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- 暴発天使ソウルブレイカーズGC - シリカ [11/22(Mon) 22:30]
暴発天使ソウルブレイカーズGC 第1話 - シリカ [11/22(Mon) 22:34]
暴発天使ソウルブレイカーズGC 第2話 - シリカ [11/26(Fri) 21:55]
あとがき - シリカ [11/26(Fri) 21:45]
ソウルブレイカーズ プロトタイプ - シリカ [12/13(Mon) 21:49]
ソウル・ブレイカーズ 第1024話「灼熱のファイヤーダンス」 - シリカ [12/13(Mon) 21:50]
ソウル・ブレイカーズ 第1025話「せめて人間らしく」 - シリカ [12/13(Mon) 21:50]
ソウル・ブレイカーズ 第1026話「最強の男」 - シリカ [12/13(Mon) 21:51]
ソウル・ブレイカーズ 第1027話「総督、大地に立つ」 - シリカ [12/13(Mon) 21:52]
ソウル・ブレイカーズ 第1028話「総督ファイト レディーゴー」 - シリカ [12/13(Mon) 21:53]
ソウル・ブレイカーズ 第1029話「世界の中心でアイを叫んだかもしれないケモノ」 - シリカ [12/13(Mon) 21:55]



暴発天使ソウルブレイカーズGC 第2話
シリカ [Mail]
11/26(Fri) 21:55
第2話「紅を超える紫」

「けっこー空いてるんだねぇ」
 シリカは電車の長いすに座りながら、先ほど購入した、てりたまバーガーをパク付いている、大き目の紙袋のなかには、あと14個分のてりたまバーガーが入っている。
「トランスポーターがまだ不完全だった頃は、エレカや電車などの移動手段は欠かせないものになっていたが、今では各所にトランスポーターが設置されているからな、電車の利用者は少なくなっているのだろう」
 隣に座るカズサも、先ほど購入した、モノメイトをパク付いている、大き目の紙袋のなかには、あと16個分のモノメイトが入っている。
 車内には、2人の他に、家族連れ、会社帰りのサラリーマン、学校帰りの女子高生、ヘッドフォンで音楽を聞いている若者、携帯ゲームに夢中になっている子供などもいる。
「なるほどねぇ、そんな時代遅れの交通手段に乗って移動している、あたしたちは時の旅人ってところかな」
「時の旅人はともかく、ぶらり途中下車をしたいわけではなかろう?ツキヂ市場なら、アキハバラ経由のトランスポーターで行くことが出来たはずだが、俺たちは何故に電車で移動しているんだ?」
 2人が電車に乗ってかなりの時間がたったはずなのだが、カズサは、今まで突っ込まなかった質問を、5個目のモノメイトを飲み込んだあと口にする。
「トランスポーターを利用するのってさ、一般人なら市民ID、ハンターならハンターライセンス、軍人や政府関係なら証明書などが必要じゃない」
「ああ、密航者とかモグリの業者に悪用されない手段だな、それと、電車での移動に何か関係あるのか?」
「ハンターズのハンターライセンスって…なーんだ?」
 問われたカズサの方は、6個目のモノメイトを取り出し、一口で平らげて一息ついた後で答える。
「マグだろう?」
「そう、マグは、ハンターズに所属しているものなら誰でも持っている…と言うか、所持を義務付けられるもので、単にサポートメカの存在ではなく、いろいろな機能を内蔵してあるのよねぇ」
「何が言いたいんだ?」
「さて問題です、これはなーんだ」
 と、シリカは自分の肩に置いてある、赤く猫の形をしたオブジェを見せる、これは別にネコ型の玩具でもファッションではなく、マグの最終進化形態の『シャト』である。
 マグは通常、重力など無視して、主人のそばをぷかぷか浮いているものなのだが、このマグはシリカの肩の上に置いてあるだけである、ちなみに、可動状態なら目にあたるセンサーは通常は光を放っているはずなのだが、このマグのセンサーには光がない。
「マグだろう?」
 カズサは先ほどと同じ言葉を言う、多少ニュアンスは違うが。
「この子は、現在稼動していません、さて、何故でしょう?」
 更に、問われたカズサは、7個目のモノメイトを取り出し、袋から出したが食べずに、ため息をする仕草をしてから、答える。
「それは、お前が俺の顔に叩きつけた後、蹴りを食らわせて、更に俺の顔面に叩きつけてトドメをさしたからだろう」
「ピンポンピンポン、大当たりです、賞品は、このてりたまバーガー…の包み紙です」
 そう言って、シリカは手にもっていた、てりたまバーガーの包装紙を、カズサのモノメイトの入っている紙袋の中に押し込む。
「こら、ゴミをいれるな!入れるならこっちにしろ」
 カズサは押し込まれたゴミを取り出して、持参している「マイゴミ袋」に放り込む。
「つまり、マグが壊れていいて、ハンターズとして承認されないから、トランスポーターを使用できず、こうやってのどかに電車の旅をしていると、いいたいわけか?」
「はい、よく出来ました、ぴったり賞のあなたには、このマグを修理する権利が与えられます」
