Turks Novels BBS
〜小説投稿掲示板〜


[新規投稿] [ツリー表示] [親記事一覧] [最新の記事を表示] [ログ検索] [ヘルプ] [ホームページへ戻る]


- 怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 作品解説 - アルフリート [2/9(Sun) 12:51]
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第一章 - アルフリート [2/9(Sun) 12:52]
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第二章 - アルフリート [2/9(Sun) 12:53]
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第三章 - アルフリート [2/9(Sun) 13:14]
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第四章 - アルフリート [2/10(Mon) 17:49]
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話「望みに向かって走れ!」 第五章 - アルフリート [3/17(Mon) 23:07]
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話「望みに向かって走れ!」 第六章 - アルフリート [6/1(Sun) 18:12]



△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 作品解説
アルフリート [Mail]
2/9(Sun) 12:51
 この小説はスクウェアのオンラインゲーム

 「FF11」

 を私の中でアレンジして小説として書いた物です。
 何分、私が若輩者であるためスクウェアの正規の世界設定と多分に違うところであるかもしれません。
 ですが、面白いものを目指して精一杯足りない頭を捻り、考え続けたのは私の中では紛れもない事実です。

 それが皆さんの中で少しでも面白いものであれば、幸いです。

 最後にこの作品に出演してくれた皆様に大いなる感謝を。

 2003 02 09
 アルフリート
レスをつける


△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第一章
アルフリート [Mail]
2/9(Sun) 12:52
 ウィンダス連邦
 ミンダルシア大陸の南方や、その近隣の島々に住む小柄な民タルタルの諸部族が連合して成立させた連邦国家。近年は古くから友好関係にあるミスラも住み着き始め、気候は温暖で乾燥して住みやすく、多彩な食料とその自然と神秘に包まれたこの国は貴方を退屈させることはないだろう。
 ヴァナ’ディール旅行案内――P5より抜粋


 予告状
 
 麗しきミスラのお嬢様と勇敢なるタルタル様へ
 サルタバルタ大草原にも涼やかな風が吹き、とても過ごしやすい季節になりましたね。
 御体に変わりはないでしょうか?
 ウィンダス市内の平和を保つという責任あるお仕事に就かれている皆様には日頃から尊敬の念が絶えません。これから夜が少し寒くなります。お節介とは思いますが、一級品のウィンダス茶葉を包んでおきました。どうぞ、皆様で召し上がってください。
 ところで、明日 0:00にそちらから星の大樹の実を無断で譲り受けにいきたいと思います。大変礼の欠いた行動だと思いますが、なにとぞご容赦の事を。


