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- 機械仕掛けの左腕 第一話 - Shin [1/4(Wed) 3:30]
機械仕掛けの左腕 第二話 - Shin [1/4(Wed) 3:41]
機械仕掛けの左腕 番外編 - Shin [1/4(Wed) 3:44]
機械仕掛けの左腕 第三話 - Shin [1/4(Wed) 3:52]
”each”(機械仕掛けの左腕 外伝) - Shin [1/4(Wed) 4:00]
あとがき - Shin [1/4(Wed) 4:06]
オマケ・裏設定 - Shin [1/19(Thr) 6:51]



機械仕掛けの左腕 第三話
Shin [Mail]
1/4(Wed) 3:52
あたりはもうすっかり暗くなっていた。

建物の隙間から差し込む光に、ぼんやりと映し出される狭い道を歩く、一人の男がいた。


ふと、上を見上げる。

建物の最上階から放たれている光のすじが、ゆっくりと回っている。

「…あと一つ…だが…」

男はぼそりとつぶやく。


その時…。

光のすじが一瞬何者かにさえぎられるのを、男は見逃さなかった。
すばやく身をひるがえす。

ガキィン!!

男のいた場所に、何者かがものすごい勢いで突っ込んできた。

「誰だ!?」
とっさに身構える男。

舞いあがったほこりの中から現れたのは、異様な姿をした男だった。

「へへへへへ…、さすがだねぇ、クレイさんよぉ?」

「な!?お、おまえは…!」
その男の顔を確認したクレイは、驚愕の声をあげた。





シヴァンは納得がいかなかった。

ここしばらく、クレイと連絡がとれない。
ましてや、消息さえもつかめない。

クレイがシヴァンの前から去る前に残した言葉。

「絶対についてくるな」

それだけ言い残すと、クレイは行方をくらましてしまったのだ。

「…も〜!どこいったのよ〜!あんなので納得できるわけないでしょ〜!?」
いらだちがピークに達したシヴァンが、思わず独り言を口にする。

「…絶対見つけ出して、説明してもらうんだから!」


シヴァンは情報をあつめていた。
さまざまな情報屋を訪ね歩き、一人の男の行方を探した。
どの情報屋も、まず、なぜその人物を探しているのか質問した。
シヴァンが探していたのは、自分のパートナーであるはずの、クレイその人だったから。

