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フォトンの騎士  ハンターズセレナーデ - アルフリート [12/7(Sat) 15:16]
フォトンの騎士  ギルドラプソディ - アルフリート [3/28(Fri) 22:11]
フォトンの騎士 間奏曲「アルフリートの思い」  - アルフリート [3/29(Sat) 22:22]



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フォトンの騎士  ハンターズセレナーデ
アルフリート [Mail]
12/7(Sat) 15:16
 パイオニア2はそれ自体が一個の巨大な都市だと言ってもいい。しっかりとした通信設備、電力供給、上下水道、空調施設を持ち、交通・治安・福祉の面もしっかりと整えられている。
 そして、パイオニア2の住民には仕事が与えられる。人類滅亡の危機的状況下の現在において人類に安息は無い。そして、仕事は人間を選ぶ。
 偉大な舞台にて役を与えられる役者には、それ相応の能力が必要だ。
 パイオニア2研究区画の天井の空調整備用のキャットウォークにて男は自分にしか出来ない仕事をしている最中だった。
 眼下は100mのビルディングしかない空間、それとて60mほどしかなく、残り40mは何も無い空間が続く。ハッキリ言って専門の職業の人間でもない限り、腰が引けてしまうような風景だ。キャットウォークは隙間が多く、下の様子が容赦無く見える。怖い事この上ない。さらにキャットウォークは対流現象で発生した烈風によって常に揺らされており、酔狂人でもない限りこんなとこには来ないような代物になっていた。
 もっとも、それも男にとっては都合の良い材料でしかない。
 光学迷彩をかけているため、男の顔はわからない。それどころか水にでも入らない限り、男の存在は気取られることは無いだろう。身体の雰囲気から男だということがわかるくらいだ。
 男は何も無い空間に向かって言葉を紡ぐ。
「R1、ポイント47に到達だ」
 男の声には返答がある、彼は装備していたマイク付ヘッドフォンに話していたのだ。
「Rリーダーから全隊員へ、ハッキング開始、外部警備システム掌握まであと20秒」
 男のヘッドフォンから聞こえた声は、女性だ。だが、抑揚が一切無いアンドロイドの声だ。
「システム掌握の制限時間は10秒です。作戦開始まであと10秒、カウントダウンスタート」
 今度はヒューマンの女性の声だ。人間だけに声色に緊張がある。男は返答した。
「R1、わかった」
「R2、了解」
「R3、わかりました」
 男の他に別の場所にいる仲間と声がハモる。誰も物言わぬ静寂にカウントダウンするヒューマンの女性の声が響く。
「3、2、1、GO!」
 男はGOサインと同時にキャットウォークの手摺にワイヤーを引っ掛けた。さらに、男は手摺に手をかけると躊躇いも見せずに下の100mの何も無い空間に飛びこみを敢行した。男の身体が自由落下に従って宙を舞う。「9、8、7」とカウントダウンは続く。
 しかし、男の目の輝きから恐れなぞ一切見えず、ただ一点にその輝きは着地地点を指す。狙いはビルディングの屋上だ。
 あと10m!
 男はワイヤーをつかんで急制動をかける。男の身体は見事に地面の手前で止まった。衝撃で光学迷彩が壊れ、プラズマが男の周りを流れて黒いポンチョをかぶった男が現れる。
「4、3」
 カウントダウンだけが無常に続く。男は無線式のウィンチを作動させてワイヤーを素早く回収させると、監視カメラの死角に飛びこんだ。壁に背をついて必死で監視カメラから逃れる。
「2、1、0」
 警備に一切動きは無い。どうやら相手に発見されなかったらしい。
 無事に潜入を果たしたことにより、男は安堵の深い息を吐きながらポンチョを脱いだ。
 その中から現れたのは黒髪に黒い瞳に少したれた双眸、剣士として鍛え上げられた肉体は余分な物をつけていない。しかし、その表情は少年のように元気で遊びたいようであり、好奇心溢れた表情だ。彼の名はラウド・エルネイン、タークスに所属する中でも指折りの戦闘力を持つハンターだった。
「R1よりRリーダーへ、光学迷彩がイカレた。星の果て程高い金払ったっていうのにどうしてこういうのは壊れやすいんだ」
「RリーダーよりR1へ、しかたないです。しかし、今回の貴方の任務はあくまで陽動、もし見つかってもその時はその時です」
「サラ、おまえ俺の事なんだと思ってる・・・?」
「頑丈過ぎる我らがラウドですわ、たぶんドラゴンが踏んでも壊れませんわ」
「ヘイゼル・・・」
「無駄口叩いてる余裕は無いですわ、アルフとルーンがお待ちです。チャッチャッと済ませましょう」
「わかった、まかせとけ」
 ラウドはこれから起こる戦いに獰猛な笑みを浮かべ、ビルディングの中へと消えて行った。


 状況を説明せねばなるまい。今回のラウド達の非合法な潜入任務にはこんな事情があった。
 あるハンターズがパイオニア1によって開発された鉱山―通称「坑道」―のとある端末から非常に物騒なデータを発見した。
 ディメニアンに代表されるダーク・エネミーのクローン作成法データである。
 これにより人間の手で専門の施設さえあればダーク・エネミーを作ることが可能になる。少なくともパイオニア1の軍隊を全滅させた前科を持つダーク・エネミーだ。戦闘力は異常に高い。そんなもののクローン製造データなど軍事バランスを崩して余計な火種を巻くだけのものである。
 この情報はタークスの情報部により、ハンターズギルドよりも早く手に入った。これもタークスがエリートぞろいだという事実に相違ない。タークスの幹部らは会議にて即決した。
 データの即時破棄である。そのためならいかなる方法でも取る覚悟はすでにできていた。
 さらにそのハンターズは坑道のコンピューターが張った一つの『間抜け魂』に引っかかった。そのコンピューターがどのような役目を持ってたか、真実はわからない。
 『間抜け魂』の発生させた状況を言おう。
 ディメニアン等、ダーク・エネミーの繁殖である。
 そして、繁殖したディメニアン達は地上まで出てきた。それがアルフリートが接触したディメニアンだ。
 タークスの情報部は至急データの行方を追った。ハンターズは『カタクライシス』という会社に持ち込まれており、その会社は大企業で当然のことに堅い警備が敷かれていた。
 我こそはと自分の腕に自信を持つタークスのメンバーが立候補したが、タークス総帥サムスが指名したのはラウドであった。戦闘能力において彼は超一流の腕を持っている。そして、彼は不思議なことに、仲間に好かれる特殊な人望があった。そう遠くないうちにラウドを一部隊の隊長にしても良いのではないか?そう思わせる何かが彼にはあったのだ。
 ラグオルから戻ってきたアルフリートもラウドに合流し、ラウドはこの潜入任務に望んだのだ。

 アルフリートはやっとの思いでおそろしく臭い下水から這い出た。化学薬品が混ざり合った下水の刺激臭は死人でも起きるかもしれない。そう思うほど下水はきつかったのだ。
 アルフリート達の潜入任務の内容はこうだ。この建物のデータバンクは地下にあり警備員がわんさかと待ち構えている警備室は三階にある。ラウド達が取った方法はきわめて警備が薄くなる深夜に三階の警備室を催眠ガスでラウドが眠らせ、その間に地下からアルフリートとルーンが地下を調べてデータバンクを確認し、不法進入の証拠ごとデータを爆薬で吹っ飛ばす。その後ハンターズギルド経由で逃走を図れば、管轄の違う軍警察は捜しきれまいと踏んだのである。そういう計画なのだが、下水がこんなに臭いとは思わなかった。アルフリートは思った。
「ルーン」
 アルフリートは思ったことをすぐ口にするタイプだ、少なくとも隠し事は苦手だ。
「ハイ」
「貴様は下水がこんなに臭いとは知っていたか?」
「ええ、まあそれぐらいは」
「何で私に教えてくれなかったのだ?」
 言葉に非難の色を塗るアルフリート。
「命に別状は無いですから」
 サラリと言うルーン。アルフリートは視線に焼き殺さんばかりに熱を込めた。
「すでにラウドが警備を黙らせているはずです。急ぎましょう」
 アルフリートも黙って従う。これでも仕事には真面目な方だ。すぐに音も無く、二人は動く。まるで空気の様に二人は存在を示さない。
 慎重にドアを開け、データバンクがある部屋を鏡を差し込んで中を見る。
 暗闇だ。誰もいないと確認すると、二人は進入を果たす。
 アルフリートが背中から爆薬を取り出す。タイマーから下手に手を出せば即起爆のダミーが色々と付いた地下一角を平気で吹っ飛ばす威力がある高性能爆薬。周りに人がいない深夜に決行したのはなるたけ他人を巻き込みたくないためだ。
 タイマーをセット、十分後に爆発する。他にもその前に手動で遠隔操作するのも可能だ。
 そのとき、不意に明かりがついた。データ保存用のスーパーコンピューター達がいくつもの影を落とす。
「動くな」
 低く二人にしか聞こえないように恫喝は行われた。
「月並だな、工夫がほしい」
 率直な感想を言うアルフリート。それにルーンはただ頷く。
 部屋の入り口で二人の男がルーンとアルフリートにハンドガンを突き付けていたのだ。姿はどう見ても警備員ではない。まるでついさっきまでどこかに隠れていたかのようだ。
「黙れ、武器を足元に落として二歩下がれ」
 男は必要なことしか言わない。緊張の音はあくまで静かに当事者達の間にしか流れない。
「分かった、分かった、そう凄むな」
 アルフリートとルーンは言われた通りに足元に炎杖「アグニ」とデュランダルを置いた。 そして、ゆっくりと二歩下がる。
 男は思った、怪しい。こいつらなんでこんなに余裕があるのかと。
「両手を頭の上に上げろ、余計な事は言うな」
 ルーンはすぐに指示に従った。あまりにもすぐなんで男は対応できなかったのだ。
 ルーンの手に何が握られているのか。
 無視出来ないような大きな爆音。
 床を襲う小さな衝撃。
 明かりが消えた。
 さっきとまるで逆の状況だ、うろたえるのは男達でアルフリート達が優位に立ったのだ。
 男達は今まで二人がいた場所にハンドガンを撃った。しかし、フォトン弾はただ空間に光跡を残す。アルフリートは身を低くして、ルーンは横に飛んだのだ。
 アルフリートから音が出た。何か大き目の金属を蹴る音。
 衝突音!
 男はアルフリートが自分の片方の射撃を封じるためにデュランダルを蹴っ飛ばしてきたのを今理解した。しかも自分達はハンドガンの射撃を行ったせいで位置がバレている、ヤバイ、と男達は思った。
 ルーンが詠唱を開始する。
「私の周りにある20のナノマシンよ、氷の御手もて応えよ!」
 自分の周りにあるナノマシンを意思で制御して様々な現象を起こす『テクニック』、その中でも中位に存在する冷気のテクニック、ギバータが発動した。
 急激に冷やされた事により、高い音の金属の悲鳴が上がる。
 冷気の直撃を喰らった片方は全身が凍りつき、もう片方は右手だけしか喰らわなかったせいか凍傷で済んだ。
 逃げねば、男は悲鳴を出さずに逃走する。ハンターズである自分は悲鳴など出さない、それが男の最後の意地であった。逃走して生き延びるのだ、と。
 しかし、この二人を敵に回したのが男の不幸だと言わざるを得ない。
 アルフリートは男の体から反射したデュランダルを左手にとった。逃げようと背中を向けた男をアルフリートは静かに、冷めた目で心臓へとデュランダルを突き立てた。

 ルーンは手の中にあった物を捨てた。
 乾いた金属音、暗闇は視覚でなく聴覚でものを訴える。
 それは爆弾の遠隔起爆装置だった。もしもの時の為にビルの電源に仕掛けていたものだ。それは暗闇で相手の不意を作り出すのに役に立った。
「あなたには黙秘権がありません。洗いざらい吐けばとりあえず命は助かります。信用度はないですが判断するのはあなたの勝手です。そして、後8分で爆弾が起爆します。したがって時間稼ぎも無用なんでできればしないで下さい。もっともあなたか自殺願望者だというなら止めはしないのですが、その場合今あなたを羽交い締めにしているお兄さんに死んだほうがましだという事をされますんでご了承を、そういうわけでとっとと喋ってください」
「おまえな・・・」
 ルーンの滑舌と会話の内容に顔を歪めるアルフリート。
 場所は変わらずデータバンクの部屋、凍りつけ状態から開放された男を拘束し、ただいま尋問中である。
「爆弾起爆しちゃいますから口論してる暇がありません。で、洗いざらい喋ってもらえますか?」
 普段のルーンはもっと口数が少ない、どこからこんなに出るんだろう、となかば呆れるアルフリート。
 これは功を奏し、男は極めて順調にいろいろ吐いてくれた。
 データ強奪時のメンバー、ここに何人来ているか、装備はどれくらいか、自分の後ろ盾は「コレコレ(アルフリートとルーンは聞いたことがない、こいつらが雇われただけの犯罪者予備軍だという事は分かった)」だぞ、
 黒幕の名前。
 これにアルフリートは反応した。
 知っている名前だからだ。あんまり会いたくない名前リストに載っているほうで。
 そうだとしたらラウドがこの件に関するのは危ないかもしれない、とアルフリートは思った。
 アルフリートとラウドが二人だけで受けた依頼で敵対した相手だからだ。
「今の聞いたか?Rリーダー」
「録音は終了いたしております」
「脱出ですわ、R1、R2、R3」
 ヘイゼルが命令を下し、アルフリートとルーンは脱出の準備を始めた。
 しかし、アルフリートの不安はこの任務が終わるまで消えなかった。

 警備室。
 ラウドは脱出の指示を聞き、部屋を移動しようとした。
 脱出といっても簡単で6階の警備室から3階に見つからないように降りて、そこの窓から飛び降りるだけだ。
 ラウドの能力なら非常に簡単である。
 警備員が呑気にグーグー、眠る中をラウドは出口に向かって足音を忍ばせて歩き始めた。
 そのラウドの前に一つの影が現れた。
「久しぶりじゃねーか、ラーウド」
 一番聞きたくない声だった。殺してやりたいと思ったぐらいだ。それから殺してやったのだから二度と聞かないはずだった。
「ジャン・ベウトー・・・」
「アータリー」
 軽口を叩いて影は人になった。それは短い黒髪に中肉中背の男だった。男の肉体は絞られたかのように細い。それはまるでスポーツカーの様に無駄な物をなくした筋肉である。 そして、野獣的な表情に左目の刀傷、細いはずの身体が太く見えるのはこの男の「悪」のか貫禄のせいか?
「やったはずだぜ」
「おかげさまでな、おかげでナノマシンでも残る傷跡がついたぜ」
 ベウトーの口は軽い、その軽さがラウドの神経を嫌らしくくすぐる。
 ベウトーは左目の刀傷をいとおしく撫でながら、
「だが、そのおかげでこちらは始終お前の事が忘れられねえ、まるで恋する乙女だぜ」
 ラウドは無表情で言った。
「悪いが時間が無いんでな」
 そして、腰に差してあった武器を抜いた。このフォトン兵器全盛の世でも、それに勝る鉄の名刀、アギトだ。それを中段に構え、虎すら逃げ出しかねない眼力でベウトーを睨む。
「道を開けてもらおう」
「そうがっつくなよ、まだ前菜なんだぜ、ラーウド」
 一瞬の金属音。
 カキンッ、
 湧き上がる銃声!
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
 ラウドは一瞬の金属音でそれが銃のセーフティをはずした音だと理解。
 すぐさま横に飛ぶ、光弾の範囲はそれを上回り、数発がラウドに襲いかかる!
 関係無いとばかりにラウドは左腕を振る。
 フォトンのシールドは楽々とその数発すら弾き、ラウドに命中弾は無い。そのまま机の影に身を躍らせ、遮蔽を取る。しかし、それすらラウドから奪おうと光弾は机を削り始める。
「ストーップ!」
 無かったかのように止む銃声。
「追われる立場はどうだい、ラーウド」
 馴れ馴れしい、と心の中でラウドは叫び、装備を点検。その間もベウトーは話し続ける。
「安心しな、おまえの右手は俺がいろいろ『使って』からおまえの婚約者に渡してやるよ」
 変態が、と思いながら目的の物を見つける。
 実は一見絶望的な状況だが、突破口はある。
 相当乱暴な手だ。麻雀で振り込み、相手がロンと言う前に卓をひっくり返してなかった事にさせるぐらい乱暴な手だ。
「だから俺が殺してやるよ」
 いきなり自分のすぐ上から聞こえるベウトーの声。
 正確には頭のちょっと後ろ。
 ベウトーがいつのまにか近づいていた。
 ベウトーは右手を振る。その手にはブラッディアートが握られている。机ごとラウドがいた空間に一閃。たまらずラウドは机から引きずり出された。
 即座に始まる一斉射撃。
 ラウドは無茶な脱出案実行を決意。右手が動き、何かを放る、それはラウドを銃撃する男達とそれが挟むように飛び、ラウドの体で銃撃する男達には何が飛んでいるか隠されている。
 ラウドの疾走する先は壁。
 さらに射撃の嵐の中をベウトーは何の躊躇も無く飛びこんでくる。ラウドに一撃を食らわす為だ。
 ベウトーの体とラウドの体が一メートルと離れてない位置にきた時、ベウトーは気づいた。ラウドの体の少し後ろに飛んでいるもの。
 それは高性能爆弾だった。
 そして、ラウドの右手はアギトではなくブレイパスを握っていた。
「ダブルクラッシュと行こうか」
 一撃!
 ラウドの体はなにか巨大な者に抱擁されたような感触を得た後、猛烈な何かに殴られた。
 『巨大なもの』は爆弾の衝撃で、『猛烈な何か』は衝撃で飛ばされて当った壁だ。
 要するにこの作戦は爆弾をラウドの後ろで爆発させ、銃撃から逃げ切ると同時に体当たりで壁に穴を開け、外に脱出するというものだ。
 銃撃にやられることは避けられる作戦だが、壁にぶち当たったのはかなり痛かった。左肩にもう感触はない。
 空中に放り出された、ここは6階。万歳した格好で落ちているラウド。少なくともこの状態で落ちれば即死は免れない。そうでなくともこのままいけば空中で隣のビルに衝突する。
 しかし、ラウドはあきらめない。生命力と生きる意思の強さがハンターズには不可欠なのだ。
「ヴィジョンーーーー!」
 恋人の名前を叫び、アギトを隣のビルの壁に突き立てた。
 アギトのおかげで見事に体は減速。しかし、途中でアギトは壁からすっぽ抜け、ラウドの体は自由落下の法則に従った。本日二度目のダイブ。
 ただし、命綱は無い。
 しかし、ラウドはアルフリートの次に強運だ。空中にあった電線を掴む。それも切れたが何とか減速。全身をしこたま地面に叩き付けた。とんでもない痛覚がラウドを襲う。しかし、痛いという事は生きているという事だ。かくしてラウドは九死に一生を得る。生への渇望が生んだ結果とも言える。
 しかし、喜んでもいられない、いつベウトーがやってくるかわからない。速やかにここから離れる必要があった。
 ラウドは立ち上がろうとする、しかし、意識がもうはっきりとしない。
 薄まっていく意識の中、ラウドが最後に聞いたのは足音のように金属が連続で鳴らされる音だった。

