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アルシャード小説「力の違い」 第十一話 「特攻前夜」
アルフリート [Mail]
6/3(Sun) 8:45
 基地は天然の要塞にして、それらに人の手を十分に加えたものだ。

 まず、ウィンカスターから東方へ80Kmの距離。
 ウィンカスター空軍の支援が得られやすく、彼らも最大限の注意を払っているため、敵に制空権を把握され辛い。
 さらに陸の要衝として基地の周りには山脈が連なり、一つしかない道に二つの検問が待ち受ける。

 つまり、攻めたら最後、脱出はとても難しい地形なのだ。

 アルフリート、ラウド、バーツの三人はそのような基地に潜入しなければならなくなった。

 ここは基地から20Km離れた森。
 焚き火を使い、ラウドが携帯食に自分の畑で採れた野菜と一緒に調理していた。
 そんな一時の休みに、アルフリートは事の発端を話した。
「初めはウィンカスターフォーチュンサービスで託宣された予言だった。時が近づくとともに内容が具体的になってな。預言者のエリシアが完璧な時間と場所を指定した」
「それが明日の正午?」
 バーツが調理に集中しているラウドを尻目に聞いた。
「ああ」
 アルフリートは忌々しく、その事実を強調する口調で喋った。




「明日の正午にウィンカスターは召喚された邪神によって完全に滅亡する」
「邪神召喚!?」
「具体的な方法は分からないが条件は整いつつある、星霜の位置、召喚に必要とされるエネルギー、そして、地の利」
「な、何かあるのか、あそこには?」
 アルフリートは覚えの悪い生徒を見る教師の目をした。
「……仕方ないか。貴様は衛星を所持していないしな」
「衛星で何が見えたんだよ?」
 アルフリートはこれまた忌々しいものを言う表情で言った。
「アースメギン河の流れを変えた奈落の末枝がここに来ている。相応しき贄を捧げ、異界の門さえ開いてしまえば奈落の汚濁の障気を纏って召喚は可能だ」
 アルフリートの苦渋満ちた顔の意味はバーツには痛いほど分かる。
 現在、ミッドガルドは大地を直接奈落で蝕まれ、昏い不毛の異境にされた土地がある。
 それは何十年も、いや、何百年以上も前からあることだ。
 しかし、未だにそれらを浄化する策は無い。
 大地を蝕む奈落とは、古代人アルフの叡知を持ってしても奈落に敗北し続けた証でもある。
 忌々しいのも当然だ。

 それらの事実を知った上でバーツは呟いた。
「……勝算はあるのか、アルフリート?」

「それは聞いちゃだめだ、バーツ。どうせ、この無茶苦茶な若じいちゃんには勝算なんて御立派なもんいつだってねえだろ?」
 調理を終えたラウドが何かを悟った顔で告げた。取り出した器に大量の野菜炒めを乗せる。
「やってみないと分からない。戦いなんてやらないのが一番なんだが、このじいちゃんの戦いはやらなきゃいけない戦いばかりだ。そういう戦いの前はな」
 大量に炒められた野菜炒めが器の上で食欲をそそる光沢を放っていた。
「食うに限る。うちの畑で取れた野菜だ。ウマいぞ」
 試しに箸をつけてみたバーツは歴戦の戦士の意外な才能に驚いた。
「お、コレ美味いな」
「食え食え。山ほど持ってきたからな」
「トマトを切って炒めるという発想が真帝国にはねえからなあ。ケチャップならあるんだが」
「火を通すと悪くねえだろ?コイツは隣ん家のばあちゃんから習ったんだ」
「今度雪豹隊にも料理してきてくれ。辺境仕事が多くでまともな野菜が食えねえ」
「おお、任せとけ」

 などと話しているとだ。ラウドはアルフリートがまるで箸を動かしていないことに気がついた。
「どうしたアルフ。ウチの野菜は美味いぞ?」
 アルフリートはラウドの言葉に寂しげな笑みを浮かべて答えた。
「フ、この身を戦闘用にシフトする際に消火器系のほとんどは切除されてな。完全栄養食か、エネルギー供給でしか栄養は摂取できん。私は気にせず食べてくれ」
「何だ? 食わず嫌いはいけないぞ。食って力を付けろ、アルフ」
 グイッと突き出される食器。
 どうやら話が難しくて理解出来なかったらしい。
「いや……だから、食わず嫌いでも何でもなくて……」
 ググイッと突き出される食器。
「最初はみんなそう言うな。安心しろ、うちの人参は甘いぞ」
「……いや、だから……」
「あんまり、グダグダ言ってると無理矢理食わすぜ?」
 グググイッと突き出される食器。もはやアルフリートの顔に食器が突きつけられている。
「ふ……」
「ふ?」



「フライシュッへ――――!」

 古代人アルフの所有する攻撃衛星のレリクスによる誤差一ミリと生じないピンポイントレーザー射撃が食器を野菜炒めごと完全消滅させた。

 いきなり取っ組み合いのケンカを始める二人。ラウドの放つ拳のスピードはなんら手加減の様子もなく、アルフリートは容赦なく急所を狙っている。

「ああ、ウチの野菜が――! てめえ、食べ物は粗末にしちゃいけませんってお父さんに習わなかったか――!」
「そんなもんアルフは習わんわ――!上等だ、進化を止めてアウストラロピテクスと同等とも言われる貴様の脳みそに似つかわしいように、その顔面も整形してくれる!」

 いつものケンカを始めた二人を肴に食後の水を楽しんでいたバーツはしみじみとこう思った。

『……この二人。本当に変わらんなあ』

 ちなみに結果がダブルKOとなった時点でバーツはパンツァーから救急箱を取り出した。慣れたものである。



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