Turks Novels BBS
〜小説投稿掲示板〜


[新規投稿] [ツリー表示] [親記事一覧] [最新の記事を表示] [ログ検索] [ヘルプ] [ホームページへ戻る]


- アルシャード小説「力の違い」 第一話 「語りの始まり」 - アルフリート [8/3(Wed) 23:55]
アルシャード小説「力の違い」 第二話 「光の始まり」 - アルフリート [8/3(Wed) 23:57]
アルシャード小説「力の違い」 第三話 「騎士の始まり」 - アルフリート [8/4(Thr) 0:00]
アルシャード小説「力の違い」 第四話 「黒刃の始まり」 - アルフリート [8/5(Fri) 0:19]
アルシャード小説「力の違い」 第五話 「任務の始まり」 - アルフリート [8/5(Fri) 0:22]
アルシャード小説「力の違い」 第六話 「仕事の始まり」 - アルフリート [8/5(Fri) 0:24]
アルシャード小説「力の違い」 第七話 「疾走の始まり」 - アルフリート [8/5(Fri) 0:33]
アルシャード小説「力の違い」 第八話 「特務の始まり」 - アルフリート [8/5(Fri) 0:36]
アルシャード小説「力の違い」 第九話 「破壊の始まり」 - アルフリート [8/9(Tue) 2:07]
アルシャード小説「力の違い」 第十話 「悪の始まり」 - アルフリート [6/3(Sun) 8:37]
アルシャード小説「力の違い」 第十一話 「特攻前夜」 - アルフリート [6/3(Sun) 8:45]
アルシャード小説「力の違い」 第十二話 「クィーン&ポーン」 - アルフリート [6/10(Sun) 16:39]



アルシャード小説「力の違い」 第四話 「黒刃の始まり」
アルフリート [Mail]
8/5(Fri) 0:19

 アウトレイジ

 二m超過の大剣。騎馬ごと人を叩き斬るために作られた大剣は威力もさる事ながら、それを扱いこなせる筋力を持つ者は少ない。


 広い。
目の前に広がる耕地はただ広い。作物を植えて、管理し、収穫するためだけの土地が視界の全てにある。
人が作った人造の広大さの中にその男はいた。男は麦わら帽子に黒ガラスの丸眼鏡をつけ、鍬を振り上げて畑を耕していた。
シャツが倍の重さになるほどの汗をかきつつ農作業をする男に、昼食をとるために道を歩いていた農夫が声をかけた。
「シェルバさー、もうすぐ昼飯だべー、一緒に食うかー!?」
シェルバと呼ばれた男は顔をあげて、汗を拭いた。
「ああ、いただくよー!ここを耕したらすぐ行くから先に食っててくれー!」
そう言って彼は作業を続けるために、また鍬を上げた。
そんな仕事熱心な彼を見て、農夫は口々に言った。「シェルバさは相変わらず良く働くべさ」「あの荒野、あっちゅーまに開拓しちまったのもシェルバさのおかげだべ」「おめー、シェルバさ婿にもらったらどうよ?」「やだべ、おとっつぁん!」

