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アルシャード小説「力の違い」 第六話 「仕事の始まり」
アルフリート [Mail]
8/5(Fri) 0:24

 じーしーだぶるえっくす―けいたいがたキャノン

ゼネラルマテリアルという てんじょうてんげゆいがどくそんてきに スバラシー ところがつくった ながいてっぽう。
ワルいヤンキーもこれでゲキイチだ、イエー!


 ゼネラルマテリアル社はミッドガルドで一、ニを争う輸送会社である。その業務は多岐に渡り、無謀とも思われる取引を星の数ほど成立させてきた剛腕を持つ。
 それはゼネラルマテリアル社が選り抜きの有能な人員に対してどこよりも公平な信賞必罰を用いているからである。有能な者こそ相応しい報酬と名誉を。それがゼネラルマテリアル社である。
 そのゼネラルマテリアル社の社員の中でも最も有能であり、外向的に、策謀的に、武力的に自社の商取引を単独で成立させる特殊工作員がいる。ゼネラルマテリアルの社員は彼らの事を尊敬と畏怖を込め、『エージェント』と呼ぶ。
 有給休暇無き、文字通りの企業戦士は、今日もその一流の腕を振るう!





 ……はず。










 積層都市バルトロマイ ゼネラルマテリアルインダストリィ
     バルトロマイ支社     二十三階三十八号室

その部屋のエントロピー係数はただただ増大していた。書類で作った紙飛行機という名前のゴミがそこら中に領土侵犯しているからだ。
その紙飛行機作りに興じている白シャツ黒ズボン黒髪の男は今もデスクの上足を放り出して楽しげにこう言った。
「ぶぅ〜ん♪」
また飛行機が部屋の中を旅立った。結果は開いたドアに阻まれ、墜落。
だが、彼にとって重要なのは墜落よりもドアを開けた人間だった。彼は床に散らばった紙屑達を一瞥して、一言。
「相変わらず『仕事』に精が出るね、ヨーテ君」
「ウォン部長ー!?」
紙飛行機を作っていた男――名をヨーテという――は自分が散らかした部屋のゴミを分身が見えるハイピッチで片付けた。
「部長!今日は何の御用でやがりますか、コンチキショー」
「……ヨーテ君、相変わらず言葉がファジーだね」
ゼネラルマテリアル社の昼行灯部長ことパトリック・ウォンはヨーテの上司だ。一見すると窓際一直線の人格だけが良い庶務二課置物部長だが、それは彼の有能さを隠す仮面に過ぎない。
「部長、ファジーなんてとんでもない。こう見えても最近淑女の皆様にメガヒット『薔薇の花咲く場所で今日もイッとく!?』の作者はオレなんですよ!」
仕事の上司の前で副業自慢するのはどうかと思うウォンであった。
あ、よく見たら書類と一緒に原稿用紙も紙飛行機の材料に……。
「まあ、副業は仕事に支障を出さない程度にね?それでは、今日もし――――」
 グータラ社員のヨーテは両手でポーズを取ると、ウォンのセリフに割り込んだ。
「し、『獅子舞い』ですか!?」
それはマーライオンのポーズ――――と、ウォンは心の中でツッコミを入れた。

ちなみにこの世界の名はミッドガルドである。この世界の住民は青い星の事情なぞ知るよしもない。

 ウォンは部下のお茶目を朗らかに笑ってやり過ごすと、
「今日のし――――」
「し、『シーラカンス』は太古のロマンでドキがムネムネしませんか!?」

しつこいようだが、この世界の名はミッドガルドである。この世界の住民は青い星の事情なぞ知るよしもない。知ってるはず無いんだってば!

 二回ともはぐらかされたウォンはこれ以上ない朗らかさでこんな事を言った。
「ヨーテ君……北の大地の風はとても寒いって知ってるかい?」
「やあ、勤労意欲充填率120%です、部長――」
 ウォンは朗らかな笑みを安堵の笑みに変えてヨーテに話した。
「やる気になってくれて嬉しいねえ。今回のお仕事はそんな君になら簡単だよ、ヨーテ君」
「ハッハッハ、任務達成率一億%、コードネーム『00ワンダフル』なヨーテ君ならどんなガールもワンコロだぜ?」
それを言うならイチコロだと言いたかったがやる気になっているヨーテに水を注す気は無いウォン。彼は速やかにヨーテに向かって書類封筒を突き付けて、
「ささ、これが仕事の内容を記した書類だ。早速確認してくれないかい?」
ヨーテは気取りハンサム五割増の顔で、優雅に書類を受け取った。ウォンはどこぞのコメディ役者のようだと思った。
すると――――
「ヨ―――テ――――!今度こそ一緒に仕事するんだからねー!」
「ヤベッ!」
ヨーテは廊下から響いてきた少女の声にとっさに反応。中に引いて開けられる扉にイスを当ててつっかえ棒にした。
呆れ顔でウォンが言った。
「ミカ君は相変わらず苦手なのかい?」
「あと、五年経ってナイスバディになったら考えますよ。あ、そうそう部長」
「うわわ、何するんだヨーテ君!?」
急ぎで荷物をまとめたヨーテは、ウォンの右手を素早くロープの片方で縛ると窓に向かってスキップランラン助走し、
「あちょー」
気の抜けた掛け声で窓を蹴破る。
ここは二十三階。
つまり、窓を蹴破って外に飛び出すとヨーテは落下すると言う事であり、
「ヨヨヨヨーテくぅ〜〜〜ん!?」
ウォンがヨーテの体重のかかったロープに引き摺られる羽目になる。
「部長、いってきま〜〜す」
何とか窓際でとどまったウォンは、階下から聞こえてくるヨーテの脳天気な挨拶に殺意すら覚え、やっと体重がロープから抜けた事にようやく一心地付いた。
そして、部屋のドアが開けられた。ドアの蝶番だけを破壊すると言う細かい荒技を敢行したミカが飛び込んできた。
「あ!もう逃げられたか〜〜」
悔しがるミカに苦笑したウォンは何気なくロープを手繰り寄せた。予想通り、ロープの先には紙切れが付いており、

『まだまだ甘いなメンチ君、フハハハー』

読んだミカが悔しがった。



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