 そう言いながらシリカは、シャトの尻尾に似せてあるパーツを摘んでカズサに渡す。
「いらん、そんな権利」
「いいですかぁ、マグにも感情はあるんですぅ、マグを大切にしないとダメですよぉ」
 シリカは、右手の人差し指だけ立てて、チッチッと左右に降り、両目を閉じて少し顎を引いた状態で、普段の口調と違う、妙に間延びした口調で言う。
「それは、誰のモノマネだ!と言うか大切にしてないのは、お前だろう!」
「だってぇ、音声機能をつける前は、素直で可愛かったのに、あんたが改造してからと言うもの、口調は無茶苦茶になったし、エロイし…そうそう、聞いてよ、この前インターネットに頻繁にアクセスしてるから何事かと思ってアクセス履歴調べたら、アダルトサイト覗いてるのよ、しかもしっかりSpybot(コンピューターウィルスの一種)を貰ってきちゃって駆除が大変だったんだから…ファイヤーウォールぐらい設置しておけっつーの…あとね、お気に入りのフォルダを見てみたらエッチな画像ばかり集めてあったり、その中には、あたしの盗撮画像まであったのよ、もう信じられない!」
 普段の口調に戻ったシリカは一気に喋ながら、手に持っている赤い物体を、ゴンゴンと小突く。
「ふむ、その盗撮画像はちょっと欲しいな、お前の胸なんか興味は無いが、今後の恐喝ネタになりそうなので、ダウンロードするからちょっとそれを貸してみろ」
「死んでしまえ!残念だけど、そんなもの、もうとっくにデリートしたわよ!」
「それは残念だな、いろんな意味で」
 カズサは、ため息をつく仕草をする、本来アンドロイドは感情の表現はしないのだが、カズサはヒューキャストでありながら、わざと人間くさい表情をしたりする少し変わったアンドロイドなのである。
「まったく、普通に音声機能をつけるだけでいいのに、何でこんな余計なことばかりするのよ」
 シリカは、ふてくされながら、8個目のてりたまバーガーを取り出して、パク付くが、次に発せられたカズサの言葉で、食べていたバーガーの手が止まる。
「いいですかぁ、マグにも感情はあるんですぅ」
「…あんたが言うと気持ち悪いわよ…」
「ほっとけ、まあ、とにかく、マグと言うのは、登録前の状態では感情と言うか性格はどれも同じなんだ」
 カズサは、8個目のモノメイトを取り出し、一口で平らげてる。シリカのほうは黙って、モクモクとてりやきバーガーを食べている。
「はじめてマグを装備することで、装備した者を主人と認めて、主人の好みの色…この場合はマグを装備した時点の主人の服装の色と同じになる」
 カズサは、9個目のモノメイトを取り出し、一口で平らげてる。
「だから、あたしのマグも、あんたのマグも赤いわけね」
「うむ、だが、この時点でも、あらかじめプログラムされている基本の性格のままだ、マグは餌を与えることで成長していき、その成長過程で見てきたものを学習して、自分の性格を確立して行くのだ」
 そう言ってカズサは、10個目と11個目のモノメイトを取り出し、2個いっぺんに一口で平らげてる。反対に、シリカのほうのバーガーを食べる手は止まっている。
「…それって、つまり」
「そう、音声機能をつけていないマグは、俺たちでは言葉がわからない、つまり、性格とかの判断は通常は分からないと言うことだ、だから、そいつ性格は、音声機能をつける前から育てた主人…つまりお前の性格そのものだったかも知れないと言うことだ」
「え〜!あたしこいつみたい、インターネットでエッチな画像を集めたりしないし、変な口調じゃないわよぅ」
「多分その部分は、改造する時にしばらく俺の家に置いて置いてあったせいだろう、そのときTVから流れていた漫才とか、インターネットでエロ画像を集めた俺の行動パターンを学習したのだろうな」
「なるほど…ってやっぱりあんたのせいなんじゃない!!もうやだ、マグを買いかえるぅ!」
 シリカは半べそを書きながら、手に持っていた物を、力いっぱいカズサの顔面に叩き付けた。ちなみに、叩き付けた物は食べかけのバーガーと赤くて猫の形をした物体なのは言うまでもない。
 過去にシリカを慕っていたピンクのボディのレイキャシールが、今のこの赤い物体を見たら、「Nug2000バズーガー」を乱射してくるかも知れないほど、無残にボロボロになっていた。
「分かった分かった、直してやるから、後で俺の家にもってこい」
 顔面に、てりやきばーがのソースやマヨネーズを滴らせながらも、カズサは11個目のモノメイトの袋を開けて食べる。このモノメイトはてりやき味にブレンドされているが、アンドロイドには味までは識別できないので問題は無い…と思う。
「その時は、バージョンアップとして、マグの強度を、あんたの頭と同じくらいにして、それから、この変なの性格を普通にしてよね」
「強度は上げることは可能だが、性格の改ざんは、俺では無理だ、マグを開発した研究機関にでも持っていけ」
「やっぱり買いかえるぅ…と言うか、あんたを訴える!そして勝つわよ」
 ちなみに、昔はマグの売却や買い替えも可能だったが、現在は禁止とされている。理由は一度固定してしまった性格を変えるのは、そのマグのメモリを初期化する=殺すと言うことになるので、マグ保護団体から苦情が来たからだとか。

