同日12:00 ウィンダス〜ジュノ間を最速で結ぶ、飛空艇を所有する会社、飛空艇商社は各国にその末端を上手に伸ばしており、旅行者は飛空艇を各国から利用することが出来た。 ウィンダスにおける飛空艇商社の外観は陽光のはいる隙間もない頑丈な石造りの建物であり、入ってこない明かりはウィンダスの耳の院に分けてもらった「魔法花」の緩やかな明かりで照らされ、中の人間の業務には全く差し支えない。中にあるのは大量の羊皮紙とインク、滑らかな肌触りと暖かな外見のメープルテーブルにいくつもの木製の椅子と、来客用の滑るような肌触りのクアールの皮のソファー。 来客用用以外の部屋は質実剛健の品揃えだ。 中にいるのは受付役のタルタルの令嬢と事務員のヒュームの女性、そして、タルタル男性のウィンダス支店長だ。 全員が忙しい、タルタル令嬢はヒューム女性と支店長の雑用を押しつけられ、ヒューム女性は金勘定で忙しく、支店長は飛空艇の席の整理で忙しい。さらに、これの上に客への対応が加わるので忙しさは殺人的となる。多分三人でこの飛空艇商社を運営しようと言うのが間違いな気がする。 そう思っていたタルタル令嬢、メルテテは来客用の呼び鈴の音で額の血管が一本切れたような気がした。 しかも、呼び鈴は乱暴で短気な感じで連打されていた。 メルテテには社員としての義務でそんな状況でもプロとして客に接さねばならない。社員としてのジレンマにこの仕事を辞めようかなと思いながら、カウンターに来た客を見た。客は小振りなリュートを背中に背負っている金髪のタルタルだ。そのタルタルに対してメルテテは日頃の条件反射で作り上げた鉄壁の笑顔で応対を開始した。 「いらっしゃいませ、どのような御用でしょうか?」 「あ、ごめん。あんたじゃ話通らないから社長さん呼んできてくれない?」 メルテテはさらに十本血管が切れた気がした。しばしあまりの怒りに言葉を失う、このクソお客様、何考えているんだよ!こんちくしょう!―――しばし心の中でそんな悪態をついてみる。 「ほら、そんなところでボーっと突っ立ってないで早く、早くぅ」 自分を急がせようとしているアホな客に嫌味なぐらい鋼鉄の笑みを浮かべながらメルテテは言った。 「失礼ですが、支店長にアポイントメントは取っておられですか?」 勝った! メルテテは心の中で勝利の喜びに飢えた笑みを浮かべた。これはただの問いかけではない、自らの安全性を取れ、なおかつ相手を責める攻め口にもなる巧妙なる戦術なのだ。もし、男にアポイントメントが有れば、ただ通せばよい。メルテテにその時、自らに非という物は全くない。そして、もし、男にアポイントメントが全くなかったら、その時は冷たくこう言い放つのだ。「すみませんがアポイントメントの無いお客様はは通すわけにはいきません」・・・・・・完璧だ。さあ、後は目の前の客が自分の不甲斐なさを認め、すごすごと帰っていくだけだ。 さあ、今すぐ「無い」、と言いなさい!さあ! 男が口を開いた。 「無い」 来た! メルテテは鋼鉄の笑顔でお決まりの台詞を言った。 「すみませんがアポイ・・・・・・」 男が袋をカウンターに叩きつけた。重い音がする、たくさんの硬い「何か」が詰まっているのだ。 「お金はあるから大丈夫!!ほら、早く早くぅ!!」 男の浮かべた顔はとことん自信に満ちあふれた顔だった。 メルテテは目の前にいるこのタルタル男性がまるで自分の理解の範疇にいない事を悟った。道理を無理で押し通す常識外の生き物だと悟った。 受付嬢としてのプライドをめっきり折られたメルテテはトボトボと歩いて事務室にいる支店長を呼びだした。 なにやら2.3話した後、メルテテの知らないところで密約が行われたようだ。 その時、契約書に書かれた名前をメルテテは見ていた。 確か、その名前を「ウル」と言った。
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