 研究施設のビルは高い。
 それが落とす闇もまた大きく、裏路地はまるで宇宙空間のように静寂と暗闇でひっそりと存在していた。
 しかし必要とあらば物語の語り手は弦を引く。
 衝突音と風切り音と共に落ちてきた重傷のラウドを救う役者は存在する。

 倒れたラウドに近づいてくるのは金属がアスファルトを一定の間隔で叩いている金属音だ。
 音だけである。
 姿は一切見えない。
 音はラウドの近くで止まり、静寂に取って代わる。ラウドの首筋で小さなへこみが見えた。沈黙は言った。
「呆れたタフガイですな。まだ生きてます」
 少年のような合成音。ただし、それは執事のような丁寧で慇懃な口調のおかげでそれらしさはない。
「R4よりRリーダーへ。R1を確認。自力で帰れそうにありませんな」
「RリーダーよりR1へ。指示は変わりませんわ。R1を『連れて』ポイントGへ移動です」
「・・・承知しました」
 ヘッドセットの通信機からのヘイゼルの声に沈黙は肩をおとした口調で言った。
 ボタンを押したような軽い金属音、プラズマが空間を彩り、白く逞しい金属の体が
姿を現した。
 安定した射撃を重視したゴツイ機体。アンドロイドの中でも銃を扱うことに特化した機体、レイキャストだ。
 彼の名はJ.J。ハンターズである。
 J.Jはラウドにトリメイトを静脈注射すると左の肩で難無く担ぐ。重症の人間の扱いとしてはいささか乱暴だが、置いてかれるよりはマシだろうというのが彼の持論だ。ラウドを担ぐ為、光学迷彩は外した。つけたまま担ぐとラウド一人が空中に浮いているというなんともコミカルな図になるからだ。どっちにしろ光学迷彩は電力を食い過ぎる。使用しながら戦闘は難しい。
 J.Jは足音を忍ばせながら彼のメモリに示された図面通りに撤退を開始した。
 しばらく移動していると気にしなければならぬ音が彼の聴覚センサーに飛び込んできた。
 複数の足音。
 追っ手だ。
「ヤバイですな・・・」
 声は聞こえないが十人以上の人間が三班に分かれて行動している、動きは組織立っていて無駄が無い。追っ手としては最悪だ。さらに最悪なのはコンクリートに囲まれた狭い空間では身を隠すところが一つも無いという事だ。
「これはまずいですな・・・・・・」
 J.Jは走る。コンクリートに囲まれた空間に金属音が響く。だが、所詮は一人担いでいるアンドロイドVS追っ手、である。足音はどんどん近づいてくる。
 いくつかの角を曲がり、ついに追っ手の一人が後ろの角から見えた。足音からJ.Jは来た事がわかった。
 即座に右手でジャスティスを発砲!止まる事も見る事もしない。足止め目的のバースト射撃はあたりのコンクリートを光弾で散らす!
 追っ手の一人がJ.Jの射撃に驚き、止まった事で追っ手の速度が少し遅くなる。しかし、それは時間稼ぎにしかならない。とりあえず次なる角に飛び込んだJ.Jは走りながらヘッドセットに叫んだ。
「R4よりRリーダーへ!追い付かれましたぞ!応援はまだですか!?」
 そう言った途端に後ろの角から三人の追っ手が飛び出した。手にはリピーター。一人の男を黙らせても、二人がJ.Jを撃つ。そうした変えようの無い事実がJ.Jを牽制する。逃げるしか手は無い。
 J.Jは動きを加速、角に飛び込む。
 空間をフォトンが灼く。J.Jは窮地に落ちた事を悟った。
「どうにもならないのですか・・・・・・!」
 その一言で文句を止める、清水の様に心を正す。アンドロイドに心があるかどうかは専門家に議論してもらうとしても、今確かにJ.Jは一流の戦士のように『冷静』になった。
 五分五分の賭け、集中力と生存への渇望が成功へのキー。
 ラウドを担ぎ込んで『袋小路』の道へと移動。ラウドを自分の後ろに下ろし、盾になるように立つ。そして、ウォルスを取り出す。
「アルフは言いましたな」
 J.Jは言葉をメモリで転がしてから言う。その重みを確かめるように。
「『戦う時は覚悟を決めろ』」
 三人が飛び出す、リピーターがバーストで射撃される。しかし、それはJ.Jを掠めて終わる。走りながら撃って当てるのは難しい。
 そして、J.Jは静止状態。そして、窮地が己の感覚を最高に研ぎ澄ます。
 リピーターの射撃と同時に三発発砲!三人の肩を撃ちぬく!
「R4よりRリーダーへ!増援を求む、時間は稼ぐから早く来てください」
 さらに三人が飛び出す。それも結果は変わらない。
 それならばと銃だけ出して撃ってくる、それなら銃が撃ち抜かれる。
 袋小路にしたことで後顧の憂いは無い。前だけに集中。伏兵も、強襲される心配もゼロ!
 要はやられなければ良いのだ。
 追っ手側の襲撃が止まる。人の気配だけが増える。追っ手側の増援がきているのだ。
「数だけ増えても何もかわりませんな!」
 J.Jはそう言った。
 すぐに自分の認識の甘さを思い知らされた。右腕の先が飛んだ。比喩ではない、何かに斬られたのだ。
 顔面を何かが掴む。圧倒的な力がコンクリートにJ.Jを叩きつけた。
「俺の玩具を横取りすんなよ、ポンコツ」
 短く刈った黒髪に細い目、いやらしく歪んだ口。特徴的なのは左目に大きな刀傷を持ってることだ。
「ジャン・ベウトーか」
「ポンコツが馴れ馴れしく口をきくな」
 即座に掴んだ手に力が倍化される。フレームが歪む。金属が悲鳴を上げる。
「俺はアンドロイドとニューマンは嫌いなんだ」
 しくじった。あいつらはこいつが来るのを待っていたんだ。
 J.Jは自分の策の甘さを呪った。
「安心しな」
 空間をフォトンが灼いた。ブラッディアートがベウトーの右手にあった。
「遊ばずに殺してやるぜ」
 ブラッディーアートが残像を残さずに動いた。

 ベウトーのJ.Jへの接近はベウトーとJ.Jが対峙する前にタークスに伝えられ一行に緊張感をもたらした。当然のごとく、タークスはJ.Jとラウドのためにその身を粉にして動いた。

 その事態より三十秒前

 J.Jを追撃する追手はある音に気づいた。
 強烈かつ連続的に地面が蹴られる音。誰かが、二足歩行生命体が高速で近づいてくる音だ。姿は見えない。ビルがことごとく視界を狭めているからだ。
 音が唯一追手の視界内に入る角に近づき、曲がった。
 音の正体はその速度ゆえに体を倒して曲がるような事はしない。より速度を求めるかのように跳躍!壁を三角に蹴る!着地!さらに疾走!
 姿が見えた。青銀のハンタースーツに金髪のヒューマン、アルフリートだ。何を持たぬ手を大きく、狂暴に振り、近づくものを薙ぎ倒さんとする疾風となってきた。
 追手はアルフリートに向けて銃を構えた。彼等がアルフリートに唯一優るのは射撃による遠距離攻撃が一方的にできるということだけだ。
 利点を生かすためにハンドガンが、マシンガンが光弾を吐き出し、弾幕となってアルフリートの前の空間にその身を埋める。
 アルフリートは回避するために体を『倒した』。足首より先全てが地面と平行になり、10cmと離れていない。光弾はその彼の上を疾走していった。
 このままでは無様に倒れてアルフリートの人生は終わる。そして、アルフリートに倒れる時間は無い。
 あと18秒
 手を地面につき、強く短く押す!足が地面を強くノック!地面を跳び箱として追手の背より高く飛翔する。空中でトンボを切り、3人ほど巻き添えにして追手の中央に降り立った、と、同時に何も無かったアルフリートの両手に魔法の様に二丁のジャスティスが現れた。アルフリートは前進すべき方向へフォトンの弾丸を放つ、そして、前進。後ろなど振り向かない、たとえ敵がいようとだ!
 当然アルフリートの背後の追手達は彼の無防備な背中に銃を向けた。
 今なら確実にヤレル!
 しかし、その思いは確実なフォローの一手により無残に打ち砕かれた。否、『凍りついた』。
「私の周りの29のナノマシン!闇に塗れしコンクリートの狭間の空間達よ!氷の御手によって応えよ!」
 背後の追手はルーンのテクニックによって氷山と化した。先ほどと同じ、中級テクニック、ギバータだ。
 アルフリートはさらに前進!さらに発砲!
 しかし、まだ十人もいる追手の壁と、
 あと十秒
 その事実が一つの予定事実へとアルフリートとルーンの思考を導く。
 (間に合わない)
「J.J!」
 銃声にアルフリートの声が消散した。

 その8秒前。
 天蓋部作業用キャットウォークに一人の人影が見えた。前述したが、地上より100mのこの位置は対流と空調のために常に烈風が吹き荒れ、普通、人はいない。いるのは作業員か、
 命知らずなハンターズ。
 黒いレイマーがそこにいた。烈風に晒されてもその長身は微動だにせず鋭い眼光でただ下を見る。100m下の標的を。右手には火力と精密性を重視した厳ついライフル、ジャスティが握られている。
 目標を視認、ジャスティを両手で構え取り付けたスコープで捕らえる。
 弾道計算、経験より、知識より現実を客観的に見る『冷めた』頭脳が必要だ。そういう意味では彼もアンドロイドと大差ない。金属や生体部品の替わりに蛋白質で肉体が構成されているだけだ。彼は今限りなく「機械」だった。
 あと五秒
 不意に目標が高速機動を開始した。『獲物』を発見したのだ。黒いレイマーはまだ撃たない。目標が油断し、確実に当たるまで待たねばならない。それにあの目標はほぼ確実に獲物を弄る習性がある。―――をすぐには殺さないだろう。
 冷静に待ち、
 あと三秒
 目標が獲物を押さえて止まった。完全に止まったのを確認。
 好機!
 黒いレイマー―――A.Dは三度引き金を弾いた。

 ブラッディアートが残像を残さずに動いた.
 三回、ベウトーの頭上でフォトンとフォトンが衝突した。
「ちぃぃぃぃぃぃ、いい時に邪魔しやがってぇぇ」
 J.Jから手を離し、横に飛んで次の三連射をかわす。
 そして、アルフリートが角から走りこんできた。熱を持って蒸気を上げるジャスティスの銃口をベウトーに向ける。ベウトーは即座に横にいるJ.Jにブラッディアートを突きつけた。
「そこまでだ、ジャン・ベウトー」
「フン、おまえか、アルフリート」
 ベウトーの顔は常に笑みで染まっている。悪魔の本性を体現する為に。それしか知らぬように。彼は常に策を張り、他人を冷笑するために存在する。
「てめぇは相変わらず気にいらねえな、生真面目過ぎる」
「J.Jを解放して投降しろ、おまえの部下はもういない」
「ヤダヤダ、人の話し聞かないのも相変わらずだ」
「合わす必要が無いからな」
「じゃあ、聞く必要も無いな」
 緊張感―――。
 地上から100mのA.Dの殺気と10mと離れていないアルフリートの殺気、血臭と硝煙に塗れた空間は場の雰囲気を締め付ける。
 先に喋ったのはジャン・ベウトー。
「そんなに怒るなよ、アルフリート」
 茶化す口調がアルフリートの神経に障る。
「黙れ、武器を捨てて両手を頭上に組め」
「ハイハイ」
 アルフリートは一切気を抜かない。アルフリートが知る限り、ジャン・ベウトーはどんな状況だろうと最後まで逃げる策を思いつく男だ。全てのハンターズに共通する生存への渇望はこの男にも共通する。
 ベウトーの瞳孔が一気に収縮した。それは体が興奮状態に達したという合図だ。アルフリートの目はベウトーの変化に気づいた。両手に力を込め、人差し指が引き金を引いた。それは精密射撃によって阻止された。
 左手に血の花が咲いた。その弾丸はアルフリートの筋肉を断裂させていた、もうジャスティスを持てない。A.Dと同様の高さ百メートルからの精密射撃だ。
「ちぃっ!」
 接近を許した事に舌打ちしたA.Dはすぐに身を横へ転がした。今までいた場所にフォトンの火花が散る。
 狙われているだと・・・・・・?
 A.Dは心の中でそう毒づくと『時間をかけて』逃走を開始した。居場所がばれたスナイパーなどもはや相手にとって何の脅威にならないからだ。時間をかけるのは敵側スナイパーに対する時間稼ぎだ。少しでもこっちを撃たなくなったら迷わず探索に移るつもりでいた。それは確かに功を奏した。敵側スナイパーはA.Dに足止めされ事実上勝負はジャン・ベウトー対アルフリートの図式になった。
 そんな上空の駆け引きを知らないアルフリートは右手だけでジャスティスをバースト射撃!3発×3回の銃声と共にJ.Jのいる空間の前=ベウトーがいる位置に光弾が飛ぶ。
 しかし、ベウトーの『ウリ』は策だけではない。逃走に重要、戦闘にはさらに重要なスピードが彼の得意分野だ。
 ベウトーは体を独楽の様に回転させながら体を地面と水平にさせて2mの高さまで飛ぶこれには意味がある。弾丸がベウトーの身体の下をくぐる、予定調和を果たしてベウトーは地面に着地、着地したベウトーの姿はまるで100m走に用いるクラウチングスタイルの様だった。
「GO!」
 咆声ひとつ−!
 その叫びすら置き去りにして、ベウトーはアルフリートに接近!両手に不吉な赤い光を宿すブラッディアート!
 アルフリートは冷静に右手のジャスティスをベウトーの額にポイント。
 発砲。
 されない!
 ベウトーのブラッディアートがジャスティスを斬り裂く。いや、違う。本来の彼なら手首ごと斬り落とす。それが行われないのはアルフリートの発砲の構え自体が<フェイント>であるからに他ならない。右手を少し後ろに引き、腰が連動して左に回り、さらに左腕がインパクトの瞬間までゆるく握った血まみれの拳を前に運ぶ。ベウトーの顔に軽い音が弾ける。音の大きさはベウトーの動きを一瞬緩めるだけだという情報を大気に伝えた。
 アルフリートの本命は右手、左手とは線対称の動作。そして、今度は右足の踏み込みも加わって威力が倍化される。捻りのないストレート!
「相変わらずセオリーだな!」
 ベウトーの対応は非常に自虐的だった。頭をストレートに差し出す。そして、一歩踏み込む。ストレートがベウトーの額にインパクト。しかし、アルフリートの顔には痛みが、ベウトーの顔にはより強い笑みが浮かんだ。ベウトーはストレートが威力を発揮されないようにポイントをずらしたのだ。そして、額で受けたことによりアルフリートの拳にひびが入ったのだ。
 ベウトーが動く。
 アルフリートは死を予感した。ベウトーの手に握られているブラッディアートは死神の鎌の様にゆっくりと持ち上げられているとアルフリートは感じた。
「シュート!」
 ブラッディアートがベウトーの手から飛んだ。フォトンの光がブラッディアートを破壊したのだ。
「ポンコツが!」
 J.Jからのヴァリスタの一撃だ。すかさずアルフリートが右手で再度攻撃!しかしベウトーは大跳躍してこれをかわす。ビルの壁を蹴り、そのまま屋上まで飛び上がった。ベウトーが見下ろす形でアルフリートに言った。
「運だけは相変わらずいいな、さすがは<強運のアルフ>だぜ」
「ぬかせ!」
 アルフリートは跳躍しようと足に力をためた、だが。
『R−2深追いはいけませんわ。R−1とR−4を回収して撤退です。そろそろでセュリティが来ますわ』
『軍警察も動き始めました、到着まであと二分!』
 サラとヘイゼルの声がヘッドセットマイクから聞こえる。アルフリートは歯軋りしてとどまった。ベウトーを見る視線に鉛の重さを追加して睨み、一つの言葉を思い出す、遠い昔に刷り込まれた一つの言葉だ。
 敵は排除しろ!
 アルフリートは心の底から言葉を叩き出す。
「あくまで私達と敵対するつもりか、ベウトー」
「結果として、そして・・・」
 口の歪みが耳まで広がり悪魔らしさを増長させる。それは笑みであろうか?
「趣味だからな」
「敵対するなら心に刻め!我等を相手にすることは」
 これは恫喝である。
「命が代価と知るがいい!」
 それは闘争の神に愛された者の鉄の重さの言葉だ。
「悪いな、俺は自分の得になる事しか考えない男でな」
 べウトーはあっさりと姿を消し、沈黙だけがそこに残った。