「それにしても、空いてるわねぇ」
「そうだな、こんな状態だと、この電車も近いうちに廃線になるだろうな」
 いつの間にか車内は、シリカとカズサだけになっていた。トランスポーターの普及により電車の利用客は確かに減ったが、トランスポーターの設置されていない地区に行くときは電車やエレカを利用する機会は多い。さらに今の時刻なら帰宅時間も重なって、混む時間帯である。現に、シリカ達の乗っている車両以外の車両はかなり混雑している。
 要するに、シリカ達の居る車両だけだけが人気(ひとけ)がないのだ、理由は、床に散乱したてりやきバーガーと赤いネコの形をしたオブジェが落ちていて、更に大量の食料の入った紙袋を抱えたニューマンと頭に猫耳っぽい突起物をつけたヒューキャストの2人が、大声をあげながら喧嘩していれば、誰だって近寄りたくはないものである。
「次は、ツキジ〜ツキヂ〜」
 2人以外誰も居なくなった空間に、車掌の鼻にかかったアナウンスが響き渡る。

 2人が下車した場所は、パイオニア2第3階層の商業区にあるツキヂ駅である。ツキヂ駅のターミナルからツキヂ卸売市場が見える。
 市場は定休日以外はつねに人で賑わっており、商人たちの元気な掛け声が飛び交っている…はずなのだが、建物から聞こえる音は、普段と明らかに違いを感じる、違和感の元は、流れてくる音が人々や商人たちの喧騒…ではなく、断続的に響く爆発音だからである。
「カズサ先生、あたしのマグは、故障中なので、ちょっと詳しいデータを入手できないんですけど、あたしたちは卸売市場ではなく、花火工場に来てしまったのでしょうか?」
「ふむ、では、わたくしのマグ”インテグラ”に聞いてみるでゴワス」
 2人の口調がおかしいのは、別に、脳がおかしくなったわけでも、電子頭脳にバグが発生したわけでもなく、とある存在の行動を認めたくなく、現実逃避をしたいが出来ないでいる状態で居るために、まともな思考が出来ないためである…要するに混乱していると言うこと。ちなみに、インテグラと言うのは、カズサのマグ『ヴァラーハ』につけた愛称である。
『お答えしますマスター、残念ながら、現在、小爆発が起きている建物は、正真正銘”ツキヂ卸売市場”です、爆発の原因はフォニュエールによる…』
「ストーップ、99%分かってたことだけど、認めたくなかっただけよ」
 シリカは、インテグラの解析結果報告を遮る。
「…って、なんで、あたしのマグは、あんたに似ているのに、あんたのマグはあんたに似てないのよ」
「フフン、似ていないのではなく、こいつは俺の性格を忠実にトレースして学習をしているから礼儀正しいのだ」
 カズサが、腰に両手を添えて胸を張って自慢していると、インテグラが言葉を発した。
『違います、マグには感情があるのはご存知ですね、しかし、全てのマグが主人の性格をそのままトレースするわけでもなく、マグの中には主人を反面教師として、性格を形成したりもするのもあるのです』
「つまり、インテグラは、主人であるカズサの性格”だけ”にはなりたくないから、カズサと逆の事をしていると?」
 シリカが疑問を投げつけると、インテグラはしばらくの沈黙の後、ボソッとつぶやく。
『そう言うことになしますかね…』
「インテグラ…あんたナイス判断!」
 シリカは、大笑いしながら、インテグラに向かって親指を突き出す。いっぽうカズサのほうはと言うと、先ほどのポーズのまま動かない。アンドロイドの顔には表情をあらわす機能が無いので分かりにくいが、全身が小刻みに震えているところを見ると、インテグラの言葉にかなりショックを受けたらしい。
『それよりも、私の計算では、このまま爆発が続いた場合、3分後には建物が全壊して取り返しがつかなくなると出ましたが…』
「うわっと、こんなところで現実逃避している場合ではないわ、行くわよ、スケベ大魔王」
 そう言って、シリカはツキヂ卸売市場に向かって走り出した。ちなみに、カズサはいまだにショックから立ち直っていなかった。

「まてまてーーーーだよん…っても待たないか…ゾンデ!」

バシュバシュヅドォォォォォン!