しかしどの情報屋も、クレイの行方についてはまったく知らなかった。

元盗賊。
姿をくらますことくらい、クレイには造作もないことだろう。
クレイは盗賊をしている間、一度たりともつかまった事などなかったのだ。


「あと、あてがある所といったら〜…」
シヴァンは、ディヴァインのいる倉庫のある中古ショップに行ってみる事にした。




「…クレイさん?最近見なくなったねぇ…」
店主の返答は、期待していたものとはかけ離れていた。

「ディヴァインさんの修理よりも大事なことがあるの…?」
ため息をつきながら、シヴァンは横にあった椅子に腰掛けた。

しばしの沈黙があたりを包む。
不意に店主が、思わぬことを口にする。
「…たしかあの人、修理は終わったって言っていたが?」

「…へ?」
思わず間の抜けた返事をしてしまうシヴァン。

「ちょっと見てきます!」
シヴァンは慌てて立ちあがると、バタバタと倉庫のほうに走り出した。


ディヴァインの体は、確かにきれいに直っていた。
あぜんとして眺めていると、店主が後ろからゆっくりと姿を現した。

「…あとは左腕と、マスターシステムだけらしいねぇ…。まあ、マスターシステムはグラハムの野郎が持ってるだろうから、手に入れるのは難しいだろうがねぇ…。」

シヴァンはさらに納得いかない気持ちでいっぱいになった。

ついていっちゃいけない理由も教えてくれなかった。
修理が終わったことさえも教えてくれなかった。

「一体なにがあったっていうのよ〜…。」
シヴァンは深いため息と同時に、がっくりと首をもたげた。


「…嬢ちゃん、こいつ持っていきな。」
不意に、店主はシヴァンに一枚のテクニックディスクを差し出した。

「…これは?」
突然の出来事に再びあぜんとしてしまうシヴァン。
店主は強引にシヴァンの手にディスクを持たせると、ゆっくりと話し始めた。

「…俺の勘では、多分あの人は、嬢ちゃんのことを巻き込みたくないから姿を消してるんじゃないかと思うねぇ。…要するに、相当ヤバイことになってると見たね。」

あぜんとしたまま、シヴァンは店主の話を聞く。

「…だから、あんたはパートナーなんだろ?…見つけ出して助けにいってやりな。」

シヴァンは手に持ったディスクに目を落とす。
見たこともないようなディスク。
「これってもしかして…?」

店主は口元に軽く笑みを浮かべながら言った。
「…わしもあの人のファンなんでね。」



シヴァンが中古ショップから出てくると、一人の情報屋が慌てて駆け寄ってきた。
「シヴァンさん!新しい情報手に入れたよ!!」

シヴァンは表情を一変させて情報屋の話を聞いた。
「…で、行方がわかったの?」
「いや、クレイさんのことじゃないんだが…。」

軽く眉をひそめるシヴァン。
「じゃあ、なにがわかったっていうの?」
情報屋は、ゆっくりと言葉の一つ一つをかみ締めながら、シヴァンに情報を伝えた。

「グラハムの野郎が、脱獄したらしい…。」





人の気配はすっかりなくなり、誰もが寝静まった時間帯。
あたりを気にしながら、気配を殺した男が中古ショップの中に入ってきた。

「…おや?…久しぶりだねぇ。クレイさん。」
店主が軽く笑みを浮かべながらクレイに話しかける。

「ああ…。ちょっと最近忙しくてな。倉庫使わせてもらうぜ。」
クレイはそれだけ伝えると、倉庫の方へ足早に消えてしまった。

しばらくすると、倉庫に続く廊下のドアが開く。
中から出てきたクレイの姿を見て、店主は驚きの声をあげた。
「ク、クレイさん!?そいつぁどうしたことだい!!」

ドアを開けたクレイには、あの左腕が―――――――なかった。

あぜんとする店主をよそに、クレイはまたさっさと店を出ていってしまった。





「それは本当!?」

翌日、シヴァンは再び情報屋と落ち合っていた。
思わず身を乗り出すシヴァン。
ついに決定的な情報がつかめたのだ。

「…ああ、たしかに昨夜、坑道に向かうクレイさんを見た奴がいるらしい。だが…」
情報屋は表情を曇らせる。
「だが…?」

情報屋は一瞬声を出すのをためらうと、シヴァンの目を見据え、ゆっくりと伝えた。
「左腕が…、無かったらしい…。」


シヴァンはその話を耳にするやいなや、すぐに転送装置に向かって全速力で走り出した。





坑道エリア。
一体何度このエリアに来たことだろうか。
しかし、今回はいつもと雰囲気が違う。

無残な姿に変わり果てた作業用ロボット達。
まるで何者かにえぐられたような痕跡。

襲いかかってくる敵は、誰もいなかった。
そこには、ただ残骸のみが大量に転がっている。

クレイは細心の注意を払いながら移動していた。

あたりには、クレイの足音だけが響いている。


ふと、突然足を止めるクレイ。

静かだった。
だが、あまりにも静か過ぎる。

緊迫した静寂が続く。


クレイが右手に持っているソードのスイッチを入れた、その瞬間。
すばやく自分の背後に向かってソードを振った。

ガキン!