 運命が始まりを告げる。闘争の始まりを。宿命の始まりを。幾つの命が奪われるかの式を知らず、およその解答を知りつつもヒトは幾度と繰り返す。それこそが進化の階段でもあるように、常に楽園を夢見て。
 UHO騒乱のこれが最初の一手である事を我等はまだ知らなかった。
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フォトンの騎士  ギルドラプソディ
アルフリート [Mail]
3/28(Fri) 22:11
 ハンターズギルドの警備状況は非常に微妙だと言わざるを得ない。
 アブラナのめしべのように軍施設に囲まれた形でハンターズギルドがあるのだ小火器であれど武装を有するハンターズギルドの危険性を考慮した結果、というのが軍の言い分だ。惑星フォーブからの移民が始まる前から軍とハンターズギルドの仲は悪かったが、この軍の悪し様な言い分はより二つの組織を仲違いさせる結果となった。それらがお互いに警備を強化し、相手の同行を観察するような流れになるにはさほど時間はかからなかった。
 かくして、重火器のある軍に囲まれた形で実戦経験豊富なハンターズの警備がある。ハンターズギルドの中心部は世界一警備の堅い場所となった。

 音楽データ ダウンロード
 題名:パッフェルベル 三声のカノンとジーク
 白いボディに人の顔を模したレイキャシール―リードは自分のメモリに上記の内容を要求した。コンマ以下でダウンロードは終了。それをプレイさせながらハンターズギルドと軍の中立地帯から軍の検問に向かってゆっくりと歩く。
 プレイ前の時間は古いCDラジカセのように長い。
 大いなる曲が始まる前のじらしの時間はダイエット成功後のケーキの様に彼女に甘美な誘惑を与えるのだ――もっとも機械の身体である彼女はダイエットなどやった事は無いが。
 検問に向かって歩いていくと制服をきっちりと着た軍人に呼び止められた「ハンターズだな、規則にしたがって武器を預けてもらおう」、リードは言った。
「私は人間」
「はっ?」軍人は阿呆のように言った。
 それと同時にリードがダウンロードした曲がプレイされた。
「強き意志は剣のごとく運命に立ち向かう、だから、私を好きに扱う事は誰にも出来ないの」
 リードの両手にはブレイパスがあった。無拍子の抜き打ち、抜いた気配さえ見せない。
 発射音の重奏、血飛沫、安堵の五重奏の曲調、それらは意外の一言を残して場に衝撃を与える。
 同僚であろうか?今までの時間を暇で持て余した二人の軍人が銃声に反応して動いた。片方は銃を手に取る。片方は警報装置に走った。銃を手に取った方にリードは射撃。軍人は人形が肩を引っ張られたように跳ねた。クイックドロウ、命中率、銃の精度全てリードが上回ってる結果だ。
 不意に鼓膜を引き裂かんばかりの大音量が鳴った。もう片方の軍人が警報装置の作動を成功させたのだ。彼の姿は見えない。検問の事務所の中だろうか。
 リードは爆破仕様のダメージトラップを事務室に放りこんだ。
 リードに爆発音は聞こえない。自分の聞く曲に『騒音』は無用だった。
 爆発。警報が止まる。
 リードは爆発で起きた衝撃や爆炎を気にせず、朝の陽光が照らす散歩のように自分の前には何も無いかのように歩く。爆発の証拠は炎の照り返しが彼女のボディが赤く染めた事のみだ。
 つまらない様にリードは言った。虚空に真実を重ねるように。
「革命、戦争、生まれ変わり。いつでもどこでも何でもやる事は変わらないわ。それはまるでベートーヴェンの『運命』の様に。決められた音でしか弾けないわ」


 ハンターズギルド第四警備隊長ギルスは急な知らせに度肝を抜かれた。
 警報。
 このハンターズギルドと軍が奇妙な共生状態になることで作られた強固な警備にケンカを売った馬鹿がいるのだ。
 思い知らせてやらねばなるまい。貴重で重要な昼休みを潰してくれた相手に。ギルスは憤りを部下への叱咤に代えて武装の準備を素早く完了させた。鮮やかな手並みはプロならではと言っても良い。そうしてハンターズギルドの中央部に向かう。
「いいか!我等が第四警備隊はタイレル総督への最後の砦だ!一匹たりとも通すなよ!」
 道中、ギルスはそう部下に言った。まあ、実際彼が配置されるギルド中央部に敵が来ることはそう無いのだが。
 そうギルスが思っていると彼等の後ろから二十人程の人影が現れ、彼等と並んで歩いた。ニューマンやアンドロイドだらけの集団だ。確かあれは第十三警備隊。ヒューマンがほとんどいない妙な部隊だが、実力の面では警備隊トップクラスを誇り、統率力の面では警備隊一だ。
 そして、一番その隊で目に止まるのは、隊長のアンドロイド。
 炎の様に赤い巨体のヒューキャスト。
 名をG・ヘルという。
 かつて彼はあんなアンドロイドを見たことがなかった。強さ、カリスマ、そして、知性。彼の低く通る声からそれが惜しみなく感じられ、ギルスはこう思った。
 まるで、Hero of Androidだと。
 ずいぶんと自分の感覚が詩的である事を悟った。
 だが、奴は所詮アンドロイドでしがない警備隊の隊長だ。今は気のせいだと思っている。
 そして、G・ヘルの隊がギルスの横に並ぶとG・ヘルはギルスに声をかけてきた。
 ギルスは動揺した。G・ヘルの声には本当のカリスマがあると改めて再確認したからだ。
 ギルスはできるだけ平静を勤めた。ヒューマンの優越感で。

「調子はどうだ」(G・ヘル、平静)
「大丈夫だぜ、朝の便もいいし、油も差した」(ギルス、極力気安く)
「ならいい、ハンターズギルドはラグオル調査の最前線だ。守備隊はそれを無慈悲なテロから守る重要な役目だ」(G・ヘル、平静)
「分かってるって、最前線のアンタが頑張ってくれれば俺達は大丈夫だ。何せ一匹も相手しないからな」(ギルス、おどける)
「安心しろ、敵は排除する」(G・ヘル、平静)
「……………」(しばし場は静寂する)
 分かれ道の十字路。
「それじゃ、頼むぜ」(右に向かうために、G・ヘルに背を向けた、ギルス)
「ああ、敵は排除する」(G・ヘル、平静)
「…………」(ギルス、何も言えない)
「当然のことだろう?」(G・ヘル、平静)
「あ………」
 (何も言えないのは長剣型フォトン兵器、カラドボルグが胸に刺さっているからだと気づく、ギルス)
 直後、戦闘が開始される。


 とりあえず私は目の前に来る一団を確認しました。
 ほぼアンドロイドとニューマンで構成された一団。『元』ハンターズギルド第十三警備隊、ハンターズギルドを制圧せんとする一団はこのハンターズギルドの無機質なリノリウムの廊下を私の元へと一直線に乱れることなく行進してきました。
 きちんと武装された一団は剣呑な空気と共に辺りへの気配りを忘れず、統制が取れた隊である事が見てとれます。彼らは私を見つけるとまずそのマシンガンを向けてきました。
 そして、先頭を歩いているのはUHOの長であるG・ヘルさん。威風堂々とした赤い巨体のヒューキャストは私の姿を視認するなりこう言いました。
「撃て」
 単純な一言です。
 せっかちさんですわね。
 連続する射撃音と共に私の姿はフォトン弾に打ち砕かれました。こうやってこの手記をかけるのは、
「!?」
 それが幻だからですわ。テクニックによって作られた炎と氷は両方を打ち消しあい水蒸気として消えていきました。
 最後に幻の私はこう言いました。
「こんにちわ、皆様」
「奇襲だ!」
 事実を的確に述べたG・ヘルさんの声が扉を壊す音と同時に響きます。



 G・ヘルの隊の半数を吹き飛ばしたのは白と黒の弾丸だった。
 扉を蹴飛ばして出てきた白の弾丸がフロウウェンの大剣を振る度に隊員がホームランボールのように天井に舞い上がり、黒の弾丸が隊員のそばを疾駆した時には一撃が隊員を戦闘不能にしていた。
 黒の弾丸にやられた隊員の一人が弾丸達に問うた。
「な、何者!?」
 身体以上に大きい水面のように蒼いの刀身の大剣、フロウウェンの大剣を肩に担いだ少年、白い小柄なハンタースーツに尖った銀髪のヒューマーは元気に言った。
「タークス四天王『朱雀』アベル、見参!」
 短剣状フォトン兵器、ブレイドダンスを持った黒い巨体、鳥頭のヒューキャストは短く言った。
「ただの郵便受けの『守護者』だ」
「つ、強いっ……」
 全てが倒れ付した。
 残るは向かい合う強者たちのみ。
「あんたがUHOの頭のG・ヘルか!」
 普通なら両手でないと持てない重量のフロウウェンの大剣を、アベルは右手一本で軽々と肩にのせ、空いた左手でG・ヘルを指差した。
「確かに私はG・ヘルだが、役割は同志をまとめているだけだ。そんな自覚はないな」
 G・ヘルは巌のようにあくまで平静だ。
 そんなG・ヘルに守護者は言う。
「だがな、G・ヘル。お前を潰せばUHOの頭を潰したのと同じだ。悪いが止めさせてもらうぞ」
 それは死神の宣告と同義となった。
 言葉と同時の通路の両脇の扉が弾け、G・ヘル達を襲ったのは情けも容赦もない弾丸達のシャワー。部屋から間断なく撃たれ続けるショットガンとマシンガンの不協和音に、床は抉れ、壁が弾け、舞い立った埃は惨劇の場を隠すカーテンとしてその場を覆う。
 生存者はゼロのはずだ。
 普通生きてはいない。
 しかし、埃のヴェールの中から声がした。
「先手必勝、良い判断だ」
 誰の声だろうか?
 即座に「覇」の音が埃から飛び出て二人の鼓膜を蹴っ飛ばす。
 そして、アベルに何かが叩きつけられる。それは人ほどの大きさがあった。
 いや、人だ。正しくは機能停止したアンドロイドだ。
 アベルは両手で飛んできた障害を押し返すように受け止めた。受け止めている間のコンマ数秒は普通隙にはならない。
 だが、それを隙にするものは神速の動きを持っていた。
 赤い巨体、G・ヘル。そして青い小柄な疾風が間を詰めてきたのだ。
 守護者の左にいるアベルは足を止められたままだ。
「アベル!」
 守護者がアベルのカバーに入ろうとした。しかし、粉塵から神速を上回る最速の物体が守護者目掛けて動き出した。
「ABS−01α!」
 声は赤い影とともに来た。女の声だ。最速の赤い影は槍状のフォトン兵器、ブリューナクを携えていた。それは守護者の短剣状フォトン兵器、ブレイドダンスより遠くの間合いから攻撃できるものだ。
 しかし、さらに守護者にとって無視できない情報もある。ABS−01α、あれは……。
 どうするべきか?
 守護者が取るべき行動は?
 全ての行動の模範解答は何処にもない。
 守護者は迷わずに突進する。G・ヘルに向かって疾走。G・ヘルへの同士討ちを避ける為に赤い影は手を出すことが出来ないはずだ。
 守護者の行動は決まってる。
「私から守る者を奪えると思うなよ」
 彼は低く、だが、強い声でそう言った。

 G・ヘルのカラドボルグの間合いに来た。
 G・ヘルがカラドボルグの間合いを活かす為にはここで攻撃するしかないはずだ。これ以上守護者の間合いへの進入を許すと容赦ないブレイドダンスの連撃の餌食となるからだ。
 間合と間合の結界の均衡の破り手はG・ヘルでも、守護者でもなく青い小柄な疾風だった。青の体に二本の赤の線が加わった。
 スタッグカットラリだ。
 ひとつの金属棒の端と端に刃が出ているというこの武器は回転運動から素早く重い連撃を行える武器だ。 
 その利点を青い疾風はさらに活かすべく、竜巻となりうる勢いで回転を開始!
 邪魔するものは攻撃であろうと防御であろうとも叩き斬る腹づもりだ。
 だが、
 だが、守護者には戦闘者としての天才的な閃きはこの攻撃法の唯一にして絶対の攻略法を知っている!
 要はタイミングなのだ。
 スタッグカットラリが作った赤と青の竜巻の中に守護者は容赦なく体を叩き込んだ。体当たりだ。威力が無いとこいつは止められない。
 さらに、回転運動は中心が弱点。そして、守護者は体術に関してはシリカもアルフリートも及ばないほどの腕前がある。
 中国拳法の体当たりにも似たその動きは青い疾風を吹っ飛ばしたと同時に自分が動けないことを意味する。
 G・ヘルが逃しようの無い隙を守護者は曝したのだ。身体を強烈に移動させる体当たりは足による回避を封ずる。
 G・ヘルはその隙を逃さず下段で攻撃。無慈悲かつ冷徹かつ正確でなおかつ速い。
「甘いって、ソレ!」
 そのG・ヘルにアンドロイドの体が飛んできた。タークスでも有数の力自慢にして、有数のチビ助でもあるアベルが投げつけたのだ。
「クヌヤロッ!」
 訳のわからない叫びとともに守護者の近くまで迫った赤い影にアベルは上段から叩きつけるようにフロウウェンの大剣を振るった。赤い影は来る時とテレビの巻き戻しのように同速度の動きでバックステップの回避。
 代わりに受けた床が衝撃で大きく床にヒビが入った事からシャレにならない威力だ。
「もう一丁!」
 そのアベルの声を遮るように、守護者がG・ヘルの隙を突こうとしたのを止めるように。
 粉塵から雷の蛇が二人に襲い掛かった。
 意表を突かれても何とかの犬のように条件反射が働いた二人は、弾けるように跳躍、または後方へ身を翻す。
 しかし、蛇は持ち前の執拗さで正確に追跡する。
 蛇は勇者では噛み付かれる。
 蛇は知恵の象徴、導くのは賢者の声。
 賢者の成した氷の壁が二人の前に現れ、雷の蛇は伝導率の違いから氷の壁を流れていった。
 氷の壁に6人の交錯が止まる。
 戦場の動きが一瞬止まる。
「ハイハイ、そこまでですわ」
 始まった時と同じ呑気な声に闘争の空気が霧散した。


 「そこまでですわ」、と、ヘイゼルが言った時。
 そんな言葉を聞いてない奴が一人いた。青い疾風!そう、全身を青で統一した小柄なヒューマーが守護者の横を駆け抜けてヘイゼルに接近する。
 フォースが何かをする前に片をつける気だ。
「そうはさせないっス!!」
 特徴的な声と共に疾風と同じく青い人影がヘイゼルの前に立ちふさがった。
 青いハンタースーツに尖った黒の短髪に中肉中背の体つきのヒューマー。
 オロナ3rdだ。
 右手には彼の伝家の宝刀、ハリセンを持ち、左手でハリセンの「腹」を支えて中段に刺しこまれたスタッグカットラリを受けとめた。
 一瞬、衝撃が両者の間で0になり、オロナの受け止めが成立する。
 オロナはニヤリとニヒルに笑った、しかし、馬鹿にしたようなその笑いは青の疾風を全てを吹き飛ばす竜巻に昇華させた。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 スタッグカットラリに込められた力はまるで間欠泉のように力強く、オロナをすさまじい勢いで後退させる。突き込まれても破れないハリセンもすごいが驚くべきは青い竜巻の力だ。
 オロナは四肢を踏ん張って止めてみようと試みるが青い竜巻の突進とさして変わらぬスピードは緩む気配がない。
「ヘイゼルさん逃げてくださいっス!」
 オロナは後ろを見ずにそう言った。
 この時ヘイゼルはどんな表情をしていただろう?
「ごめんなさい、オロナさん」
 オロナに一つの考えが浮かんだ、背中が薄い氷を割る感触、考えが確信に変わった。
 この時オロナはどんな表情をしただろう?少なくともヘイゼルには分からない。
 オロナがヘイゼルにぶつかった時、ヘイゼルの姿がかき消えた。
 このヘイゼルは幻影だ、氷と炎で作られた幻だ。
「酷いっス、ヘイゼルさ〜〜〜ん!」
 青い竜巻と共にオロナは通路の奥に消えていった。
 改めて通路の奥から歩いて出てきたヘイゼルの第一声。
「まあ、色々とありましたがとりあえず置いときまして」
『置くな』
 冷氷のような全員のツッコミにもヘイゼルは笑顔のまま表情筋一筋動かさない。
「戦力ではこちらが優勢ですわ、ここで撤退か降伏かを選んでいただけると私的にはとてもよろしいのですが」
「却下する。三対三で同等以上とは貴方の目が間違っている」
 G・ヘルは平静だ、そして、ヘイゼルも平静だ。
「あら、三対六ですわ」
 その言葉通りに部屋から3人のハンターズが出てきた。J・Jとルーン、そして、青いハンタースーツを着た尖った髪の長身のハニュエール、リサだ。
 彼らを見たG・ヘルに異変が起きた。
 その時ヘイゼルが感じたのはなんであろうか?暑い熱であり瞬時に熱を冷ました冷気でもある、共通項は逃げ出したくなるような恐怖が沸いてくることだ。全員がそれを感じてるはずだ、何も言えない。動けない、動いていけない巨大な物が、彼らの目の前にいるかのようだ。
 それらはG・ヘルから感じられた。
 そう、端的に言うなら彼らは気圧されていたのだ、G・ヘルの殺気に。
 彼はゆっくりと発声器官を震わせた。
「実力差で勝っていれば問題あるまい?それにここで逃げ出すほど柔な覚悟でもない。下手な説教をする前に世界を動かすのは理性と狂気だと理解してから」
 彼は右手の親指で地面を指し、
「ここに来い」
 そう告げた。
 その畏縮したヘイゼルの間に声をはさんだのは銀髪の強者だ。
「こいつは止まれないよ、ヘイゼル。もう走り出しちゃったから」
 アベルはフロウウェンの大剣を冗談に構えると、G・ヘルめがけて飛びかかった。
 アベルが彼に言う事は一つ。
「こいつは僕が相手をする!!」


