ってみんなこんな物なのだろうか…

 「…なあマスター…」
 「…そんな顔すんなって…」

 どんな顔をしているのだろうと自分に疑問を持つが

 「大丈夫なんかよこのねーちゃん…」
 「……何事も経験だ…それしか言えねえな…。」

 マスターも少し頭を抱えている。

 「…まあとりあえず…だ、あんたをフェリスまで連れていきゃい
  いんだろ?」
 「ふっ、なーに、町を一つばかりこえるだけですよ、軽い軽い。」

 はっはっはっと笑って見せるデュオールにやはり表情は無い。

 「…ならあんた一人でいけよ。」
 「ふっ、何を言うのです、そもそも麗しき可憐な乙女にとっての
  山道の旅……それは永久の樹海、闇深き死への道しるべ…、死
  神のいざない…そして…」
 「だーっ、分かった俺が悪かった…。」

 リクオはふーとため息をつき

 「…しっかし…だーれが狙うんだそんな物騒なオーブ…」

 デュオールはオーブを眺め

 「…まあ、使いようによってはいろんな事に使えそうですけどね。」

 たしかに手にしているだけでいつしか変死を遂げると言うので
 あれば、殺す必要のある資産家にでもくれてやればそれでよし
 …てな具合に使えそうだ。

 「でもさ…護衛なら力自慢の戦士あたりでも雇ったほうがいい
  んじゃないのか?」

 デュオールは静かに自分の胸元に手を乗せ

 「…力自慢だけでは私の護衛はつとまりませんよ。」

 デュオールの言葉にリクオはギギギッとマスターのほうに振り
 向き

 「…どーゆー意味だよ…「
 「……いや、俺に聞かれてもねぇ…」

 力自慢の戦士につとまらない、すばしつこい盗賊になら勤まる
 護衛である。

 「…なんか嫌な予感がするぜ……」

 次第にPUBの客が増えてき、賑わいを見せてくる。
 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 4
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:49
 ……翌朝八時。

 マリーノの町にある伝説の木(マリーの大聖樹)の下でデュオール
 と待ち合わせていたのだが………しかし。

 「……あ、リクオさーーーーん、おーい、やっほー、そこのアナタ
  ですよバンダナピアスの。」
 「…………ちっ……」

 他人のふりをしようとしたが大声で呼び止められる。
 伝説の木の下で彼女は待っていた……淡く白い木枯らしに抱か
 れて………その彼女の姿が…

 「……さ……最近の魔導士ファッションかい……?」

 ……クマである……だからクマなんだよ……、彼女はどういう
 わけかクマの着ぐるみを着ている。

 「ふっ、何を寝ぼけた事をぬかしているのです、こんな魔導士
  の衣装なんてあるわけないではないですかっ。」

 …………たしかにそうだ…が、しかしお前に言われるとなんか
 ムカツク………。

 「…じゃあなんだよそのカッコ……」

 問われてデュオールはピシッとポーズをとり

 「敵の目を欺くための変装に決まってるじゃあありませんかっ。」

 …………やめてくれ……一緒にいる俺が恥ずかしい……

 「ふっ、なーに、心配しなくてもすでにアナタの分も用意してあ
  りますよ。」
 「ふー、なーんだ。…………て、俺もやるんかぁぁぁぁぁぁぁぁ
  ぁっっっ!!」

 そんなリクオにおかまいなしに袋からガサゴソと何かを探り出し

 「今すぐ駆け足でこれを着て来てください。」
 「……な……なんだよこれ…」

  それはバニーガールスーツに近いキャットボーイスーツだ。

 「ふっ、『黒猫の盗賊』をモチーフに私がデザインして作りま
  した。」
 「……い……いつのまに……」

 しばらくうめくリクオだが……

 「わりぃ……かんべんしてくれ……」
 「駄目です。」

 しかしデュオールは一歩も下がらない。

 「……やだよこんなん着るの……」

 しかしリクオのその言葉にデュオールは指(クマの手)をリク
 オの胸につきつけ

 「アナタは仕事を引き受けたプロの冒険者、依頼人は私です。」
 「…………ぬう……」

 通り名のついた冒険者のつらい所は、仕事を一度引き受けたから
 には依頼人の言うことは絶対に聞かなければならないことだ。
 もし、依頼人の言うことを聞かなかったり仕事を途中で投げ出し
 たりするとすぐに悪い噂が広まってしまうと言うことである。

 「……ま、一度は引き受けちまったんだ…しょうがねえ……」

 リクオはしぶしぶとキャットボーイスーツに着替えに行く。
 デュオールはそんなリクオの後姿をながめながら

 「……若さ……それは青い春…刻となるは…すなわち思春……」

 一人思いにふける黄昏のクマ……見てみぬふりをす一般人、
 指差し笑う子供たち……珍しげに見るご老人…マリーノは今日も
 いろんな人達で賑わいを見せていた。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 5
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:52

 …………同時刻。

 マリーノの町の一画…二人の女が歩いていた。

 「おいリザ。」
 「なによう。」

 背丈のやたらと高い女が小さい女を呼び止める。

 「デュオールとかゆー女、ホントにここにいるのか?」

 背の高い女は異国風の武道着を着、髪は長く純黒で真っ白な
 ヘアバンド、長槍を持っている。その背丈はおよそ二メート
 ル、異常なぐらいでかい。

 「知らねえわよう、サガ様にこの辺にいるからオーブガメて
  こいって言われただけだもん。」

 リザと呼ばれた小さいほうの女は上はドレスのようなデザイン
 のビギニで胸をおおい、下は華やかな真っ白のシルクのスカー
 ト。
 髪は赤と金の混ざった前髪のぼさっとした感じのポニーテール、
 白いハイヒールを履いている。

 「ふーん、そか。」

 大女は腕を軽くならし

 「でももしいなかったらサガ潰すっ!!」
 「ちょっとお、あたしのサガ様にひどい事したら許さねえ
  わよっ!?」
 「う〜〜、じゃあお前つぶすっ!!!」
 「ちょっとお、何でそうなるのよーうっ!!!」

 どうやらこの二人はサガの刺客らしい。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 6
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 10:00

 「……着てきたぞ…」
 「あ、リクオさん、とてもよくお似合いですよ。」

 キャットボーイスーツを着こんだリクオにデュオールはてててと
 よってきて

 「じゃあこれを。」

 リクオにどさっと紙の束を渡す。

 「……なんだよこれ……」
 「マリーの魔道学院のチラシです。」
 「…………は?」

 唖然とするリクオにデュオールはマリーの魔道学院を指差し

 「あの100年の伝統をほこる魔道のすばらしさを世界に広め
  るべく創立されたマリーの魔道学院、その名をよりいっそう
  広めそして私達のもとへほんのおこころざしが入ってくる。
  ……一石二鳥ではありませんかっ!」
 「……もののつまりアルバイトなわけね……」
 「ふっ、分かったのならさっそくその名を広めて行きましょ
  うっ!!!」
 「…はー……何で俺はこいつの仕事引き受けちまったんだろ……」

 デュオールに続きチラシをばら撒き始めるリクオ。


 「う〜〜っ、この似顔絵だけじゃわからんぞリザっ!」
 「あたしに言われたってえどーしよーもねーわようっ!!」

 マリーノの一画、二人組みの女達がなにやら言い争いながら歩い
 ている。

 「あう〜〜、みつからないっ、うざったいっ、むかつくーっ!」
 「あだだだ、いてえ、いてえわっ!?ちょっとジン、髪の毛ひっ
  ぱんないでよーうっ!!」
 「うがーっ、誰でもいいっ、つぶーす!!」
 「ひいいいいいぃぃぃぃっっっ、ひてえわっ、やめてええ
  えっっ!!」

 リザの髪を掴みながらぶんぶか振りまわしていたジンだが、
 その手が急にぴたっと止まる。

 「……ん……どうしたのよぅ……」

 ジンはある一点をみつめ

 「……リザ……あれ何?」
 「…え?」

 リザも同じ方を見る。

 「…なんかのイベントかしら……」

 遠くのほうからネコとクマがチラシをばら撒きながら歩いてくる。


 「ふっ、これなら誰も魔導士とは気付かないでしょう、このまま
  この町を出ますよ。」
 「…この黒猫の盗賊をここまでさらしもんにしてくれたのはあん
  たが初めてだよ…」

 リクオがしみじみと周りの人にチラシを配っていると

 「おいそこのネコっ。」

 と声がする。

 「チラシよこせっ。」

 俺のことだろうなと悔しさをこらえて振り向くが…

 「へいへい、ありがとうござ……いぃっ!?」

 リクオに声をかけてきた人間をみてどぎもを抜く。
 …でかいのだ…。尋常ではないくらいでかい女…リクオが上に
 手を一杯に伸ばしてもとどくかどうか…体型はけっこう整って
 いるのだが……

 「……ど……どーぞ。」

 リクオは腰を抜かしかけながらもチラシを手渡す。

 「おいネコっ。」
 「……はい?」

 まだなんか用かと振り向くリクオに女は手を差し出し

 「お手。」
 「にゃん。」

 リクオは反射的に手を乗せていた。

 「うーっ、いい子いい子。」

 なでなで。

 ……………

 うおーーーーっっっ!!!