 少女は、目の前の走っている男に向かってテクニックを放つが、発生した落雷は見当違いの方向にある山積みになっているコンテナを吹き飛ばした。その爆風は背中まで伸ばした少女の紫色の髪をはためかせる。
 ここは、ツキジ卸売市場の内部。卸売市場とは、野菜や魚など生鮮食料品を集め、市街区の小売店やスーパーなどに卸売りする場所で、卸売市場はその所在地や施設の規模などによりいくつか区分されている。また、一般の人でも利用できるようにしてあるため。今の時間帯は、夕食の食材を購入する客で賑わっている…はずなのだが、人ごみの中を駆け抜ける男とそれを追いかけるニューマンの少女のせいで、爆音と悲鳴で賑わう阿鼻叫喚の世界へと変貌している。
 追われているのは、黒いスーツで身を固めサングラスをしている、いわゆる怪しい人、もしくはどこかの組織の下っ端と言う感じである、その男を威嚇しているのか、ただ単に破壊活動をしているだけなのか不明だが、追っているのは、年の頃は14歳位にしか見えない少女である。紫色の髪でロングヘア、大きなポンポンを2つ付けた、フォニュエールの間で流行り帽子をかぶっている。ちなみに、この少女もハンターギルドのA級ハンターだと言うことは、初めてみた人には信じられないであろう。
「クッ、しつこいガキだ…これでも喰らえ!」
 逃げる男は、その場に積み上げてあったミカンの入ったダンボール箱を倒す。豪快にぶちまけられるミカンが少女を襲う。
「あまいよん!」
 少女はひるむ様子も無くミカンの散弾を避ける。その際にミカンを2個ほど失敬する。背後では、青果部の親父が何か叫んでいるがストーリーに関係ないので先に進もう。
 男は、逃げる先々で詰んであるコンテナを片っ端からなぎ倒し、追撃者の手から逃れようとするが、少女の行く手を遮ることは出来ない。ただ無意味に少女のアイテムボックスに食料が増えていくだけであった。
「うにゅう…これならどうだぁ!」
 もう何発撃ったかわからない大量破壊テクニックをやめて、腰についている金色に輝くマシンガンを抜き引き金を引く…が、弾は発射されない。
 パイオニア2内では、フォトンを使用した兵器はセーフティがかけられてあり、いっさい使用できないようになっている、艦内で街中での武器等の使用が認められているのは軍と警察だけであり、いくら、武器の携帯が許されているハンターズでも街中での使用は許されないのである。もっともニューマンは手先があまり器用ではないので射撃は苦手な部類とされており、この少女も例外ではなくお世辞にも射撃は上手いとはいえない。なので、この少女のマシンガンの使い方はいつも0距離射撃なのである。
 逃亡者は、銃を向けられたときは少し顔が青ざめていたが、市場の出口を見つけ表情に余裕の笑みが浮かぶ。街中に紛れてしまえば逃げ切れると思っているのだ。だが、次の瞬間その考えは甘かったと認識する。出口付近には、赤い服を着た赤い髪のニューマンの少女と、同じく赤い色のボディをしたヒューキャストが立っていた。
「くそ、どけ!バカガキ!」
 逃走者は、ヒューキャストに喧嘩を売るよりかは、ニューマンの少女の方がマシと判断したのか、シリカに殴るかかる。
「どやかましい!これ以上騒ぎを広めるな、ボケ!」
 シリカは、殴りかかってきた男の拳をさらっと回避して、男の顔面にクロスカウンターを見舞う。吹き飛んだ男をカズサが羽交い絞めにして受け取る。
「ほら、捕まえたよ、ジュン」
 シリカは、男のあとを追ってきた少女に呼びかける…が、ジュンと呼ばれたフォニュエールはテクニックを使うために意識を集中している。シリカは相棒が放とうとしているテクニックを瞬時に悟る。
「…って、そのテクニック!!ちょっ待てぇぇぇぇぇ…」
「ラフォイエ!」

ピカ…チュドォォォォォォォン!!