 アベルのフロウウェンの大剣の一撃は重く、彼の身のこなしは軽く、そして、速い。
 G・ヘルの正面から突っ込んでの突き、G・ヘルの右に回っての横薙ぎの一撃、跳躍してからの振り下ろしの一撃。
 全てがG・ヘルの防御を脅かし、後退させ、衝撃で揺らがせる。
 しかし、カラドボルグのフォトンの後ろから見えるG・ヘルのマシンアイの赤い光を揺らがせることはできなかった。何かを狙う、猟犬の光。
 だが、アベルの猛攻はG・ヘルの反撃を多くの手数と重厚な攻撃で防ぐ。
 それが威力を発揮したのはアベルが一度引いた時だった、G・ヘルと大きく間合いを開ける。
 フォロウウェンの大剣を腰だめに構え、後ろに大きく引く。そこからアベルは床がへこむ勢いで地面を強く踏みしめ、肉体の加速を開始!
 フロウウェンの大剣の長刀身を利用した、突撃を開始する。
 G・ヘルの対応を許さない程スピードはノッている!
 G・ヘルは慌てて自分とアベルの大剣の間にカラドボルグを差し入れ、アベルの一撃を身体を前倒しに受ける。
 激突!
 金属同士の激突の音と金属が折れるような音が一瞬の名の下に重奏する。
 それでもアベルはG・ヘルの身体を浮かし、大きく後方へ吹き飛ばした。
 そして、アベルの一撃はG・ヘルのカラドボルグをへし折った。フォトンが耐えられても柄の金属棒が金属疲労でへし折れたのだ。
「いただき!」
 アベルがとどめとばかりに突きを放つ、今までのG・ヘルのスピードなら避けられないとアベルが推測した必殺の一撃、そうなるはずだった。
「速く、そして、重い連打の数々、見事だ」
 だが、当たるはずのアベルの大剣に手応えはない。
 アベルの目の前でそう言ったのはG・ヘル。
 彼はアベルのフロウウェンの大剣にいつのまにか乗っていた。
「さすがはタークスの四神、朱雀。この程度の武装で勝てるとは思ったのはこちらの不手際だと認めざるをえないようだな」
「なんだってー!」
 アベルが剣を振るうのに合わせたようにG・ヘルは後ろに跳躍して逃れる。着地をした後、G・ヘルは肩を震わせて笑い出した。笑いながら、気持ち良さそうに肩を震わせながら、G・ヘルは会話を続ける。
「武装だけではない、私にはまだ使ってない能力もある、使えば無敵になれる能力があるのだ、ジャン・ベウトーだろうと君だろうと問題にしないで倒せる能力がな」
 G・ヘルは金属棒を取り出す、ふつうのセイバーよりもジェネレーターが大きく、不恰好なこの金属棒にはケーブルがついていた。
 G・ヘルは右腕のコネクタにそのケーブルを接続。
 ボタンを押して装置を始動させると即座に青い炎がセイバーの形をとった。
「プラズマ化した気体をディストーションフィールドで剣の形にコーディネイトしたこの剣の名は『ゲヘナ』」
 G・ヘルから発するただならぬ闘気に、アベルは事実上、気圧されかけていた。
「世界を我等が浄化するために放つ革命の炎のひとつよ」
 じっとりとした嫌な汗とG・ヘルの殺気の視線がアベルの体に纏わりつく。
「そして、これは君への敬意だ、使おう。我が能力『インフィニティ・タイム』をな」
 しかし、アベルは逃げようとしなかった。
 望むべきは強敵。
 敵のいなかったタークスの中で彼は始めて全力を尽くす相手を見つけたのだ。


 アベルとG・ヘルが相対していた頃。
 周りでは己の技量の限界を極めた戦闘が繰り広げられていた。
 アベルが動いたのとほぼ同時に行動を開始したのはリサだ。タークスでもトップレベルのスピードは彼女の姿を蒼い残像としてしか残さない。
 狙いはアベル達に電撃を放ったいまだ埃に包まれて見えなかったフォース、フォースにテクニックを使用される前に黙らしておくのは戦術の基本だ。対照的に赤く光る彼女の赤のダガーは彼女の殺意を象徴するかのようだ。恐ろしい速さで突き出される赤のダガーはフォースの詠唱より早いはずだ。
「19のナノマシンよ、電撃にて叩け」
 リサを裏切ったのはテクニックの詠唱。早い。
 リサを雷光の蛇が打つ!
 リサはすんでのところで赤のダガーでガード。だが、フォースはリサを裏切り続ける。
「19のナノマシンよ、炎にて叩け」
 砲弾となった炎の固まりは情けも容赦もなくリサに牙を剥く。だが、砲弾となった炎も銃弾の支配者には遅いスピードだ。
「かようなスピードでテクニックを放つなど節操というものがありませんな」
 J.Jのマシンボイスと共にジャスティのライフル使用のフォトンがフォイエの炎を打ち砕いた。J.Jの白い鋼の巨体がリサの後方に立っていた。
 ヘイゼルの前ではとても丁寧な態度と口調になるのはJ.J特有の「人間らしさ」だ。砲弾と銃弾のぶつかり合いは今までフォースを隠していた粉塵を晴らす衝撃を持つ。
「遅いという事実は私にとって絶えられない事でね」
 そこにいたのは足元まで隠す黄色と赤のワンポイントのローブを着た背の低いヒューマン。ローブによって隠された顔と表情、だが、言葉は明確にその者の知性を表す。
「私のテクニック、『最速魔術師』ロードニックの放つテクニックは君達レイキャストやハニュエールより速い」
 誇りを持った魔法使いがそこにいた。その誇りを持つ声は静かに空間に染み透る。
 その声を塗り替える一声をリサは放つ。
「……関係ないわね……」
 言葉と共にカツリとリサの堅い靴の音が響く。
 もう一回。
 響いた時にはもうロードニックの前にリサがいた。距離と速さすら自分には関係無いと言うように。赤のダガーが手数任せにロードニックを狙う。ロードニックはバックステップで距離を取り、跳躍。
「逃がしますか!」
 J.Jがジャスティの引き金を三度引いた。衝撃に尻を蹴られた弾丸が宙に浮いたままロードニックに迫る。
「るおおおおおおおお!」
 ロードニックは裂ぱくの気合の声と共に両手を広げて前に出す。ナノマシンが精神力に感応してロードニックの前に電気で光り輝く盾が、急所を狙ったフォトンの弾丸を弾いた。
「私が君たちにスピードで………」
「関係ないわ」
 リサは宣告してやった。ロードニックのフードの右側に幾筋もの黒い線が走る。赤のダガーの焼き跡。
 それは「RISA」と刻み込まれていた。手数に任せて攻撃したのではなく、刻むのに手数が必要だっただけだ。
「これから死ぬ貴方の事なんて私には関係ないの」
 蒼い強者は冷淡に宣告した。

 
 タークスの強者達がハンターズギルドで死力を尽くして戦っていたその時。

 ハンターズギルドの総督室に二人の人物が入室した。
 軍部の施設で謎のテロが起こったため、軍部に呼応する形で警戒態勢に入ったハンターズギルド、そして、その最深部である総督室への入室はただでは済まされない警備が満載されている。
 物理的な障害だけでも、完全機密式の装甲板入りシャッターによく訓練された屈強の警備のハンターズ、法的にも警備状態のハンターズギルドに入ろうものなら即時射殺されても文句が言えないことになっている。
 そして、コンピューターには幾重ものプロテクトがかけられており、まさに軍部よりも堅いと言われる警備が構築されているのだ。
 にもかかわらず二人入ってきた、それはこの二人が特殊な人種だからだ。
 常識では測れないという人種だ。
 一人は青い白髪のレイキャシール、タークスPMR、サラ。
 この主であり、パイオニア2総督であるタイレルは溜息をついてサラに言った。
「君たちの能力の高さには驚かされてばかりだ」
 サラはこともなげに言った。
「何の事でしょうか?私たちが通る時には『本来閉まっている』はずのシャッターが開いていただけですよ」
 その言葉にタイレルは深く溜息をついた。彼はこれまで海千山千のハンターズを見たがココまで無茶苦茶な実力の持ち主はいない。大方サラは警備システムにハッキングしてシャッターの開閉センサーを「閉じている気」にさせたのだろう。
 その事はあえて問わず、タイレルはサラよりも要注意人物であるもう一人の人物に視線を向けた。
 魔女といわれて死したフランスの女英雄、国と結婚したグレートブリテンの女王は彼女の様なカリスマを有していたに違いない。
 緑の髪に緑のワンピースのフォマール、意思と気高さに満ちたその瞳、涼しげな微笑を浮かべた唇こそが猛者の首魁としては相応しい。

 タークス総帥、サムス・アラン。

 一番厄介な人物が現れた。そうタイレルは心の中で毒づいた。
 タークスはエリートの集団である。設立当初、軍部もハンターズギルドもその存在に脅威を覚え、各々の政治的手腕にて社会的に潰そうと躍起になった。しかし、その状況をサムス・アランは卓越した政治手腕で切り抜け、そしてタークスは巨大になった。その功績は言うまでもなくサムス・アランのものだ。以後、彼女はタークスになくてはならない人物として、総帥として、タークスのトップに君臨している。
 そのサムス・アランにタイレルは機先を制して問うた。
「『このようなこと』をするぐらいなのだから火急の用なのだろう。何事なのだ?」
「お察しが早くて助かります。用件とは至急タイレル総督にこのハンターズギルドから撤退して貰いたいという事です」
「理由は?」
 タイレルは冷静に問うた。
「G・ヘルを頭に擁く反乱軍に彼方の身柄を拘束されないためです」
「それの証拠は?G・ヘルはこのハンターズギルドの警備隊の一つを率いる男。証拠が無くば動けんな」
「それを証明するのは簡単です。サラ、準備を」
「はい」
 すぐにサラが総督室の端末に飛びつき、偽パスワードでセキュリティシステムの記録映像を二分とかからず、タイレルの前のホログラフィに出して見せる。
 しばらくその画面には何も無い廊下だけが映っていた。
「何も出ないじゃないか」
 タイレルの側近がそう結論付けようとして次の瞬間、G・ヘルとギルスが画面に映った。
 すぐにG・ヘルがカラドボルグでギルスの胸板を貫き、その後映像は消えてしまった。
 タイレルはただ黙考、思考をフル回転させ、状況と事の正否を審査する。そして、ゆっくり口を開く。
「警備隊はなぜこのことを報告しない?警備室にいる警備は本当に信用が置ける人間だけを置いたはずだ」
「G・ヘル隊以外の別働隊が警備室を抑えています。反乱軍の同調者は百を越えるライセンスレベル40前後の元ハンターズです、警備室の占拠など彼らにはそう時間がかからないでしょう」
 サムスは事実をスラスラと淀みなく述べていく。
 サラは自分が持ってきたノート式端末に画像を出した。それは証拠といわんばかりのアンドロイドやニューマンのバスト写真だ。
「ここもすぐに制圧されます、ご決断を。タイレル総督」
 タイレルは迷わなかった。
「マスターコード9680Z72968A。緊急退路開放」
 すぐにコンピューターの合成音が響いた。
『声紋、網膜パターン、クリアー。マスターコード承認、緊急退路、開放します』
 そして、総督室の側近、オペレーターに指示をすばやく出す。総督室が喧騒に満ちた。サムスとサラはその総督室を後にした。自分達用の退路などとっくの昔に用意されているし、タイレル総督の能力は信用に値するものだ。ヘマはやらないだろう。
 サムスはただ虚空に向けて新しい仕事を開始するために声を放った。
「影組の方」
「ここに」
 声だけが空間に現れた、気配と姿は一切見えない。
「今日はGASさんですか?」
「はっ、左様で」
 この主にはいつも驚かされる、姿も気配もわからず、声にはいつも変声機を通して誰であるかを分からなくしているというのにこの主はズバリと当てるのだ。
「報告を」
「やはり説得を聴く相手ははございません、あのメンツでもG・ヘルが本気を出せば五分持つかどうか、拙者の目から見ても疑わしいものでございます」
「ソウルブレイカーズを」
 サムスが命令を伝える前にGASが先を制す。
「すでに彼女達は自分達の意志で向かっております」
「ではボーナスの用意です、引き続き監視を頼みますわね、GASさん」
「は」
 そして、声も消えた。
「さあ、守りきれるでしょうか?私達の大事なものが」
 サムス・アランの声はリノリウムの廊下に反響することなく消えた。

 余談

「どこでござるか、ここか………」
 GASの声はエアダクトに反響することなく消えた。
 GASは迷っていた。



 青い竜巻の勢いに押され、通路の奥へと消えていったオロナ.3rd。
 彼の行方はその後ようとして知れない。おそらく青の竜巻と刺し違えたのだろう。
 しかし、彼のおかげでタークスは青い竜巻という外敵の手から皆を守れたのだ。
 ありがとう、オロナ.3rd。さようなら、オロナ.3rd。ハリセン使いの君のことを皆はきっと忘れない。

 フォトンの騎士 オロナ編  完
    
    そして、物語はアルフリート達へ……


 なーんてやれたら作者として非常に楽だ。

 だが、事実は彼に活劇の機会を与えた。
「いい加減にするッス!」
 オロナは青い竜巻を蹴りつけて距離を取る。
 オロナがハリセンを構えて動きを止める。
 竜巻も止まって人の形を取る。青く小柄なハンタースーツに真中で分けられた黒髪、アベルと大差ない年齢の少年ヒューマーだ。
 差があるとすれば表情だ。
 大の男でも逃げ出すほどの殺気で目を光らせたそれは紛れもなく凶顔の部類に入るものだろう。
 どのような殺伐とした人生を生きれば生きれば、少年にこのような表情をさせられるのだろうか?
 少年が口を開いた。
「『疾風の伝令屋』オロナ.3rd。戦略的に考えて排除したほうが良いとタック・パレスは考えるんだけど、どう思う?」
「できれば見逃してもらえませんッスか?」
 オロナは既に凶顔に気圧されて腰が半分引けていた。
「無理だね、アンタはベウトーの敵になる」
 迷いは一切無い声。そして、次の声はむしろ優しい声だった。
「わかったね?」
 声の優しさに反して鋭い勢いでスタッグカットラリが振り回される。
「んな理由で殺されるんッスカー、オレって」
 スタッグカットラリとハリセンが再度噛み合う。二人の腕と足と体が踊りを踊るように攻撃と回避と踊りが繰り返される。
 二人の息が合うように戦いが続くのは二人の戦術の意図が同じだからだ。
 攻防一体。
 タック・パレスは竜巻の防御と攻撃だ。振られてくるハリセンを円運動を描くスタッグカットラリの片方が迎撃し、一瞬と待たずにスタッグカットラリのもう片方がオロナを狙う。
 オロナはタック・パレスの攻撃をハリセンの「腹」を使って受け流し、扇を持って踊る舞い手が行う鋭くも風のような流れをもった一撃をタック・パレスに加える。踊りのように定まらずも決められた流れをもった動きは停滞を知らない。風は留まらない。
 タック・パレスの「剛」の攻防一体。
 オロナ.3rdの「柔」の攻防一体。
 二人の技は終わることを運命に許されていないように続き、攻防のスピードだけがただ上がっていく。
 それは舞闘の中で生まれた永久機関の輪舞であった。


 オロナとタック・パレス。お互いの攻防にミスはない。
 完璧に近い戦闘技術の攻防は永遠か一瞬だ。しかし、二人には徒に時間を消費する余裕はない。
 先に状況を動かしたのはタック・パレス。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 タック・パレスの全力打撃!
 防御をまるで考えないシフトウェイトと大きな腕の振りから繰り出される重い打撃はオロナのハリセンを貫くのに十分過ぎる。
 タック・パレスの狙いはオロナの胸のあたりに構えられているハリセンの破壊。
 赤い刃は風を切ってオロナのハリセンに迫る。
 しかし、本当に風を切れる者などいない。
 それをオロナは証明する。
「オロナ流、風のフルコース『微風』!!」
 オロナはハリセンを抱きこむように両手で構える。右手は柄。左手はハリセンの『腹』へ。そして、インパクトの瞬間に体を後ろへ、威力を殺すために体を巻き込むようにロールさせる。
「『微風』は誰にも止められずただ流れるんスよー!!」
 余計な言葉を言いながらオロナは足を踏ん張って回転を止める。そして、風は止まらない。足をさらに踏み込んで体を低い位置に流して疾走!
「オロナ流、風のフルコース『烈風』!!」
 全力攻撃で無防備となったタック・パレスの腹へ、オロナは航空機が離陸するような伸び上がる一撃だ。オロナの手に何かが2・3本折れた感触が伝わった。
 しかし、オロナはそこで終わらない。タック・パレスの体を自分の体の先端であるハリセンに引っ掛けたまま、さらに空を駆け上がる。
「真に強い『烈風』は誰にも止められないんッスよー」
 言葉通りオロナは空を駆け上がる。天井近くまで上がったオロナはそこからようやく降下を始める。
 先に着地したのはオロナ。
 続いてタック・パレスの体が無様に地面へと叩き、
 つけられない!
 彼は自分の意思で大地に降り立った。さっきを満々と湛えた視線でオロナを刺す!
「オロナ3rd!!」
「まだたつんッスかー!?」
 悲鳴と叫びの交換の後、不意に二人の耳にある情報が入った。