 ウィンダス守護戦士隊隊長を務めるシルバーブロンドのミスラの女性――頭頂部に生えた尖った耳と毛の生えたスマートな尻尾が特徴(有り体に言ってしまえば猫のような人間)の種族――、セミ・ラフィーナは即座にこの舐め腐った手紙をぶち破いた。
 茶色の羊皮紙が粉々に破かれて部屋の中を舞う。
「ふざけるな――――――!私の隊の警備はクロウラーの様に鈍重と言いたいのか?そうだな!?そう言いたいんだな!貴族なんぞを気取りおって、貴様は何様のつもりだ!?たかがこそ泥風情がウィンダス守護戦士に良く吼えたな、“今度こそ”貴様の首を胴体と泣き別れさせてヤグートの贈り物にしてくれるわ―――!」
 ラフィーナは周りにいた赤毛と黒毛の部下ミスラ二人組がビビるのをまるで気にせず、暖炉の中に手紙を叩き込むと、白い髪に映える褐色の肌の頬を、勇ましさを表す青の双眸を憤怒で赤く染めて叫んだ!
 ムカツク!ムカツク!!ムカツク!!!
 この“義賊”気取りの一番やっかいなところは民衆を味方につける術を身につけているということだ。狙うのは不正を働いた魔法学校の職員や一部の商品を独占して高値をふっかける商人である。そして、自分の盗んだ一部を「天からの贈り物」と称して民衆にばらまくのだ。さらにこのこそ泥の一番嫌なところは自分の盗みに入り、終わるまでの記録を見事な物語にしたため、ウィンダスにばらまくのだ。退屈ばかりでこういう事件好きのタルタル――魔法に長けた小人族、性別、年齢にかかわらず、容姿が可愛らしいのが特徴、ついでに噂好きでもある――は、このこそ泥を今では英雄視しており、一部ではファンクラブまであるそうだ。当然そこには今までウィンダスの警備隊がことごとくおちょくられた記録でもあるのだ、これに怒らず何に怒れと言うのだ!
「おのれ――――!」
 そのラフィーナをなだめるべく赤毛のミスラが言った。
「ラフィーナ隊長!今は怒るより行動を起こすのが先です!」
 赤毛の追従に黒毛のミスラが続く。
「それより、今度こそとっつかまえてやればそれこそ私らの名誉も格もオールオッケーです!」
 そう言われてやっとラフィーナは止まった。まだ息が荒く、鼓動は荒い。
「その通りだ」
 ラフィーナは凄絶とも言える笑みを浮かべてうなずいた、多分子供は一発で逃げるほど不敵な笑みだ。赤毛と黒毛は揃ってその笑みに気圧され、一歩下がる。
 普段は知的でクールで、守護戦士としてウィンダス中から尊敬を浴びている守護戦士隊隊長、セミ・ラフィーナとしてはあまり見られない光景だった。
 そんな二人を知ってか知らずか、ラフィーナは命を下した。
「今度こそ、捕まえてやる、各隊に通告、星の大樹と入り口と飛空商社を中心に警戒態勢を引け」
「は!」
 予告状には最後にこう記されていた。

 サルタ綿花の収穫も忙しい秋から
 アルフリート・ザ・エブリシング

 それが後世に残る伝説のエルヴァーンの名前だった。
 そろそろ風も少し冷たくなってきたウィンダスに、一騒動が起ころうとしていた。
レスをつける


△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第二章
アルフリート [Mail]
2/9(Sun) 12:53

 同日12:00
 ウィンダス〜ジュノ間を最速で結ぶ、飛空艇を所有する会社、飛空艇商社は各国にその末端を上手に伸ばしており、旅行者は飛空艇を各国から利用することが出来た。