 少女の絶叫も空しく、卸売市場の一角が爆音と炎に包まれる。
 ジュンの放った問答無用の大量殺傷テクニックは、シリカと逃亡者を確保していたカズサはもちろんの事、その場に居合わせた数人の一般人をも巻き込んだ。その身長に見合った体重しかない軽量の少女は5メートルほど上空に吹き飛ばされつつも、あの娘には一般常識と人権問題を再教育しないとダメだわ…と思いながら、つかの間のスカイダイビングを満喫していた。

「見事に、空襲を受けた後の焼け野原みたいだな、こんなのは、昔に本星で起きた世界大戦時の映像資料でしか見たことが無いぞ」
 カズサはあたりを見回しながらつぶやく。
「あたしは、毎度毎度似たような光景を見ているんですけど、何か?」
 シリカはもう顔を上げる気力もないようにうなだれている。
「ぶいぶーい!」
 そんな2人を尻目に、この焼け野原を作った張本人であるフォニュエールは、黒焦げになった元逃亡者の上に乗り、手にVサインを作りながら無邪気に飛び跳ねている。
「いや…ぶいぶーい、じゃなく、あたし毎回毎回言ってるよね、犯罪者を捕まえるために、街中でテクニック使うなと」
「にゃう〜…だってぇ、ちょこまか逃げるんだもん…」
「そういう場合は、ラフォイエやラゾンデは周囲の被害の方が大きいから、ラグラブトで重力を発生させて押し潰して足止めするとか、ラザンあたりで足を切り刻むとか、いっそうの事、サボルトあたりで神経組織を破壊して死んだら捕まえて拘束した後、リバーサで生き返らすとかしなさいと言ってるでしょ」
「…足止めごときで殺すなよ…と言うか、そんな大戦時に開発された殺傷力の高い物騒なテクニック使うより、ドランクあたりで神経の反応速度を減衰させ、敵の素早さを下げるとかで十分ではないか?」
 そう言った後、カズサはあたりの惨状を見て、肩を落としながらつぶやく。
「…その前にホーミング機能が付いているゾンデすら外す、そのノーコンを直すのが先か…」
 通常攻撃テクニックにはオートロックオン(自動照準機能)が備わっているのだが、ジュンの放つテクニックには、他のフォースに比べると、どれも強力なのだが、オートロックオン機能が壊れているのではないかと言うほど命中率が悪い。
「ちょこまか逃げる、コレが悪いよん」
 ジュンは、そう言いながら、黒焦げになった元逃亡者を「ブレイブハンマー」でポクポクと叩いている。
「…コレとか言うな…なあ、ジュン、人権と言う言葉知ってるか?」
 無駄だと思いながらもカズサはジュンに聞いてみる。
「悪人には人権は無い!…と、シリカが、いつも言ってるよん」
 予想通りの返答を聞いたカズサは、「はうっ」と、ため息をつく仕草をする。
「確かに、悪人には人権は無いと言ってるけど、広範囲テクニックに頼るのはやめなさい、破壊したものとかの責任を、容疑者に押し付けるための調書を書くのも大変なんだから…」
「…いつもそんな事してるのかお前らは…」
 カズサは、手を付帯に添えて、頭痛をしているような仕草をしながら頭を左右に振る。実際、アンドロイドは頭痛などはしないのだが、こんな奴らを相手にしていれば、電子頭脳が熱暴走を起こしても不思議ではない。
「さて、全責任は、この黒焦げに押し付けるとして…怪我人の治療と壊したものは直しておかないとね…じゃ、ジュン、いつものお願い」
「ウイウイサー!」
 シリカに言われたジュンは、敬礼の真似事をした後、ツキヂ卸売市場の中央の位置に歩いて行く。
「直すって…怪我人は分かるとして、この焼け野原をどうやって…」
 カズサと周囲の人が疑問に思っている間に、ジュンがテクニックの詠唱を開始する。
「我癒す、斜陽の傷痕…」
「だああ!それは、著作権にひっかかっるって!」
 慌てて、シリカが止める。
「んじゃあ、軌跡の力よ、ジュンに奇跡を…」
「それもだめぇ!」
「…うにゅう、じゃあ、なんて言えばいいん?」
「普通に、レスタでいいでしょ」
「うっきゅう…レスタ!」
 ジュンの手から、光が発生する。光に包まれた怪我人の傷はみるみる間に修復していき、傷跡も残らず怪我が修復する。それだけならただのレスタと同じなのだが、その光はさらに奇跡を起こす。
 光に包まれたものは怪我だけではなく、破損した衣服も修復して、さらに壊れた破片は輝きながら浮くと、まるでカメラの巻き戻しのように、壊れる前の壁やコンテナが戻っていき、光が消えた頃には、何事も無かったように復活していた。
 この不思議な現象を見ていた、カズサを始めとする、周りの人達も唖然としている。
 当の本人のジュンは、一仕事を終えたからか、ニコニコ顔でその場に座ると、先ほど失敬したミカンの皮を剥いて、中の実を食べる。

