怪盗の生きた軌跡を語る前に彼自身について語っておこうと思う。 アルフリートはシルバーブロンドのエルヴァーン――褐色の肌と尖った長い耳、そして、頑強で美しい肉体を持つ種族――の名前である。エルヴァーンの中でも抜きんでて背は高く、顔の作りは少年のように穏やかな物だ。 ただ、彼と一度でも喋った人間はそんな物がただの外ヅラである事を思い知る。常に彼の口調は一方的でハイテンションであり、他人の評価や世間の風評、常識を気にしない言動と立ち居振る舞いは側にいる者に常に「疾風」を当てているようだった。 それは彼独自の優しさであり、彼の狭量なところであったり、彼の優れた審美点でもあった。 彼は常に相手に対して質問している。 「私はこんな男だ。それでも良かったら来たまえ」 彼には目指すべき所がある。だから、他人も常識も気にしない。彼の中にあるのは「やるべき事」と「道理」である。 目指すべき場所とはどこか? 高みである。 人間として上がるべき場所だ。
「世界で一番高い場所に行きたい」 それが彼の望みであった。 彼の魅力とはまっすぐに自分という存在を昇華しようという所にあるのだろう。
ウィンダス連邦の政治は星の巫女と呼ばれる存在が、目の院、口の院、鼻の院、手の院、耳の院、という魔導研究所の院長5人に神託を告げ、5人がその内容から行政を担当する、神託政治だ。 非合理的な政治体制ではあるが、これでウィンダスはバストゥーク共和国やサンドリア王国、ジュノ大公国より長い間この地を統治しているのだ。方法論など関係なく結果を出し続けている良い例の一つだと言える。 このウィンダスの政治形態から分かるように、院長とはただの研究所の所長ではなく、ウィンダスの行政を預かる重要な職なのだ。
ウィンダス森の区にある手の院はウィンダスでもっとも貧乏な院であると同時に、ウィンダスでもっとも役に立っている院であると評判だった。ここはガーディアン ――三本の車の足と寸胴の身体に、木で出来た身体を持つ人間大の人形、星の大樹の実から生まれ、星の言葉を喋る―― を一人前に育てるカーディアン訓練所であり、市内の警備、雑用、案内と様々な分野に渡って活躍している彼らを育てるこの手の院は、変人揃いの院の魔法使いの中で最も役に立っているとも言えた。 そこの院長の名はアプルル、聡明で心穏やかな女性と評価されているタルタルである。
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