 ウィンダスにおける飛空艇商社の外観は陽光のはいる隙間もない頑丈な石造りの建物であり、入ってこない明かりはウィンダスの耳の院に分けてもらった「魔法花」の緩やかな明かりで照らされ、中の人間の業務には全く差し支えない。中にあるのは大量の羊皮紙とインク、滑らかな肌触りと暖かな外見のメープルテーブルにいくつもの木製の椅子と、来客用の滑るような肌触りのクアールの皮のソファー。
 来客用用以外の部屋は質実剛健の品揃えだ。
 中にいるのは受付役のタルタルの令嬢と事務員のヒュームの女性、そして、タルタル男性のウィンダス支店長だ。
 全員が忙しい、タルタル令嬢はヒューム女性と支店長の雑用を押しつけられ、ヒューム女性は金勘定で忙しく、支店長は飛空艇の席の整理で忙しい。さらに、これの上に客への対応が加わるので忙しさは殺人的となる。多分三人でこの飛空艇商社を運営しようと言うのが間違いな気がする。
 そう思っていたタルタル令嬢、メルテテは来客用の呼び鈴の音で額の血管が一本切れたような気がした。
 しかも、呼び鈴は乱暴で短気な感じで連打されていた。
 メルテテには社員としての義務でそんな状況でもプロとして客に接さねばならない。社員としてのジレンマにこの仕事を辞めようかなと思いながら、カウンターに来た客を見た。客は小振りなリュートを背中に背負っている金髪のタルタルだ。そのタルタルに対してメルテテは日頃の条件反射で作り上げた鉄壁の笑顔で応対を開始した。
「いらっしゃいませ、どのような御用でしょうか?」
「あ、ごめん。あんたじゃ話通らないから社長さん呼んできてくれない?」
 メルテテはさらに十本血管が切れた気がした。しばしあまりの怒りに言葉を失う、このクソお客様、何考えているんだよ!こんちくしょう!―――しばし心の中でそんな悪態をついてみる。
「ほら、そんなところでボーっと突っ立ってないで早く、早くぅ」
 自分を急がせようとしているアホな客に嫌味なぐらい鋼鉄の笑みを浮かべながらメルテテは言った。
「失礼ですが、支店長にアポイントメントは取っておられですか?」
 勝った!
 メルテテは心の中で勝利の喜びに飢えた笑みを浮かべた。これはただの問いかけではない、自らの安全性を取れ、なおかつ相手を責める攻め口にもなる巧妙なる戦術なのだ。もし、男にアポイントメントが有れば、ただ通せばよい。メルテテにその時、自らに非という物は全くない。そして、もし、男にアポイントメントが全くなかったら、その時は冷たくこう言い放つのだ。「すみませんがアポイントメントの無いお客様はは通すわけにはいきません」・・・・・・完璧だ。さあ、後は目の前の客が自分の不甲斐なさを認め、すごすごと帰っていくだけだ。
 さあ、今すぐ「無い」、と言いなさい!さあ!
 男が口を開いた。
「無い」
 来た!
 メルテテは鋼鉄の笑顔でお決まりの台詞を言った。
「すみませんがアポイ・・・・・・」
 男が袋をカウンターに叩きつけた。重い音がする、たくさんの硬い「何か」が詰まっているのだ。
「お金はあるから大丈夫!!ほら、早く早くぅ!!」
 男の浮かべた顔はとことん自信に満ちあふれた顔だった。
 メルテテは目の前にいるこのタルタル男性がまるで自分の理解の範疇にいない事を悟った。道理を無理で押し通す常識外の生き物だと悟った。
 受付嬢としてのプライドをめっきり折られたメルテテはトボトボと歩いて事務室にいる支店長を呼びだした。
 なにやら2.3話した後、メルテテの知らないところで密約が行われたようだ。
 その時、契約書に書かれた名前をメルテテは見ていた。
 確か、その名前を「ウル」と言った。
 