「えーと、この不思議な現象を説明してくれますか?…と言うか、説明しろ…であります、シリカさん」
 しばらく固まっていたカズサだが、我に返ってシリカに質問してみた。周囲の人達も同じ心境であろう。カズサの口調が無茶苦茶なのは混乱しているからであろうか?…しかし、シリカから返ってきた答えはそっけなかった。
「見たまんまよ」
「見てて、分からんから聞いているんだろがぁ!」
 うんうんと、周囲の人達も、カズサのツッコミに賛同している。シリカは、仕方ないなぁ…と言うような表情を浮かべて、腕組みをしながら語る。
「ええとね、現在一般に出回っている、レスタってさ、元々治療用に開発されていていたものをディスク化して、万人向けにしたテクニックじゃない」
「確か昔は、医学の心得がないと習得できなかったテクニックだったな、まあ、俺たちアンドロイドは、テクニック自体使えんが」
「でもって、昔は生物しか対照で無かったレスタだけど、今使用されているのって、生物以外でもロボットなども破損個所を治したりできるでしょ?」
「ロボット言うな…それに、アンドロイドと言ってもの、最新型のアンドロイドの外装みたいにFRPをベースにナノテクノロジーによる自己修復機能を備えているものなら、レスタなどを受けると生態部品が作用されて破損個所が治るが、ナノテクノロジーが使用されていない旧式のアンドロイドやドロイドは無効だなはずだが」
「うん、でもね、ジュンの使うレスタって、ちょっと違うらしく、原理はよく分からないんだけど、物質が持っていた記憶に呼びかけて本来の姿…つまり、破損する前の姿に戻すらしいのよ、だから対象は、生物だけではなく無機質でも何でもオッケーらしいのよ」
「ああ、これ美味しそう、おばちゃーん!このマグロを、とりあえず10尾よろしくだよん♪」
 語っているシリカを他所に、ジュンは買い物を楽しんでいる…って、10尾のマグロを買い込んでどうする気だ。ちなみに、このマグロもジュンのテクニックで吹き飛んでネギトロ状態になっていたのだが、元の冷凍マグロに戻っている。
「…それって、レスタと呼べるのか?」
 冷凍マグロを10尾も購入しているジュンも謎だが、先ほどのレスタの謎の方が気になるのか、カズサはあえて話しを続ける。
「うーん、なんだったかな…そうそう、モンちゃん(モンタギュー博士のことと思われる)の言うには、ロストテクニックのスター…ええと、なんだったかな、そんな名前のことを言ってたけど、忘れた」
「スター…アトマイザーか?」
「それは香水でしょ、でも、スターアトマイザーとか、ムーンアトマイザーとか名前の元になったようなテクニックがあったらしいのよ…なんだったかなぁ」
『スターフォースでッせ、姐さん』
 シリカの代わりに答えたのは、シリカの肩の上をぷかぷか浮かんでいる赤いネコのような形をした物体である。
「…何で、あんた復活してるのよ…って、そうか、ジュンのレスタで、あんたも治ってしまったのね…誤算だったわ、やっぱり駅前のゴミ箱にでも捨てて置けばよかったわ」
『ひどいな言いようやな、ワテみたいなラブリーなマグ他にありませんぜ!せや、せっかく生き返ったんだから姐さん!ここは、お祝いに、ぱぁっと裸踊りでも披露しておくんなまし…この際、胸の無いのは我慢するさかい』
「…あんたの、外装を引っぺがして、裸踊りでもさせてあげようか?」
 と言うが早いか、シリカはマグの頭の部分を鷲づかみにして、パーツの継ぎ目に指を入れる。その言葉が冗談ではない証拠に、バキバキバキと外装が悲鳴をあげている。
『どわあぁぁぁぁぁ!、冗談やがな!マジ堪忍してーな!!』
「…スターフォースとか言ったか?確かそんな名前のビデオゲームがあったな」
 カズサのすっとぼけた返答を聞いた、シリカとマグは同時にずっこける、ペット…いやマグは飼い主に似ると言うのは本当のようである。
「ビデオゲームって、いつの時代の話しをしてるのよ…つーか、ゲームの話しなんかしてないでしょ…」
「ゲイングランドは面白かったなぁ…」
「だめだ、いつもの妄想の世界に旅立ってしまった…」
 メルヘンの世界に入った、カズサを放っておいて、シリカは一息ついて木箱の上に座る、ちなみに元逃亡者は、いつの間にか逃げないようにワイヤーでぐるぐる巻きにしてある。
『スターフォースで、無機質の物体まで修復するなど、私のデータベースにはそのような情報はありませんが?』
 メルヘンの世界に旅立った、ご主人様(カズサ)の代わりに、インテグラが疑問を投げる。
「それはね…えーと、タマ!解説お願い」
『まったく、困ったことがあると、何でもワテに押し付けるんやな…大食いの割には全然成長せんし、大きくなると言えば態度だけやし、胸だけでなく脳みそにも栄養が行ってないんとちゃうん?』
「ピッチャー振りかぶって、第一球…投げた!」
 と言うと同時に、シリカは鷲づかみにしたマグを壁に叩きつける。

ズバガゴン!