 足音。複数。大勢。武装のなる音。角で一旦止まる足音。足音のうちの半分は金属音。
 この真剣勝負に乱入しようとする無粋な輩は……。
 UHOの別働隊!足音から推測して数は三十人以上いる。
 オロナがその事実に気付いた時、体はすでに逃走に移っていた。腕を振り、足で地面を蹴り、酸素を食わずに疾駆!
 この情報をアベルたちに知らせないと!
 今、別働隊に介入されればタークスの強襲部隊は間違いなく全滅する。
 床をハンマーで叩いたような硬質の連続音がオロナを追いかける。タック・パレスがオロナを追走してきたのだ。
 速い。信じられないようなピッチ走法でオロナを追いかける。後ろから照らされる暴風の殺気が、見えないことでさらに拡大されてオロナに恐怖を植え付ける。その恐怖で少し動きが鈍る。
 距離が詰まった。
 頭を唐竹割りにする勢いでスタッグカットラリが振り下ろされる。オロナはそれを後ろを見ないで、横に飛んでかわす。

 『伝令屋』とはラグオルのどこであろうと駆けつけ、救援、伝令、物資輸送を行うハンターズのことである。テレパイプシステムのため、需要がまるでないと思われる役割だが、あまりにも広大なラグオルにはテレパイプシステムでも届かない区域がしっかりと存在する。そこに最速で到達できるのがタークスの『疾風の伝令屋』、オロナ.3rd。彼は遺跡を中心に働く『伝令屋』であり、タークス一の回避、逃走技術に長けたヒューマンなのだ。

 後ろから飛んできた捕獲用粘着ネットを。勘と経験任せで身体を捌いて回避。別働隊の格下の射撃に当たる事はタークス一の伝令屋の自負心が許さない。
 そして、オロナは一つの違和感に気付く。
 
 何でオレを捕まえようとしてるンスか?

 ここでオロナを捕まえる価値はあまり無い。せいぜいアベル達に対する人質として有効なぐらいだが、それ以上の価値も無い。むしろ、戦闘力が自分達より上である以上、何をしでかされるか分からない。メリットが無いのだ。殺してしまった方がたぶんメリットがあるだろう。
 オロナに推理の時間は与えられない。タック・パレスが迫ってくるからだ。そして、別働隊は二度目の集中射撃をまだ行わない。タック・パレスの斬撃をオロナが避け、体勢が崩れてスピードが緩んだところを狙い射ちにするつもりだ。
 そして、オロナの予測は現実となる。
 タック・パレスが一撃を放つ。横にしか避けられない上段の振り下ろし。オロナの変則的な縦の回避ルートを絶つ斬撃だ。
 オロナは横に跳躍、タック・パレスの一撃を回避。
 しかし、オロナはここから別働隊の予測したものとは違った行動を取る。
 オロナは壁に向かって跳躍したのだ。
 そして、地面と体を平行にした状態で壁に『着地』。
 別働隊の誰かが、「アッ!?」、と声をあげた。
 オロナの体の下の地面に粘着ネットの数々が張り付いてゆく。別働隊の射撃は正確だったのだ。
 ただ、オロナの駆け引きが別働隊の隊員達より一枚上手だっただけだ。
 オロナは別働隊の隙を逃さずに足を壁の下方向に蹴りこんで重力を無視した走行を開始する。
 重力から逃れ。
 自分の体を誰よりも良く操り。
 壁を風となって疾駆する。
 慌てて再度撃たれる隊員達の射撃は彼を捉えられない。
 オロナがまた床を疾走する頃には銃の射程距離を離れ、タック・パレスしか追いつけない程のスピードにノっていた。
「風は誰にも捕らえられないンスよー!」
 余計な一言、しかし、事実を言ってオロナは走る。
 ただ走る。


「はぁぁぁぁぁ!」
 アベルは突進する。弾丸の雨であろうと、剣の森であろうと止まらぬ勢いで。そして、フロウウェンの大剣が引き継いでG・ヘルへと水平に振られる。
 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 攻撃分析
 ―――回避可能
 ――――脚部 腰部能力 限定解除
 ―――――回避 成功
 しかし、G・ヘルはまったく動じず、平静に、落ちついて、揺らぐ事の無く、紙一重でこれをかわす。
 二度、三度、アベルの水平斬撃が続く。反動を上手く利用し先ほどの一撃よりも加速された斬撃だ。
 しかし、G・ヘルはこれも紙一重でかわす。
 偶然は二度も三度も起こらない、アベルの剣とG・ヘルの間に薄い膜があるような、まさに神の一重の防御だ。
 アベルは構わずに四度目の斬撃を行う。
 しかし、G・ヘルはそれを許さない。
「ぐっ?!」
 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 攻撃分析
 ―――迎撃可能
 ――――腕部能力 限定解除
 ―――――左大腿部打撃 成功
 アベルの左足の太腿は、G・ヘルのゲヘナによって突かれていた。ゲヘナの青い炎、プラズマを覆っているディスト―ションフィールドは刃の役割をなさない。
 そのかわりアベルを襲った痛みは、骨をも砕かれたような重い威力を持ってアベルの精神を襲った。
 攻撃する瞬間を狙った!
 アベルの知識が今の一撃を分析する。避け様の無い攻撃する瞬間の無防備を狙われたのだ。
 G・ヘルが間合いを詰める。フロウウェンの大剣の間合いの中で攻撃するつもりなのだろう。
 アベルは己の痛みに弱った精神を叱咤する。気合を入れて、傷ついた左足に力を入れ、五度目の攻撃。相打ちすら覚悟しての一撃はアベルのほうに分があるはずだ。こちらのパワーはG・ヘルよりケタ違いに大きい。

 次の瞬間、アベルは信じられないものを見た。
 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 攻撃分析
 ―――攻勢迎撃可能
 ――――腕部能力 限定解除
 ―――――ディストーションフィールド展開解除
 ――――――「ゲヘナブレイズ」起動
 ―――――――敵武装迎撃 成功

 自分のフロウウェンの大剣が壊れていた、いや、正しく言うなら『斬られていた』。そして、驚くべき事は、自分にまるで怪我は無いことだ。
 さらにG・ヘルのゲヘナはまるで無事だ。いや、ディスト―ションフィールドがの抱擁が解かれ、青い灼熱のプラズマが顔を見せている。あれに自分の剣は斬られたのだろう。
 しかし、信じられないのはG・ヘルの能力だ。自分の腕の振りより何倍もの速さで移動する剣の軌道を読み、剣だけを破壊するなど誰にも出来ないことだ。
 タークス最強の一人といわれる『朱雀』のアベルにも、技巧派で知られる守護者やアルフリートにも、剣術に優れたラウドにも出来やしない、とアベルは思う。どんな手品か知らないが、この方法で攻撃を読まれたら誰にも勝ち目は無い、無敵の防御法だ。
 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 目標ターゲッティング
 ―――腕部能力 限定解除
 ――――右肩部打撃 成功
 そして、アベルの思考は、ディスト―ションフィールドを纏ったゲヘナの一撃で切り取られた。右肩を正確に狙った一撃はアベルに水平なベクトルを与え、重力と対等の力を手に入れたアベルの体は、本人の意思など微塵も反映させないで壁に叩き付けられた。
「ッ………」
 アベルは痛みで声が出ない。
 G・ヘルの足音が聞こえる、自分の頭から流れる血の匂いがする。アベルの赤く染まった視界にはその赤い鋼の巨体は血塗れの死神のように見える。
 だが、アベルにはまだおとなしく死んでやる気は毛頭も無かった。近づいたところで問答無用で斬りかかってやるつもりだった。生き残らなければならぬ理由が彼にもある。アベルはG・ヘルの視界の外に右腕を置き、ゆっくりとスペアのフロウウェンの大剣の金属棒を抜いた。
 
 救いの手はいつも急だ。
 
「あれー、アベルがへこまされてるなんてめずらしぃー」
「いつものことじゃないの?アベルだったら」
 アベルはその言葉に聞き覚えがあった。
 恐怖と驚きの記憶が蘇る、そうあいつらだ、来ては行けない奴らが来たのだ!
 衝撃波が天井をぶち抜いた、三階分の床をぶち抜いた先からさらに炎の玉が鋭い角度とスピードを伴って飛んでくる。火球はG・ヘルに直撃し、彼の姿を一時隠した。
 そして、ぶち抜かれた天井の中から、二人組の少女が現れる。
 ひとりは赤い髪&ハンタースーツのハニュエール、自身満々の生き生きとした表情と全体的に子供っぽいシルエットが特徴だ。手には彼女の身長よりも大きいソードだ。
 もう一人はポンポンのついた帽子と緑の髪&緑を基調とした服のフォニュエール、手にはテクニック使用による精神力消費を半減させるといわれるサイコウォンドだ。
 そして、炎のベールから、右腕のゲヘナを振るってG・ヘルが姿を現す、フォイエの火球を直撃させたというのにその姿は揺らぐことが無い。
 G・ヘルは彼女の名を紡ぐ、その名は全ての生けとし生きる者に恐怖しか与えない。
「ソウルブレイカーズ……」
『ソウルエンジェルスだ!!』
 少女二人の声がハモった。


「何しに来た?UHOの誘いを蹴った人間が」
 G・ヘルは相変わらず平静な口調で話す。怒りも疑問もその言葉は何も感情をのせずにやってくる。
「決まってるでしょ。UHOはボランティアだから一文の得になりそうに無いじゃない」
 そう答えたのは赤いロングの髪の小さいハニュエール。口調には見た目の年齢よりもはるかに大きな自信に満ちている。
「相変わらずの金銭感覚だな、シリカ・フィーン。報酬ならあったはずなんだがな」
「報酬は破格、でもアレでこのシリカの人生は買えないわ!」
 シリカは指をビシリと振るって言った。G・ヘルに自信を持って断言する。
「このシリカ・フィーン、成功確率すくなそーなテロに加わって人生踏み外すほど酔狂じゃないわ!」
 G・ヘルはその言葉を軽く受け流して言う。
「では、君には私が倒せると?」
「アンタこそアタシを倒せんの?」
 二人の間で静かな闘気の火花が散った。二人の間に収まり様の無い死闘を予感させるには充分過ぎる程の赤い火花が散る。
「あのーシリカぁ、いい加減作戦Aに移ろうよう」
 シリカの後ろで紫の髪の緑の服のフォニュエール、ジュン・ヒライアが火花に怖がったように言った。
「そうだった、これぞ対G・ヘル決戦兵器よ」
 そう言うとシリカは何かを取り出した。
 それは言うならばドアの取っ手のようなものにアンテナをつけたものだ。一つ特記する事があるとするならば、その取っ手には何故かボタンのようなものがついているという事だ。
「このハンターズギルドに大量のプラスチック爆弾を仕掛けた!ハンターズギルドが十回吹っ飛ぶほどの量なんであたしは是非とも押したくないぞ!」
 場が思いっきり静かになった。かつて対テロリスト対策として制圧場所をまるごとふっ飛ばすという思考をした人間がいただろうか?
「何ーーーー!」
「嘘でしょ、シリカーーーーー!」
 G・ヘルとアベルの声が重なった。当然の反応である。
「アハハハハハハハハハハハ!さーとっとと降伏しないとどっかんといくからね!」
「シリカはどっちの味方なのー!」
 アベルの言葉にシリカは言った。もはや目は二人の驚きから来る満足で愉悦に満ちている。
「アタシの味方よ!」
 
 シリカがそう言った時だった。
 
 銃弾がシリカの爆弾の発火装置を打ち砕いたのだ。
「自我が有るのは良い事ね」
 白いレイキャシールがそれを打ち砕いたのだ。シリカ達がいる階層から放たれたフォトンの銃弾の一撃だ。
 両手には二丁のブレイパス。
 G・ヘルの乾いた炎のような殺気とは対照的に、やけに人間的な欲望に濡れた殺気がソウルエンジェルスの二人を襲った。
「随分と早いな、リード・リピドー。軍部の制圧任務はもう少し時間がかかると踏んでたんだが」
「随分と慎重ね、ハンターズギルドと比べれば武器が豪華なだけでたいしたもんじゃないわよ」
 二人ともシリカ達から目を離さない。
 シリカはとぼけた感じで言った。
「あちゃー、やっぱこんなので上手く行くほど甘くないか」
「さっきあんなにノリノリだったのに」
 そう言うジュンのツッコミにシリカはきつめの肘打ちで黙らせた。
 シリカは悪びれた雰囲気もへこんだ感じも得意になった感じも無い、あまりに自然体の流れを持ってG・ヘル達に対峙した。
 そうまるで日常の感覚を持って戦いの流れに繋ぐ。
「アタシ達はやっぱ肉体派ってことね?G・ヘル、痛い目見るのはこれからよ」
 シリカは持ってるソードを振りかぶりG・ヘルに踊りかかった。
 シリカは三階分の高さをあっという間に飛び降りた、その間にG・ヘルへと超重量のはずであるソードを信じられない筋力で投擲する。
 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 攻撃分析 
 ―――回避可能
 G・ヘルは乱暴なまでの力で投擲されたソードを体一つ動かしただけで避ける。ソードは床に突き刺さり、床の構造材をあたりに散らす。投擲されたソードはその重量と破壊力を床に誇示するだけにとどまった。
 それに反応してアベルが動く。フロウウェンの大剣から即座に刃を射出して壁から動かずにG・ヘルに斬りかかる。
 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 攻撃分析
 ―――回避可能
 ――――腕部能力限定解除
 ―――――緩衝防御 成功
 シリカに視線を送っていたはずのG・ヘルはアベルの斬撃をゲヘナを最小限動かしてガードする。
 その間にシリカは着地、そして、少しだけ横に動く、そう、突き刺さったソードの背に身を隠すような移動だ。G・ヘルはその身の意外な小ささに驚いてシリカから逃れるために背後に跳躍。
 しかし、それはシリカの思う壺だった。
「シ・リ・カ!スラストォ!」
 シリカの声だけが前に動く。キャリバーを即座に抜いたシリカはソードの巨体を使ってG・ヘルの視界から身を隠したまま、G・ヘルへと凶悪な突進跳躍を行う。まるで大砲が発射されたような音を地面を蹴って起こし、空気をキャリバーと共に切り裂きながら「弾丸シリカ」が前へと飛ぶ!
 シリカの突進跳躍はソードの巨体をたやすく砕き、そのまま意表をつかれたG・ヘルの体にぶつかった。
 G・ヘルの体はまるで人形のように跳ね飛ばされ、廊下の壁をぶち抜いて部屋の影へと消えていった。

 シリカはG・ヘルを吹き飛ばした後、身をひねって無理なく着地した。
 G・ヘルのことは確認しない。身を少し隠しただけの中途半端な不意打ちとは言えど、シリカのパワーは一瞬の隙だけで必殺の一撃となりえるのだ。無傷でいるはずが、いや、動けるはずがない。
 そう、G・ヘルは片付けたのだ。
「シリカぁ、あいつかなりヤバイ!」
 シリカがそう結論づけたところでジュンが慌てた様子で上から降りてきた。リード・リピドーの射撃から何とか逃れてきたのだ。
 致命的なオマケを引き連れて。
 ジュンのすぐ横に何かが落下してきた。手の平サイズの金属の塊、その落下音が、シリカ、アベル、ジュン、の危険警報をかき鳴らす。
 金属の塊が地面に着いた瞬間に、それは大音量と閃光を極めて平等に三人に分け与えた。高性能スタングレネードの威力は三人の聴覚と視覚に襲い掛かる。全員がとっさに反応して手で顔を覆い、体ごと顔を背けた。この反応は三人にとって体が覚えた条件反射だといってもいい。
 しかし、それこそがリード・リピドーの望むべき隙だった。
 銃声は三つ。もっとも、その銃声はスタングレネードの大音量で三人には聞こえなかったが。
 だから、ジュン・ヒライアは自分の視界がどうして下降しているのか、自分がどうしてサイコウォンドを落としているのかわからなかった。そして、視界の先はついに上にあるはずの天井となった。
 ジュンが仰向けに倒れていることに気づいたのはそれからすぐだった。
 それからこらえ様の無い痛覚が来た。
「きゃああああああ!」
「ゴメンね、貴女が一番ノロマそうだったからこうさせてもらったわ」
 いつのまにか降りて来ていたリードはそう言うと、ジュンのまだ傷の出来ていない左肩を押さえつけてその銃口をジュンに向けた。視覚素子に大光量補正用の装備を着けているのか、動きに全くスタングレネードの影響が見られない。
「貴方た……」
 それを見たアベル達はリードの声より早く動いていた。
 シリカがゾンデを放とうとする。
 アベルがリードへと走る。
 だが、リードの反応はその二人より早かった。
 アベルに二発、シリカに一発。二人はそれを何とか回避するが、狙い違わず二人の行動の出鼻をくじく。
 冷たい声でリードは言う。
「駆け寄って斬るだとか、テクニックを打つだとか、そんなノロマなことが出来ると思って?」
 そして、また銃声が三つ続く。
 今度はジュンの左腕に命中した。
「ぐうっ!?」
「可哀想にね、貴方たちが作ったペナルティーよ?本当にカワイソウ」
 冷たい声でまたリードは言った。
 それがシリカの気に障る。
「…ジュンが死んだら」
 シリカが静かな怒りの声を出す。それに応じるように大気すら震えだす。あまりに直情的な怒りは空気すら我が物とし、見るものを威圧せんと襲いかかる。そして、言葉が呪縛せんと放たれた。
「あんたをスクラップにしてやる」
 その震えに身を打たれながらも、リードはまるで知りかを恐れた様子がなかった。むしろ何かを喜んでいるように見えた。

