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マリーの果実を我が店に 24 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:15]
マリーの果実を我が店に 25 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:22]
マリーの果実を我が店に 終 - サムス・アラン [2/3(Sun) 9:25]



マリーの果実を我が店に 24
サムス・アラン [Mail]
2/3(Sun) 9:15
……二時

 「…なんてこった…海賊もいねえ安全な船旅だと気を緩ませちまっ
たばかりに…」

 ミントを布の大袋に入れた後のこと、ミケは袋を見、力なくつぶ
やく。

 「…つきあいは長いのか…?」

 床に座り込みダガーの手入れをするリクオ。ミケは首を振り

 「…いや、今回が初めてだ。」
 「…じゃあ早くなれることだ、良くある事だからな。」
 「…んだとテメェっ!!!」 

 リクオの胸ぐらを掴みあげるミケ。
 「さすがはブラック・キャッツさまだなぁ、仲間が死んだって
  えのに何も感じないのかよぉ!!」
 リクオはとくにあせる風でもなく

 「何も感じていないとおもうか?……結構気に入ってたんだぜ、
  あいつの事…」

 両手を軽く広げる。…そして

 「あんたは戦士としては一流だが冒険者を語るにはまだまだ未
  熟だな。」
 「…何が言いてえ…」

 ミケの耳がぴくっと動くが暴れ出す気配はない。

 「あんたは仕事で人を殺したことはあるか?」
 「…ああ、それがどうした。」
 「もしミントが殺されることも無くこの仕事が終わり、それぞれ
  また別々に分かれ、そして次の仕事で今度はミントが敵として
  あんたの前に現れたら…あんたはどうする?」
 「……っ!!!!」
 「その腕ならまあ軽くミントをつぶせるだろう。…しかしもしほ
  んの一瞬でもあんたにためらいがでたなら…間違い無くミント
  の弓のえじきになっているだろうよ。」

 ミケは何の反論も無くじっとリクオの言葉をきいている。
 
 「この世界じゃあ敵と見方なんざ表裏一体だ、情に流されたほう
  が死ぬ、それがこの世界の流れだ。」
 「……そんなもんなのかよ…」

 ゆっくりとミケはリクオからてをはなす。リクオはさらに

 「なぜこの道を選んだかは知らないが、」

 持っていたほし肉をかじりとり

 「情を捨てきれないならこの世界から足を洗え。」

 リクオの言葉はきつく、しかしけして冷たくはなかった。
 水筒のワインを一口、そのまま月を見上げる。

 「いっしょに組む以上は仲間だ、仲間を思いやり大切にするの
  も必要だ、仲間が殺されるようなことがあってはいけな。」

 さらにワインを一口

 「だが仲間を殺され見境を無くし犠牲をかえりみずあだ討ちに
  望むのは情にあつい戦士さまの悪い癖だ。儲けにもならない
  しへたをすれば自分自信の命を消すことにもなる。」
 「…悔しいが…たしかにその通りだ。」

 ミケはがっくしとゆかにへたり込む。リクオはそんなミケに

 「…あんたこの世界にくる前いったい何してたんだ?」

 ミケは腕を組み

 「…グロリアス帝国の兵士だった。」
 「…へぇぇ…」

 ここ、キャトリシア大陸を統べる首都グロリアス。マリーノよ
 りはるか北の地である。

 「…帝国の兵士…か、又違う世界だな…敵と見方がはっきりと
  分かれさぞ情の熱さも輝かしいものだった事だろう。ほかの
  国の兵士と戦い中間達と助け合い生きて帰れば家族やほかの
  仲間が祝福してくれる。もしも仲間が死ねば悲しみ、そして
  それが明日への活力になる。…そんな世界を夢見る子供も多
  いことだ。」
 
 リクオは再びミケのほうを振り向き

 「しかし、この世界に入ってきた以上そんな甘い考えでは一ヶ
  月ともたんさ。ここでは自分が自分自信の為に仕事をしなけ
  れば金は入ってこないし明日の生活もできない。過去のこと
  は一切不問だが、同時に、明日の生活も誰も保障してくれな
  いし誰も助けちゃくれない、場合によっちゃ自分の仲間を皆
  殺しにした奴と組んで仕事をしなきゃならない事もあるかも
  しれない。
  その時それができないと言うならこの世界では失格だ。」
 