 音速を超えるようなスピードで勢いよく壁に叩きつけられてバウンドしたマグは、赤いパーツを撒き散らしながら弧を描いて飛んでいき、運河の中に落ちて沈んで行く。
『にぅ、タマ兄さんがお亡くなりになったので、仕方が無いので、代わりに自分が説明するにゃ』
 いつの間にか、シリカの側に来て隣にチョコンと座っているジュン…の肩の上でプカプカ浮いているシャト型のマグ「ミナコ」が言葉を発する。ちなみに、タマとミナコは同時期に製造されて、同時期にリリースされたマグなので兄妹と言うことになっている。
『えーと、レスタとスターフォースの違いは、レスタが生き物の代謝速度を上げ、対照の破損個所を修復するのに対してスターフォースは、生物、アンドロイド関係なく、対照の破損個所を修復するところなんにゃ』
『確かに、新型のアンドロイドがレスタの恩恵を受けられるのは、生態部品を使用しているからであり、生態部品を使用していない旧式のアンドロイドや無機質の物体には作用しませんね』
『そこにゃ、マスターが使っているレスタは前例が無いので、モンタギュー博士は、効果の似たスターフォースと分類したけど、実際は時間に干渉しているテクニックらしいので、未だによく分かっていないのにゃ』
『つまり…話しを引っ張った割には、誰も正確なことは解らないと言うことですか?』
『そう言うことにゃ、研究をしていたモンタギュー博士もいまは行方不明で、謎は謎のままになっているけど、後遺症などは今のところ見られないので、使用しているのにゃ』
「そんな意味不明のテクニックを使ってて、平気なのか?」
 いつの間にか現実の世界に戻ってきたカズサが至極当然の質問をする。
「確かに正体は不明だけど、そんなテクニックもう絶滅してるか、封印されているかのどちらかだし、使っている人なんかいないでしょ?対照がなんであれ、使えば修復するんだから、便宜上レスタと言うことで使っているだけ、おっけ?」
 カズサも周りの人達も、この説明に100%納得した…と言うわけではないが、シリカにこれ以上問い詰めても逆ギレ起こすだけだし、とりあえず通常のレスタとは違うが、ジュンが使うテクニックだからと言うことで、無理やり納得して、各々所定の位置に戻って行く。
 ちなみに、仕事の依頼をこなすたびに、常に何かを壊している…と言うか壊さないときがすまないのか、気持ちいいほど壊しまくるシリカ達(主に破壊担当はジュンだが)が、犯罪者にならずにお咎め無しでハンターを続けているのは、この不思議なレスタのおかげでなのである。
「さて、とりあえず一件落着ってことで…ところで、こいつ何をしたの?」
 シリカは足元に転がっている男に目をやる。
「うみゅ、そいつはねぇ…」


