「わたしくはリーゼと申します」 皇女らしい身のこなし、小さな体。目の前に居るのはセルシンが愛してやまなかった人だ。 「わたくしは、気付いたら魔女の家に居りました。 そして、彼が・・・セルシンがわたしくを命がけで助けた事を知りました」 彼女はきゅっと唇をつぐんだ。 リーゼの中で様々な想いが駆け巡っているのが分かる。 「どうして・・・どうして彼を止めてくれなかったのですか?! わたくしは、わたくしの命などどうでも良かったのに。 わたしくの命よりも、彼自身を大事にして欲しかった。 どうして貴方は、貴方は・・・」 嗚咽に埋もれて、彼女はそれ以上話せなくなってしまった。 メレリルはゆっくりとお茶を入れ、彼女を椅子に座るよう促した。 メレリルとリーゼがゆっくり向き合う。 そして、リーゼは泣いたまま悲しみに暮れていた。 メレリルは重い口を開いた。 「貴方が生きている事、それが彼が望んだことだから・・・」 リーゼはメレリルを睨み付ける。 「そんなの、そんなのって勝手だわ」 怒りを抑え切れないリーゼは自分の感情を外に剥き出しにした。 「こんなことになってしまうなら、わたしくは彼と一緒に死んでしまいたかった。 今は・・・彼がどうして居なくなってしまったのか、どのようにして亡くなって行ったのか、 それが知りたいだけなんです!わたくしも”怨念の野原”にこれから行くつもりです!」 感情的になっているリーゼは唇を震わせていた。 メレリルは何も言わない、何も否定しない。 ただ、リーゼを見詰めるだけ。 そして、お茶を一口飲んで、カップを置いて一言つぶやいた。 「守ってもらった命、大事にして」 そして、リーゼの手を握った。
”華の魂”がどのように彼女の手に渡ったかは分からない。 どのようにして”怨念の野原”に辿り着き、彼と融合した”華の魂”を誰が持ちかえり、 リーゼに与えたかはお互い知る由もなかった。 ただ、愛するものが生きている事、そして恐らく死んで行った事。 止められない運命。逆らえない時間。
ただの世界の一コマ。 そして今日も”幸福の食卓”には人が集まる。
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