 リクオ・ディヅァー十七歳、ここまで屈辱を受けたのは初めてだと
 思った。
 大女、ことジンはリザのもとへ行き

 「チラシもらってきた、あのネコかわいーぞ。」
 「……てお馬鹿っ!何がネコようっ、あっちのクマのほうよクマ
  の方っ!!」
 「誰がバカかっ!!クマ無愛想でかわいくないっ!!」
 「そーじゃねぇでしょっっ!!あんたどこまで筋肉馬鹿なのよ
  うっ!!あの女なのよデュオールって女!!」
 「良く知ってるな、知り合いか?」
 「こんのアルティメットバカっ!!!あたしたちその女を捜せ
  ってサガ様にいわれてたじゃないのようっ!!!」
 「…………はっ。」

 ジンはポンと手をうち

 「そこのクマああぁぁっっ!! 待てええぇぇっ!!」

 ドドドドっとすごい音をたてて走るジン。リザははーっとため
 息をつき

 「…どっちがクマなのよう。 …よいしょっと。」

 リザは手に持っていたほうきにまたぐ。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 7
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 21:25

 「はー……けっこー疲れたなー。」
 「ふっ、何を言っているのです、着ぐるみを着ている私の方がよっ
  ぽど疲れが多いのですよ?」
 「……じゃあ脱げよ。」
 「ふっ、何を言うのですこのH。」
 「……誰か保護者を呼んでくれ……」

 びらを配り終え、二人とぼとぼと歩いていると…
 
 ドドドドドドドドドド

 「まああぁぁぁぁてええぇぇぇっ、くまあああぁぁぁぁっ!!!」

 遠くの方からさっきのごつい女がすごいいきおいで突っ込んで
 くる。

 「……なんか知らんがあんたをご指名のようだぞ…」
 「ふっ、モテる女はつらいものです。」

 とかいいながらも二人の足は徐々に加速している。

 「逃げるなクマああぁぁっ、つぶーーーす!!!」

 大女こと、ジンが大槍をぶん回しながら追ってくる。

 「潰してどーすんのよこのオバカ〜〜〜〜っっ!!」

 その隣でほうきに乗って宙を飛んでいるリザがジンの頭を
 ポカポカとたたいている。

 「んがーっ、リザ、じゃまっ! のけっっ!!」

 ぱかっとリザの頭をどつくジン。

 「ひでえわあああぁぁぁぁっ……」

 後ろに吹っ飛び消えていくリザ。リクオはデュオールをチラッ
 と一瞥し

 「あんなに会いたがってんだ、待ってやったらどうだ?」

 全力疾走のリクオ。
 
 「ふっ、残念ね。 激しい人は苦手なの。」

 デュオールも負けてはいない。
 
 「そいつぁ残念だ。 ……でもよ、簡単には身を引いてくれそう
  にないぜ?」
 「ふっ、人は呼ぶ、私のことを。魔道に生きし可憐な乙女と。」
 「じゃあその可憐な乙女サマの荘厳華麗な魔術でなんとかして
  くれねえかなぁっ?」
 「ふっ、いいでしょう、……では……」

 デュオールは口の中でもごもごと何かを唱え始める。
 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 8
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 21:29
 
 「ふー……いい天気じゃのー。」

 マリーノでとても有名な薬屋さん、『マリーのアトリエ』から薬
 を買ってきたおじいさんが近くのベンチに腰をかける。

 「さて、弁当でも食うかの。」

 おばあさんの愛情のこもったお弁当を食べるのがおじいさんの一
 番の楽しみです。いただきますと手を合わせ、ひもをほどいてお
 弁当を開けると……

 パアァァンっっ!!!

 「ふごっ!!??」

 お弁当からピカピカ光る粉、赤、青、金の細長い紙と共に白い
 鳩が七・八羽が勢い良く飛び出し宙の舞う。

 「……ふぐっ…」

 いきなりの事で驚いたおじいさんが急に苦しみ出す。

 「……し……心臓が……だ、誰か……」

 おじいさんはニ・三歩よろよろと歩き… そして倒れる。


 「まてクマああぁぁーっ………あうっ!?」

 勢い良く走っていたジンだが、なぜか道端で横たわっていたお
 じいさんにつまづいてこける。

 「んがーっ、なにこのじじいっ!?」
 「ふ……ふが……た、助け……」

 倒れているおじいさんはとても苦しそうだ。ジンが立ちあがっ
 たときにはもう二人の姿は見えない。

 「あうーーっ、クマ見失った、おまえのせいっっ!!!」
 「ふがーーっっ」

 ジンはおじいさんを引きずりおこし巴投げ!! おじいさんは、
 そのまま三メートルほどふっとばされ、そして床にたたきつけ
 られもはやピクリとも動かない。

 「あーあ、駄目じゃねえのよジン、お年よりは大切にしなきゃ。」
 「邪魔なものは潰す! 死にたくないなら邪魔しない事っっ!!!」

 町の道具屋『マリーの何でもやさん』で働き者と評判であった
 老人トゥ。
 皆から『トゥじーさん』とよび親しまれていた。
 トゥじいは迷うことなく天に召されました。
 きっと天子様に天国につれていってもらった事でしょう。
 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 9
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 21:37
 
 「……なあデュオール。」
 「ふっ、なんです?」

 一画をまがりジンが追ってこないことを確認し、スピードを徐々に
 ゆるめる二人。

 「何とか逃げ切ったみたいだけど……なんか魔法でも使ったのか?」

 リクオの疑問にデュオールは髪をかきあげ

 「……たしかに使いましたが……はて、一体どこで…」
 「なにをやったんだ?」
 「はい、実はですね、はこをあけるとあらびっくり、華やかなク
  ラッカーと共に鳩が複数和羽飛び出します。
  新入生歓迎会などに……」
 「手品かああぁぁぁぁっ!!!」

 デュオールに後ろからアクスボンバーをクリーンヒットさせる
 リクオ。
 ……そのときふとリクオはある瞬時目に触れたものの事を思い
 出していた。

 「……そーいやなんかどこぞのじーさんがぶっ倒れてたよーな……」

 マリーノの町はあいも変わらず活気に満ち溢れている。


 二十時

 リクオとデュオール、二人はあれからしばらく歩き、マリーノの
 町から南、港町セント・アンドリューにつく。
 ……いや、今回は別に船に乗るわけではないのだが……。
 あたりはすっかり暗くなり、街の人々も徐々に減って行く。

 「今日はそろそろどこかで休みましょうか。」
 
 デュオールはふうとため息をつきそう呟く。
 ……さすがにクマの着ぐるみをきたままの長歩きに疲れたのだろう。

 「……そろそろ俺の服返してくんねーかな…はずかしーんだけ
  どサ…」
 「ふっ、仕方がありませんね、ならばすぐに上流な宿屋を見事
  見つけて見せるのですっ、さもなくば貴方の服の命はありま
  せんっ!!!」

 …………ああ、また町の人間達が変な目で通りすっぎていく…。
 上流の宿屋……、一般的に言う高級ホテルの事を差すのだろう
 か、という分かりきった事を聞く気にもなれず仕方なく探し始
 める。

 二十一時 おしゃれな宿屋さん〜シェイク・スピア〜

 「お客さん来ないねー、シャン。」

 カウンターに寝そべっているポニーテールの女。そして

 「そりゃサラマンダ(火)の日だもん、時に特別な日でもない
  しねー。」

 テーブルに両足をほうり出しくつろいでいつのはふさふさの頭
 に緑のバンダナを巻いた女。
 髪の色は赤、銀、青のマダラ。かったるそうに紫煙草をふかし
 ている。

 いろんな花や人形が飾られた宿屋。

 …別に毎度暇なわけではない。季節や場合によっては笑いが止
 まらないくらいに儲かるときもある。

 「……ねーシャン、……今月の売上どう?」
 「んー?」

 マダラ頭の女シャンはすかーっと紫煙の煙を吹き出し腹をカ
 リカリとかく。

 「自分で見たら? 口に出す気にもならないわよ。……あー
  腹痛て。」

 ……ただ、現在はちょうど儲からない時期らしい。
 二人がだるそうにしていたちょうどその時

 カランコロン

 店の入り口が開く音。

 「あん? 客かしら……メル、ちょっと見てきて。」
 「うん。」

 ポニーテールのメルが着たままのエプロンの紐をぎゅっと締め、
 とてとてとかけていく。

 「いらっしゃいま……はぐぁっ!?」

 宿屋の店員がデュオールとリクオ、二人の姿を見るなり後ろに
 よろける。

 「んー? どうし……はがぁっ!?」

 奥から出てきたマダラ女も紫煙草をくわえている事も忘れ、ぽ
 かんと口をあける。

 「……そんなに変か俺ら……」
 「ふっ、天才とはなかなか理解してもらえないものなのですよ。」

 そう、リクオとデュオールは猫とクマのままである。
 シャンはよろめきながらもなんとか起きあがり

 「……な……なによあんたたち…何かの勧誘なら間に合ってる
  わよ?」

 うさんくさそうに交互に二人を見る。

 「……一晩泊まりてぇ。」

 リクオはただ、そう答えた。

 「……は?」

 肩眉を吊り上げ耳を傾ける。

 「……だからよ……一晩とめてくれよ…」
 「……客なの…あんたら……」

 俺達って一体何に見えるんだろう…、ふとリクオはそんな事を考
 えては見たが、いくつか思い浮かび……、そしてその事について
 考えた事を後悔した。

 「……どうするシャン。」

 シャンに問うメルのその瞳は決してかかわらない方がいいと告げ
 ている。…しかし

 「……どうするって…泊めるしかないじゃんさあ。」
 
 メルの言いたい事は分かってはいるのだが、しかしシャンはその
 期待には答えられない。

 「…でも…この人たちなんかアヤシイよぉ?」
 「あんた宿屋の鉄則を忘れたの?」

 シャンはメルの肩を抱き天を指差す。

 「どんな客であれ、客である以上身の安全を保障し、快適な一夜
  をおくってもらわなければならないっ!!」
 「…そのための宿屋です。」

 と、メルも何故かみけんに指を当て、低い声で呟く。

 「よっしゃ、分かったならテキパキと用意するっ!!」
 「らじゃーっ!!」

 ……なんか変わった宿屋だなとリクオは思った。
 ……故人いわく、類は友を呼ぶという言葉がある。
 
 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 10
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 21:46

 「……ふむ、ここの食事はなかなかの物ですね。」

 二十時三十分、二人はそれぞれもとの姿に戻り、一階の食堂で
 食事を取り始めたところだ。……しかし、

 「……食事って言うのかコレ……?」

 リクオはとても不満そうだ。

 「ふっ、何を言うのです、美味かつ上品でさらに芸術的ではあ
  りませんかっ!!」
 「……たしかにその通りだ。……しかしよぉ……、なんで晩飯
  に『お菓子の家』なんだ?」

 ……そう、美味かつ上品で、さらに芸術的なお菓子の家だ。

 「雇い主は私、そして宿代、食事代を出すのも私、ですからメ
  ニューを決めるのもとうぜん私です。」
 「……自分のメシぐらい決めさせてくれよ……」

 リクオもしぶしぶお菓子の家を食べ始める。


 ザッ…ザッ…ザッ…

 「お……俺達が悪かった……許してくれッ!!」
 
 ザッ……ザッ……………・

 「ひ…ひいっ!!!」
 「くっくっくっ……許してやるとも……、その首を置いて行って
  くれるならな…」
 「ひっ……」

 ……セント・アンドリュー南、ニングルの森。

 山賊風の男五人、女一人そしてあたりにはその6人を残し、
 その仲間と思われるおよそ三十体の死体の数々。

 「……ばけもの……」

 誰かがそう呟いた。6人の前にいるのは槍を背負った女一人。

 「ふんっ、死にたくなければ初めから手を出さなければよかっ
  たのだ。……怨むなら貴様らの力のなさとつまらん思い上が
  りを怨むのだな。」

 と、はじめに謝った男の首をその槍ではねる。

 「な……なんだよう……、有り金置いてけっていっただけじゃ
  ……ぐふっ」
 「それだけほざけば十分だ。」

 デブの山賊の言葉を最後まで聞かずに心臓をやりで貫く。

 「おめえ……一体何者だっっ!?」
 「ふんっ、貴様らに名乗る名なんぞないな。」

 ゆっくりと……しかし確実に彼女は近づいてくる。
 
 「……おいソニー……」
 「……な…なにさ…」

 おびえきって泣きじゃくる女山賊にのこったボス風の男が耳元
 でささやく。

 「……奴は俺達でくい止める。…おめぇは逃げろ!!」
 「え? ……なんでさ、ここまで一緒にやってきたじゃないのさ…」
 「……このままじゃあ俺達皆皆殺しだ。…お前だけでも……」
 「いやよっ、私はいままで皆と一緒にやってきたのよっ、死ぬんな
  ら私も皆と一緒に死ぬわ!!」