レスをつける


△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第三章
アルフリート [Mail]
2/9(Sun) 13:14
 怪盗の生きた軌跡を語る前に彼自身について語っておこうと思う。
 アルフリートはシルバーブロンドのエルヴァーン――褐色の肌と尖った長い耳、そして、頑強で美しい肉体を持つ種族――の名前である。エルヴァーンの中でも抜きんでて背は高く、顔の作りは少年のように穏やかな物だ。
 ただ、彼と一度でも喋った人間はそんな物がただの外ヅラである事を思い知る。常に彼の口調は一方的でハイテンションであり、他人の評価や世間の風評、常識を気にしない言動と立ち居振る舞いは側にいる者に常に「疾風」を当てているようだった。
 それは彼独自の優しさであり、彼の狭量なところであったり、彼の優れた審美点でもあった。
 彼は常に相手に対して質問している。
「私はこんな男だ。それでも良かったら来たまえ」
 彼には目指すべき所がある。だから、他人も常識も気にしない。彼の中にあるのは「やるべき事」と「道理」である。
 目指すべき場所とはどこか?
 高みである。
 人間として上がるべき場所だ。

「世界で一番高い場所に行きたい」
 それが彼の望みであった。
 彼の魅力とはまっすぐに自分という存在を昇華しようという所にあるのだろう。


 ウィンダス連邦の政治は星の巫女と呼ばれる存在が、目の院、口の院、鼻の院、手の院、耳の院、という魔導研究所の院長5人に神託を告げ、5人がその内容から行政を担当する、神託政治だ。
 非合理的な政治体制ではあるが、これでウィンダスはバストゥーク共和国やサンドリア王国、ジュノ大公国より長い間この地を統治しているのだ。方法論など関係なく結果を出し続けている良い例の一つだと言える。
 このウィンダスの政治形態から分かるように、院長とはただの研究所の所長ではなく、ウィンダスの行政を預かる重要な職なのだ。