そんな農夫達の声を聞き、男は広大な大地の中で作業に没頭する。
陽光は彼の体にただ柔らかく降り注ぎ、風は彼の体の熱を優しく冷す。
鍬の一振り一振りに体に心地良いほどの負荷がかかり、男は思う。
「ああ、幸せだ……」
また、一つ。今度は今までより強く風が吹いた。
「……だけど、この幸せ。長く続いた試しが無いんだよなあ?」
 その言葉はその通りだった。
「良く分かってるではないか」
風を伴い金髪の青年は、宙より地に降りた。
長年の既知だ。今さらこの登場の仕方にさほど驚かない男は、溜め息のように力弱く霧散しそうな気配で答えた。
「なあ、アルフ……いつも俺は思うんだ。どうして、俺らは戦わないといけないんだ?」
 問い掛けられた友人はその期待に応えた。口から流れたのは世紀を超えて生き長らえた事による経験則。
「それは問題の立て方からすでに間違いだ、ラウド・シェルバ」
「いきなり間違いとくるか……」
さすがに口調が腰砕けになる。単刀直入に物を言う人間であるとは知っていたが、友に自分の疑問の存在その物をいきなり否定されたのはさすがに予想できなかった。
アルフリートは苦笑を浮かべたラウドに立板に水と話す。
「そうとも、闘争とは交渉手段の一つに過ぎない。そして、『彼ら』の要求は単純だ。『この世を我々に明け渡せ』。払う代価は暴力による交渉相手。それが彼らがこの世に捧げる生け贄というわけだ。最初から言語を使用する気は彼らには無い」
ラウドは右手を振った。その言葉を追い払うために。
 ラウドもアルフリートの言う『彼ら』と何度も戦ってきた。
 だから、アルフリートの言う事は良く分かる。
 ――――『奈落』。
 彼らに理由は無い。その侵略策謀暴力悦楽疑念殺戮、全てに理由は無く、この世の全てに牙をかけ、この世の全ての和を解き、この世の全てを破壊する。
 その行為に理由は無い。少なくとも――世界と自分を全て破壊し、ただ全てを虚無とするだけの存在の正当性など――ラウドには思い付かない。
 だが、彼らはいつもどこかにいる。世界のどこかで全てを破壊出来る機を窺っている。
「だから、その疑問は私には足踏みにしか見えないな」
「やっちゃあいけない事か?」
「いいや、足踏みするべきだ。……特に人間は」
ラウドは表情を動かす。「意外」、と。
「そんな顔をするな。貴様を少しは分かっているつもりだ。戦いの力と技は勇者の『それ』を持ち、されど心は常に臆病者という真性の天の邪鬼の扱いなど……慣れたものだよ?」
「言ってくれるなあ、……やる気無くすぜ?」
「良いとも、貴様が参加しない分だけ私の使命の達成率は下がる。下がると言う事は私がしくじるかもしれないという事だ。……日常の平穏を求める者に問おうか?大破壊の可能性を看過する事は果たして平穏かな?」
 ラウドは足下の土を蹴り、立ち上がる。
「あーあー、仕方ねえなあ。やっぱ偽善は居心地ワリィ」
 そう言って自分を否定するラウドの顔は、どこか晴れやかで本来の彼の顔に近かった。
 ラウドは拳をアルフリートに突き出して、こう言った
「自分の偽善ごと奈落をぶっ飛ばすとするか?」
「分かってくれてなによりだ」
 ラウドは渋面の顔をさらにひねり、こう付け加えた。
「あと半日待ってくれるか?一応ここの人にはお世話になりっぱなしなのよ」
「農作業は楽しいか?」
ラウドは頬を掻きながら言った。
「ナスの収穫がアツい。試しと思って何種類か輪作始めたら……」
 ラウドは林のように視界を埋める――背の高いトウモロコシとトマトが西側に主に占領しているだけかもしれない――野菜畑を鍬で指した。が、両手を広げてもまだ余りある広さの畑がラウドの鍬の向こうに広がっていたことにアルフリートは半分感嘆半分呆れる。
「何種類ではなく数十種類じゃあないのか?」
「俺もここまでハマるとはなあ?」
 自分でも得体の知れない何かを言葉で表現するのは難しい。
アルフリートにも聞かれて答えるのが難しい事はあるし、ラウドにとってのそれは畑仕事になりつつあるようだった。



この記事にレスをつける時は、下のフォームに書きこんでください。
お名前
URL
メール
※SPAM対策のため、メールアドレスは入力しないようお願いします。
題名
メッセージ
パスワード
このツリーを一番上に持っていく

下のボックスにパスワードを入力すると、記事の修正及び削除が出来ます。
パスワード

Tree BBS by The Room