 そうこう言っている間にも彼女は迫ってくる。

 「……ぐ…」

 山賊頭は後ろを見る。……崖だ。……だがそんなに高くはなさ
 そうだ。

 「…祈るんだソニー!!」
 「きゃあっっ!?」

 山賊頭はソニーを崖へたたきおとす。

 「ボス!? なんてことをっ!?」
 「心配するな、そう簡単にくたばる女じゃないさ、…それに…」

 山賊頭は正面をふりかえり

 「……女相手に手加減してくれるような奴とも思えねえ。」

 武器を構える一同。……そう、実際すでに殺された仲間の中にも
 女はたくさんいた。

 「ふん、仲間割れか。…わざわざ崖から突き落としたりせずとも
  楽に殺してやったものを。」
 「……あ……悪魔…」

 思わずうめく。三人は身構え、そして…

 …………生き延びてくれよソニー……、山賊団『狼の牙』の最後
 の生き残りとして…

 そしてとびかかる。

 …槍を構え、かすかに微笑む彼女にむかって。
 
 ………三日月月に照らされた森の中、幾つかの血しぶきが美しく、
 夜空に向かいふきあがる。
 

 「…つ〜〜……、危なかった。」

 一方、崖から突き落とされたソニー。山賊である以上多少の崖
 くらい駆け下りられなければ話にならない。
 ……多少とは言うものの、普通に落ちればまず死ぬ事は間違い
 ないだろうが。
 しかしとっさの出来事に、多少体のあちこちに擦り傷ができて
 いる。

 「……たまたま鉤爪があったから助かったものの、普通なら死ん
  でるわよ…」

 そう、秘密は鎖のついた鋼の鉤爪である。いくら山賊と言っても
 人間である。何もなしに崖から突き落とされれば、ただで済むは
 ずはない。

 「……でも……」

 ソニーははるか頭上を見上げ

 「……いっそ死んでしまった方が幸せだったかも…」

 ソニーは傷だらけの手のひらをみつめ、…その時眉間が熱くなる。

 「……シャープ…、…………あの……バカ……」

 本能的に悟っているのだ、……山賊頭のシャープ……そしてその
 他のわずかな生き残りももうこの世にはいないという事を。

 「…く………くやしい……悔しいよ……ぉ…」
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 11
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 21:52
 宿屋〜シェイク・スピア〜 2階サロン

 すでに二十四の刻が過ぎているのだが、リクオはなぜか寝つけず
 ここに足を運んできた。

 「……リクオさん?」

 サロンのテーブルには見知った先客がいた。

 「…起きてたのかデュオール。」

 そこではデュオールが紅茶を飲んでいた。今はクマの着ぐるみで
 はなく、深紫のローブだ。

 「……なんか寝つけなくてよ。」

 どうしたことだろうか、今のデュオールには何故か何を話したら
 いいのかわからない。
 ……今まで着ぐるみを着ていたから気付かなかったのだろうか、
 いまの物静かな表情で、優雅に紅茶を飲むデュオールの姿はと
 ても美しい。
 額の宝石が月明かりの中妖しく光る。デュオールはあたふたと
 したリクオの様子に首を傾げ

 「座らないんですか?」
 「え? …あ、ああ、そーだな…」

 心臓がどきどきする。デュオールの妖しい美しさと不思議な
 香りのする香水のせいか、気ぐるみを着ていたときとはまる
 で別人だ。

 「どうしたんです? 様子がおかしいですよ?」
 「は……はは、…なんかさ、こう改まってみると何はなして
  いいか分からなくてよ。」
 「ふうん……そういう時もありますよね。」

 デュオールは手にしていた紅茶をテーブルに置き、ゆっくり
 と立ちあがる。

 「お…おい、どこ行くんだよ。」
 「…別にどこにも行きませんよ。リクオにも紅茶を入れて差
  し上げようと思いましてね。」
 「…ああ、そっか。……すまねえ。」

 デュオールはコップに紅茶を注ぐ。

 「……そうですね、私の故郷の話でもしてあげましょうか。」

 紅茶をリクオの前に差し出す。
 
 広大かつ幻想的な地 フェリス 
 朝日に照らされたその地は とても神々しく 
 また 月夜のそれは不思議な雰囲気に満ち溢れ
 麗しき湖の青さはどこまでも深く 吐息が出るほど澄んでいる。
 魔道の神秘を その地に秘め

 詩のように流れるそれは不思議なくらいに美しい。リクオは何
 気なく紅茶を口にする。

 「……ん?」
 「……どうしました?」

 デュールの物憂げな瞳に見つめられ、リクオはあわてて目をそ
 らす。

 「……不思議な…香りがするな…この紅茶…」
 「わが故郷で代々受け継がれてきたハーブを使用しています。
  ……お口に合いませんか?」
 「…いやいや、うまいよこれ。…ただ、今まで飲んだどれとも
  違っているんだ。」
 「ふふ、そう?」

 デュオールはかすかにうれしそうに微笑み、再びイスに腰をか
 ける。リクオは紅茶を飲む手を止め

 「…フェリス…だったよな、魔導士村って。」
 「村というには少し大きすぎますがね。」

 デュオールも再び紅茶を口にし

 「とても綺麗な所ですよ。……リクオさんが思っているより。」
 「…え…」

 まるでリクオの心の奥底を見透かされているようだ。

 「一般では魔術と言う物は、魔物相手に戦う武器の一つと思われ
  がちですが……」

 デュオールは立ちあがり、リクオの後ろに立ち、……そしてリク
 オの頭をかき抱く。

 「…な…なにすんだよ……」
 「…じっとしてて…」

 リクオの心臓はさらに高鳴る。

 「傷を癒し、心を清める。……私は魔導の力をそういう事に使い
  たいのです。」

 デュオールの手のひらが銀色に輝く。

 「……あうっ…」

 とても不思議な…心地よいイメージがリクオの体全体を覆う。
 まるで時が止まったような空気…。…やがてデュオールは、
 まるで夢ではないかと思うようにゆっくりと手をもどす。

 「…それでは、私はそろそろ部屋に戻ります。」
 「え? ……あ、ああ、もうこんな時間だもんな。」
 「ではまた明日。」

 デュオールがサロンから消えて行く。リクオはまるで夢でも見て
 いたのではないかと、自分の意識を疑った。
 ……とても長く、そして短い不思議な瞬時であった。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 12
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:00

 シェイク・スピア一階

 一人の女がそこへ訪れた。

 「いらっしゃいませ。」

 遅番担当のメルが店頭に出る。

 「ふんっ、人を探している。デュオールと言う女はここにいるか?」
 「え? …はい。」

 答えてはっと口を押さえる。……が、後悔してももう遅い。
 ついとっさのことに瞬時に答えてしまったが、目の前の女は
 どう考えても普通ではない。
 不気味なほどの鋭い目つき、返り血を浴びた大きな槍、体を
 覆う深緑のマント。

 「そうか、少し邪魔するぞ。」

 それだけ言い残し、ずかずかと奥へ入っていく女。

 「あ…ああ、どうしよう、どうしたらいいのっ!? おちつけ、
  おちつくのよメルっ、へたにあんなのにたてついても殺され
  るだけなのよっ!! ……でも……お客様の信頼が……お店
  の経営がーーーッ!!!!」

 一人頭を抱えながら突破口をみいだせないメル。

 宿屋〜シェイク・スピア〜 二階廊下

 「……貴様が…デュオールなのか?」

 槍を背負った死神が二階へあがりほどなく、廊下で窓を眺めて
 いる一人の女が目についた。女は窓を眺めたまま

 「……いかにも。 ……あなたは?」

 デュオールは突然の訪問客にも、驚くどころか眉ひとつ動か
 さない。死神は口の端で笑み

 「……カリカだ。……貴様の持っているクリムゾン・デモンズ
  オーブをおとなしく渡していただきたい。」
 「……はて?」

 デュオールはすっとぼけるが、カリカはそんなことはお構いな
 しに槍を抜く。

 「その様子だとおとなしく渡してくれる気はなさそうなのだな。」
 「私としてはおとなしく退いて頂きたいのですが。」

 デュオールは半歩足を引き呪文を唱え始める。

 「それはできない相談だ。…仕方がない、死んでもらうぞ
  デュオール・セルフィアルっ!!!」

 次の瞬間無数の槍先がデュオールを襲う!! …しかし…
 
 カーーーンッ

 「…あぐっ!?」

 何故かカリカの頭上にたらいが降ってくる。

 「ふっ、さらばです。」

 カリカのぐるぐる回る視界のピントが回復し、そして見えた
 物はデュオールがきびすを返し走り去る後姿だった。

 「…………はっ」

 カリカは今の自分のおかれた状況を頭で整理し、ようやく我に
 買える。

 「…………あの女……」

 表情のなかったカリカの顔がじょじょにひきつっていく。

 「…んんんんんなめた真似をぉぉ…、殺す!!」

 カリカは我を忘れ、すさまじい勢いでデュオールを追う。
 
 「あ……」

 行き止まりだ。…デュオールはその場で立ち止まり、後ろ
 を振り向く。

 「死ねッッ!!」

 カリカが叫び、飛びかかってくる。

 「…しまった…!!!」

 デュオールは細い腕でその身を覆う。そこへ鋭い槍の一突きが
 デュオールを貫くかのようにおもえた……が…。
 
 キイィィィンッ 

 かんだかい音と共に槍が弾かれる。

 「…っ!?」

 カリカの鋭い一撃を中断させたのは…

 「……まったく、いつ見てもすごい突きだぜ。」

 今現在デュオールとカリカの真中に立っているリクオのダガー
 だった。
 
 「……貴様……黒猫……」
 「また会ったな、死神。」

 間合いをとる二人。デュオールは自分をかばっていた右腕をお
 ろし

 「知りあいですか?」
 「……ちょっとな。」

 リクオの目つきは険しい。

 「……さて、何のつもりだ黒猫、邪魔するようなら殺すぞ。」
 「わるいな、この女を守る事が今回の俺の仕事なんだ。」
 「そうか。」

 そして次の瞬間死神カリカの槍がリクオを三度襲う。

 「ぐっ!?」

 リクオはそれら全てをかわし後ろへとぶ。しかしそこへすかさ
 ず槍がふりおろされ、さらに体をひねっての返し刃で真上に振
 り上げる。リクオはカンマすれすれにそれらをかわす。