 ウィンダス森の区にある手の院はウィンダスでもっとも貧乏な院であると同時に、ウィンダスでもっとも役に立っている院であると評判だった。ここはガーディアン ――三本の車の足と寸胴の身体に、木で出来た身体を持つ人間大の人形、星の大樹の実から生まれ、星の言葉を喋る―― を一人前に育てるカーディアン訓練所であり、市内の警備、雑用、案内と様々な分野に渡って活躍している彼らを育てるこの手の院は、変人揃いの院の魔法使いの中で最も役に立っているとも言えた。
 そこの院長の名はアプルル、聡明で心穏やかな女性と評価されているタルタルである。
レスをつける


△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話 「望みに向かって走れ」 第四章
アルフリート [Mail]
2/10(Mon) 17:49
 手の院、院長アプルルは立て付けの悪い木製のドアが開く音を聞いた。金属の軋む音、感覚的に悪いと思える音。最近になってあまりにも良く響くのでカーディアンの育成には悪いのではないかとさえアプルルは思い始めていた。
 そんな退屈で当たり前の悩みを抱えたアプルルの前に、ウィンダスで、いや、世界で一番退屈とは無縁な男が現れた。
 茶色の亜麻布を主体とし首元の金属製のプレートが上品な衣装、ガンビスンを纏った、長身、シルバーブロンドのエルヴァーン。背中にはラプトル地のマント、頭にはチョコボの羽の生えたベレー帽を被っている。腰には護身用か、一本の大振りのナイフが吊されていた。
 アルフリートだ。
 彼の足下には青い髪の小さななタルタルの男の子と金髪の男の子がいる(タルタルの男女差はカラスと同じくらい見分けにくい)。アルフリートはきょろきょろと物珍しそうに辺りを見回すタルタル達に落ち着くように言うと(もちろんそこで一悶着あったが省かせて貰おう)彼らは突然の訪問に対する非礼を詫びると手にした麻の袋を木製の机の上に置いた。
「シナモンクッキーを焼いた、突然で悪いがティーブレイクといかないか?院長殿」
 断る理由はない、基本的にカーディアンへの授業以外さしてやることのない手の院は気楽なものだった。
 アプルルはアルフリートとタルタルの男の子に切り株の椅子を勧めると近くにいたカーディアンにお茶を持ってくるように言った。
 タルタルサイズの椅子と机はエルヴァーンのアルフリートには小さくて端から見ると少しおかしかったが、不思議と彼自身は落ち着いている。このエルヴァーンは異文化という物を平然と受け入れられるのだ、呑気というか鈍感というかそう言うもので受け止めている。全く物怖じしない。だから、この光景が自然と絵になる。
 知識に対する見識の狭い者の多いエルヴァーンにしてはおかしな才能と言えよう。
 シナモンクッキーとお茶は美味しかった。それらを堪能するべき静寂が三人の間にしばし流れた。
 アプルルは素直にクッキーの味を頭の中で反芻させてゆっくりと食べ、お茶の匂いを幾度となく嗅ぐ。
 アルフリートは自分のセオリーに従って同じ食べ方を繰り返してはその結果を自らの手記に書き連ねていた。その様子はまるで実験を行う研究員のように乱れがなかった。
 タルタルの男の子達は、「美味しい!」だの「ウメー!」だのを言いながら口いっぱいに頬張り、金髪の男の子がお菓子を全部独り占めしようとして青い髪の男の子と喧嘩していた。
 