 場に一つの音が起こった。瓦礫が崩れる音。そして、足音だ。
「世話をかけるな、リードよ」
 その場にかけられた声はどんな状況であろうとその身に宿る狂気を隠す平静な声だ。
 G・ヘルだ。
 声にはまったく変化はないが、無傷というわけではない。炎のように赤い機体は埃で所々が白くなり、左腕と右足は電気の火花が散っている。背中の見るも無残な裂傷から冷却液と潤滑液と内圧剤が漏れている。
 ボロボロだ。
 シリカの一撃は確かにG・ヘルにダメージを与えたのだ。
 だが、G・ヘルは立っている。何事も無かったかのように。
「これが仕事だもの、気にしないで」
 リードはそっけなく答えた。
 G・ヘルはその言葉を鷹揚に受け止め、シリカとアベルに四つの手錠を投げて言った。
「武装解除して、手錠をつけろ。逆らえばジュン・ヒライアを容赦なく傷つける。人質は傷つけないなどといった甘い常識は我々には通用しない」
 G・ヘルのマシンアイは冷たい色を宿していた。目的の為なら他人などどうなってもよい非情の色。
 シリカとアベルは圧倒的なまでに強引で不利な現実に抗う術を持っていなかった。

「タークス実働部隊隊員、守護者」
「UHO遊撃部隊隊長、アーヴェ・マクロイド」
 状況を見て手を出そうとテクニックの準備をしていたヘイゼルは二人の達人の恐ろしいまでの緊張感を前にして、指一本動けなかった。
 一人は体術の達人にしてタークスの中で類を見ぬ強さを誇る守護者。黒い機体の鳥頭のヒューキャストだ。
 もう一人は槍の形を取ったフォトン兵器であるブリューナクを扱うハニュエール、アーヴェ・マクロイド。実力は未知数、しかし、彼女は音に聞こえる守護者の実力を知って勝負を挑んできた。
 油断はならない。
 赤い服に短く赤い髪に赤い服、この復讐を望む褐色のハニュエールに血のような赤はなんと似合うことであろうか。
 つり目気味の目は憤怒に身を任せて、ただ炎を宿す。
 それに対して守護者は武器を持ってない。そして、両手を一定の間を置いて離し、手の平を互いに向け合う。その両手はアーヴェのブリューナクの構えに応じる形で微妙に角度を変え、ある時は手の平を地面と垂直に、ある時は地面と平行に、それはスナイパーが狙撃を行う為にスコープのクロスラインを標的に当てる作業と酷似していた。
 「無刀取り」
 無手にて相手の繰り出す鋭き刃を受け止め、斬撃を無効化する技。
 ルーンは守護者がその技を使うことを知っていた。
 アーヴェと戦う前に守護者はルーンに言った。「一合を持って勝負を決する」、と。一合にして相手に自分の不利を悟らせるには、相手の獲物を無効化するのが一番、この勝負を長引かせるのは当人達も周りの状況も許さない。

 守護者のその言葉。
 ABS−01αという形式番号。
 アーヴェ・マクロイドという名。
 アーヴェ・マクロイドの憤怒。
 
 ルーンは知っている。これがアーヴェの復讐であることを。
 ルーンは知っている。守護者はそれから逃げない、自分のやり方でケリをつける男だ。
 ルーンは目をそらす事を許されない、彼も守護者とアーヴェの因縁に関与した人間なのだから。
 実質的には少し、しかし、感覚的には長い時間が流れる。
 達人は絶対の自信を持って己の物差しで全てを計り、決して妥協しない。
 アーヴェは守護者の全てを「視る」。
 マシン・アイの動き、脚部関節の静かな動作音、腕部人口筋肉のかすかな緊張、守護者の戦略シークエンスが行き着く最良の攻撃方法の予測。
 守護者はアーヴェの全てを「視る」。
 両目から成される視線の運動、大腿部筋肉のリラックスしたとても遅い微動、アーヴェの乱れること無き呼吸音、アーヴェの思考が行き着く最良の攻撃方法の予測。
 達人は小さな情報から己の勝利を掠め取る。
 状況は互角、二人の技量、体調、周りの環境、全てをもって互角。そのように二人とも結論を出した。
 二人はゆっくりと、なめくじよりもゆっくりと動きながら相手との均衡が崩れる一瞬を生み出そうと努力する。
 しかし、均衡が崩れる一瞬は自分達ではなく、周りによってもたらされた。
「守護者さーん!別働隊が来るっスヨー!」
「守護者殿、助太刀します」
 オロナとJ.Jだ。アーヴェの後ろにJ.J、そして、前方にオロナがいる。
 
 アーヴェは、一つ、息を吸った。それは意を決すると共に行われた。

 そして、恐ろしい程の速さでアーヴェは動いた。
 決意を無にしない為に。

 何よりも速く守護者の体に到達すべく最短距離、直線動作の突きをほとんど無拍子の突きをアーヴェはやってのけた。音が空気を切り裂くよりも、思考が形を作るよりも早く、アーヴェのブリューナクの切っ先が守護者に迫る。
 守護者はハンターの本能で二択の選択をする。
 避けるか?
 受けるか?
 刹那の瞬間で一つに絞る。
 守護者は高速で膝をたたみ、槍先を自分の身体の上にやり過ごすダッキングを行う。受けるにはアーヴェの突きの速さが、守護者の反射能力よりも上回っている。
 アーヴェのブリューナクの切っ先が、守護者の肩を少し掠める。黒い破片が宙に舞い、槍を通して伝わる手応えが致命打に到らなかった事をアーヴェに伝える。
 アーヴェは素早くブリューナクを引き、二撃目を放とうとする。しかし、突如彼女はブリューナクの石突きを床に当て、立てる。そして、立てられたブリューナクより身を低くする。
 その行動は彼女が頭上の稲光に気付いたからだ。
 それはルーンやオロナが放ったものではない。氷系テクニックと炎系テクニックを応用して最初から二人の戦いを見ていたヘイゼルが放ったものだ。
 しかし、それもアーヴェにかわされる。ブリューナクは避雷針の役割を果たし、ヘイゼルのゾンデは床へと流れていく。
 だが、その行動は守護者への隙だ。その隙を守護者は逃さない。
 守護者は右足を前へと出す、床に快音を響かせる大きな踏み込み。
 そこから、守護者は獲物を手放したアーヴェに、容赦なく顎を狙った左のショートアッパーを放つ。鋭くコンパクトな打撃はあまりにも速い。
 アーヴェはその攻撃を知っている。隙を見せた自分に最も効果的で命中率の高い攻撃法だからだ。だから、対処法を知っている。
 アーヴェは一歩守護者に踏み込む。わざと当てに行った右胸に守護者のショートアッパーが突き刺さる。だが、同じように守護者の左肩に、交差法の右の肘鉄が突き刺さっていた。
 両方が衝撃をうけ、弾けるように離れた。
 そこにJ.Jのジャスティスの連射が、アーヴェに届く。数任せで行けば一発は当たる。J.Jはそう読んで射撃を行ったようだ。
 しかし、それは常人に対しての秤だ。
 アーヴェは衝撃と痛みに体を流されながらも、ブリューナクを右手で掴み、背後から襲い掛かってくるフォトン弾を片手だけで風車のようにブリューナクを回して防ぐ。金属とフォトン弾がぶつかり合い、鋭く耳を突く高音の重奏が辺りに響いた。
 さらにオロナがアーヴェに迫ってくる。守護者を飛び越え、天井を蹴り、落下の勢いをそのまま両手で持ったハリセンに宿す。
「オロナ流風のフルコース、烈風・崩!」
 そして、続く、余計な一言。
「風は全てを押し流すんスヨー!」
 その言葉通りの勢いを持って、ハリセンがアーヴェに迫る。
 そのオロナをつまらない物を見たように、ただ一瞥してアーヴェは言った。
「風で揺らぐ決意はいらない」
 右手の回転を止め、左手を添えられたブリューナクは両手の力強さと鋭さを持ってアーヴェの背中を横切り、右から左へとブリューナクをまわす形の石突きをオロナに放った。
 先を取れば間合いの狭いハリセンよりもブリューナクのほうが先に当たる。オロナの体は腹の中心に外力を加えられてさらに空中を舞った。
 アーヴェの狙いは守護者ただ一人!
 邪魔なものは彼女にいらない!
 オロナの石突きへの反動を上手く利用し、アーヴェは左肩から守護者への第二撃を放つ!
 反動で加速された突きには、さらに足の踏み込みと背筋の収縮、腕のさらなる回しによって飛躍的に加速し、残像すら一つにして守護者への殺意の線を結び付ける。
 対する守護者はようやく足元が定まったばかりだ。上体がまだ安定していない形で、アーヴェの一撃を受ける形になる。
 ブリューナクが大きな金属音を空中へと生み出した。
 何かが潰れたと予測させる、破滅的な色の金属音。
「守護者殿ッ!」
 J.Jが反射的に声を上げた。
 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
「私は皆を守る」
 それに応える声があった。
 静かな人口声帯の声だ。
 守護者はアーヴェのブリューナクを右手で受けていた。手の平の人差し指と親指の間に当たる部分で受けていたのだ。ブリューナクの刃はそこを貫通して守護者に迫ろうとしたが、守護者は槍の柄に当たる部分を指でがっしりと掴んでいた。
 無傷で勝てる相手ではない。
 それが守護者の結論だった。
「たとえそれが私の我侭であろうとも」
 守護者は両手でブリューナクの柄を強く掴み、上体を上から下へと振った。両手と上体はまさに一体となり、一つの作業を完璧にこなす。
 一つの金属音が響いた。
「お前に止められるわけにはいかない!」
 ブリューナクの柄がへし折れた音だ。
 守護者の指から、フォトンの刃を失った、槍の柄であったものが落ちていく。
 アーヴェは反射的に飛びのいた。
 しかし、守護者の踏み込みの方が数倍速い!
 震脚という力強い歩法により強く踏まれた床は大きな音をたてる。そして、震脚により力を得た体の勢いは、ただ前に出るためにある。黒き巨体の気迫は猛獣の威嚇よりも強く、巨体の質量は龍よりも激しくアーヴェに猛然と襲いかかった。
 放ったのは、龍の顎にも似た、双掌を前に打ち出す掌底。
 打たれたアーヴェは最初、何をされたか分からなかった。分からないまま体が凄まじい勢いで背後へと引きずられていく。
 気が付いた時には大きな音と共に壁にぶつかっており、意識が刀で切られたかのように、その先から無くなっていた。

 敗者にかける言葉は要らない。
 守護者はアーヴェを目の前にただ悠然と立っていた。


 オロナは別働隊の存在を皆に告げた。
 言われたヘイゼルはすぐに一番使える案を出した。
 機動力の無いヘイゼルとルーンはJ.Jの保護の元、リサとサムスとサラのいるであろう『撤収時の合流点』に行き、撤収の準備をする。
 オロナと守護者は連絡の取れないアベル(シリカ達がいる事をオロナ達は知らない)を回収して『合流点』に急ぐ。
 こうして五人は分かれた。


 この狂想曲の代償を払う時が、ついにやってきた。



 緑の髪に緑のハンタースーツ、軽快という言葉が似合う引き締まった体と愛嬌のある顔立ちの持ち主である、タークス影組のGASはエアダクトを散々迷い、泣きそうになりながらようやく目的地に到達した。
 エアダクトなど通らないで通路を歩いていれば、もっと楽に目的地に到達できそうなものだが忍びであるというGASの自負心がそれをさせなかった。
 GASが整備用の窓から下を覗く、覗く時の顔は何故か普段よりキリッとしていた。
 何故かというと、
「フフフ、忍びはcoolに、coolにでござるよ。フフフ」
 口から不気味な呟きを漏らしてcoolもへったくれもあったものではないが、、とりあえず、彼は今、己の美学に酔っていた。エアダクトで迷った事などもう覚えていない。
 さすがに彼はいつまでも夢を見ているわけにはいかないのでいい加減現実を見ることにした。
「ムムムムムムム!」
 かなり長め紆余曲折を経て、ようやくGASは下で起きていることがただ事ではないと認識した。


 アベル達がG・ヘルとリード・リピドーに 手錠で両手両足拘束されている事を知ったオロナと守護者は一体どのような行動を取ったか?
 迷わず突進していった。
 行動を起こさねば何も起きない。そして、行動を選択している時間が無い事も二人はよく知っていた。
 アベル達まであと10m。
 それに最も早く対応したのはリード・リピドーだ。もっとも、彼女は世界で一番危険な対応法しか知らない。
 両手のブレイパスから一息で六発のフォトン弾が放たれた。
 オロナがそれに風の速さで応戦する。彼はハリセンを持って体を流れる動きで舞わせ、そして、叫んだ。
「オロナ流風のフルコース、竜巻!」
 オロナはハリセンと共に素早く身体をバレーのピルエットの様に回転させ、銃弾の全てをハリセンで弾く。
 勢いそのまま、リードに肉薄し、怪我をしているジュンを強引に攫おうとジュンに接近する。しかし、リードはオロナに向けてジュンを抑えていた右足で蹴りを放つ。
 オロナの二つ名、『疾風の伝令屋』は伊達ではない。オロナは身体を地面に滑らせて足からのスライディングを敢行!頭のすぐ上を蹴りが通りすぎ、オロナはジュンをあっさりと攫った。
 そして、続く余計な一言。
「風は誰にも捉えられないンスよ〜!」 
 オロナがジュンを攫ったタイミングで、守護者は跳躍してリードを飛び越える。
 狙いはG・ヘル!
 守護者は傷を負ったG・ヘルに構うことなく強力な飛び蹴りを実行する。しかし、傷を負っているにもかかわらず、G・ヘルはゲヘナで身じろぎ一つせず受けとめた。
 守護者は反動で3mほど後ろに跳び、着地したところで二人はお互いの隙を探る為に対峙した。
 そして、オロナはスライディングした後、バッタの様に地面から身体を飛び上がらせて立ち、走る。ワンテンポの差で床をリードのフォトン弾が穿つ。
 さらにオロナはどちらかといえばシリカより自分に近い位置にいるアベルを急いで攫おうとするが、アベルの前にいるG・ヘルがオロナの前で睨みを効かせた。近づけば斬ると言わんばかりの迫力が場慣れしたはずのオロナの足をすくませた。

 場が一旦停止する。

 リードの銃口が、冷たい金属の音を響かせてオロナと守護者に一つづつ向けられた。弾丸は二人にとってさほど脅威とはならないが、G・ヘルを前にすれば別だ。下手な行動を取ればG・ヘルのエリュシオン改『ゲヘナ』が二人にキツイペナルティーを与え、続いて与えられるであろうリードのフォトン弾が二人の命を奪う。二人に時間は無い、時間を掛ければ別働隊が来てしまう。リードとG・ヘルはそれが分かっているから二人に一切手を出さない。
 緊張感が場の全員の心臓を撫でる嫌な時間が過ぎた。
 