 「……何…?」

 カリカはかまえなおし

 「私の三連十字斬わ全てかわしきったのは貴様が初めてだ。」
 「……もう一回やれって言われても自身はねーけどな。」

 リクオはゆっくりと立ちあがる。

 「…まったく、あんな早い突きは見たことがないぜ。」
 「ふん、そうか。」

 カリカはちゃきっと槍を縦にかまえ

 「ますます貴様の首を狩りたくなったぞ黒猫。」

 その言葉が終わるや否やカリカがいっきに間合いを詰めてくる。
 ……が、
 
 ザパアァァン

 「……んあっっ……」

 なぜかカリカの頭上から水が降ってくる。

 「さ、リクオさん、今のうちに」
 「え? ああ。」

 そして走り去る二人。……どうやらデュオールの魔術だったら
 しい。

 「……あの女……許さんぞっ!!!」

 濡れた髪をかきあげ、再びリクオ達を追う。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 13
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:07
 
 そのころ宿屋〜シェイクスピア〜 入り口

 「あの女、たしかここに入っていったわね。」

 先ほどの山賊ソニーだ。手には小型ナイフを何本か携帯し
 ている。

 「あの女が生きていると言う事は…、…やっぱり皆……」

 ソニーの瞳から幾粒かの雫が流れ落ちる。

 「シャープ……必ずかたきをとってやるから…」
 
  一階 店員専用の寝室
 
 シャンが気持ちよさそうにいびきをかいて眠っている。

 ガシャアアァン

 「……ぐがっ!?」

 ガラスの割れる音と共に一気に目を覚ますシャン。

 「…な……なにっ!?」
 「動かないで!!」

 シャンの喉もとにナイフをつきつけたのはソニー。

 「な…何よ!? 金ならないわよ!?」
 「そんな事はどうでもいい!! さっき槍を背負った女がきた
  でしょ、その女の寝室に案内なさい!!」
 「槍を持った女? ……そんなのいたっけ?」

 頭をかきながらうざったそうに起き上がるシャン。

 「クマの着ぐるみ着た変なのなら来たけどね。」

 しかしソニーはさらにシャンに鋭くナイフをつきつけ

 「今はくだらないジョークを楽しみたい気分じゃないのよ。」
 「……はは、私もジョークだと思いたかったわ。」

 しぶしぶ下着姿のまま部屋を出るシャンとその後ろにぴったり
 とくっついているソニー。
 
 「メルぅ。」
 「あ、シャン……と、誰?」

 鉄の鍋をまぶかにかぶり、鍋のふたと包丁を装備しているメル。

 「いやね、この人がここに槍もった女が泊まりに来てるんじゃ
  ないかって言ってんだけど…で、あんた何よそのカッコ…」

 メルはがくがく震えながら

 「…その槍を持った女が今お客さんを襲撃してるの…」
 「……最っ高……。」

 めまいを感じたのかふらつくシャン。

 「……神様に嫌われてるのかしら…」
 「やっぱり教会の寄付金盗んだのがまずかったんじゃないの?」
 「かもね〜。…でもそれってまだ私達が盗賊やってた頃の話で
  しょ? 何年前の話よ。」
 「女神レザヌーラ様の教えでは罪は償わない限り一生消える事
  はないんだって。」
 「やかまし。」
 
 余談だが、この二人その昔二人組みの盗賊『キタキツネのメル
 シャン』で世間を騒がせたらしい。
 …なぜキタキツネなのかは今だ不明だが。
 ……ちなみに、この宿屋は二人が教会から盗んだ寄付金をもと
 に建てられた物で二人が足をあらうきっかけともなった。
 普通の教会の寄付金袋と言えばニ・三回徹夜で飲み明かせばそ
 れで終わるだろうが、世界有数の帝国立フェリス大聖堂ともな
 れば話が違ってくる。
 そこはグロリアス帝国の国王ルドルフ自らが出向くほどの、
 城にも負けず劣らずの巨大な聖堂である。寄付金のなかには金
 塊やら宝石やらが金のかわりに詰め込まれている。
 荷車と汽車の巧みな組み合わせでそれを盗み出す事に成功した
 メルシャン。今はこうしてまっとうな道を歩んでいる。

 「今聞いた通り、上でお客さん襲撃してんだってさ。」

 それを聞いたソニーはしばし考え、……そしてナイフを引き
 シャンを開放する。

 「それならあなた達を脅しても何の意味もないわね。」

 ふーっとため息をつく。

 「迷惑かけたわね、割ったガラスは弁償するわ。」

 と、メルに数枚の銀貨を手渡す。

 「へ〜。」

 メルは口笛をふき

 「律儀な人ねー、そんなかっこうしてて実は普通のいい人とか?」
 「山賊よ。」
 「……失礼しました。」

 ソニーはナイフをチャキッとかまえなおし

 「……あいつは絶対殺す。」

 そして階段を駆け上がって行く。

 「……どうするシャン?」
 「いーんじゃないの? なるようになるわよ。」
 「だめよ、お店の信用が……」
 「じゃあお店の信用の為に死んできて、このお店私つぐし。」
 「…………」

 ………沈黙の中、ただただ階段を見つめている二人。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 14
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:13

 二階

 カリカとリクオ、二人の抗争が続く。

 「ふん、なかなかなものだ、ダガー一本で私の槍とやりあえる
  なんざな。」
 「……まったく、慣れねえこたあするもんじゃねーやな。」

 息を切らし始めているリクオ。……しかしそこへ…

 「……!?」

 カリカは殺気を感じ半歩左へ身を寄せる。
  
 シュッ

 カリカの頬をすれすれに一本のナイフが横切る。…そして

 「あぐう!?」

 運悪くリクオの左腕につきささる。

 「……誰だ?」

 振りかえるカリカの目に入ったのはバンダナを頭に深くかぶった、
 緑のシャツの女。てには小型ナイフを何本かぶら下げている。

 「あんたにつぶされた山賊団『狼の牙』の生き残りソニーよ!!」
 「ふんっ、知らんな。」

 ソニーの額がぴくっと動く。

 「……たったさっきあんたが皆殺しにしてくれた山賊団の生き残
  り、といえば解ってくれるかしら。」
 「別にどうでもいい事だが。」
 「流すなーッ!!」

 発狂するソニーにカリカはふんと鼻で笑い

 「私は今忙しいんだ、とっとと消えろ。」
 「…この……なめんじゃないよっ!!!」

 我を忘れてカリカにとびかかるソニー。

 「ふんっ。」

 カリカはソニーの斬撃を苦もなくかわし、

 「おとなしくしていれば良いものを。」

 そして槍を半回転させ、ソニーに切りかかる。

 「……え…!?」

 ソニーがとっさに身を防ごうと、かまえた六本のナイフすべて
 が真っ二つに切り裂かれる。

 「……う……うそ……」

 ソニーの腹部から血が噴き出す。

 「バカな奴だ、わざわざ殺されにくるとは。」

 カリカは槍をかまえなおし、ソニーにとどめをさしにかかろう
 とするが……

 「あなた、そのバンダナを広げて、はやく!!」
 「う…うう……」

 ソニーはひざを折りながらも、力を振り絞り頭のバンダナをばっ
 と右手で広げる。

 「うぐっ!?」

 広げたバンダナから十四・五羽の白い鳩がバサバサッといきお
 いよくとびだす。

 「リクオさん、今のうちにその人をかかえて逃げるんです!!」
 「…いや、左腕が…」
 「それぐらい舐めれば治ります!!」

 無茶を言うな。…しかしリクオはデュオールの気迫に負け、
 痛みをこらえながらも左腕に負担がかからないように背負う。

 「…ちっ、死ぬんじゃねーぞ。」

 そのまま全速で走る。

 「ま…まてっ!!」

 一瞬何が起こったのかわからなかったカリカだが、ようやく我に
 返り叫ぶ。……が、それに反応するように目を光らせる白鳩たち。

 「……ふん?」
 「……キュアアアアーーーッ」
 「うわわわっ!?」

 なぜか鳩達は奇声をあげながらカリカに襲いかかる。
 
 「ふっ、さらばです。」

 デュオールもリクオに続き走り去る。

 「や…やめろっ……あ……くうう…んく…」

 カリカは白鳩につつかれながら床でもがいている。

 「…き…貴様らーっ!! 次…次会ったときは必ず殺―すっ!!!」

 宿屋の中、カリカのくちおしそうな叫び声が木霊する。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 15
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:19

 宿屋のメルにすばやく宿代を手わたし、森の中へ逃げてきた三人

 「……ねえ…あれ、何やったの?」

 ソニーは腹部の苦痛に耐えながらも、さきほどの異常な現象の疑
 問を口に出さずにいられない。

 「ふっ、魔導の神秘というものですよ。」
 「インチキくせえと感じてしまうのはなんでだろ。」

 カリカが追ってこない事を確認し、足をゆるめるリクオ。

 「…もうそろそろいいでしょう。」

 デュオールの言葉と共に立ち止まり、どっと地べたに座る三人。

 「ソニーさん、ちょっと傷口を見せてください。」
 「…う……ああ。」

 デュオールはソニーの腹部に手を当て、何かを唱え出す。
 ……すると、デュオールの手が白銀に輝きだす。

 「……デュオール、それは…?」
 「……癒しの法ですよ。……そんなに優れた物ではありませんが。」

 あの時やってもらったのと同じだ。……リクオはそう思った。
 そしてようやく当たり前すぎる疑問が頭に浮かんだ。

 「なあ、あんたあいつになにか怨みでもあるのか?」

 ソニーは苦しそうだがそれでも言わずにいられないのか、
 ぽつりぽつりと

 「……私の仲間……山賊団『狼の牙』……私除いて…皆殺しに
  された…。」
 「あいつ一人にか?」
 「…………そう……そうよね……、考えてみればたかだか女一
  人に皆殺しにされたのね。……情けない話だわ。」

 普通に考えてみれば山賊団が一人の女に真正面からぶつかって潰
 されるなど、くだらない冗談だと笑い飛ばされるだろうが、その
 女があの死神カリカだと言われればまた話が違ってくる。