 再び干し肉をかじる。ミケはリクオに向かい合い

 「…猫族の寿命は人の三倍はあるといわれている…だがそれ
  でも三十六年は生きている。…そして妻もいた。」

 ミケはポつりぽつりと語り出す。

 「俺が帝国の兵士としてつかえていたのはほんの一年ほど前
  だ…帝国獣騎士団の隊長なんてものをやっていた。」
 「へえ、帝国騎士団の隊長様だったのか…」
 「よしてくれと、今の俺はただのおたずねものだ。」
 「…わけありのようだな…」

 ワインの入っている水筒をミケにさしだす。

 「…ありがとよ…ふだんはミルクしか飲まねえんだが…」

 水筒を受け取り一口

 「……ゴルゴダか…ガキのくせにいいもん飲んでやがるな。」

 苦笑する。

 「…とあることで大臣ともめてな…つい頭にきて殴り飛ばし
  ちまったんだ。…ふっとんだそいつはぴくりとも動きやが
  らねえ…」
 「その腕で殴られちゃあクマでもたまらんだろうな…」

 リクオは瞳でわらう。ミケは続けて

 「そのあと俺はほかの奴らに見つかる前に逃げ出してきたん
  だ、…多分つかまれば斬首刑だろうよ。」

 月を見上げため息をつく。

 「帝国自信は悪いところじゃねえ、俺の妻にゃあ手を出さん
  だろうがきっと風当たりはつええだろうなあ…」

 ミケは手のひらをながめ

 「せめて…最後に…もう一度だけでいいから逢いてえな…
  シャーロット…今ごろどこで何をやってんだろうな…」

 懐からドライチーズをとりだしかじり始める。

 「皮肉な話だな…かつて鬼の騎士団長と呼ばれた男が天敵
  でもある盗賊の若僧に説教くらうたーなぁ。」

 床においてある大斧に視線を移し

 「ま、ここではお前は先輩さまだからな、お前の言ったこ
  と、頭によおく叩き込んでおくぜ。」

 そんなミケにリクオは再び苦笑、

 「若僧…か、…十七っていやあ普通はそろそろ働き始めるころか…」

 ほしにくをかじる。

 「俺は物心がついた頃にゃあすでに盗賊だった。仲間の死って
  言うものも嫌ってーほど見てきたし、裏切り、裏切られの連
  続でもあった。」

 リクオはどこか遠くを見つめている。

 「…もうちょっと…楽なもんかと思ってたぜ…」

 ミケはドライチーズの最後のひとくちを口に放り込む。

 「…はやく…お家に帰りたいですの…」

 今まで眠っていたとばかり思っていたティーノがつぶやく。

 「…なんだ…起きてたのか…」

 リクオがティーノに目をやる。

 「…もう少し…眠れそうにありませんの…」
 「……無理もない…か。」
 「…ねえ…リクオさん…」
 「…ん?」

 ティーノはくしゃくしゃに乱れた髪にてぐしを通しながら

 「あの時…ロストさん…でしたっけ、あの女に投げた物…
  あれ…なんでしたの…?」
 「…え?…」

 リクオはまいったなーと頭をかき

 「…はは…マリーの実さ。」
 「…荷車につんであったやつ…ですのね。」
 「…まあ…ね。」

 リクオの言葉にしかしティーノは怒る気配も無く

 「やっぱり…マリーの実はね、水でうすめてジュースにしたり
  ひあがらしてすりつぶして粉薬にしたり…でもね…生のまま
  だととてもにおいがきつくてしょっぱくて…べたついて…子
  供達がよく自分の家のお台所から少しマリーの実をえぐりだ
  してはいろんな悪戯に使いますわ。」

 リクオに向けたティーノの笑顔はやさしくてどこか大人びている。

 「悪戯に使うために勝手に私のところからマリーの実を盗んで
  いく子供達もいますの、そのたびによくとっつかまえては叱
  り付けましたの。
  …でも、今回はその子供の悪戯に助けられちゃいましたのね
  …ありがとう…でも…もう勝手にマリーの実を持ち出しちゃ
  いけませんのよ、リクオ。」

 やさしくリクオの頭をこずく。リクオは恥ずかしそうに頭をかき

 「…へへ…わるかったよ……でも…なんか…うれしいや…」

 その時初めてリクオは見せた……少年の笑顔を。



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