リンクシェル「タークス」での会話。 「ウルへ、アルフリートだ。そちらの準備は?」 「サクッと終わったぞ、とっとと来い」 「了解した、行くぞ、ピーチェ」 「あい!」
ガーディアンの種「星の大樹の実」を奪取する、それがアルフリートの目的だった。 どうして盗むのが「星の大樹の実」であるかはまだ語るべきではないだろう。
ガーディアンの種である星の大樹の実とはどこにあるか? ウィンダス連法の政の中心地、星の巫女が住み、神話の時代から雄々しくたたずむ樹、星の大樹、公称「天の塔」――の地下室である。 そこは部屋の半分を占める池に流れ込む穏やかな水の音がある。水の流れの下となっている石造りの床が涼しげな印象を部屋に与え、星の大樹の御身により出来た木の壁が落ち着いて光を跳ね返しているのがとても神秘的であった。 木造りの鉢に星の大樹の実が埋められてあり、静かに寝息を立てていた。 直径10mの、丸く本当に静かな空間。 そこに今は6人のミスラの戦士がいる。全員が完全武装、室内戦にて取り回すのに都合が良いようにと武器は短剣と格闘武器と投げナイフ、防具はローブを中心とした柔らかくも丈夫な物を装備している。 ウィンダス最強と謳われるミスラの守護戦士の精鋭6人。 その中で一人だけ他の守護戦士と違う装備をした例外がいる。 セミ・ラフィーナだ。 彼女は自分の相棒である緑の長弓を持っていた。大きさは自分の身長程もある。彼女以外には引くことができない程その弓は硬く、その硬い弓を彼女は雷のような速さで矢を継ぎ、放つのだと吟遊詩人は謳う。 彼女は今、地面にあぐらをかいて座り、緑の長弓を自分の右肩に立てかけていた。瞑想するように目を閉じ、微動だにしない。 周りにいる戦士にもラフィーナの緊張感が伝わる。穏やかな静寂とは違う、熱気の籠もった静寂があたりをしめ、微風すら許さない。 優秀な狩人であるラフィーナの感覚はこの天の塔全域を把握していると言っても良い、水滴一つ、呼吸の一回、この地下室の水の香りすら感じ取っている。感覚と精神を矢じりのように研ぎ澄まし、その中から欲しい情報を拾う。今、彼女の全神経はそのために使われている。 大方、あのコソ泥はここまで潜入する作戦を取ってくる。奴らはほぼ単独か、いて2・3人。外には力押しでは絶対通れない程のこの天の塔直属の守護戦士達が数を揃えて警備している。潜入で裏をかこうという思惑だろうが、このラフィーナが目的の物の前の陣取り、こうして神経を張りつめさせている以上、蟻だろうと霞だろうと見逃さない。 例え、この部屋まで来られたとしても、壁の向こう側にいようが打ち抜けるこの弓と鋼鉄製の矢がある。そして、どんな速度だろうと自分は早く感知し、標的を射抜ける。そう、ここには絶対の罠がある。 逃しはしない。 そうだ、そのために薄汚いコソ泥の奴をこの「木の虚から出来た地下室の天井裏」まで来ていることを許しているのだ。 機は熟した。 ラフィーナの腕が動く、足が捌かれ、地を音もなく擦る。急に動いたラフィーナに周りの守護戦士が驚いて、距離を取った。 無音であくまで素早く。 ラフィーナは直立不動の姿勢を取り、弓を掴んだ左手がまっすぐと伸び、右手の親指と人差し指に鋼鉄製の矢を掴み、薬指と小指の間にはもう一本の鋼鉄製の矢がある。 全てが反射の域まで高められた修練の結果、かかった時間は一秒未満。弓に張られた弦を矢と共に引き、 放つ! 鉄で出来た矢は容易く天井を撃ち抜き、星の大樹の一部である天井裏に潜んでいた侵入者の足場を崩した。侵入者はあえなく落下、まさにラフィーナが引きずり出した格好となった。 「アイタ――――――!」 地下室へと落下してきた侵入者は尻餅を売って悲鳴を上げる。 それは青い髪の毛のタルタルだった。 一斉に五人の守護戦士がそこへ殺到した。タルタルの身体を踏みつけ、身体の上に乗りかかる事でその身体を捕縛する。 「痛いですぅ!頭踏まないでくださいです、みゅーーー!」 捕らえるべき侵入者に全員が対処するべく今まで陣が敷かれていた。 だから、彼らはまず反応してしまった。本当に捕まえるべき侵入者の前に来たこの異邦人に守護戦士達は反応してしまったのである。 床に這いつくばったタルタルに全員の視線と集中力が向いた瞬間。 それが守られている場所を奇襲するのにもっとも適した「起こるであろう他の事を自分の考えから外す」時だった。
かろんかろん
宝石が天井から放り投げられた。 それは白い魔力の輝きを宿す、光のクリスタルだった。 クリスタルは持ち主の意志を反映し、「放ってから2秒後に最大限に強く輝いた」。 太古から続く静かで穏やかな静寂を筆舌に尽くしがたい光量が侵していく。それは、一緒にいた守護戦士達も同様だ。彼女達の視界をその光は奪っていった。 襲撃者の中でもっともクレバーに反応したのは守り手の中で、もっとも冷静な人間だ。 「総員散開後、目薬を使え!」 セミ・ラフィーナだ。 だが、侵入者の動きがラフィーナの言葉より早い。床を強く叩く音が聞こえてきた後、激しく肉と肉がぶつかり合う音がラフィーナの耳に聞こえてきた。 それに遅れてラフィーナの所に守護戦士の一人が飛ばされてきた。 「くっ!?」 不意に加わった衝撃に思わずラフィーナは飛んできた守護戦士もろとも転んだ、相手は自分が一番やっかいだと知っている。力の弱いミスラに対抗できない手段で力業で封じてきたのだ。 ラフィーナが目薬を眼に注し、守護戦士を押しのけて起き上がった頃にはすでに侵入者が天井の穴へと逃げていた。 「何をしている、相手は体の大きいエルヴァーンだ、もたもたせずに追え!」 「は!」 守護戦士の一人がその言葉に従って天井裏へと昇ったが、昇った後、すぐに天井から焦った様子で滑り落ちてきた。 「ダメです、蜜蝋が塗られていて登る事が出来ません!」 あのエルヴァーンの怪盗にとことん後手に回される羽目となった。 その事実に怒りを覚えたラフィーナは地団駄を踏みそうになるのを必死で堪えた。そんな時間は無いからだ。ラフィーナは少しでも怒りを抑え、冷静に判断するために口調に怒気をにじませた。 「行くぞ、外に出てあのエルヴァーンを捕まえる!」
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