 「……そういえばリクオさん、あの女の人知ってるんですか?」
 「……まーな。」

 リクオは懐からワインを取り出し、左腕にふりかける。

 「……つー……しみるなあ。いや、ついこのあいだ偶然出会って
  な、…そんとき成り行き上あれと手を組んだんだ。」

 残りのワインを一口のみ

 「手を組んだときはとても心強かったが…いざ敵にまわしてみる
  とほんと、やっかいな奴だよ。」
 「……人間じゃないよあいつは…」

 ソニーの声はわずかだがはりが戻ってきている。…デュオールの
 癒しの方が効いてきているようだ。

 「狼の牙は他の山賊団に一目置かれているりっぱな山賊団よ。
  …私自信のプライドの根源でもあった。……少なくとも女
  一人に潰されるようなやわな連中ではなかったわ。」

 狼の牙でなくとも普通はそうだろう。

 「……あいつは悪魔だ…」

 口惜しそうにはきすてるソニー。

 「……いや、そんな生易しいもんじゃない。」

 リクオは空になったビンを手でもてあそびながら呟く。

 「…………死神だ。」


 夜もふけ、青い夜空が闇色に変わって行く。

 デュオールはソニーから手を引き一息つく。

 「……応急処置は終わりました。……でもまだ動いてはいけま
  せんよ。」
 「……ありがとう、……魔法ってほんとにすごいんだね、だい
  ぶ楽になったよ。」
 「…これぞ魔導の神秘です。」

 びしっとポーズを決めるデュオール。

 「傷が浅かったから明日には完全に治るでしょう。……今下手に
  暴れたりしたら保障できませんけどね。」

 デュオールはソニーの頭を優しくなで

 「あなたが動けるようになるまでは私達はここを離れませんよ。」
 「……ごめんよぉ…」

 ソニーは半分泣いていた。デュオールはリクオの方に向き

 「…明日の昼ぐらいには着きたいですね、フェリスに。」
 「そうだな。……それよりさ、デュオール…。」
 「…なんです?」

 デュオールのやさしい瞳に思わず照れるが

 「……俺の左腕も……みてくれると助かるんだけど…」

 闇色の夜空、ぽつりと浮かぶ三日月はただやさしく、そして蒼
 くあたりを照らしつづけている。


 翌朝 七時

 「……ありがとう、もう大丈夫よ。」

 ソニーは軽く荷物をまとめ

 「…あんたたちの名前を聞いておきたいわ、私はソニー・マク
  レイン。」
 「リクオ・ディツァーだ。」
 「デュオール・セルフィアルです。」

 それぞれ握手する。

 「じゃ、生きていたらまた会いましょう、黒猫さん。」
 「…なんだ、知ってたのか?」
 「山賊の直感よ。…今度一緒に飲みましょう。」

 大きくてをふり走り去って行くソニー。リクオはそんな彼女の
 後姿にぽつりと呟く。

 「……お互い生きていたら…な。」
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 16
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:24

 十時 セント・アンドリュー 南の門前
 二人の女が人ごみの中歩いていた。

 「おいリザ。」
 「なによう。」

 身長二百十センチのジンと百六十二センチのリザ。ビッグセクシ
 ーとトランジスタグラマと言ったところか。

 「ほんとにフェリス行きゃあいつらに会えるのかっ?」
 「…わっかんねーわよそんな事。」
 「なにーっ、リザ見つかる言った、あれウソっ!?」

 思いっきりリザの首根っこをひっつかむジン。

 「く…くるしいわっ!? 聞きなさいよこのおバカっ!!サガ様
  の言葉ではフェリスにいる魔導士にあいつらの持ってるオーブ
  渡すなって事なのよ!? あいつらがフェリスにいる魔導士に
  そのオーブ渡しに来るんだから、そのときそいつらをコテンパ
  ンにしてオーブぶんどリャすむ話じゃねえのようっ!!」
 「そっか。」

 ジンはふむとうなずき

 「リザ、お前かしこい。」
 「あんたが筋肉バカなだけよこのバカバカバカバカ」

 ジンをぽかぽかと殴りつづけるリザ。



 十一時 フェリス北

 トントントントントントントントン ピーーーピロピロ

 フェリスの町の入り口付近、笛を吹いた三角帽の女と太鼓をたた
 く黒ローブの少年が町に入って来る。
 
 ……フェリス大聖堂のはたを背負って……。

 「……デュオール…コレも何かのアルバイトか?」

 やはり納得のいかないリクオ。

 「ふっ、フェリス大聖堂名を広め、大聖堂からほんのおこころ
  ざしを…」
 「だからアルバイトなんだろーが。」

 デュオールとリクオである。

 「ふっ、つべこべ言わずに笛にあわせて太鼓をたたくのですっ。」
 「……駄菓子屋じゃねーんだから…」

 広大かつ幻想的な地フェリス。朝日に照らされたその地はとても
 神々しく輝き、静かな月夜は不思議な雰囲気に満ち溢れ、麗しき
 湖のその青さはどこまでも深く、吐息が出るほど澄んでいる。

 …魔導の神秘をその地に秘め…

 ……そんな神秘的な地をさっそく土足で踏みにじるような二人
 であった。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 17
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:29


 二人がしばらく歩いていると、遠くの方から一人の女が歩いて
 くるのが見える。その女は大きな槍を背負ってる。…緑に輝く
 黒い、後ろで束ねられた髪。とても鋭い目つき、そして深緑の
 マントにその身を包んでいる。

 …その女と目があった。

 リクオ達とその女は一瞬立ち止まり、無言で見つめあうが……

 「はいはい、フェリス大聖堂だよ〜」
 「五百綺羅以上の寄付金を出した方には青い羽一本無料で贈呈
  中ですよー。」

 リクオとデュオールは何も見なかったことにして通りすぎる。

 「…貴様らな……」

 女はゆっくりと槍を下ろす。

 「…私は舐められるのが嫌いなのだ……。」

 二人の足はだんだんと早歩きになってくる。

 「殺―――――――――す」

 笛と太鼓を演奏しながら走る二人と、それを追う女。…神秘的
 な町フェリスでは前代未聞の事であった。

 とあるフェリスの一画

 「さて、もう一仕事するかね。」

 家の中から一人のおばあさんが、大きなおけを持って出てきまし
 た。どうやらこれから井戸に水をくみに行くようです。
 家から井戸までの道のり、それを一歩一歩歩くのがおばあさんの
 楽しみの一つです。…そしてしばらくして…

 「あっという間についたさね。」

 きがつけば井戸の前。楽しい時間の過ぎ去るのがなんと早い事。

 「…さて、水をくむかね。」

 と、おけを持ち上げようとするが……

 「…あら…あらあらららら…きゃーーっ」

 ところがおばあさんは足を滑らせてしまい、井戸に落ちてしま
 いました。……そしてしばらく……

 ズドォーーーンッッ

 おばあさんは井戸からいきおいよく、地上三十メートルまで打
 ち上げられてしまいました。 
 

 「……なあデュオール、なんとかならねーか?」

 カリカに追われながら走る二人。

 「ふっ、先ほど魔法を唱えましたよ。」
 「何の?」

 二人が走るその後方で…

 「まてぇ〜〜っ、いいかげんに逃げずに戦え……がふっ!?」

 すごい形相で二人を追うカリカの頭上から、なぜかおばあさん
 がふってきた。」

 「……つ〜〜〜……な…何なのだこのばーさんは…」

 カリカは頭を押さえながらうめく。……まだ立ち上がる事はで
 きない。……上空から降ってきたバーさんはすでに事切れている。

 「……最近……よく物がふってくるのだな……」

 カリカは仰向けのままうめき続けている。


 「ふっ、それはですね、クマなどを落とし穴にはめてそのまま
  上空に打ち上げる究極の魔法ですよ。」

 確かにある意味では究極かもしれない。

 「へー、そんなのがあるんだ。」

 しかしそこで首をかしげる。

 「上空に打ち上げんのは解ったけどよ、その落とし穴ってゆー
  のもその魔法で着く作れんのか?」
 「ふっ、何を言うのです、前の晩から事前にスコップでほるに
  決まっているじゃあないですかっ。」
 「あほかぁぁーーーっ!!」

 デュオールめがけての後ろからのジャンピング・クロスチョッ
 プがみごとにクリーンヒット!!

 「そんな事言ってる間にも後ろから……て、あれ?」

 リクオは振り向くが、そこにカリカの姿はなかった。

 「なんかしらんが逃げ切ったの……かな…」
 「ふっ、結果良ければ全て良しです、ふっはっはっはっ。」

 デュオールの誇らしげな勝ちポーズ。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 18
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:33

 十三の刻 フェリス大聖堂前

 「あらデュオールさん。」

 尼僧姿の女が聖堂前で、なぜか楽しそうに掃除をしていた。
 ……金髪のセミロングで可愛らしいイメージがある。

 「ふっ、予定どうり今日フェリスAブロックで宣伝してきまして。」
 「ありがとーございますぅ、じゃあこれおだちん。……あれ? そ
  ちらの方は?」

 リクオの方を見頭を下げ、微笑みかけてくる。リクオが答える前
 に…

 「ふっ、私の助手Aのリクオくんです。」
 「あー、そうでしたかー。」

 ……ちょっとまてぇぇぇぇっ、しかもAて何だAて!!!!

 そう叫びかけたが、目の前の女の柔らかい笑顔におされてしまった。

 「はじめまして、デュオールさんのお友達のフレア・マゼンダ
  です。」

 にこにこにこにこ。

 「…あ……ああ、リクオ・ディツァーだ。」

 フレアはにこにこしながらも、コクンと首をかしげ

 「リクオ…さん…? どっかで聞いたような……ま、いっか。」

 なんだ? とは思ったがとくに気にはせず、デュオールに

 「とりあえず行こーぜ、魔導士村に。」

 リクオが背を向けたその時、かつっとフレアに肩を掴まれる。

 「せっかくですのでー、お食事用意しますー。」

 にこにこにこにこ。

 「……しょ……食事……ねえ…。」

 なぜかリクオをぐいぐいと引っ張るフレア。

 「ふっ、どうやらフレアに気に入られたようですね。」
 「…そうなんか……。」

 何故か素直に喜べない。デュオールはフレアをおさえ

 「ふっ、せっかくですが私達は今多少狙われている身で…。」
 「いつものことでしょー?」
 「ふっ、それもそうですね。」
 「……いつもなのか……。」
 
 ……目的地近くではあるが、すこし不安になってくるリクオ。

 「もてる女はつらいものです。」 
 「…ちがうだろ。」

 リクオはあきれながらもフェリス第聖堂を見上げる。

 「……あいかわらずでけーなあ。」

 それにフレアもうれしそうに

 「はじめに建てた人ってすごいですよねー。」
 「…まったくだ。」

 そしてフェリス大聖堂に入っていく三人。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 19
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:37