クッキーも残り少なくなり、お茶も冷め始めた頃。アプルルがどことなく口を開いた。「珍しいですわね、貴方がこういうことをするなんて」
 アルフリートは泰然としてその言葉を受け止める。
「今まで忙しかったからな、時間が無かっただけだ」
「貴方はいつも同じ場所に一刻といませんでしたから、・・・・・・でも不思議と退屈だけはしない人ですわ、貴方は」
 アルフリートは素直に言った。
「ありがとう」
「皮肉ですのよ、今の」
「それは気付かなかったな」
 二人は声を上げて笑った。まだ生まれたばかりのカーディアンの一体が、その笑い声を真似した。
 それを聞いて、今度はみんなで笑った。
「紹介が遅れたな」
 アルフリートはタルタルの男の子達を促した。
「ピーチェです、よろしくお願いします」
「ウルだ、よろしくよぅ!」
「アプルルと言います、よろしくね、ピーチェリー、ウル」
 ふとアプルルは何かを思いついた。その思いつきに少し寂しい表情を浮かべたあと、アルフリートに答えを得るべく問いただす。
「始めてしまう、というわけですか?」
「そういうことだ」
 アルフリートは茶を一気に飲み干した。
「今日は前からしていた茶の約束を果たしたい、と思ってな」
「貴方がいると何かと楽しかったのですが、残念です」
 アプルルは、本当に残念です、という言葉も舌の上に乗せた。その言葉に対して、アルフリートの表情に動きは無い。悲しみも名残惜しさも、全て身体の奥に押し込み、耐えているのかもしれない。
 その自分を思い留まらせる感情を全て断ち切るかのように、その巨躯が立ち上がった。タルタルよりもずっと大きいエルヴァーンの巨躯は立っているだけで有無を言わせぬ迫力がある。
 彼は言った。
「行ってくる」
 そして、出口へと足を運ぶ。
 ピーチェとウルがアルフリートについていくために立ち上がった。ピーチェはアプルルにお辞儀をして、ウルは手を振ってお礼を言った。
 二人の行動をアプルルは笑顔で受け止めた。だが、すぐにその笑顔が曇る。
「帰ってくる気はありますか?」
 その言葉でアルフリートの足が止まる。足が少しためらう。だが、そのためらいを切るように言葉を放つ。
「約束は出来ないな。だが、私は帰ってくるだろう」
 その言葉の後を締めくくるように、あの立て付けの悪い扉の軋む音が聞こえた。

 それが一人のエルヴァーンの怪盗の伝説の始まりだった。
 犠牲が必要である「何か」を為すために決意を込めた眼差しと共にそれは始まった。
レスをつける


△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話「望みに向かって走れ!」 第五章
アルフリート [Mail]
3/17(Mon) 23:07
 リンクシェル「タークス」での会話。
「ウルへ、アルフリートだ。そちらの準備は?」
「サクッと終わったぞ、とっとと来い」
「了解した、行くぞ、ピーチェ」
「あい!」