ソードに重ねられた異様な形の腕。
そこにはいつの間にかあの男が立っていた。

「へへへへ…、やっぱり一筋縄じゃ死んでくれねぇか…。」

片腕で男の腕をギリギリと支えるクレイ。
「あったりまえだ。アンタなんかに殺されたら死んでも死にきれねぇな、グラハムさんよ。」

クレイはグラハムの腕を跳ね除け、すばやく斬撃をくわえる。
しかしグラハムは、目にも止まらぬ速さでそれをかわした。


グラハムの両手、両足はアンドロイドのパーツと付けかえられていた。
右目には、アンドロイドの目が埋め込まれている。

その姿は、もはや人間の原型をとどめていなかった。

「このパーツ…、誰のパーツかわかるかぁ?」
グラハムが指先をカチカチと鳴らしながら言う。

「マリア…、覚えてるか?あいつのパーツにちょいと手を加えてね…。」

クレイの表情が一変した。
「てめぇ…、アンドロイドをなんだと思ってやがる!」

クレイのソードがグラハムめがけてすばやく振り下ろされる。
しかし、グラハムを捉えることはできない。

「フン…、今の俺に勝てっこねぇよ、クレイさん。このパーツは全部リミッターが解除されてんだ。へっへっへ…。」
不敵な笑みを浮かべるグラハム。

「しかもアンタ、ご自慢の左腕はどうした?俺の使ってたポンコツからいただいたありがた〜い腕なんだろ?」

クレイはソードを構えなおした。
「あれに傷なんかつける訳にはいかないんでね。てめぇなんざ、右腕一本で十分だ。」

グラハムは一瞬表情を曇らせるが、すぐにもとの不敵な笑みを浮かべた。
「あんた、なにもわかってないねぇ。あんたが俺を倒せない理由、他にもちゃんとあるんだぜ…?」

グラハムは自分の胸のあたりを指差した。
「あんたが必死になって探してるマスターシステム…、俺の中にあるんだよ…。」

「な…!?」
クレイが驚きの声をあげた瞬間、グラハムはフッとその姿を消した。

素早く身構えるクレイに背後から強烈な一撃。
思わず態勢を崩すクレイ。

どこからともなくグラハムの声が聞こえる。
「無駄だぜ!言っただろ?リミッターを外してあるんだ。あんたに見切れるような速さじゃないぜ。」

足元に再び鋭い一撃。
確かにグラハムの姿を確認することができない。

グラハムが続ける。
「アンタのおかげで、俺は大悪党扱いだったよ。ムショに入れられて、クサい飯食わされて…、人間扱いされなかったぜ?あそこではよぉ!」

次から次へと、どこからともなく襲いかかるグラハムの猛攻。
反撃どころか、防ぐことさえもままならない。


ボロボロに体力を削られたクレイの背後に姿を現すグラハム。
「へへへ…、覚悟しな、とどめだ!!」

クレイに向かって飛び掛るグラハム。
しかしその時、グラハムの体をまばゆい光が包み込んだ。
「な…!?なんだこりゃあ!?」

一筋の閃光とともにグラハムに襲いかかるすさまじい衝撃。

「ガアァ!?」
グラハムは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「ま、間に合った!」
部屋の入り口には、ウォンドを構えるシヴァンがいた。