 一方、フェリス北入り口

 「なんとか間に合っただろうか…」

 黒マントの長身の男が走っていた。

 「ジンとリザルーリャが足止めをしていてくれていれば良い
のだが…」

 「お、うまいなこれ。」

 リクオ達はフェリス大聖堂内食堂〜三日月の雫〜でフレアの
手料理を食べていた。
ちなみに、メニューはビーフコロッケ〜猫の森〜風味。

 「ありがとうございますー。」

 相変わらずにこにこと笑顔のフレア。

 「そーだ、私もデュオールさんみたいに水晶玉で占いができる
んですよー。」

 と、どこからともなく水晶玉を引っ張り出してくるフレア。

 「へー、まー俺は占いなんか信じないたちなんだがな。」
 「そんなこといわずにー。…ね?」
 「ふっ、フレアの占いはよく当たるんですよ。」

 優雅に食事をとるデュオールも口添えする。

 「…まあいいけどよ。」
 「やったー、じゃーいきますよー。」

 フレアのこの話し方はなんとなく力が抜けてくる。……そうこう
 考えているうちにフレアは口の中で何かを唱えている。
 
 〜神よ いと麗しきレザヌーラ 伝説を刻みし光の瞬時 
 願わくば この若者の未来を けして裏切らない 彼だけの道標  

 ……すると、なんと水晶玉にリクオの顔が映る。

 「…っ!!!!」

 リクオは驚き、目をまん丸くしてそれを見つめていたが…
 
 ピキピキ…ピシッ…パリーーーン

 「……はうっ!?」

 フレアの悲鳴と共に水晶玉が破裂する。

 「…………」

 沈黙する一同。

 「……おい……どーいう……事カナ?」

 なにげなーく聞くリクオに

 「え……と。」

 フレアはカリコリと頭をかき

 「……晴れのちときどき流星とでました。」
 「なんじゃそりゃあーーーっっっ!?」

 ……全く意味不明だが、だからこそ余計たちが悪い。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 20
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:47

 魔導士村

 神秘的な魔道の里。年々建物が作り変えられていき、徐々に村か
 ら町へと発展しつつある。

 「……ついたな。」
 「ええ、では早速このオーブを渡しに行きましょう。」

 カース・オーブが怪しく光る。リクオは手を振り

 「…俺の仕事はここまでだ、じゃーな。」
 「ふっ、何を言うのです。」

 リクオの手をしっかりと掴むデュオール。

 「…な、なんだよ、たしか俺の仕事はあんたがここにたどり
  着くまでの間の護衛だろ?」
 「せっかくここまで来たのです、オーブを手渡すだけなんですし
  ついてきなさい。」
 「……本当にそれだけなんだろうな…。」

 嫌な予感が拭い切れないが、しぶしぶついて行く事にした。
 ……なんといっても晴れのちときどき流星である。


 十六時 魔導士村中心核

 「もうちょっとオドロオドロしてると思ってたけど、意外と
  シンプルだな。」

 いろんな店を覗き見ながら感心するリクオ。それぞれとても独特
 でシンプルな建物が多く、店の中も個性的な美しさを保っ
 ている。……たまに来るぐらいなら良いところだろう。

 ……そんななか、一つ巨大な洋館がある。真っ黒いいかにもな
 建物である。

 「あれなんだ? えらく怪しい建物だが……」
 「ふっ、あれこそが私達の目的地ですよ。」
 「……マジかよ…」
 「マジです。」

 ますます気が乗らなくなったリクオ。何で俺はこんな仕事を引
 き受けちまったんだろうと。…考えていても始まらないので、
 仕方なくそこへ向かう。
 
 その洋館が見えてきたあたりで…

 「はぁい、待ってたわよてめーら。」

 左横の木々から一人の女が出てくる。金と赤のマダラなポニー
 テイル。

 「待ちくたびれた、早速つぶすっ!!」

 右横からはやたらとでかい女。大槍を手にしている。

 ……おいおい、今度はなんだぁ?

 うんざりしているリクオにはかまわず、ポニーテイルの女
 リザが、口の中でもごもごと呟き、手を横に振る。

 ……すると

 ズゴゴッッ

 「……っ!?」

 すごい音と共にデュオールの足元を炎がえぐる。

 「命が惜しくばあんたのもっているクリムゾン・オーブ渡しなさ
  いっ!!」

 びっ、とデュオールを指差す。

 「ふっ。」

 デュオールもまけじと口の中でもごもごと何かを唱え、両手を
 広げる。

 かーん。

 「…ぺぐっ!?」

 何故か金属製のバケツが上空からリザの頭を襲う。……相も変
 わらず論理を無視した魔法だ。

 「命が惜しくばおとなしく道を開けるのですッ!!」

 びっ、とリザを指差す。……大女のジンはげらげらと笑っている。

 「……ぐ……ぐぐ…、百万回ぶち殺してやるわあんた。」

 紅い唇がぴくくっとひきつっている。

 「この幻のリザルーリャをここまでナメてくれたのはあんたが初
  めてよっ!!」

 リザは本格的に何かを唱え始めている。大女の方も大槍を構え

 「豪極のジン……よく覚えとけっ!!!!」

 そして槍をぶん回しながら突っ込んでくる。

 「ぐうっ!?」

 ジンの槍をかわしたリクオに炎の塊が突っ込んでくる。

 「あぶないっ!!」

 リクオのわき腹をデュオールがおもいっきり蹴飛ばす。
 リクオはその勢いに乗って反射的に横に跳ぶ。
 その横を通りすぎた炎の塊が一本の木をなぎ倒す。

 ……こいつぁ不利だ。

 リクオはそう思ったが、悩んでいる暇は無い。

 「うがぁっ」

 ジンの槍が今度はデュオールを襲う。

 「くっ」

 ぎりぎりでそれをかわし後ろへ跳ぶ。

 「あまいっ、これでおしまいようっ」

 そこへすかさずリザルーリャの炎の矢がまっすぐ突っ込んでくる。

 「うらあっ!!」

 リクオはとっさに、さっきの鉄バケツを拾い炎の矢にぶつける。
 …それはみごと炎の矢にぶつかり、ドロドロに溶ける。

 「……冗談じゃねえぞ……」

 リクオは腰からダガーを取り出し

 「……やらなきゃ…殺られる…。」

 リクオは狙いを定め、リザに向かって一直線に突っ込んで行く。

 「おバカねえ、あたしに傷一つつけられるとでも思ってるの?」
 「だあああっ!!!」

 リクオの稲妻のようなするどく、そして素早い一撃。ダガーが
 リザの胸に深々と突き刺さった……かのように思えたが

 「……っ!?」

 リザルーリャの姿がうすれ、消えて行った。
 
 「こ・こ・よ♪」

 後ろから声がした。いつのまにかリザはリクオの真後ろに
 立っていた。

 …………幻術かっ!?

 しかし、気付いたときにはもう遅い。

 「祈りなさい、天国にいけるようにね。」

 リザの手の中の炎が徐々に膨れ上がる。

 「リクオさんっ!!!」

 デュオールが叫ぶ。……しかしジンがデュオールを襲う槍の手
 をゆるめる気配は無い。

 「……ちくしょうっ!!」

 リクオは振り向きざまダガーを投げつける。

 「んのっほっほっ、無駄よ。」

 リザルーリャも手にしていた炎を放つ。……そしてその炎は
 ダガーが飲み込み、なおもリクオに向かって突っ込んでくる。

 …………やっぱり駄目か…、ついてねえなあ……。

 今度こそリクオは天に祈った。……次に生まれ変わるなら、
 自由気ままに生きる本物の黒猫にでもと。

 ……リクオはゆっくりと片ひざをついた。

 一条の流星が流れる 青銀色に輝き とても美しく そして 
 それは静寂かつ 見る人を安心させる 力強さを持っていた

 ……流れ星か……叶うといいな、俺の願い事…。

 小さなころ、リクオの師匠が教えてくれた。流れ星の一瞬の閃
 きは、人を幸福にする力を持っていると。リクオはそんな物は
 信じていなかった。

 …今の今までは。リクオのはそれはとても長く感じた。流星が
 流れ、……そして消えるまで……。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 21
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:52


 ザムッ!!!

 「……え?」

 しかし流星は消えることなくリザルーリャの炎を貫き、そして
 リクオの目の前に突き刺さる。

 「……これ…は…。」

 流星だと思っていたそれは、青銀色に輝く一本の槍であった。

 「え? な、なによこれ……がふっ!?」

 おどろくリザルーリャの上から一人の女がふってくる。
 緑に輝く長く黒い、後ろで束ねられた髪、深緑のマント。

 「ふんっ、良いザマなのだな、黒猫。」

 リザルーリャを踏み倒したその女は、ゆっくりと立ちあがり
 地面に突き刺さった槍を抜く。

 「……死神……」

 リクオはゆっくりと立ちあがる。……リザルーリャは完璧に
 のびている。

 「うっ!? なにお前っ!?」

 ジンは死神、ことカリかの存在に気付き、槍をかまえなおす。

 「すまんな、私はこいつらに用があるのだ。」
 「私もそいつらに用あるっ、お前じゃまっ!!」
 「邪魔なのは貴様だ、とっとと消えろ。」

 冷静にあしらうカリカに勿論面白いはずもない。

 「うがーっ、お前むかつくっ、お前つぶーすっ!!」
 「ふんっ、冗談は顔だけにしておけ。」
 「あう〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

 カリカに大槍で切りかかるジンだが、カリカはいともたやすく
 それをよけ、槍で円を描く。

 「…うあっ!?」

 ジンの左腕から血しぶきが上がる。すかさずカリカの槍が三
 度ジンを襲う。

 「……ううっ!!」

 ジンはそれを空高く跳躍しかわす。そしてそのままカリカの
 顔めがけて大槍を振り下ろす。

 「…!!」

 カリカはそれをふせがず、前にとびそのまま前転。ジンの大
 槍は地面にたたきつけられると同時に地面をえぐる。

 「……ふんっ、」

 カリカはすぐさま立ちあがり、槍を構える。

 「洒落ではなく本当にたたき潰されろうだ。」

 しかしカリカは口の端で笑んでいる。

 「う〜〜、このチビ、ちょこまかとっ!!」

 ジンと比べたらたいていの人間はチビに見えるだろう。
 …いや、そうじゃない。ジンは大槍を大きく振る。


 「……リクオさん、」

 デュオールがリクオの耳元でささやく。

 「今のうちに逃げましょう。」
 「…逃げる? …しかし…」

 リクオはカリカのほうを見るが

 「ふっ、決着がついてしまったらどちらが勝とうが、その後私達
  と戦う事になるのですよ?」

 考えてみるとどちらもやっかいだ。
 カリカの槍さばきに勝てる自信も無ければ、ジンとリザルーリャ
 の二人組みを倒せる自信も無い。

 「…ズラかるか。」

 デュオールとリクオはこっそりと、漆黒の洋館にむかって走り出す。

 「あっ、待てお前らっ…うっ!?」

 そんなリクオ達に気付いたジンだが…、しかしジンの首筋に槍が
 突き付けられている。

 「ふんっ、逃げるのかクマ女。」
 「……お前……なまいき…。」

 ジンはカリカの槍を振り払い、再び間合いをとる。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 22
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 22:56