 場の変化はG・ヘルの背後に音もなく降り立った。
 緑色の髪に緑のハンタースーツ、中肉中背の愛嬌ある目つきの覆面ヒューマーは、普段には見せない真剣な顔つきで、アギトを走ると同時に引き抜き、G・ヘルに向かって疾駆する。
「G・ヘル!」
 リードがG・ヘルに注意を呼びかける。リードの位置からではG・ヘルが邪魔になって射撃できない。だが、G・ヘルから見ればどうとでもなる動きだ、守護者達への牽制のため緑のヒューマーを出来るだけ引きつけ、余裕を持って自分のゲヘナでアギトを受けとめる。金属質のアギトが、火花を上げてゲヘナの前で動きを止める。
 その「火花」こそが緑のヒューマー―――――GASの目的だった。
 GAS口から揮発性の油を吹いた。それは火花で着火され、G・ヘルのセンサーを一瞬麻痺させるのに十分な炎となってG・ヘルの視界を犯す。
「今でござる!」
 GASに言われるまでも無くオロナと守護者は動いていた。オロナはアベルを攫い、守護者がシリカに手を伸ばす。
 だが、
「Don’t move it!!」
 フォトン弾の連射音、守護者の進行方向を先読みし、それ以上前に進めば容赦無く当たっているであろう機会射撃の結末は見事に守護者を足止めさせた。
 射撃手、リード・リピドーは言った。
「もういいわ!」
 イラついた様にリードは続ける、もっとも表情の乏しいアンドロイドのいらつきなど守護者とG・ヘルにしか分からなかったが。
「もういいわ、その二人はあげる。アンタ達は見逃す。これで良いでしょ?一人人身御供にすれば五人が助かる、良い取引じゃない?」
 アベルとオロナは驚いた。
 守護者とG・ヘルとシリカとGASに変化は無い。
 ジュンは怪我でダウンしている。
「これが私達の妥協点、アンタ達はがんばった、アタシ達もがんばった、ココで終わりにしてとっとと撤退しなさい。アタシ達は別にいいのよ、時間さえかければ別働隊が助けに来るから、それまで生き延びれば良い。だから、コレは出血大サービス。それにね、もし……」
 それを契機にリードの視線に氷点下の冷たさが宿った。G・ヘルとは対称的な身を切るように冷たい殺気だ。
「三人目を取り戻すというのなら、アンドロイドのプライドに賭けて渡さない。ベートーヴェンの「悲愴」の様に、重く辛い結果になるわよ」
 間をおいた言葉には重い現実の響きが宿る。
「いかが?」
 シリカが強く言った、悲しいぐらいに強い言葉だった。
「守護者!迷ってんだったら撤退しろ!あたし達の仕事はしんがりなんだ、これはありえる事態なんだよ」
「しかし」
 反対する守護者に、噛みつく様にシリカが言った。
「アタシの顔に泥を塗るつもりかー!守護者のバカ野郎!」
 守護者は何も言えなくなってしまった。
 ――私は迷っているのか?
 まだ行動を起こさない守護者に、シリカは爽やかに笑った。はにかんだその笑みはどこか自然で、綺麗な笑みだった。
「ジュンを……、よろしく頼む」
 その言葉を聞いた守護者はゆっくりと歩き始めた。シリカの笑顔の前に何も言えなかった。
「オロナ、撤退するぞ」
 そう言う守護者をG・ヘルとリード・リピドーは冷ややかに見送った。
 ――私は、迷っているというのか?
 何かを言いたそうなオロナは、その言葉を飲みこみ、ジュンとアベルを脇に抱え直して、合流点に向かって走っていった。GASは守護者が見た時には既に消えていた。
 ――迷っているのならば……。
 守護者は歩く、ゆっくりと、何かを求める求道者の様に。
 ――取るべき道はただ一つ!
 守護者は足の裏を強く床に叩きつけ、体を押し止める。そして、剃刀の様に鋭く振り向いてG・ヘルに言った。
「私から、護る者を奪えると思うなよ」
「守護者さん?!」
「守護者!」
 オロナとシリカの声が重なった。
 守護者はその声に強く答えた。
「オロナ!お前は自分のやるべき事を遵守しろ!私は」
 守護者は自分に言い聞かせる様に、強く強く強く叫んだ!
「私が私である事を遵守するッ!!」
 そして、守護者はシリカを助け出すために走り出す。
 守護者が守護者である為に。
 リード・リピドーは守護者を撃とうとするが、それを「手」が押し止めた。
 血の様に赤い手、G・ヘルの手だ。
 G・ヘルは守護者に向かって走り出す。守護者の行動に応えるために。二人の距離が、あまりにもあっさりと縮まっていく。
 守護者からの伸びのあるアッパー気味の右手の突きが、G・ヘルに向けて放たれる。直線の動きをするストレートに比べて上下の動きをするアッパーは回避が難しい。
 しかし、G・ヘルの「インフィニティタイム」は守護者の突きにすら対応する。

 ――G・ヘル インフィニティタイム起動 攻撃分析
 ―――迎撃可能
 ――――両腕部能力 限定解除
 ―――――敵攻撃無効化 成功
 
 G・ヘルは守護者の突きを袈裟懸けに両手で構えたゲヘナを噛み合わせる。守護者の右手が両者の中間点で火花を立て、あっさりと弾けた。
 だが、守護者は「技」は「インフィニティタイム」の反応とG・ヘルの予測を大きく上回る。
 守護者の左手の突きが、まったく間を置かずに、右手より更に速いスピードを持って、右手とまったく同じ軌道をたどっていく。そのスピードはG・ヘルに反応する余裕さえ与えない。
 G・ヘルの顔面に守護者の突きがヒットする、金属同士の激突の悲鳴が辺りに聞こえる頃には、守護者の体は次の行動に移っていた。
 体を深く沈め、足に力を溜める、そして、次の瞬間には爆発の如き力を足から放出し、体を足と体重移動で前に叩き出す!
 交代する様に右手と左手が入れ替わり、結果として力強き体ごと突進する芸術的な肘撃ちが完成する。その力は滝の様に全てのものを押し流し、守護者も確かな手応えを感じた。G・ヘルは抗う術なく後ろに体ごと飛ばされる。そう、そのはずだった。
 ――インフィニティタイム起動 攻撃分析
 ―――衝撃緩衝 開始
 ――――脚部 胴部 腰部能力 限定解除
 ―――――衝撃緩衝 成功

 G・ヘルは動かない。
 何千年とそこを動かない巌の様にG・ヘルの足は地に付いたまま動かない、金属の軋みを体に宿し、守護者の肘撃ちを真っ向から受け止めている。
 声が聞こえる。
 地獄の底で何千年とたまった怨嗟を吐くような声。
 亡霊の様に低く恨めしげで強い声が、守護者の聴覚素子にゆっくりと入ってきた。
 それが体のダメージで変成したG・ヘルの声だとは守護者にはどうしても信じられなかった。
「地獄の炎は、貴様の信念すら焼き尽くす!!」
 G・ヘルは右手を振るう、ゲヘナと共に動く右手の動きは剣術の動きと言うよりボクシングのフックの様に鋭く、単純で無駄がない。
 守護者の左から来るゲヘナの打撃を、守護者は必死で左手のシールドを打撃と自分の顔面との間に置いてガードする、しかし、
 ――インフィニティタイム起動 目標ターゲッティング
 ―――音速超過打撃 開始
 ――――右腕部 腰部 胴部 足部能力 限定解除
 ―――――音速超過打撃 成功

 水蒸気と耳をつんざく高音を纏った一撃が守護者を襲った。
 
 守護者のガードすらものともせずにG・ヘルの打撃は守護者の左手ごと破壊して顔面に炸裂する。生体部品か金属部品の破壊音なのか判別できない音が響き、守護者の体が空中に浮いて左回りの弧を描く。
「守護者ッ!」
 シリカの声が、悲鳴の様に響く。
 守護者の体が頭から地面に激突し、G・ヘルの足元で悲愴な金属音と共に倒れ伏したのと同時に、G・ヘルの右腕から潤滑液と冷却液が噴水の様に噴出した。
 G・ヘルはその右腕を見て、倒れた守護者に溜息のような声で言った。
「運命の皮肉だな……、時間をかけていれば倒れたのは私かもしれん」
 だが、その声は守護者には届かない。
 彼はもう立ちあがれなかった。
 守護者が生きているのは、守護者が全力で防御を行ったからだ。
 だが、もう立ち上がれない、ダメージが大きすぎる。
 彼の皮膚感覚に大きな振動が伝わった、それは複数の人間の足音だ。遂に別働隊がここに到着したのだ。
 守護者は、もうノイズだらけの視覚素子でシリカを見る。
 守護者の方を向いてシリカが何かを言っている、ただし、それはまるでシリカが遠くにいるかのように不確かなものだった。
 守護者はノロノロと左手を伸ばす、シリカの姿を確かにするように。
 しかし、それはかなわない。
 UHOの別働隊がシリカと守護者を取り押さえた。そして、二人を無駄のない動きで拘束し、五人の見張りと共に二人は連れていかれた。
 G・ヘルとリードはそれを感情の無い目で見ていた。
 それを見送った後、不意にG・ヘルは力強く振り向く、リードもそれに続く。強者に後ろを振り向く事は許されない。二人ともそのまま、まっすぐに歩いていく。後悔も迷いもその歩みにはまったく無い。
 
 これがUHO争乱の初日に起きた出来事だった。

 タークスは守護者とシリカを失い、UHOは最初の一手を大きく打った。
 こうして舞台はラグオルに移る、パイオニア2が到着して二回目となる、人と人との公式な争いの幕開けはこうした始まった。 
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フォトンの騎士 間奏曲「アルフリートの思い」 
アルフリート [Mail]
3/29(Sat) 22:22
 ただいま夢の中にいたラウド・エルネインは激烈に嫌な予感がした。この「嫌な予感」は的中率が恐ろしく高く、ヴィジョンに浮気がバレた、鉄アレイが上から降ってくる、トランスポーターに轢かれかける等の偶然性の高い事故を回避する際に有効に使っている。
 それでも回避できないものは出来ないが…。
 そして、今回、ラウドの「嫌な予感」はこう告げた。
『何でもいいからとにかく頭を引っ込めろ!!』
 予感に従って頭を引っ込める。地震でも起きたような大音量と衝撃がラウドの意識を覚醒させた。起き上がって周りを見てみる、ここは病院だ。白で統一された内装に清潔シーツとベッド。窓にはシティの様子が見てとれる。宇宙の闇夜をバックにしたシティの消えぬ夜景の数々は芸術といってもいい。
 だが、ラウドにとってそんなチンケな風景など比べることすらおこがましい存在が彼の目の前に立っていた。ショートの栗色の髪に黒のレザーの服、そしてそれらの服を纏う持ち主の顔は神が間違えてもラウドは絶対に間違えない、褐色の肌に幼い整った顔立ちの少女。
 彼女こそ、ラウドの婚約者、ハニュエールのヴィジョンだ。
「ヴィジョン〜!!」
 ラウドは光すら無視できる速さでヴィジョンの胸に抱きついて甘えた。胸囲が少し増えていたり、胸が少し堅い気もするが、そんなことは些細な事だ。ヴィジョンがいれば何もかもいいや、そんな思いすら湧いてきた。
 ラウドは少し思った。
 今日の俺はちょっと変だ。やけにハイでなんか死線を乗り越えた後のようだ。
 しかし、そんなラウドのチャチな疑問はヴィジョンが取った次の行動の前に豆腐よりも柔に砕けた。ヴィジョンはラウドの頭を抱くようにして少しずつ自分の顔をラウドの顔へと近づけていく。
 それは唇を合わせようとする目的を持っている動きだ。
「えっ?なっ?ヴィジョン……」
 顔が熱い。
「結婚式までとっとくんじゃあ……なかったのかよ」
 全身から熱が集まったかのように顔が熱い。その熱はラウドの言葉から次第に力を奪っていく。この熱は……。この熱は……。


 この熱は…。
 水蒸気逆巻く熱湯から来るものだった。
「あづぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
 熱湯が流れている洗面台から脱出したラウドはハードロックのギタリストのように激しく頭を振るって踊り狂った後、机を粉砕するような勢いで花瓶に頭から突っ込み、蒸気を噴き出して停止した。
「あれ?ヴィジョンは?」
 あれだけ派手に突っ込んだというのにラウドはまるで意にしなかったように起き上がった。
 そのラウドにゲッソリとした男の声がかけられた。
「人型をしていればヴィジョンだと思うのか?ラウドよ」
「アルフかよ…」
 ラウドの声もゲッソリとしていた。
 ラウドの目の前に立っていたのは金髪に青地に銀のワンポイントのハンタースーツのヒューマン、アルフリートだ。
 詳細はこうである。ラウドを起こす為に整形覚悟の踵落しを敢行したアルフリートだが、見事によけられ、寝ボケたラウドにヴィジョンと勘違いして抱きつかれる。剥がそうにもタークスで有数のパワーを誇るラウドを剥がせず、そのうちキスまで要求してきたラウドを、アルフリートは洗面台に熱湯を溜めてラウドの頭を煮たのだ。
 まあ、そんなことはともかく。
 アルフリートの第一声はこうだ。
「訓練だ、付き合え」
「はっ?」
 ラウドはハニワのように口を開けて固まった。
「ベウトーが出てきていろいろあったよな?」
「色々とあったな」
「これからも色々とあるよな?」
「作戦開始時刻は24時間後だ」
「ぐぅ……Zzzzz」
「寝るなー!!」
 ラウドをガクガクと揺さぶりながら叩きつけるように絶叫!
「とにかく私に付き合え!」

 アルフリートはトレーニングルームの常連である。もっとも彼はいい意味での常連ではない。なにせ彼はトレーニングマシーンをいくつも潰しているからである。どれぐらい破壊したかというと歴代ハンターズのトレーニングマシーン破壊記録第一位に散々と輝いているのだからすごい。
 こんな記録をわざわざ取ったハンターズギルドもなかなかすごいが。
 だが、それはハンターズギルドにとっては迷惑以外の何者でもなく、いまやアルフリートは壊しようのない実戦用シュミレーションしか貸してもらえないという彼にとっては嘆かわしい事になっている。
 そして、アルフリートは実戦用シュミレーションで相手をしてくれる人間が少ない。
 なぜなら、強い、容赦しない、エゲつない、の三点セットをそろえるアルフリートを相手できるのはタークスでも少ないからだ。
 そういうわけでラウドはアルフリートにとって非常に貴重な対戦相手である、その好意に甘えているかどうかは知らないが、アルフリートはラウドに対して一切手を抜かなかった。
 ラウドは黄土色の石で作られた廃墟の戦場を駆け抜けながら、襲い掛かるスライサーの投射刃を自分の背と大して変わらぬフロウウェンの大剣で器用に弾く。ラウドを消耗させる為に休みなく放たれるスライサーの刃は、空中で一定時間飛行をしており、アルフリートの居場所がわれないようにしている為、近接戦闘重視のラウドにはやりにくくて仕方がない。
「やっぱこの戦法かよ、エゲつねーな、相変わらず」
 以前アルフリートから戦術論を手ほどきしてもらったラウドだが、やはりアベルやラウドのような接近戦パワータイプを近距離で相手する真似はしない。こういうことが出来るのはアルフリートが割り切れるハンターズであるからとラウドも思ってたし、冷静に弱点をつけるアルフリートはこの姿勢をこれからも変えないだろうとラウドは思った。
 アルフリートからのアクションは巨大な柱が並ぶ廊下で急激に変わった。
 ラウドの頭上の巨大な柱が不意に爆砕された。破片の一つ一つが一メートル以上の巨大なものであり、それらの影はラウドの体を隠すのに十分な大きさだった。
 ラウドはどちらに動くかを瞬時に決めた。左右でもなく前進後進するでもない、岩に向かって跳躍。岩を蹴飛ばし、再度跳躍。存分に高みに向かおうとしたところで一つの「嫌な予感」がラウドに告げた。
『上だ!!』
 上には仮想の太陽しかない、しかし、それに一つの黒点があった。
 アルフリートだ。
 赤のパルチザンを両手に持ち、自由落下を味方に付けてラウドに襲い掛かる。跳躍中のラウドは回避できない。フロウウェンの大剣で叩きつけるように受けた。
 岩石が乱舞する空中を反動で二人が離れていく。即座に乱舞する岩を足場に、空中で体勢を整えたのはアルフリートだ。この空中の踏ん張りが利かない場所で勝負を決める気だ。
 空中の岩を蹴って急接近、上段から勢いに乗って赤い一撃がラウドを打つ。かろうじてフロウウェンの大剣で防御するも、向かいの柱への激突は避けられない。
 柱に大きな傷跡をつけて止まったラウドは即座に動く、今までいた後をフォトンの弾丸がヴァーチャルの岩盤に穴を開けていく。
 まだ岩石の落下は終わらない、柱の廊下で跳ね回る岩石などまるで気にせずラウドはアルフリートに突進。スピードに乗った一撃はアルフリートに噛み付こうと獰猛に牙をむく。
 アルフリートはそれに付き合う気はないとばかりに後退、左手に構えたレイガンを連射して距離を稼ごうとする。だが、ラウドの突進力はここで止まるような柔な物でもない、肩、腹、足と喰らいつつあるフォトン弾をフロウウェンの大剣を大振りして、防ぎつつ、前進し、その勢いはまるで緩まない。
 二人の間に巨大な岩石が覆いとなった。
 それは物語のターニングポイントだ。
「らしくねえんじゃねえか!アルフ!」
 そう言いながら、ラウドは大剣で岩石を破壊する、岩石の弾丸は向こうのアルフリートに喰い付くはずだ。
 しかし、アルフリートは読んでいる。
 素早く跳躍して、岩石の弾丸を下にかわす。
「俺に接近戦は挑まんといったのは嘘だったのか?!」
 ラウドは冗談のつもりで言った。
「五月蝿い!!」
 帰ってきたのは予想以上にきつい叱責のイメージを纏わせたアルフリートの声だった。
 赤のパルチザンをまた上段に構え、ラウドに放つ、冷静にラウドは防御。防御しながらラウドは言う。
 こいつはいつものアルフじゃない!
「らしくないぞ!アルフリート!!」
「貴様に私が分かってたまるか!!」
 熱くなったアルフリートはブレイドダンスに武器を変更、超接近戦をラウドに挑むべく距離を詰める。
 手数に任せたアルフリートの攻撃をボクサーのように上体を捌き、敏捷性の高い動きに任せて足を動かせば、それは当たらない。
「お前のやるべき事はもっと他の違うことだろう!!」
「我が闘法は万能なり!!」
「それを活かすべき場所で活かさないとはなぁっ!!」
 ラウドが全力の中段の一撃を放つ!
 ラウドの一撃をギリギリで受けたアルフリートは地面を破壊しながら蹴られたサッカーボールのように後退。
「それがクールって奴だろう!!アルフリート!!!」


 アルフリートという人間を語るならば彼のこれまでの人生を振替らねばならない。彼の人格は極めて無駄が無く、機械的な軍人堅気は、話してもまるで他人に無益である自分の過去を、その口から漏らそうとしないからだ。