「こ、こいつぁ…、グランツ…?クソッ、誰だっ!?」
軽く体をショートさせながら、ゆっくりとグラハムが立ちあがる。

「ひゃあ…、予想以上の威力…。」
シヴァンは軽く驚きの声をあげる。
「ガキかっ…、なめやがって…!」

「シ、シヴァン…!無茶だ!早く逃げろ…!!」
クレイはシヴァンの姿を確認すると、かすれた声で叫んだ。

「へへ…、もう遅いぜ!」
グラハムの姿が再び消えた。
クレイの顔に緊張が走る。
しかし、次にグラハムが現れた場所は…

シヴァンの目の前で横たわるグラハムがいた。
「ゾ、ゾンデ…!?な、がぁぁぁぁ…!!」
グラハムの体から、スパークがほどばしる。

「アンドロイドが電気に弱いことくらい、誰でも知ってるわよ?」
いたずらっぽく笑うシヴァン。


「ちくしょう…、ちくしょう!!」
グラハムは自由のきかない体を動かそうとするが、なかなかそうもいかない。
この隙に、シヴァンはクレイの方に向かって駆け出した。

「待ってて!今、レスタかけてあげるから!」
シヴァンがクレイの場所にたどり着こうとした、その時…

「…!あぶねぇ!!」
クレイは駆け寄ってきたシヴァンの体を自分の右側に跳ね飛ばした。


態勢を崩し、倒れこむシヴァン。
「な…?どうし…」

シヴァンはその目に飛び込んできたあまりの光景に、思わず声を失ってしまう。



そこには、向かい合うクレイとグラハムがいた。




そのクレイの背中からは、グラハムの腕が飛び出していた。




そこからボタボタと流れ落ちる真紅の液体。

立ったまま動かない二人の足元は、あっというまに真っ赤に染まっていった。


「い…、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
声にならない声で悲鳴を上げるシヴァン。


バチバチと体から火花をあげながら、グラハムがかすれた声を出す。
「へへへ…、ただじゃ死なねぇよ…。あんたも…、こいつも道連れだ…!!」

クレイの体から腕をひき抜く。
膝からガクリと崩れ落ちるクレイ。

グラハムは自らの胸に右手をあてがった。



ドシュ



生々しい音が響く。

グラハムはその胸の中に、自分の腕をつっこんでいた。

「グ…ガフッ…!」
ズルズルと腕を引き出すグラハム。

その手には…
マスターシステムが握られている。


「…らぁ!!」
最後の力を振り絞り、グラハムは部屋の隅にポッカリと口をあけた穴に向かって、それを放り投げた。

そのまま倒れこむグラハム。

そしてそのまま動かなくなった。


あたりには、錆びた鉄のようなにおいが充満している。


「あ…」
気が動転していたシヴァンには、どうすることもできなかった。

そのまま暗闇の中に吸い込まれていくマスターシステム。


しかし、それを追う一つの影があった。




―――――クレイだった。

ギリギリのところで右手にマスターシステムを手にするクレイ。
しかしクレイの足元には、すでに足場が存在していなかった…。







「…まぶしい。」


「なんてまぶしいところなんだ…。」



クレイは薄れ行く意識の中、不思議な世界に身を置いていた。



「なんだろう…」


「あたたかくて……」



「……なつかしい………」




一瞬、クレイの背後に、真っ白な翼を広げた美しい女性が現れた。


どこか、なつかしい感じのする人だった。


クレイにやさしく微笑みかけるそのひとには、左腕が無いように見えた。






よろよろと立ちあがるシヴァン。

目の前では、グラハムが息絶えている。


ふらふらと穴の前まで歩くと、シヴァンは膝からガクリと崩れ落ちた。


「そんなぁ…、クレイ……」

シヴァンの目に大粒の涙があふれかえる。


シヴァンはその場で手をつき、がっくりとうなだれてしまった。



…と、一瞬穴が光ったような気がした。


シヴァンははっとして、頭を上げる。



なにかに呼ばれたような気がする。

慌てて穴を覗き込むシヴァン。



そこには、まるで何者かに優しく包み込まれているかように、飛び出したコードの束の中に横たわっているクレイがいた。








「…いよいよだね。」
少し落ち着きのない様子のシヴァン。

「…それじゃあ、いくぞ…?」

まだ痛む体を引きずるクレイ。
大勢の人々が見守る中、クレイはマスターシステムを取り出した。


ゆっくりとうなずくシヴァン。

辺りに居合わせている人々も、緊張した面持ちで様子を見ている。



カチリ…


ディヴァインの背中に差し込まれるマスターシステム。


ブンッ…   カチカチカチ…


ディヴァインの中で、起動音が聞こえる。

クレイはディヴァインの前に回りこむと、ゆっくりと息を整え、語り掛けた。

「…ディヴァイン、俺だ。クレイだ。分かるか…?」


ディヴァインの目がぼんやりと光をともす。


「システムキドウ…、マスターノトウロクヲオコナッテクダサイ…」

単調な発音でディヴァインが返答する。


「ディヴァイン…、分からないか?クレイだよ。お前のマスターだよ。」
「ピピッ…、マスターネーム:クレイ……トウロクカンリョウ。シジヲオネガイシマス。」

見守っている人々全員が、不安げな表情を浮かべる。

「シジヲオネガイシマス。シジヲオネガイシマス。」
ただ単調に繰り返すだけのディヴァイン。

「…だめか…。」
クレイが諦めかけた、その時。

「シジヲオネ…ガガッ!ピー……ガチガチガチ…」

突然ディヴァインが妙な音を出す。


しばらくして、音が鳴り止んだ。


あたりを静寂が包み込む。



ディヴァインの目に、ひときわ明るい光がともされた。
「…ここは…?…マスター…?」


どっと歓声が響き渡る。

奇跡は、起きた。


ディヴァインの記憶は、消えてはいなかったのだ。

ディヴァインはわけもわからないまま、辺りの人々、シヴァン、そしてクレイに大歓迎をうけた。



「マスター、その腕は…?」
しばらくしてディヴァインがクレイに質問した。

あたりが一瞬静まり返る。

「ああ…、こいつはな…」


何かを言い出そうとしたクレイは、その言葉を飲み込んでしまうと、笑顔でディヴァインに語った。
「なあに、ちょっと事故っただけさ。気にすんな。」




この日を境に、クレイはハンターから引退した。
というより、もはやハンターを続けられるような体ではなかった。







一人の片腕の男が、懐かしそうに一枚の写真を眺めている。
写真には、一体のヒューキャストを囲んだ、歓喜に沸き返る人々が写し出されている。

「あなた、タイレル総督が来てるわよ。」
不意に女性の声が男を呼ぶ。

「…ああ、わかった。今行くよ。」

男が部屋を出ると、一体の白いヒューキャストが立っていた。
「参りましょう、マスター。」


また一回り大きな扉を通りぬける二人。

扉の入り口上方には、このように書かれていた。







ハンターズギルド総合管理長

      クレイ=リッジウィン



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