 漆黒の館 門前

 門に銀色の鐘がぶら下がっている。おそらくはこれを鳴らして中
 の人間を呼べと言う事なのだろうが門と館の距離を考えて、こん
 な物を鳴らしたところで聞こえるとは考えにくい。
 デュオールはその鐘に手をかけ
 
 カラン…カランカラン…カランカラン…カラカラカラン

 なんとなくリズムを感じさせるような鳴らしかただ。…すると、
 ぎぎ〜〜っと門がひとりでに開く。

 「…………!?」
 「さあ入りましょう。」

 驚くリクオにおかまいなしに中に入っていくデュオール。……
 おそらく慣れているのだろう。
 「ま…まてよ…」

 リクオもすかさず後を追う。

 二人が門から中に入って程なく…

 ギギ〜〜〜…ガチャン

 「うおっ!?」

 門がひとりでにしまり、何故か空がだんだんと暗くなってくる。

 「こ……こええよ……」
 「ふっ、基本ですよ。」

 基本なのか。アンデッドの類には多少は慣れているリクオだが、
 これはそれとは違った、
 いわば未知なる恐怖というものだ。
 
 本館への道の両端には青黒い木々が生い茂り、いくつかの墓も
 たっている。そのなかで目に付くのはひときわ大きな焼却炉だ。

 「……全く、いい趣味してんぜここの住人。…どんな奴が住ん
  でんだ一体…」
 「見れば納得しますよ。」
 「……知り合いなのか?」
 「私の友達です。」
 「友達かぁぁぁぁぁっ!!!」

 そうこう言っている内に本館につく。青暗い闇が漆黒の館を
 妖しくつつむ。


 「はあ…はあ…はあ…」
 「……ふんっ、中々やるな。」

 体中傷だらけのジンと、ジンに比べればかすり傷程度のカリカ。

 「だが、これで終わりだっ!!!」
 「…うっ!?」

 カリカの槍がジンの首を狙う。その速さは今までのものと比較
 にならず、槍先が見えない。

 ……死神のさばき……今までにこれをかわせた者は誰一人存在
 せず、首をはねられた事に気付くことなく死んでいったものも
 多い事だろう。

 そしてその槍はいともあっさりとジンの首を跳ね飛ばした。
 ……そう、跳ね飛ばしたはずだった。しかし…

 「…なにっ!?」

 ジンの姿がうすれ、消えて行く。何が起こったのか解らず、
 しばらくその場にたたずむが…

 「……幻術のたぐい…か。」

 地面にのびていたはずのリザルーリャのすがたが無い事を横目
 で確認し、

 「…私としたことが、女狐にまんまとばかされたわけだ。」

 カリカは怒る気にもなれず、むしろあきれ返っている。
 ……赤い夕日が漆黒の館を美しく照らし続けている。

 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 23
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 23:01

 「……ここに住んでる奴って本格的にヤバいんじゃねーか?」

 館の中は暗く、赤黄色いランプの火が妖しく光っている。

 「たしかにヤバいですね、あれは。」

 こいつに言われたらおしまいだとリクオは考え込んだ。一体どん
 な奴なんだろうと。二人は黒い木の階段を登っていく。

 階段を登り終え、廊下を歩いて行くと、やがて黒く、しかし華や
 かな両開きの扉にぶちあたる。……が、その扉もひとりでに開く。
 
 部屋からは甘く、どこか不思議な妖しさを残す匂いが漂う。
 その部屋の奥に一人の人間が黒いイスに座っていた。

 「…………っ!?」

 リクオはその姿を見るなり、驚きのあまり声が出ない。

 「お久しデュオちゃん、約束の物は持ってきた?」

 女だ。腰まである長い黒髪、ビギニのような甲冑、半分出ている
 豊満な胸、そして左胸と左足の太ももそれぞれに黒い三日月。
 リクオはその女に見覚えがあった。

 「……キリストを…否定する女……」

 リクオはうめく。

 「あらん? あたしのこと知ってるのん? ……て、あのときの
  坊やじゃない。」

 そう、目の前にいるのは前の旅で出会った殺人狂の女ロスト。

 「あれ? お知りあいですか?」

 デュオールはきょとんとしている。

 「デュオールの友達とは思わなかったなさすがに。」

 リクオは身構えるが

 「ひくっ、なーにかたまってんのお? 心配しなくても殺したり
  しないわよん。」

 相変わらずアルコールくさい。

 「とりあえずこれ、渡しときますね。」

 デュオールはクリムゾン・デモンズオーブをロストに手渡す。

 「うれしい、これ欲しかったの。」

 ロストはオーブにほお擦っている。

 「……なあ…あんた……」

 リクオは今だに警戒をとかない。

 「ロストってよんで、…で、何?」
 「なんで…生きてんだ?」
 「聞きたいー?」

 前の旅で確かにロストにとどめを刺したはずだ。頭をダガーで
 ぶちぬかれて生きている人間なんてまずいないだろうが、目の
 前の女は確かに生きている。…傷後らしきものも見当たらない。

 「ふふ、あらひは特別らの、そう、ただものじゃないわ。」

 見ればわかる。ロストはリクオの首に腕を絡めて行く。

 「んふふ、あの夜のあのひと時は楽しかったの…忘れられない
  わん。……特にあなたに頭をぶち抜かれた時は最高だったわ…」
 「な…なにすんだ、はなせよっ」

 リクオに胸を摺り寄せ首筋を舐め始める。

 「あなたみたいな遊び相手が欲しかったのん。」

 ロストの右手が、じょじょにリクオの体の下のほうへと降りて行く。

 「お…おいデュオール、何とかしてくれよっ」

 しかしデュオールはちょっと赤面で横を向いている。

 「リクオさんの……バカ…」
 「ちょっと待てええエーーーっ!!」
 「うふふ、逃がさないわよん。」

 リクオを床に押し倒し、上にまたがる。

 「うふふ…それじゃ、そろそろいただいちゃおうかしらん。」

 肩パッドをはずそうとしたそのとき…

 「…んあっ!?」

 ロストの首筋に光る物が突き付けられていた。
 
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 24
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 23:10

「ふんっ、お楽しみのところを邪魔してすまんな。」

 それは槍先である。いつのまにかそこにはカリカが立っていた。

 「…なによあんたっ、せっかくいい所なのにぃっ!!」

 頬を膨らませて立ちあがるロスト。

 「貴様の持っている紅い玉をおとなしく渡して…ん?」

 カリカはロストの顔を見るなり口元が引きつる。

 「……貴様……キリストを否定する女…」

 まともに驚くそれを見、ほっほっほっと高笑いをするロスト。

 「あなたも前会ったわね。」

 ロストの左手のオーブが妖しく輝く。

 「このオーブが私の手に入ってしまった以上、あなたは私に触れる
  こともできないわん。」

 ロストが軽く手を振り上げる。すると

 「ぐあっ!?」

 カリカがおもいっきり吹っ飛び、壁にたたきつけられる。

 「…な…なんだっ!?」
 「んっふっふっ、私に触れていいのは私に許された者だけ。」

 再びリクオの首に手をからめる。

 「なめるなっ!!」

 再びカリカはロストに襲いかかるが、やはりロストに跳ね除け
 られる。

 「…んうっ!?」
 「大丈夫か?」

 吹っ飛んでくるカリカを受け止めたのは長身の銀髪サガ。

 「ふんっ、すまんな色男、今回ばかりはなかなか難しそうだ。」
 「無理も無い。」

 サガは白銀に輝く長いロングソードを引き抜く。

 「この女は人間ではない、この女にクリムゾン・デモンズオーブ
  が渡ってしまった以上、普通の武器はまず通用しない。」
 「一つ聞きてえ…」

 ロストに抱かれたままのリクオではあるが口は開けるようだ。

 「俺は以前、こいつの頭をぶちぬいた。…しかし今現在こいつ
  が生きているのはなぜだっ!?」

 サガは微動だにせず

 「昔…神々と魔族の抗争があったのは知っているか?」
 「…伝説として…な。」
 「神々と魔族の抗争は、最終的にはその両方がこの世から消え
  去る…伝説はそこで終わっている。」

 サガは白銀のソードを大きく一振りし

 「しかし、今現在魔族の民はこの世に存在する…その女のよう
  になっ!!」
 「ひゃっひゃっひゃっ、バラしちゃいやん。」
 「魔族は人間と違って、魂を浄化させない限り肉体などいくらで
  も再生できる。……しかもその女は邪法を操る事ができる。」
 「……竜の刻印か。」

 槍をかまえなおすカリカ。唇をかむように

 「忘れもしない、竜の刻印を操る奴は皆殺しだ…!!!」

 カリカの瞳は殺気と憎悪に満ち溢れている。その昔に何かあった
 のだろうか。

 「このオーブがあるかぎり私は無敵よん。」

 ロストは立ちあがり、サガと向かい合う。

 「せっかく用意してくれたその白銀のソードももう無意味よね。」
 「そうでもねーわよ。」

 ふとロストの後ろから声がしたかと思うと、闇の中からロストめ
 がけて炎が飛ぶ。

 「…あんっ」

 ロストはそれをまともにくらう。

 「はあい。」

 闇の中から現れたのは、マダラポニーの幻のリザルーリャ。

 「…ロストさんっ!!」

 デュオールがロストに近寄ろうとするが……

 「…ふっ!!」

 先にサガが白銀のソードをロストに突き刺す。

 「んんっっ」
 「神々も愚かではない、竜の刻印に対する法術と言う物もしっか
  りと作り出されている。……こういう時の為にな。」
 「…なんですってっ!?」

 ロストの顔に初めてどうようの色がにじむ。

 「……まさか…あなた…聖王の法を…」

 聖をつかさどる偉大な神よ この世を統治す聖王よ 天地風水
 光と闇 全てを潤い 全てを守る 聖なる輝きは全てを照らし
 調和される自然の摂理 願わくば 聖なる光を 