 アルフリートという人間を最初から語るならば出生は無駄である。
 なにせ本人の物心がついた時にはすでに惑星フォーブの貧民窟に住んでいたからである。
 ただ、その日を生きる為だけに過ごし、ただ、食料を得るためにストリートを徘徊した幼少時代。それは人生と言えるのだろうか?
 彼の人生に初めて別の色が入ったのは、彼が8歳の頃である。
 その色は闘争と飢えの灰色ではなく、太陽の様に暖かい色をしていた。
 
 アルフリートは死にかけていた。もっとも、その時彼には名前は無い。 原因はリンチによる怪我だ。
 そこら辺にあったビール瓶の欠片で腹を刺されたのだ。
 赤い血が彼の力を失せ、打撲傷が体を焼かんとばかりに責め立てる。痛みと命が消えうせる絶望に心を焼かれ、少しでも痛みをなくす為に必死に傷口を押さえる左手も、希望を求めるように空に投げ出される右手も次第に力を失っていった。
 しかし、不意にその右手を掴む手があった。そして、左手を誰かに捕まれた、血が抜けて冷えた体にはその手はとても暖かかった事を今でもアルフリートは覚えている。
 アルフリートは血反吐で詰まった喉で誰何の声を上げる。だが、死にかけの身体にとって、それはただの息の流れる音にしかならなかった。
「大丈夫です、アナタは私が助けます」
 その問いに返答し、右手を優しく握ったのは優しい微笑を浮かべた同じ8歳のヘイゼルだった。
 アルフリートは今までその感情を知らなかった。しかし、鼓動が休まり、体を強張らなくても良いその感情に身を任せるのはとても心地よい気がした。
 アルフリートが気付いた時には体の傷は全て治っていた、今でもアルフリートには何が起きたのかも分からない、しかし、彼は単純に奇跡と片付けてしまっている。
 そう片付けてしまってもまるで支障が無いからだ。
 アルフリートはヘイゼルに礼がしたいと言った。ヘイゼルは快く受けてくれた。
 アルフリートがふだん使っている寝床に案内し、そこで落ちついてから、ヘイゼルにこれからどこに行くのかとアルフリートは聞いた。
「私ここに来た記憶もその前の記憶も無いんです」
 妙に明るい風に彼女はそう言ってくれた。
 ならとばかりに、アルフリートはここで一緒に住まないかと彼女に言った。彼女はこれまた快くOKしてくれた。
 まるでそれが運命であったかのように。

 それから2週間の生活はアルフリートにとって驚きの連続だった。ヘイゼルの「他人を気遣う心」というのは今までのアルフリートの人生には一切無く、そのくすぐったくも心地良い気持ちはアルフリートに何かの変化と使命を与えた。
 そして、二人が出会ってから2週間後。アルフリートの運命を変える事件が起きる。
 ヘイゼルがいきなり病気になったのだ。近くにいる闇医者に見せたのだが治すには巨額の金がかかると言う。
 その言葉を聞いた時からアルフリートは行動に移った。
 貧民窟にいる人間全てを皆殺しにして強盗を働いたのである。それはアルフリートの潜在的な能力の賜物か、殺す事を生業とするものの宿命か。
 すぐにその事は市の行政に伝わり、警察の武装チームが制圧に乗りこんだ。しかし、アルフリートは罠と貧相な武器だけで撃退に成功してしまったのだ。
 その結果を受け、市の行政はアルフリートの対処を高レベルハンターズに依頼する事を決定する。
 使命感という強いモノを手に入れた獣は、もはや超人の一人になりつつあった。

 殺戮が彼の運命の導き手を呼ぶ事になったのは一つの皮肉だろうか?
 あまりにも強すぎるためハンターライセンスレベルにして未知数と言われる伝説のハンターズ。
 「在らず」のナインを。


 「在らず」のナインは黒髪の偉丈夫である。漂泊を望むその気質以外、彼に対してあまり記録は残ってない。ハンターズライセンスレベル未知数の伝説の強者は今現在生死不明である。
 だが、彼がアルフリートの師匠であり、親同然の人間であることはタークスの人間にとってよく知ることであり、ハンターズへの道を開いた人間である事もよく知られている。
 
 ナインは市の行政から依頼を受け、貧民窟へと足を踏み入れた。
 ナインは規則性を持たない雑居ビルの間を歩き、道に溜まったゴミを踏み砕いて前に進む。
 ナインの前に不意に上から何かが落ちてきた。ナインの目はそれを正確に受け止める。見慣れた物体だ。
 男の死体。内蔵が生々しくもはみ出し、首をかき切られている。
 見慣れた物体だ。
 それを蹴飛ばして道を空ける。襲撃はその時起きた。
 ナインの横のビルの一階の窓のガラスが不意に爆発した。ガラスの刃はナインの強固な肌を貫けず、水と同様にただ肌を光で白く彩る。
 次の音は背後からだ、マンホールの蓋を上に跳ね上げて出てきたのは、緑の刃のセイバーを持つ金髪の少年、アルフリートだ。
 罠にかかったナインを今日の獲物と決めたのだ。
 獲物を狩る獣となったアルフリートは両手で構えたセイバーがナインの心臓を狙う。
 しかし、ナインはその襲撃自体を知っているかのようにアルフリートに向き直った。そして、ナインは左手のシールドであっさりアルフリートのセイバーを跳ね飛ばす。
 アルフリートは即座に後ろにとんで逃げようとする、彼には勝てない獲物からは即座に撤退する理性がある。
 だが、ナインのスピードはまだ外の広さを知らないアルフリートの想像よりも速いスピードで即座に間合いを詰め、猛然とその四肢をアルフリートにぶつけていく。右手が唸りを持って自分よりはるかに小さい少年の顔に容赦も無く迫る。
 アルフリートは両手でガード、骨を折られそうな勢いを持つ拳はまともに食らえば意識を根こそぎ持っていける威力がある。
 地面へと更に叩きつけられるアルフリートを持ち上げるようなナインの左手の一撃。ガードなど関係なく、その一撃は文字通りアルフリートは空中に浮いた。
 とどめとばかりに団扇のように巨大な右手が、浮いたアルフリートの首を握り締め、壁に叩きつける。
「悪いな、強い獣よ。コレも仕事だ」
 人間の首などたやすく砕く膂力がアルフリートの首を締め始める。
 アルフリートの脳裏には今までの人生が浮かび始めていた。
 とても短い、たった二週間の人生。でも、暖かかった人生で一番輝いていた時。ヘイゼルの為なら死ねると思える、自分の中で宿り始めた感情は自分の中で驚くほど進化を遂げていた。

 ここで、終わるのか……。
 俺は死ぬのか……。
 ヘイゼルを救う事も出来ず、このまま血の中でただ死ぬのか……利用した死体の同類になるのか…。
 嫌だ!

 アルフリートはナインの右手に噛み付いた。

 生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる生きてやる!

 アルフリートの双眸に火が灯った。
 ナインはそれを見て無表情だ。
「フン、生き延びたか…」
 不意に右手が緩んだ。
 アルフリートの体が地面に落ちる。
 落ちたと同時にアルフリートは逃走を開始した。
「待てよ」
 逃走しようとアルフリートが背を向けた瞬間にナインは容赦なくハンドガンで右足を打ち抜いた。
 悲鳴を上げずにアルフリートは倒れた、コイツからは何とかしても逃げなければならない。手で地面を掻いて、アルフリートはさらに逃走を続ける。
 だが、そんなアルフリートの前に巨大な足が目の前にそびえ立った。
 アルフリートの前に立ったナインの表情は面倒臭そうに、かつ皮肉気に歪められている。
 ナインはその表情を無表情に正し、右足を打ち抜かれた事で地面に転がったアルフリートの目の前に立った。
「俺はおまえに興が湧いた」
「?」
 いきなりのナインの言葉にアルフリートは困惑の表情を浮かべた。
「ひとつ言ってやる、おまえの生死は今俺が握っている。俺の興味を引いたおまえの事をおまえが知る限り全て話せ。もし、つまらんかったらおまえを殺す。面白ければ全ての面でおまえを助けてやる」
「そんなことが…」
 アルフリートの目の前に銃が突きつけられた。
「信用で出来る出来ないじゃねえ、コイツは脅迫だ。何ならこの場で殺そうか?」
 そう言われてはアルフリートには何も言えず、ただ自分の事を話す以外に他に無かった。
 彼はヘイゼルの事を話した、自分の気持ちを話した、生きてきた自分の全てを話した。
 あの短くも暖かい二週間の全てを。
 全てを聞いたナインは言った。
「なるほど、おまえは紛れも無く人間だ」
 アルフリートにはナインが何を言っているのか分からなかった。
 そんなアルフリートに、ナインはシニカルな笑みを浮かべて言った。
「すぐにそいつのところへ連れて行け」

 それから先はアルフリートはよく覚えている、ナインはヘイゼルとアルフリートを行政の目から逃がすために「救助」した後も親のいないアルフリート達の親になってくれた。
 そして、アルフリート達が成人した時にまた放浪の旅へと行ってしまった。
 その時、彼は言った。
「アルフリート、おまえが人として生きる一番大切なものを…見極めろ」

 アルフリートはその時の気持ちを忘れていない。
 ヘイゼルを何にかえても守る。
 それが今の彼の人生の最優先事項。
 たとえ相手が何であろうと、彼は負けるわけには行かなかった。
 そして、ナインに負けてから今まで、全ての敵を打ち倒してきた。
 しかし、ヘイゼルはアルフリートの守り無しで危険な任務に行ってしまった。
 アルフリートは思った。
 もう私は要らないということなのだろうか?
 私が今までやった事は無駄なのか?
 アルフリートの心は揺れていた。



 ラウドのフロウウェンの大剣に殴り飛ばされ、柱に叩き付けられたアルフリートはラウドを睨んで一言。
「貴様に私の全ては分からない!」

 ラウドに柱に叩きつけられた後のアルフリートは、痛みから冷静さを取り戻し、彼独自のクレバーな戦術でラウドを苦しめる。
 アルフリートの戦術とは間合いを支配することにある、ラウドやアベルのような大物を振りまわす近距離戦を得意とする者にはアルフリートはダガーによる接近戦か、ハンドガンによる中距離戦でその者が得意とする間合いで戦わない。遠距離戦を得意とするA.Dなら問答無用で接近し、接近戦を得意とする守護者なら近距離か、中距離で戦う。
 これにラウドは苦戦する。

 ラウドはフロウウェンの大剣を接近するアルフリートに叩きつけるように振り下ろす。
 だが、さらに接近したアルフリートは振り下ろされそうになるフロウウェンの大剣をラウドの右手を狙ってブレイドダンスで切りつける。
 すぐにラウドは攻撃を止めて間一髪でそれをかわす。だが、扱いが難しいフロウウェンの大剣を振りまわすという事はアルフリートに攻撃する時間を与えるということだ。
 先程よりコンパクトかつショートに放たれるブレイドダンスに、ラウドは体を左右に振って回避を試みる。
 顔に一つ、腹に一つ、右肩に一つ、あとは全部かわす、かすり傷で済んだのはラウドの身のこなしが良いからだ。
 ラウドは後ろに飛んで距離を稼ぐ。しかし、合わせた様にアルフリートも後ろに飛んで距離を稼ぐ。そこはフロウウェンの大剣の間合いではなく、ハンドガンの間合いだ。
 アルフリートは赤のハンドガンを片手でシャープシューティング。
「弾丸で俺がやれるかよ!」
 ラウドは即座にフロウウェンの大剣を振るって音を超えるスピードで死を運ばんとする弾丸を切って落とす。弾丸はラウドの身に何も起こさない。
 しかし、ラウドのその行動自体がアルフリートの思うがままだ、弾丸がどうなったかという結果すら見ずにアルフリートは間合いを詰めている。
 さらに続く接近戦、ラウドはどうしても自分の得意の間合いをもらえない。かすり傷とストレスが溜まるだけだ。
 そして、定められたかのようにアルフリートがラウドと距離を取った。
「不思議だな…」
 アルフリートが不意に言った。
「何がだよ……」
 ラウドは切れた息を整える様に、息を吐き出しながら言った。
「お前は私すらも捉えられぬ、これまでの戦いを見れば一目瞭然だ」
「それがどうした、まだまだ俺はやれるぜ」
 アルフリートは怜悧な目でラウドを見る。
「ではどうやってあのジャン・ベウトーのスピードを捉えたというのだ?一度手合わせして分かった。奴がSS級犯罪者でありながら一度たりとも捕まらなかったのはあの驚異的なスピードだ。そう確信した。そして、ラウド・エルネイン。お前は一度手合わせして奴に勝った」
 ラウドがさらに息を強く吐き出して言った。
「それが何だって言うんだよ、言いたい事があるんならはっきり言ってくれ!」
 アルフリートは迷い無く言った。
「お前がその時勝ったのは偶然ではないかという事だ」
「ふざけんなよ、アルフ!お前もあの時見ただろう!」
「ああ、見たとも。だが、現に今、私ですらお前は捉え切れないでいる。そんな奴がベウトーに勝利しているとは到底信じられないのだ。分かるだろう?お前は今私に試されている。お前は私にらしくないと言った。ならお前らしさを私に見せてみろ、護る為に強くなったお前か?」
 冷酷なまでに冷たい言葉を、アルフリートは友に吐いた。
「それとも偶然で作られた偽者か?」
 ラウドの顔が赤く染まる。
 アルフリートの理を砕くには、ラウド自分の理と行動で証明してみなければならない。
 だが、それは一朝一夕出来る事ではない。
 アルフリートは強いのだ。
 出来るかどうかは分からない、だから、ラウドは大剣の柄を握りしめる事が出来ない。
 アルフリートは右足を踏み出しながら言う。
「お前の言葉を私に納得させるために証明して見せろ!」
「見せてやるともさ!」
 だが、「不可能への可能性」でラウドの闘志は萎えない。
 ラウドも応える様に踏み出す。
「だが、吹っ飛ぶ事は覚悟しろ!」
 自分を鼓舞するために、叫ぶ!



 アルフリートは相変わらず冷静だった。
 前に踏み出した足はフェイント。即座に射撃をする為に後ろに跳んだのだ。距離を詰めてくる形かと思い、迎え撃とうと全速で前に走り出したラウドは、アルフリートのそのフェイントにもまったく構いやしない。
 全て吹っ飛ばす!
 ラウドが猛然と距離を詰めてくる。突進力の塊となったラウドは風すら後ろにおいてアルフリートへと接近する。
 アルフリートもラウドの接近を容易に許さない。すぐに赤のハンドガンで急所狙いの射撃が飛ぶ。
「甘い甘い!」
 フォトンのはじける音が連続で仮想の古代神殿に木霊し、銃弾の威力すらラウドを押し止める事は出来ない。
 アルフリートはさらに近づいてくるラウドに焦らずに対処する。
 魔法のように赤のハンドガンからジャスティスへと武器が変わり、ジャスティスがその連発力を持ってラウドを襲う。
「弾数増やしたって無駄だ、弾丸は素直すぎるぜ!」
 フロウウェンの大剣が振るごとに楽器を鳴らすが如く弾丸をはじく音がする。ラウドの言葉どおり銃弾はラウドを傷つけない。
「ああああああああああああああああああ!」
 その言葉に応えるように、ブレイドダンスを取り出したアルフリートが前に出る。しかし、これですらアルフリートの計画の内だ。
 ラウドもそれに応えてさらに速力を増す、もはや弾丸のようにぶつかりあおうとする中。
 踏み出されようとするラウドのフロウウェンの大剣を見たアルフリートは・・・・・・、
 さらに容赦無用のフェイントを加える!
 
 ラウドの獲物の射程距離ぎりぎりのところで再度バックステップをする。そうする事によってラウドのフロウウェンの大剣を空振りさせる。
 この高速の戦いでは一度振り出された大剣は命取りとなる。振り戻すまでに時間が掛かり、その間に打ち出されたジャスティスのフォトンの弾丸がラウドを仕留める。
この思考さえ許さぬ高速環境下ではアルフリートの創造性はラウドにとって致命的なものになる………、
 はずだった。

 ラウドは接近するアルフリートに向けて全神経を集中する。
 たとえアルフリートが何をしようともこのフロウウェンの大剣を全力で振り下ろす。それは極限まで高ぶった闘争本能の賜物なのかもしれない。
 もしくは、それを再現しようとする事こそが達人の為す技の領域なのだろう。
 彼は名ある剣豪のみが辿り着く、絶対の領域へとたどり着いた。

 不意にラウドの周りの現象が全て遅くなったのだ。
 二人の足に蹴飛ばされた石も、蹴立ててしまった埃の一つ一つも、自分の鼓動のスピードも、そして、もちろんアルフリートの動きも。
 アルフリートが後ろにバックステップで跳ぼうとしているのすら分かった。
 彼の周りの現象は、彼の感覚の支配下にあった。
 それは知覚と予測の集大成であった。

 奇妙な現象は一瞬で終わった。ラウドはその現象を認識する暇があっただろうか?
 ラウドは斬撃を止めて跳ぼうとするアルフリートを追いかける。その速さはアルフリートの跳躍と比べてもまったく遜色は無い!
「なにぃ!?」
 必殺と思われたフェイントがラウドの接近で敗れたことを知ったアルフリートはそう叫ぶしかなかった。
 肩で風を切り裂きラウドが迫る。跳躍を終えたアルフリートは着地の瞬間が無防備になる。
 ミスをしたのはアルフリートだ。
 ラウドが衝撃すら与えん勢いで言葉を放つ!
「星の果てまで吹っ飛ばす!!!」
 ラウドの剣が唸りを上げて、切り上げられた。

 勝負は決まったのだ。
レスをつける



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