 ガーディアンの種「星の大樹の実」を奪取する、それがアルフリートの目的だった。
 どうして盗むのが「星の大樹の実」であるかはまだ語るべきではないだろう。

 ガーディアンの種である星の大樹の実とはどこにあるか?
 ウィンダス連法の政の中心地、星の巫女が住み、神話の時代から雄々しくたたずむ樹、星の大樹、公称「天の塔」――の地下室である。
 そこは部屋の半分を占める池に流れ込む穏やかな水の音がある。水の流れの下となっている石造りの床が涼しげな印象を部屋に与え、星の大樹の御身により出来た木の壁が落ち着いて光を跳ね返しているのがとても神秘的であった。
 木造りの鉢に星の大樹の実が埋められてあり、静かに寝息を立てていた。
 直径10mの、丸く本当に静かな空間。
 そこに今は6人のミスラの戦士がいる。全員が完全武装、室内戦にて取り回すのに都合が良いようにと武器は短剣と格闘武器と投げナイフ、防具はローブを中心とした柔らかくも丈夫な物を装備している。
 ウィンダス最強と謳われるミスラの守護戦士の精鋭6人。
 その中で一人だけ他の守護戦士と違う装備をした例外がいる。
 セミ・ラフィーナだ。
 彼女は自分の相棒である緑の長弓を持っていた。大きさは自分の身長程もある。彼女以外には引くことができない程その弓は硬く、その硬い弓を彼女は雷のような速さで矢を継ぎ、放つのだと吟遊詩人は謳う。
 彼女は今、地面にあぐらをかいて座り、緑の長弓を自分の右肩に立てかけていた。瞑想するように目を閉じ、微動だにしない。
 周りにいる戦士にもラフィーナの緊張感が伝わる。穏やかな静寂とは違う、熱気の籠もった静寂があたりをしめ、微風すら許さない。
 優秀な狩人であるラフィーナの感覚はこの天の塔全域を把握していると言っても良い、水滴一つ、呼吸の一回、この地下室の水の香りすら感じ取っている。感覚と精神を矢じりのように研ぎ澄まし、その中から欲しい情報を拾う。今、彼女の全神経はそのために使われている。
 大方、あのコソ泥はここまで潜入する作戦を取ってくる。奴らはほぼ単独か、いて2・3人。外には力押しでは絶対通れない程のこの天の塔直属の守護戦士達が数を揃えて警備している。潜入で裏をかこうという思惑だろうが、このラフィーナが目的の物の前の陣取り、こうして神経を張りつめさせている以上、蟻だろうと霞だろうと見逃さない。
 例え、この部屋まで来られたとしても、壁の向こう側にいようが打ち抜けるこの弓と鋼鉄製の矢がある。そして、どんな速度だろうと自分は早く感知し、標的を射抜ける。そう、ここには絶対の罠がある。
 逃しはしない。
 そうだ、そのために薄汚いコソ泥の奴をこの「木の虚から出来た地下室の天井裏」まで来ていることを許しているのだ。
 機は熟した。
 ラフィーナの腕が動く、足が捌かれ、地を音もなく擦る。急に動いたラフィーナに周りの守護戦士が驚いて、距離を取った。
 無音であくまで素早く。
 ラフィーナは直立不動の姿勢を取り、弓を掴んだ左手がまっすぐと伸び、右手の親指と人差し指に鋼鉄製の矢を掴み、薬指と小指の間にはもう一本の鋼鉄製の矢がある。
 全てが反射の域まで高められた修練の結果、かかった時間は一秒未満。弓に張られた弦を矢と共に引き、
 放つ!
 鉄で出来た矢は容易く天井を撃ち抜き、星の大樹の一部である天井裏に潜んでいた侵入者の足場を崩した。侵入者はあえなく落下、まさにラフィーナが引きずり出した格好となった。
「アイタ――――――!」
 地下室へと落下してきた侵入者は尻餅を売って悲鳴を上げる。
 それは青い髪の毛のタルタルだった。
 一斉に五人の守護戦士がそこへ殺到した。タルタルの身体を踏みつけ、身体の上に乗りかかる事でその身体を捕縛する。
「痛いですぅ!頭踏まないでくださいです、みゅーーー!」
 捕らえるべき侵入者に全員が対処するべく今まで陣が敷かれていた。
 だから、彼らはまず反応してしまった。本当に捕まえるべき侵入者の前に来たこの異邦人に守護戦士達は反応してしまったのである。
 床に這いつくばったタルタルに全員の視線と集中力が向いた瞬間。
 それが守られている場所を奇襲するのにもっとも適した「起こるであろう他の事を自分の考えから外す」時だった。

 かろんかろん

 宝石が天井から放り投げられた。
 それは白い魔力の輝きを宿す、光のクリスタルだった。
 クリスタルは持ち主の意志を反映し、「放ってから2秒後に最大限に強く輝いた」。
 太古から続く静かで穏やかな静寂を筆舌に尽くしがたい光量が侵していく。それは、一緒にいた守護戦士達も同様だ。彼女達の視界をその光は奪っていった。
 襲撃者の中でもっともクレバーに反応したのは守り手の中で、もっとも冷静な人間だ。
「総員散開後、目薬を使え!」
 セミ・ラフィーナだ。
 だが、侵入者の動きがラフィーナの言葉より早い。床を強く叩く音が聞こえてきた後、激しく肉と肉がぶつかり合う音がラフィーナの耳に聞こえてきた。
 それに遅れてラフィーナの所に守護戦士の一人が飛ばされてきた。
「くっ!?」
 不意に加わった衝撃に思わずラフィーナは飛んできた守護戦士もろとも転んだ、相手は自分が一番やっかいだと知っている。力の弱いミスラに対抗できない手段で力業で封じてきたのだ。
 ラフィーナが目薬を眼に注し、守護戦士を押しのけて起き上がった頃にはすでに侵入者が天井の穴へと逃げていた。
「何をしている、相手は体の大きいエルヴァーンだ、もたもたせずに追え!」
「は!」
 守護戦士の一人がその言葉に従って天井裏へと昇ったが、昇った後、すぐに天井から焦った様子で滑り落ちてきた。
「ダメです、蜜蝋が塗られていて登る事が出来ません!」
 あのエルヴァーンの怪盗にとことん後手に回される羽目となった。
 その事実に怒りを覚えたラフィーナは地団駄を踏みそうになるのを必死で堪えた。そんな時間は無いからだ。ラフィーナは少しでも怒りを抑え、冷静に判断するために口調に怒気をにじませた。
「行くぞ、外に出てあのエルヴァーンを捕まえる!」
レスをつける