 聖王の名の 刻印よ

 「あ……んあああああっっ!!」

 ロストの体の内側から柔らかい光が漏れる。

 「今のお前を完璧に消し去る事は出来ないだろうが、
  封じる事なら…。」

 青白い光がロストを包み、

 「あああああくぁああ………」

 そしてロストの体がじょじょに消えて行く。…ただ一つ、
 真紅の玉のみが静かに床に落ちる。

 静寂の中、玉の転がる音だけが、室内に鳴り響く。 
  
 「あの女消えたっ、どこっ!?」

 リザルーリャと共に現れたジンは不思議そうにあたりを見まわす。

 「そこよう。」

 気だるそうにオーブを指差すリザ。

 「あいつの肉体・魂もろともそのオーブに封印しちゃったのよ。」
 「なぜつぶさないっ!?」

 それにリザが答えるより早くサガが立ちあがり

 「ロストはあのオーブを手にしたとき、すでに自分の魂をあの
  オーブの中へ移し変えていた。そしてそのオーブがロストの
  体を操っていた。」

 サガはオーブを拾い、じっと見つめる。

 「このオーブは並みの人間には手の出せない呪いのオーブだ。
  このオーブは所有者に多大なる魔力を供給するのと引き換えに、
  所有者の魂を食らう。普通の人間には手元においておく事すら
  許されない。」
 「…それが、所有者をことごとく変死させる理由か。」

 リクオはぽつりと呟く。

 「そして、人々はそれをクリムゾン・デモンズオーブと呼ぶよう
  になった。」

 リザルーリャはサガから布袋を受け取り、カリカに手渡す。

 「…ごめんね、まさか味方だったとは思わなかったの。
  …それ今回の報酬よ。」
 「ふん、私は仕事さえ終わらせる事が出来ればそれで良いのだ。」
 
 カリカは布袋を手にし、槍を背負う。そして立ち去ろうとするが
 ……
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 25
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 23:17

 「……ぐあっ!?」

 後ろからサガが三メートルほど吹っ飛ばされる。

 「…何!?」

 カリカが振り向いた時、ジンは額から血を流してうめき、
 リザルーリャは口から血を吐き、腹をかかえている。

 ……そして、漆黒がカリカを襲う。

 「……ぐうっ!?」

 カリカはとっさに斜め後ろへ跳び、何とか闇をかわす。

 「……貴様…!?」

 そこにはデュオールが立っていた、……手に真紅の玉を握り
 締め…。
 その足元にはリクオが横たわっている。

 「すみませんがこのオーブは私がいただきます。」

 デュオールは今までの行動全てがウソだったように、リクオを
 軽く片手で抱えあげる。

 「……貴様…何者だ…!?」

 カリカの言葉にデュオールは人差し指を立て

 「とある魔導士です。」

 その言葉と共に、デュオールとリクオの姿がかき消える。

 「ま……まてっ!!!」

 しかしその時すでに遅く、カリカの叫びは虚空の闇に木霊する。

 「……私とした事が……不覚であった……」


 あれから30分、皆がそれぞれ目覚めたころ。

 「……まさかあの女も魔族ったとは…」

 サガは口惜しそうにうめく。そう、初めに気付くべきであった。
 デュオールはこの旅の中、ずっとあのオーブを手にしていた。
 …普通の人間には持つ事さえ許されないあのオーブを…。

 「サガ様のせいじゃねーわよう、まさかあんなインチキくさくて
  チャランポランな女が魔族だったなんて、魔道学院祭のラスト
  ビッグ・サプライズなんか目じゃねーくらいのいひょうをつか
  れたわッ!!」

 関係無いが、彼女の通っていたフェリス魔道学院の学院祭は、
 けっこう有名である。

 「うう〜〜〜っ、あの女…絶対潰すッ!!」

 相当潰す事が好きらしい。そんな中、カリカは先ほど受け取った
 布袋をサガに差し出す。

 「金は返す、仕事が果たせなかったからな。」
 「……いや、その金は受け取ってくれ、一度はあのオーブは約束
  どうり私の手元に来た。そのオーブを再び取られたのは私の不
  覚だ。あなたは立派に仕事を果たしたのだ。」

 カリカは一瞬考えるが

 「ふんっ、それもそうか。」

 カリカは布袋を再び腰に下げ

 「……もし、また奴の事で仕事があったら私に言ってくれ。
  ……このままでは私のプライドが許さない。」

 そしてカリカはきびすを返し立ち去ろうとするが、ふと思い
 立ち止まる。

 「一つ聞きたい。……竜の刻印は魔族にしか使えない。……
  しかし貴様の使った聖王の法は人間にでも使える物なのか?」

 その問いにサガはすこし間を置くが

 「……いや、聖王の法は神族の切り札だ。」
 「そうか。」

 カリカはサガを背中越しに一瞥し、

 「貴様ほど、気持ち悪いぐらいに美しい男は人間の中では見た
  ことが無い。まさに貴様は白馬の似合う男だな。」
 「喜んでいいのだろうか…。」

 サガは苦笑し

 「私も、貴方ほど孤独な獣の瞳を持った女性を見たのは初め
  てだ。」
 「そうか。」

 カリカは再び背中を向ける。

 「生きていたらまた会おう、良い旅を。」

 そしてサガの見守る中、カリカは闇の中へと消えて行く。


 黒い階段を降りて行く。きしむ音を耳にしながら…。

 「……デュオール…あいつは結局リクオを連れてどこへ
  消えたのだ…」

 カリカは誰にも聞こえないくらいに小さく呟くが…

 「……ふんっ、あいつがどうなろうと私には関係無い事だ…。」

 カリカの差す『あいつ』とは、誰の事を指しているのだろうか…。
 外はもうすでに日が暮れ、月が窓越しに姿を表していた。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 26
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 23:20

 「……ん?」

 リクオは目を覚ます。

 「…ここは…?」

 目の前には海、後ろは森、大きな木の下でリクオは横たわっていた。

 「……気がつきましたか。」
 「……え?」

 よくみると、横たわっているリクオをひしっと抱きとめている人間
 がいた。…デュオールだ。

 リクオが気を失っている間、ずっとデュオールが抱きしめていてく
 れたのだ。

 「ここはいったい…そうだ、ロストがあのオーブに封じ込められて
  から…それから……、……どうしたんだろう…?」
 「このオーブですよ。」

 デュオールは真紅に輝くオーブをリクオに見せる。

 「……そ…それはたしかサガが…」
 「あのあと私が譲り受けました。ロストさんは私の友達ですから。」
 「…でもどうやって!? いや、それよりなんで俺の記憶が無いん
  だろう…。」
 「リクオさんには少しの間眠ってもらいました。」
 「……なぜ?」

 デュオールは少しさびしそうな表情で

 「私の魔術のネタがばれたらまずいでしょ。」

 デュオールはオーブを眺め

 「あのとき私が使った魔術…あれは本来使われることはあっては
  いけない事…」

 ゆっくりそれをなでる。

 「……封印されてしまったロストさんはそう簡単には戻せないけ
  ど、…必ず見つけて見せる…この封印をとく方法を。」

 リクオは複雑な気持ちであった。目の前のデュオールの力になり
 たいと思うが、それはあの殺人狂キリストを否定する女、ロスト
 を再びこの世に野放しにすると言う事だ。

 風の音と波の音色が、月明かりの青い海を静かに広く、雄大に奏
 でていた。
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〜麗しき闇の真紅の玉〜 終
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 23:25
 翌日

 報酬をもらったリクオはまだフェリスの町を歩いていた。

 「…ん?」

 ……ちょうどフェリス大聖堂の前、一人の女が立っていた。
 緑に輝く長く黒い、後ろで束ねられた髪、そして背中に背負った
 大きな槍。

 「ふんっ、元気そうだな黒猫。」
 「……なんだあ? 悪いがもう俺の手元にあのオーブは無いぜ?」
 「そうだろうな。」

 カリカはリクオの方に歩み寄り

 「デュオールとかいったか、あの魔族に伝えておけ、見つけ次第
  殺すと。」
 「……魔族…?」

 カリカはリクオの表情を見て取り

 「…貴様も知らなかったようだな。」

 そしてカリカはリクオの体をじろじろと見、

 「……貴様…体は……何ともないのか?」
 「体? ……べつに、……なんで?」
 「…い…いや、忘れてくれ。」

 カリカはリクオの横を通りすぎ

 「今回は私の負けだが、次は容赦しないぞ。」

 そう言い残し、その場を去って行く。
 リクオはカリカの後姿を唖然と眺めながら

 「……一体……何が言いたかったんだあいつ…」


 フェリス大聖堂沿い街路樹

 「デュオールが魔族…あのデュオールが…」

 宿屋のサロンで見た、やさしい彼女の顔を思い出す。

 「信じられねえ…いや、信じられねえが…」

 …そう、彼女が魔族であれば、悔しいがいろんな所でつじつまが
 合ってくる。…そして思う。

 「とてもやさしい目をしていた…。少なくとも、あれよりひどい
  人間なんか数えたらきりが無い…。…もしかしたら、根本的な
  部分は人間と大して変わらないんじゃないだろうか…。」

 
 フェリス大聖堂の鐘が鳴り響く。

 「いいお天気…。」

 フレアはフェリス大聖堂沿いの街路樹を掃除していた。

 「デュオール戻ってこないなー、どーしたんだろ…。」

 走行考えている中、一人の男が視界に入った。

 「あ、リクオさーんっ」
 「ん? ……ああ、あんたはフェリスの……」
 「おはよーございますー。」

 フレアはコクンと首をかしげ

 「あれー? デュオールさんはー?」
 「え? …さ…さあ、俺は報酬をもらったあと、その場で別れち
  まったけど…」

 リクオは少し考え

 「……なあ…」
 「なんですー?」
 「デュオールってさ、」

 リクオは言いかけ

 「……いや、何でも無い…」
 「えー? なんですかーっ?」

 うそであれ本当であれ、デュオールはデュオールだ。リクオは
 そう自分に言い聞かせる。

 「じゃな、気が向いたらまたよってやるよ。」
 「へんなのー、じゃねー。」

 フレアが元気に手を振る中、リクオはその場から立ち去る。
 
 それはまぶしいくらいに輝かしい、日のまぶしい朝の事であった。
  
 
 
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Re:〜麗しき闇の真紅の玉〜 終
puni [Mail]
11/25(Mon) 23:10
サムスさん
マリーの果実を我が店に、も読みましたが
おもしろいですねぇ。
もうファンになってしまったかも・・・。w
また今度お会いしましょうね。
では。
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Re:〜麗しき闇の真紅の玉〜 終
GUM [Mail]
11/30(Sat) 7:17

 サムスさんの書く物語は独特の雰囲気があって面白いです。

 1本書き上げるのは時間かかるかもしれませんが
続き(と言うかまた違う話)も読みたいと思います。
既にファンとかそう言う次元を超えましたw


 私が自分の小説で使う「サムスさんの持つキャラの性格」は
各小説に出ているキャラの性格を良く読んで自分也に理解した上で
アレンジさせていただきました。

また面白い、そして楽しい話を読ませて下さいね。
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