「ぶあっかもぉぉぉぉぉぉん!!」
 頭が剥げ上がった中年男性が入れ歯まで飛んできそうな勢いで唾マシンガンを繰り出しながら2人の少女と1人のヒューキャストに怒声をあげていた。
 ここは、ハンターギルド本部にある、ギルド管理局長室。部屋の内装はシンプルで、窓際にデスクがある。他の調度品は来客用の応接セットと観葉植物(フェイク)が置いてある。床に敷いてある絨毯は、かなり高級なものである。噂では前局長がハンター達が毎月納入するハンターライセンスを横領して購入したのではないかと言う曰くつきの品物だ。
 卸売市場爆破事件の重要参考人として事情聴取を受けていたが3人(ジュンと何故かシリカとカズサ)は、開放されたと同時に、この部屋に呼びつけられたのである。ちなみに、この中年男性はハンターギルドの管理局長である。
「ほらほら、そんなに怒ると血圧上がるよん、もういい年なんだから…そうだ、これあげるよん」
 騒ぎを起こした張本人であるジュンは悪びれた様子も無くニコニコ微笑みながら卸売市場から失敬したミカンを差し出す。
「誰のせいで、私がこんなしなくてもいい苦労をしていると思ってるんだぁぁぁぁァァァァァーーーッ!」
 先ほどの怒声よりもさらにボリュームを上げ、唾マシンガンの弾数を3割増(当社比)と言うか、これはもう唾ショット呼んでいいほど唾を拡散して絶叫する管理局長。怒りが絶頂に達したのか語尾が裏返っている。
「誰だろう?カズサ、あんたじゃない?」
「純真無垢で善良なハンターの鏡…言うか全てのハンターの模範と呼べる存在である俺が、尊敬するギルド長に迷惑をかけるはずは無かろう、シリカ、お前のことではないか?」
「穢れを知らない天使が降臨したと言われているこのあたしが、お父さんより尊敬している局長様に迷惑をかけるはずないじゃない、ジュン、あんたのことよ」
「花も恥らう可憐な乙女と言われているジュンに限ってそんなことは無いよん、ああ、解った!局長が迷惑をかけているんだよん」
「おお!そうか、なるほど」
 ジュンの言葉に、シリカとカズサは同時に納得してポンと手を打つ。
「きしゃあぁぁぁぁぁ!んな訳あるかぁい!何でワシが自分自身に迷惑をかけなくてはならんのじゃああああ!お前ら3人の以外誰がいるンじゃあぁぁぁぁァァァァァーーーッ!」
 3人のすっとぼけた事を言葉がトドメになったのか、剥げ頭の先まで真っ赤にした、まさに茹でたこ状態になった局長の怒りはMAX値に達した。
「うにゅう…ジュンは悪くないよん、逃げていた男が悪いんだよん」
「その逃げていた男と言うのは、ただの食い逃げ犯だったと言うことではないかぁァァァ、しかも、ギルドの依頼とは無関係ということではないかぁァァァッァア!」
 ハンターズは基本的にギルドからの依頼を受けて仕事をするものであり、依頼外の仕事は警察などに任せることになっているい、今回のようにギルドの依頼以外の仕事は規則では禁止とされている。
「食い逃げ犯も、殺人犯も同じ悪人、悪人には人権は無いよん」
 ジュンは悪びれた風も無く、エヘンと胸を張る、どこぞの紅い人とは違い存在感のある大きな胸がゆれる。
「ハグッ」
 局長は息を荒くして心臓のあたりを手で抑えながら、よろよろと自分のデスクに向かい、引出しから取り出した錠剤を大量に口に入れて水と一緒に飲み干す。
「まあ、もう過ぎたことだし、いいのではないか?」
「そうそう、破損した個所は全て直したし、怪我人も傷の後も無く綺麗に完治したし、ジュンの破壊活動以前に壊れていたものまで直ったと逆に感謝くらいなんだから」
 局長の哀れな姿に同情したのか、ただ単に話しを終わらせた言うのか、シリカとカズサがフォローをする…が、次のジュンの台詞で、全てが台無しになる。
「そうそう、何時までも過去に拘ってちゃダメだよん、悩みすぎると頭が剥げるよん♪」
「お、お、おまえにゃあ……ぐはっ!」
 局長はゆで上がったエビのように顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたが、「プチン」と、張り詰めた糸が切れたような音がしたと思ったら心臓のあたりを手で抑えながら、そのまま倒れた。
 修復したとは言え、卸売市場の一角を焼け野原にして、相棒を含む大量のけが人を出しながらも、それを過去の出来事として片付けてしまうジュンを、シリカとカズサは、その天真爛漫で悪気が無い分たちが悪いフォニュエールの少女の性格を少しうらやましく思った。
「…人を呼び寄せておいて寝てしまうなんて…これだからヒューマンは勝手だと言われるんだよん…話しが済んだなら帰るよん」
 泡を吹いて倒れている局長を尻目に、ジュンは帽子に付いているのポンポンを小刻みに揺らしながらさっさと退出していく。シリカとカズサは顔を見合わせてため息をつく。シリカは、例え全てを敵に回しても、ジュンだけは敵に回したくないと心に決めたらしい。
 余談だが、このギルド局長は48代目である。局長の任期は最低でも1年であり、次期候補が挙がらない場合は、継続して同じ人が行うのであるが、ここ2年間で局長だけでも28代も入れ替わっている。2年前と言えば…シリカとジュンがコンビを組みトラブルシューター「ソウル・エンジェルズ」として活動しだしたのも丁度その頃である。
 さらに余談だが、この局長、就任直後の頭髪は豊富にあり、心肺機能に異常は無く健康そのものだったのだが、シリカ達と関わるようになってからと言うもの、見る見るうちに毛髪が抜け、精神安定剤を服用しつづけていないと倒れてしまうような体になってしまったのである、ご愁傷様としか言えない。

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第2話あとがき
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ちょい悪乗りしすぎた、文字数多すぎ。
まあ、読むの疲れたと思うけど、お疲れ様でした。



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