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- 強く儚い者たち=1= - 沙樹 [7/17(Sat) 7:37]
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強く儚い者たち=4=
沙樹 [HomePage] [Mail]
7/17(Sat) 7:39
夜も更けて行く。
深い深い夜の闇。
心の闇の投影。
闇に包まれて、傷をいたわることしかメレリルには出来なかった。
大きな彼の腕の前では、メレリルは小さく、ただ見詰めることしかできなかった。
「ここに居るわ」
嘘の言葉でも、いい。
寂しい言葉。それでも一瞬の憩いを得たい。
今はただ、辛さを拭いたい。それが次の罪へと繋がるとしても。
「大丈夫、あたしはここに居るわ」
メレリルの手が優しく、彼の髪を撫でる。
深く刻まれた眉間の苦悩の皺。
「今は、気持ちを落ち着かせて。大丈夫、貴方は大丈夫よ」
何度も何度もいい聞かせ、ほんの少しの甘い時間を分け与える。
彼の重い口が開く。
「ただ、叶うなら・・・本当に叶うなら・・・
彼女と二人きりで暮らしたい。そして子供がいて・・・なんてな」
そして、自嘲するようにふっっと鼻で笑った。
あり得ない未来。
求めている安らぎ。
幸せな幻想の世界に、一瞬の逃避をする。
目を開くとあるのはただ、重くのしかかる現実だけ。
「ここはいい所よ。みんな優しくて、笑いがあって。
苦しんで、苦しんでそして辿り着いた場所。
綺麗な朝日を見て、『今日』が来る事を素直に喜べるわ。
あなたさえよければ・・・」
そしてメレリルもふっと自嘲する。
この島は確かに良いところだ。
今までの苦悩を忘れさせてくれるだけの穏やかさがある。
ただ、これだけ恵まれている環境にも関わらず、多くの人が
行き過ぎるだけの場所として、ここを認識しているのは、
生きる重さから逃げ出してしまうように思えるからかもしれない。
島を一歩出れば多くの土地で戦乱があり、思想の違い、
貧富の差が一目瞭然だ。
ここに定住できるのは、本当の絶望を知り、
そしてただ、「生きる事」のみを選択した人たちだけだろう。
希望があれば、安穏としたこの地ではなく現実へと帰って行く。

ここで、寝息をたてる、久しぶりの安らぎを覚えている
この人が此処で何思わずに生活していけたら。
彼の心の痛みは計り知れない。
それでもその傷を癒し、忘れ、
ここの地で笑顔を見せてくれたら・・・それが真の笑顔で無くても。
メレリルは自分の考えを消す
「ゆっくり休みなさい。その疲れた体を癒して」
そして、明日には旅立って行きなさい。
彼の髪をゆっくり撫でる。
どんなに情を交わしても、想いやっても、
去って行ってしまう人に想いを託すのは酷だ。
どれだけ愛情を注いでも・・・。

「これから”怨念の野原”を探しに行く」
翌朝まだ薄暗い中、男は女に言った。
女は静かに頷いた。
恐らく二度と会う事はないだろう。ただ、ただ彼の想いを大事にしたかった。
「もし、彼女がリーゼが会いに来たら伝えてくれ『愛していた』と」
そして、女の体をきつく抱きしめた。
寂しい抱擁。どこにも行き場のない気持ち。
こんなにも想っていても、何処にも行き場がない。
もし、”華の魂”を見つけたとしても、そして彼女が目を開いたとしても、
もう彼の声を聞き、彼を見る事は出来ないのだ。

メレリルは彼に黒く滑らかな小さな石を見せた。
「これは社の近くで採れる石よ。ここの漁師たちはみんな身に着けている。
ただのお守りだけれども・・・貴方が、貴方の想いを遂げられるように・・・
心から願って言えるわ。愛しているわ、セルシン・・・」
紐を通し、彼の首に静かに掛ける。
彼の願いを・・・どうか叶えてください、神様。
この世に神など居るのかは分からない。
祈らずには居られないだけだ。
そして、セルシンは旅立って行った。



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