△上に戻る
怪盗 「アルフリート・ザ・エブリシング」の生涯 第一話「望みに向かって走れ!」 第六章
アルフリート [Mail]
6/1(Sun) 18:12
 ピーチェは闇のクリスタルで星の大樹の木質を腐食させて削っていったトンネルを順調に登っていた。あたりは光が無いため暗いが、ピーチェの頭は木目の凸凹の位置をはっきりと記憶している。クローを使って手がかりと足がかりを確保し、登る動きに一切の澱み無く登っていく。
 ピーチェはトンネルの入り口に到達した。高さにして地上約30mの場所に開いている入り口だ。地面の方では守護戦士団と正規軍である戦闘魔導団が、アルフリート達の来訪により、声を出し合って大慌てで石の区へ包囲陣を広げようとしている。
 だが、そんな喧噪をピーチェは気にしない。クロスボウの準備をしながら、遠距離通信を可能にする魔法の真珠、リンクシェル「タークス」へ思念を飛ばす。指先は正確で、固いはずのクロスボウの弦を身体全体で引っ張って、弓を設置する。
 リンクシェルへと思念が伝わり、声になる頃にはすでにピーチェはクロスボウを闇夜の空へと向けていた。
「うるるん、今から作戦の第二段階に行きますよー!」
 言ったと同時にピーチェはクロスボウの弓を発射。
「待って――!今、アップルパイを食い終わるから」
「ぁ、もう撃っちゃいました」
「え?・・・・・・ぎゃあああああああああああああ!!頭に、頭にかすったぁ!!!」
「みゅ〜〜〜〜!大丈夫ですか、うるるん?」
「大丈夫じゃねえよ、あと5cm下だったら脳天命中だぞ―――!」
「効果的な威嚇攻撃だ、ピーチェ」
「狙ってないですぅ〜〜!」
「黙ってないと人が来て見つかるぞ、ウル」
「・・・・・・・・・・・・」
 途端にウルは貝のように口を閉じて黙った。ピーチェがアルフリートが来たのを後ろを向いて確認すると、自分の仕事を思い出して作業にかかる。土のクリスタルを取り出して、ロープと共にそれを左手に握り、精神を集中させる。するとクリスタルが光り輝き、岩がぶつかり合う固い音と共に星の大樹の木の壁の細かい隙間に固い岩質が潜り込んで咬む、そして、ロープの片端をその岩質がくわえこんで固める。
 最後に破裂するような光と高い音を立て、土のクリスタルが散乱した。何事もなかったように土のクリスタルは散乱したが、結果は残る。ロープは岩質を通してしっかりと木の壁に固定された。念のためにアルフリートが体重をかけてしっかりと把持されているかを確かめる。ピーチェの仕事は正確にこなされていて、岩質の把持が壁から外れない。
 同じ頃にロープの向こう側からロープが引っ張られた、池の向こうの森に隠れているウルが反対側のロープを縛り終えたのだ。
 アルフリートはピーチェがアルフリートの背中にひっついたのを背中にかかってきた重みで知るとすぐにロープに滑車をかけ、自分の体重を張ってあるロープに預け、水の区の空へと身を滑らせていく。
 重力加速度で身体はすぐに風のようにロープを滑り落ちていく。そのロープに気付いていた魔導師団が矢や魔法を飛ばしてくるが、地上から30mで高速で動くアルフリート達に当てられるような者はいなかった。
 そう、30mで当てられるような人間はいなかった、アルフリートが滑っているロープを距離にして50m先から当てられる人間を彼らと同じ範疇に置くのは失礼だろう。
「外に出れば逃げたも同然と思ったか?野外こそ狩人の本領だ!」
 天の塔の入り口から外へ出るための三叉路の中心、そこでセミ・ラフィーナは弓を構えていた。眼光がロープを捉えるために細く狭まる、両足はあくまで動かず、直立不動。弓を持つ右手は前に出して固定、左手は弓と共に弦を引く。
 その技は正確無比にして指一つと外さない。
 疾風を断ち切って鉄の矢が空を疾走する!その顎はアルフリート達を支えるロープを真正面から食いちぎった。
 アルフリート達がロープの支えから外れて重力に捕まる。下に広がるのは石の区の清くも広大な池。
 アルフリートは即断即決で行動する、ウルやピーチェには文句が出るだろうが、これが一番確実だから大丈夫だ。
 アルフリートは背中のピーチェを右手でがっしりと掴んでリンクシェルの先のウルに言った。
「ウルーーーーーー!受け取れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「何をだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 ウルの疑問は、
「アルフさんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ピーチェの悲鳴で解消された。アルフリートは落下からピーチェを救うためにわざわざ『ウル』目がけてピーチェをぶん投げたのだ。だから、ウルは叫ぶ。
「来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ぎゃああああああああああああああああああああああ!」
 アルフリートは自由落下に捕らわれながら、ウルの悲鳴でピーチェがウルをクッションにして助かった事を知った。アルフリートはニヤリと笑って頭を下へと振る。その勢いで体が下向きになり、アルフリートは頭から池の中へと着水した。
 水が身を切るように冷たいのは冬が近い季節だからだ、だが、アルフリートは寒さに構わず池の水の中に身を泳がし、そして、風のクリスタルを口にくわえた。風のクリスタルは本来なら硬いものを切削したり、物を切るための用途で使われる。しかし、口にくわえて威力をごく弱めにして送風する事で水中でも数分間の活動が出来るようになる。威力の加減を間違えると唇を切り飛ばしてしまうので素人は真似しないように。
 アルフリートが風のクリスタルを発動させて呼吸を得ている間に、水面に氷が張った。戦闘魔導団が氷の精霊魔法ブリザドでアルフリートを氷漬けにして捕まえようとしているのだ。その氷は次第に伸張していき、アルフリートの頭上を広々と覆う。
 息が出来るようになったアルフリートは逃亡するための呪文を唱える。デジョンやテレポはアルフリートには使えないし、これらの移動魔法は各国が犯罪者をマークするために厳しく管理している、足跡をわざわざ付ける愚をアルフリートは冒さない。
 だから、唱える呪文はこの囲まれて捕まろうとしている場を脱出するための物だ。
「水の珠は力を持って汝を押し潰す、来たれ・・・・・・」
 抑揚のついた言葉と共にアルフリートの両手に魔力が溜まる、アルフリートは両手両足をたたんで身体を丸めると、魔力のたまった手を背後に向ける。
 同時にアルフリートのすぐ頭上の水が凍り始めた。アルフリートの右肩に到達し始める。
 だが、そこで呪文が完成した!
「ウォータ!!」
 水の精霊魔法ウォータによって両手から吹き出た水が、氷の束縛を振り払い、アルフリートの身体を放たれた矢のごとく押していく。
 スピードは魚の様に速い、その勢いで夜の闇に紛れてしまえば戦闘魔導団の人間には捉える事は不可能だった。アルフリートは、清き水の流れる水門と水路を通り抜け、ウィンダスのまだ包囲の薄い森の区へ逃れる。
 水の勢いに顔をしかめつつも、アルフリートは、まず作戦の段階の一つが終了した事に強気な笑みを浮かべた。

 怪盗の本領は盗みの技と逃亡の技。
 ウィンダスの詩人に語られる怪盗の本領はこれからだった。
 
レスをつける



Tree BBS by The Room