…これを誰が聞くことになるのかはわからんが… この頭髪の真実の姿の記録として、これをここに残す。
オレの名はフロウウェン。 パイオニア1陸軍副司令官ヒースクリフ・フロウウェンだ。
我々の目的である惑星ラグオル殖民の進行状況は悪くはなかった。 コーラル本星環境の悪化。新天地の必要性から発令されたこのパイオニア計画。
惑星に到着した我々は生存可能かどうかを調査し、胸踊らせながら居住環境を築いた… だが、意外とストレスがたまっていたのかもしれぬ。 …いや、最初からそういう運命だったのだろう。
抜け毛… この先祖代々からの「ハゲの血筋」は、我々の手で扱える範疇を遥かに超えたものだ。受け継ぐべきではなかったのだ。 この呪わしき過去の遺産は…
オレは 一生忘れんだろう。 まるで 日に日に枯れ葉が散り落ちていくようなあの姿。 みすぼらしくてたまらない、と言うよりは むしろ… ひとつひとつの毛根が死と離別を繰り返しているかのようだった。
…認識には成功した… が、オレが利用した市販の育毛剤も ほぼ全滅。 そして生き残った頭髪で、薄くなった部分を覆った。 今でも蠢くこの血筋は「生きている」 そしてオレの頭部を支配しようと侵食し続けている…
「地肌の面積が拡がっている」 …オレの頭を指してオストは言った。 ハゲ拡大の兆候。その発見に奴は狂喜していた。
そして オレにこう聞いてきた。 「毛髪を失いつつある頭部の未来のため 君の身体を研究所にあずける気はないか?」と。
随分とさびしくなってきたこの頭髪が再びフサフサになるならば、なにも思い残すことはない。 そう考え、オレは幾つかの条件と引き換えに研究所の申し出を受けた。
オストはそれを聞くと喜び勇んで言った。 「君はこれから当研究所公認のカツラをつけることを認めなくてはならない。」
つまり これから何が起こったとしても抜け毛を隠さねぱならない。使用後の写真を先に撮るということだ。 「CMの発表や本星に残してきた家族へのギャラの送金は全て当研究所が済ませる。」と奴は言った。
提案を受け入れたとは言え、心残りもあった… この老いぼれを「お得意さん」と呼びこんな未開の地にまでついてきてくれたあの理髪店の娘。オレのCM出演を知らされた時、あの娘はどう思うだろう…
だが、そんな感傷もつかの間だった。 オレは新しい増毛法のイメージキャラクターとして世間には発表され、ある放送局に送りこまれた。 それが全ての過ちの始まりだったのかもしれぬ。
今 この頭部を覆うアフロヘアーは 言わば、オレのこの決断が生み出してしまったようなものかもしれないのだ…
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